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蠅男(はえおとこ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-25 15:58:08  点击:  切换到繁體中文


   焼屍体しょうしたい素性すじょう


「機関銃に撃たれた警官はどうしました」
 帆村はベッドの中に、病人らしく神妙に横たわって、側の椅子に腰をかけている村松検事に尋ねた。
「うん、――」検事は愛用のマドロスパイプに火を点けるのに急がしかった。「気の毒な最期だったよ。――」
「そうですか。そうでしょうネ、まともに受けちゃたまらない」
 生命びろいをした帆村は溜息ためいきをついた。
「それで犯人はどうしました」
 検事はパイプをくわえたまま、浮かぬ顔をして、
「――勿論もちろん逃げちゃったよ。なにしろこっちの連中は今まで機関銃にお近付きがなかったものだからネ。あれをらって、志田(死んだ警官)は即死し、勇敢をもって鳴る帆村荘六はだらしなく目を廻すしサ。それが向うの思う壺で、いいおどしになった。だから追い駈けた連中も残念ながらタジタジだ。――そんな風に犯人をいい気持にしてやって、一同お見送りしたという次第だ」
 検事は、いつもの帆村の毒唇どくしんを真似て、こう説明したものだから、帆村は苦笑いをするばかりだった。もちろんそれは、村松検事が病人の気を引立ててやろうというあつい友情から出発していることであった。
「あの犯人は、一体何者です」
「皆目わかっていない。――君には見当がついているかネ」
「さあ、――」と帆村は天井を見上げ、「とにかくわが国の殺人事件に機関銃をぶっぱなしたという例は、きわめてまれですからネ。これは全然新しい事件です。ともかくも兇器をとこから手に入れたということが分れば、犯人の素性すじょうももっとハッキリすると思いますがネ」
「うん、これはこっちでも考えている。両三日うちに兇器の出所は分るだろう」
 看護婦の君岡が、紅茶をはこんできた。検事は、病院の中で紅茶がのめるなんて思わなかったと、恐悦きょうえつていであった。
「――それから検事さん」と帆村は紅茶を一口すすらせてもらっていった。「あの大暖炉ストーブのなかから出てきた屍体のことは分りましたか」
「うん、大体わかった――」
「それはいい。あの焼屍体の性別や年齢はどうでした」
「ああ性別は男子さ。身長が五尺七寸ある。――というから、つまり帆村荘六が屍体になったのだと思えばいい」
「検事さんも、このごろ大分修業して、テキセツな言葉を使いますね」
「いやこれでもまだとても君にはかなわないと思っている。――年齢は不明だ」
「歯から区別がつかなかったんですか」
「自分の歯があれば分るんだが、総入歯なんだ。総入歯の人間だから老人と決めてもよさそうだが、この頃は三十ぐらいで総入歯の人間もあるからネ。現にアメリカでは二十歳になるかならずの映画女優で、歯列びをよく見せるため総入歯にしているのが沢山ある」
「その入歯を作った歯医者を調べてみれば、焼死者の身許が分るでしょうに」
「ところが生憎あいにくと、入歯は暖炉のなかで焼け壊れてバラバラになっているのだ」
「頭蓋骨の縫合とか、肋軟骨化骨ろくなんこつかこつの有無とか、焼け残りの皮膚のしわなどから、年齢が推定できませんか」
「左様、頭蓋骨も肋骨も焼けすぎている上に、硬いものに当ってバラバラに砕けているので、全体についてハッキリ見わけがつかないが、まあ三十歳から五十歳の間の人間であることだけは分る」
「まあ、それだけでも、何かの材料になりますね。――外に、何か屍体に特徴はないのですか」
「それはやっと一つ見つかった」
「ほう、それはどんなものですか」
「それは半焼けになった右足なんだ。その右足は骨の上に、僅かに肉の焼けこげがついているだけで、まるで骨つきの痩せた、鶏の股をあぶり焼きにしたようなものだが、それに二つの特徴がついている」
「ほほう、――」
「一つは右足の拇指おやゆびがすこし短いのだ。よく見ると、それは破傷風はしょうふうかなんかを患って、それで指を半分ほど切断したあとだと思う」
「なるほど、それはどの位の古さの傷ですか」
「そうだネ、裁判医の鑑定によると、まず二十年は経っているということだ」
「はあ、約二十年前の古傷ですか。なるほど」と帆村は病人であることを忘れたように、ひきしまった語調でつぶやいた。
「――で、もう一つの傷は?」
「もう一つの傷が、また妙なんだ。そいつは同じ右足の甲の上にある。非常に深い傷で、足の骨に切りこんでいる。もし足の甲の上にたいへんよく切れるまさかりを落としたとしたら、あんな傷が出来やしないかと思う。傷跡は癒着ゆちゃくしているが、たいへん手当がよかったと見えて、実に見事に癒っている。一旦切れた骨が接合しているところを解剖で発見しなかったら、こうも大変な傷だとは思わなかったろう」
「その第二の傷は、いつ頃できたんでしょう」
「それはずっと近頃できたものらしいんだがハッキリしない。ハッキリしないわけは、手術があまりにうまく行っているからだ。そんなに見事な手術の腕を持っているのは、一体何処の誰だろうというので、問題になっておる」
 検事村松と傷つける青年探偵帆村壮六とが、事件の話に華を咲かせているその最中に、あわただしく受付の看護婦がとびこんできた。
「モシ、地方裁判所の村松さんと仰有おっしゃるのは貴方さまですか」
「ああ、そうですよ。何ですか」
「いま住吉警察署からお電話でございます」
 検事はそのまま席を立って、室外へ出ていった。
 それから五分ほど経って、村松検事は帰ってきた。彼は帆村の顔を見ると、いきなり今の電話の話をした。
「いまネ、鴨下ドクトルの邸に、若い男女が訪ねてきたそうだ。ドクトルの身内のものだといっているが怪しいふしがあるので、保護を加えてあるといっている。ちょっと行って見てくるからネ。いずれ又来るよ」
 そういい置いて、扉の向うに消えてゆく検事の後姿を、帆村はうらやましそうに見送っていた。


