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少年探偵長(しょうねんたんていちょう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 17:05:45  点击:  切换到繁體中文


   燃えあがる山塞さんさい

 戸倉老人は妙なことをいいだした。
「チャンフーが殺されるなんて絶対にそんなことはあり得ないのじゃ。お前さんたちはだまされているのだ」
 戸倉老人はそういって笑うのだ。
 その笑いは、いかにも確信があるもののようであった。
 しかし、戸倉老人はどうしてそのようなことがいえるのだろう。老人はいままで六天山塞ろくてんさんさいの地下の密室におしこめられていたのではないか。ちかごろ町に起ったでき事について意見をのべる資格はないはずだ。
 それにもかかわらず、牛丸や春木の言葉をてんできこうともせず、あくまで、チャンフーの生きていることをいいはるには、何かたしかな根拠のあることなのだろうか。老人にありがちな、いったんこうと思いこんだら絶対に、ひとの言葉をきこうとしない、かたくなさからであろうか。
 それはさておき、山姫山やまひめやまの頂上にある陸地測量隊りくちそくりょうたいの山小屋に一夜をあかすことになった、戸倉老人と春木、牛丸の二少年は、それから間もなく背すりあわせて寝ることになった。
 秋ももうだいぶけている。夜の山小屋は寒かった。毛布もなにもない山小屋で、三人は背すりあわせて、なかなかまぶたがあわなかった。山小屋のなかには、炉がきってあり、たきものの用意もしてあったが、うっかりそんなものをもやすことはできないのだ。
 燃せば、火がでる。煙もたとう、ヘリコプターの眼がこわいのである。あやしいとみれば、あいてのみさかいもなく、機関銃の雨をふらせる連中なのだ。
「仕方がない、このまま寝よう。なにすぐ夜があけるさ」
 寒さも、えも、疲労ひろうにはうちかてなかった。それから間もなく三人は、うとうとしはじめたかと思うと、やがて、前後もしらず、ぐっすりと眠りこんだ。
 それから、どのくらいたったのか。
 ふたつにわれた黄金メダルや、スペインの海賊王や、さてはまた、かくされた大宝物だいほうもつについて、ふしぎな夢をみていた春木少年は、ふいにはッと眼をさました。夢のなかでなにやら、異様いような物音をきいたからである。
 いや、それは夢ではなかったのだ。げんにその物音はまだつづいている。パチパチと何かはぜるような音――春木少年はギョッとして、上半身じょうはんしんをおこしたが、そのとたん、ドカーンとものすごい音が、夜の空気をふるわしたかと思うと、山小屋がグラグラと大きくゆれた。
「なんだ、あれは……」
 戸倉老人も、その物音に、ハッとゆかのうえに起きなおった。
 いちばんノンキな牛丸平太郎までが眼をさまして、
「なんや、なんや、いまの音……」
 寝呆ねぼけまなこをこすりながら、顔中を口にして、ううんと大欠伸おおあくびをした拍子ひょうしに、またもやドカーン。
「わーっ」牛丸少年はうしろへひっくりかえった。
「おじさん、六天山ろくてんやまの方角ですよ」
「よし、外へでてみよう」
 戸倉老人はさきに立ってでかけたが、何思ったのか、
「いや、ちょっと待て」
 と、春木少年の肩をとってひきもどした。
「おじさん、ど、どうしたんですか」
「あれ……あの音をお聞き」
 戸倉老人の顔は、するどい刃物はもののようにひきしまっている。
 その声に、春木と牛丸の二少年も、ギョッとして耳をすましたが、と、どこからか聞えてくるのは、ブーというかすかなうなごえ。ヘリコプターなのだ。東のほうから、しだいにこちらへ近づいてくる。
 牛丸平太郎はガタガタと胴ぶるいをした。
「おじさん、まだ、ぼくらを探しているのでしょうか」
「さあ?」戸倉老人が、首をかしげたときである。またもや、ドカーンと物凄ものすごい音がして、山小屋がグラグラとゆれたかと思うと、東の窓がパッと明るくなった。
「あっ、わかった。山塞に何かあったんだよ、それで、一味のものが、ヘリコプターで逃げだしているのだ」
 パチパチと物のはぜるような音は、ますますはげしくなってくる。ドカーン、ドカーンと、爆発するような音が、ひっきりなしにつづいて、東の窓はいよいよ明るくなってきた。
 ブーン、ブーン――竹トンボをまわすようなうなりは、しだいにこちらへちかづいて、やがて、山小屋の上空までやってきた。と、思うと、
 ダダダダダダ! すさまじい音を立てて、機関銃がうなりだした。山小屋の周囲の岩石に、機関銃の弾丸たまが、あられのようにねっかえる。
「あ、危い!」三人はパッと床に身をふせる。
「お、おじさん、見つかったのでしょうか」
 春木少年の声もさすがにふるえていた。
 しかし、あいては、たしかにここという確信があったわけでもないらしく、ひとしきり機関銃の雨をふらせると、そのままゆうゆうとして、西のほうへとび去った。
「ひどいやつだ。いきがけの駄賃だちんとばかりに、機関銃をぶっぱなしていきおった」
「いくらかくさいとにらんだんですね」
「そやそや、ひょっとすると、このなかかも知れんと思うてうちよったんや」
 三人とも汗びっしょりである。いまさらのように、兇悪無残きょうあくむざんなやりかたに、腹の底までこおるような気持ちである。さいわい、三人とも怪我がなかったからよかったようなものの、もうしばらく、機銃掃射をつづけられたら、どんなことになっていたのかわからないのだ。それを考えると、三人はゾッとして顔を見合みあわせた。さて、それから間もなく、ヘリコプターの爆音が、西の空に消え去るのを待って、三人が山小屋から外へとびだしてみると、東のかた、六天山の上空には、炎々えんえんたるほのおがもえあがっていた。
 パチパチと木のもえさける音、ドカーン、ドカーンとひっきりなしに聞える炸裂音さくれつおん、そのたびに、蒼白あおじろ閃光せんこうが、パッと焔と煙をつらぬいて、阿鼻叫喚あびきょうかん地獄絵巻じごくえまきとはまったくこのことだった。
 戸倉老人と春木、牛丸の二少年は、呆然ぼうぜんとして顔を見合せたが、それにしても、どうしてこんなことになったのであろうか。
 それをお話するためには、話を少し、もとへ戻さねばならぬ。

