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独本土上陸作戦(どくほんどじょうりくさくせん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-25 13:00:20  点击:  切换到繁體中文



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 ……と見えたが、驚くことはない、実は金博士が右脚にいていた肉色の超長靴ちょうながぐつが、すぽんと抜けて、ゴンゴラ将軍の手に残っただけのことであった。
「ひゃーっ」
 千軍万馬せんぐんばんばの将軍も、これにはきもつぶし、博士の一本脚――ではない実は超長靴を、絨毯じゅうたんの上に放り出した。博士は、それを無造作むぞうさに拾いあげ、その中に手を入れると、やがて一枚の青写真を引張りだした。
「ゴンゴラ将軍。これをお目にかけよう」
 将軍は目をぱちくり。膝の上に青写真をひろげて、二度びっくり。
「これは、素晴らしい新兵器だ。一人乗りの豆潜水艇まめせんすいていのようだが……」
「将軍よ。これは初めて貴官と会見した日、宿に帰ってすぐさま設計した渡洋潜波艇とようせんはていだ」
「ああ実に素晴らしい。さすがは金博士だ。これを如何いかに使うのですかな」
「これはつまり、一種の潜水艇だが、深くは沈まない。海面から、このふねの背中がようやぼっする位、つまり数字でいえば、波面はめんから二三十センチ下にくぐり、それ以上は潜らない一人乗りの潜波艇だ」
「ふむ、ふむ」
「これを作ったわけは、如何なる防潜網ぼうせんもうも海面下二メートル乃至ないし十数メートル下に張ってあるから、普通の潜水艦艇では、突破は困難だ。また普通の潜水艦艇では、機雷きらいにぶっつけるかもしれないし、警報装置に引懸ひっかかって所在が知れるし、どうもよくない。そこでこの渡洋潜波艇は、海面とすれすれの浅い水中を快速で安全に突破するもので、つまり水上と防潜網との隙間すきまねらうものである」
「ほう、素晴らしいですなあ」
「しかし、これは試作しただけで、余は取り捨てたよ」
「おや、勿体もったいない。使わないのですか」
「駄目じゃ。やっぱり相手方に知れていけないのじゃ。つまり海面と防潜網との隙間を行くものではあるが、こいつを何千何万せきとぶっ放すと、彼岸ひがんに達するまでに、彼我ひがの水上艦艇に突き当るから、ただちに警報を発せられてしまう。従ってドイツ本土上陸以前に、殲滅せんめつのおそれがある。これはやめたよ」
「惜しいですなあ。すると、これは取りやめて、以来いらい自暴酒やけざけというわけですか」
「とんでもない。余はイギリス人とは違うよ。余は既に、ちゃんと自信たっぶりの新兵器を作った」
「それは、どういう……」
莫迦ばか。現行兵器の機密が、他人にらせるものか」
「でも、吾輩は総指揮官……」
「総指揮官とて信用は出来ない。とにかく余は貴官と約束したところに従い、現実に独本土上陸をやって見せた上で帰国しようと思う。百の議論よりも、一の実行だ。実績を見せれば、文句はないじゃろう」
「なるほど。すると博士御発明の独本土上陸用の新兵器は、目下続々ぞくぞく建造けんぞうされつつあるのですな」
 ゴンゴラ将軍の瞳がかがやいた。
「その建造は、二週間前に終った。それから、搭乗員とうじょういんの募集にちょっと手間どったが、これも一週間前に片づき、目下もっかわが独本土上陸の決死隊二百名は、刻々こくこく独本土に近づきつつあるところじゃ。これだけは話をしてやってもええじゃろう」
「人員二百名は少いが、とにかく刻々独本土に近づきつつあるとは快報です。大いに期待をかけますが、果してうまくいくですかな」
「なにしろ、独本土へ上陸しようというイギリス軍人の無いのにはおどろいた。折角せっかく作ったわが新兵器も、無駄に終るかと思って、一時は酒壜の底に一滴いってきの酒もなくなったときのような暗澹あんたんたる気持に襲われたよ」
「しかしまあ、二百名にしろ、決死隊員の頭数あたまかずが揃ったは何よりであります。本官の名誉はともかくもたもたれました」
「さあ、どうかなあ」
「えっ」といっているとき、幕僚ばくりょうが部屋へとびこんで来た。
「総指揮官。只今ドイツ側がビッグ・ニュースの放送をやって居ります。事重大ことじゅうだいですが、お聴きになりますか」
「重大事件? ははあ、あれだな。スイッチを入れなさい」
 スイッチが入って、ドイツ放送局のアナウンサーの声が高声器こうせいきから流れだした。
「……繰返くりかえして申上げます。本日午後五時、二百名より成るドイツ将校下士官兵の一隊は、イギリス本土よりわが占領地区カレー市へ無事帰還きかんいたしました。これは、目下イギリスに在る金博士の発明になる深海歩行器しんかいほこうきによって、ドーバー海峡四十キロの海底を突破し、無事帰還したものでありまして、実に劃期的かっきてきな大陸連絡でありました。ちなみに金博士の深海歩行器というのは、直径三メートルばかりの丈夫なる金属球きんぞくきゅうでありまして、中に一人の人間が入り、局所照明灯きょくしょしょうめいとうにより、前方の機雷や防潜網をけながら歩行機械により海底を歩行出来る仕掛けになって居りますが、十分じゅうぶんドーバー海峡下の水圧には耐えるようになって居ります。その他のことについては、機密になって居りまして、詳細をここに述べられませんのは遺憾いかんでありますが、なお今回の壮挙そうきょのエピソードといたしまして、最初金博士は、この大発明兵器深海歩行器に搭乗する決死隊を、イギリス軍隊の中に求めましたが、何分にも赫々かっかくたるドイツ軍の戦績とダンケルクの敗戦を想起そうきし、一人の応募者おうぼしゃもありませんので、遂に金博士は腹を立て、かねて捕虜として収容されありし前記二百名のドイツ軍人に独本土上陸の希望を問合といあわしたところ、一同大喜びにて、決死隊に応募し、遂に今回の大成功を見たものであります。……」
 ゴンゴラ総指揮官が真赤まっかになって金博士の方に振返った時には、既に博士の姿は卓上の酒壜と共に、かき消すように消えせていた。





底本:「海野十三全集 第10巻」三一書房
   1991(平成3)年5月31日第1版第1刷発行
初出:「新青年」
   1941(昭和16)年7月
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:tatsuki
校正:まや
2005年5月15日作成
青空文庫作成ファイル:
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●表記について
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  • 「くの字点」をのぞくJIS X 0213にある文字は、画像化して埋め込みました。

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