   首領かしら両脚りょうあし

 裏切者の机博士が、猫女ねこおんなのはる綱にひっかかって、あわれ断崖だんがいのうえから、いのちの宙吊ちゅうづりをやらされたことは、諸君も知っていられるとおりである。
 町へ使いにいった、仙場甲二郎せんばこうじろうという男が、この宙吊りを発見するのが、もう少し遅れたら、さすがの悪党博士もどうなっていたかわからない。おそらく、綱は棒からはなれて、博士はまっさかさまに谷底へついらくし、柘榴ざくろのようにはじけていたかも知れないのだ。
 しかし、さいわい、仙場甲二郎の注進ちゅうしんによって、山塞さんさいのなかは大騒ぎになった。誰も博士が首領にたいして、あのような裏切行為をはたらいたことは知らないからよってたかって、やっと博士を、崖のうえへひっぱりあげた。
 このときばかりはさすがの机博士も、よっぽどきもをひやしたと見えて、青菜あおなしおのようにげんなりしていたが、それでも、いうことだけはいい。
「いや、地獄の一丁目までいってきたよ。は、は、は、とんだお茶番ちゃばんさ」
「先生、じょ、冗談じゃありませんぜ。いったい、誰があんなことをしたんです」
「猫女だよ」
「猫女あ……?」波立二なみたつじがとんきょうな声をあげた。
「猫女といやあ、いつか首領の手から、黄金メダルの半ペラをうばっていった……」
「そうそう、あいつだ。あいつが暗闇のなかからとびだして、わしをあんな眼にあわせおったのだ。あいつはほんとに闇のなかでも眼が見えるらしい」
 さすがの荒くれ男も、気味悪そうに顔を見合せた。
「それじゃ、先生、あいつがまた、この山塞へしのびこんだというのですかい」
「そのとおり、あいつはまるで空気のように、どこからでもこの山塞へしのびこむのだ。ひょっとすると、まだそこらの闇にしのんでいて、だしぬけにズドンと一発……」
「いやですぜ、先生、気味の悪い。いかにあいつがすばしっこいたって、忍術使にんじゅつつかいじゃあるまいし……」
「いや、そうではない。あいつは暗闇のなかで、眼が見えるくらいだから、忍術も使うかも知れん。だって、考えてみろ。いつかの晩だって、電気が消えたと思ったら、そのとたんあいつの声が四馬頭目しばとうもくのうしろで聞えたじゃないか。それまで皎々こうこうと電気がついていたんだ。いったい、どこからいつの間に首領かしらの椅子のうしろまで、忍びこんできたんだ。それ、即ち忍術をつかう証拠だ」
「いやですぜ、先生、変なことはいいっこなしに願いましょう」
「いや、変なことではない。いずれにしてもあんな妙なやつが、ひょこひょこ出入りをするようじゃ、この六天山塞ろくてんさんさいもさきが知れているな」
 仔細しさいらしく首をひねる机博士の顔色に、さすがの荒くれ男たちも顔見合せた。相手のしょうがわかっておれば、たとえおにでもじゃでも、おそれをなすような連中ではないが、闇のなかから声ばかり、姿も形もわからないとあっては、浮足立うきあしだつのも無理ではなかった。
 ひょっとするとそこらの闇にひそんでいて、猫のように眼をひからせているのではないかと思うと、襟元えりもとから、冷たい水をブッかけられるような気持ちだった。
 口では元気なことをいってるものの、さすがに、あのような、いのちの宙吊りをやらされた机博士、その日は一日ゲッソリ参って、自分の部屋で休んでいたが、さて、その晩のことである。仙場や波立二たちと話をしていると、そこへ木戸きどという男がいそぎ足でとびだしてきた。
「おい、おまえたちは何をぐずぐずしているのだ。首領がお待ちかねだ。早く机博士をつれてこんか」
 木戸は一同を叱りつけておいて、机博士にちかづいた。
「先生、あんた首領になにをしたんです。首領はカンカンにおこってますぜ」
 首領――と、きくと、机博士の顔色はさっと鉛色なまりいろになった。
「いやあ……別に……ちょ、ちょっと悪戯いたずらをしてみただけさ」
「なんだか知りませんが、首領をおこらせることが、どんなことだか、おまえさんもよく御存じのはずだ。いずれ、ただではすみませんぜ。さあ、おいでなさい。おい、みんな、机博士をにがすな」木戸の言葉に一同は、バラバラと机博士をとりかこんだ。こうなったら、袋のなかのねずみも同然、机博士は急にガタガタふるえだした。首領のおそろしさは、知りすぎるほど知っている机博士なのだ。
「さあ、先生、それじゃお気の毒でも、いっしょにきてもらいましょうか」屠所としょにひかれるひつじとは、このときの机博士のようなのをいうのであろう。よろよろと、足下あしもともさだまらぬ机博士を、荒くれ男が左右から、ひったてるようにして、やってきたのは首領かしらの待っている特別室。
 首領の四馬剣尺しばけんじゃくは、あいかわらずりゅう彫物ほりもののある、大きな椅子に坐っていた。身のたけ六尺にちかく、ビールだるのようにふとったからだは横綱よこづなもはだしで逃げだしそうな体格だ。顔は例によって、三重のヴェールによってつつまれているが、そのヴェールがブルブルとふるえているところを見ても、いかに首領がおこっているかわかるだろう。
 土色になって、コンニャクのようにブルブルふるえている机博士は、首領のまえの椅子にひきすえられた。
「机博士」首領四馬剣尺の声は、つめたく、落着きはらっていた。これは首領のいかりが、いかに大きいかという証拠なのだ。四馬剣尺はいかりが大きければ大きいほど、つめたく落着きはらうのである。
「おまえは昨夜、このわたしにどのような無礼をはたらいたか、よくおぼえていような」
「首領、お許しを……」
「黙れ!」
 首領は大喝だいかつした。からだがいかりでブルブルふるえた。
獅子身中しししんちゅうの虫とは、机博士、おまえのことだ、おまえは盗人ぬすびとのようにわたしの部屋へしのびこんだ。しかし、それは許してやろう。いかにおまえがコソコソと、机や戸棚をひっかきまわしたところで、秘密をうばわれるようなわしではない。だが……」
 と、首領はギリギリと歯ぎしりをして、
「どうしても、許しがたいのは、それからあとのお前の所業しわざだ。おまえはエックス線で、わたしの正体しょうたいを知ろうとした。この神聖なわたしの正体を!」
 首領はわれがねのような声を張りあげて、両手をふりあげ長い袖のなかで、こぶしをブルブルふるわせた。土色になった机博士の顔には、ビッショリと汗がうかんでいる。
「さあ、いえ、おまえは何を見たのだ。エックス線で透視して、おまえはいったい、どのようなものを見たのだ」
「首領、ごめんを……そればかりはごめんください」
「ならぬ、いえ! みんなのまえでいってみろ。おれの正体がどのようなものであったかいってみろ!」
 首領の声が、広い部屋にとどろきわたって、山彦やまびこのように反響した。
首領かしら……それでは、いってもかまいませんか、みんなのまえで……」
 机博士の瞳に、チラと、狐のように狡猾こうかつなあざ笑いがうかんだ。
「構わぬ。いえといえば、早くいえ!」
「それじゃいいましょう。首領、あなたは小男なのだ。あなたの、その大きなダブダブの中国服は、その小男をゴマすための煙幕えんまくなのだ。あなたは足に、一メートル位の棒をつけて、大男に見せかけているが、じっさいは、小男なのだ!」
 一瞬いっしゅん、部屋のなかは、シーンとしずまりかえった。あまり意外な机博士の言葉に、木戸も、波立二も、仙場の甲二郎も、呆気あっけにとられてポカンとしていた。
(この、横綱のような大男の首領が小男……?)机博士は気が変になったのではなかろうか。突然、爆発するような笑い声がおこった。首領の四馬剣尺だ。首領は腹をゆすって笑った。笑って、笑って、笑いころげた。
「机博士、それがおまえが見たところか。このおれが小男……? おい、机博士、おまえの眼はたしかか、いやさ、おまえのエックス線に狂いはないのか」
だんじてわたしは見たのだ。わたしのエックス線には狂いはないのだ。おまえは、棒でつぎ足した……」
 そのとたん、四馬剣尺は脚をあげて、いやというほど、博士の向うずねりあげた。机博士はあまりの痛さに、あっと叫んでとびあがったが、すぐに、木戸と波立二におさえつけられた。
「机博士、この脚が棒だというのか。わたしの脚が棒だというのか。さわってみろ。たった一度だけ許してやる。さわってみろ!」机博士は首領のまえにひざまずいて、おそるおそる、首領の両脚にさわってみた。そのとたん、つめたい汗が、つるりと博士の額からすべり落ちた。
 ああ、これはなんとしたことだ。首領の両脚は、たしかに温い血のかよった、人間の脚にちがいなかった。

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