   蠅男


 時間は、それより一時間ほど前の九時ごろのことだった。
 同じ住吉区すみよしく天下茶屋てんかぢゃや三丁目に、ちかごろ近所の人の眼を奪っている分離派風の明るい洋館があった。
 太い御影石みかげいしの門柱には、「玉屋」とただ二字だけ彫ったブロンズの標札が埋めこんであったが、これぞいまラジオ受信機の製造で巨万の富を作ったといわれる玉屋総一郎の住宅だった。
 丁度ちょうどその九時ごろ、一台の大型の自動車が門内に滑りこんでいった。乗っていたのは、年のころ五十に近い相撲取のように巨大な体躯の持ち主――それこそこの邸の主人、玉屋総一郎その人だった。
 車が玄関に横づけになると、彼はインバネスのえりをだらしなく開けたまま、えっと懸け声をして下りたった。
「あ、お父つぁん」
 家の中からは、若い女の声がした。しかしこの声は、どうも少しふるえているらしい。
「糸子か。すこし気を落ちつけたら、ええやないか」
「落ちつけいうたかて、これが落ちついていられますかいな。とにかく早よどないかしてやないと、うち気が変になってしまいますがな」
「なにを云うとるんや。嬰児ややこみたよに、そないにギャアつきなや」
 総一郎はドンドン奥に入っていった。そして二階の自分の書斎の扉を鍵でガチャリと開けて、中へ入っていった。、そこは十五坪ほどある洋風の広間であり、この主人の好みらしいすこぶる金の懸った、それでいて一向あかぬけのしない家具調度で飾りたて、床には剥製はくせいの虎の皮が三枚も敷いてあり、長椅子にも、熊だの豹だのの皮が、まるで毛皮屋に行ったように並べてあった。
 玉屋総一郎は、大きな机の前にある別製の廻転椅子の上にドッカと腰を下ろした。そして彼は子供のように、その廻転椅子をギイギイいわせて、左右に身体をゆすぶった。それは彼のくせだったのである。
「さあ、その――その手紙、ここへ持っといで」
 彼は呶鳴るようにいうと、娘の糸子は細いたもとの中から一通の黄色い封筒を取りだして、父親の前にさしだした。
「なんや、こんなもんか。――」
 総一郎は、封の切ってある封筒から、折り畳んだ新聞紙をひっぱり出し、それを拡げた。それは新聞紙を半分に切ったものだった。
「なんや、こんなもの。屑新聞やないか」
 彼は新聞をザッと見て、娘の方につきだした。
「新聞は分ってるけど、只の新聞と違うといいましたやろ。よう御覧。赤鉛筆で丸を入れてある文字を拾うてお読みやす」
「なに、この赤鉛筆で丸をつけたある字を拾い読みするのんか」
 総一郎は娘にいわれたとおり、上の方から順序を追って、下の方へだんだんと読んでいった。初めは馬鹿にしたような顔をしていたが、読んでいくにつれてだんだん六ヶ敷むずかしい顔になって、顔がカーッと赤くなったと思うと、そのうちに反対にサッと顔面から血が引いて蒼くなっていった。
「そら、どうや。お父つぁんかて、やっぱり愕いてでっしゃろ」
「うむ、こら脅迫状や。二十四時間以ないニ、ナんじの生命いのちヲ取ル。ユイ言状を用意シテ置け。蠅男はえおとこ。――へえ、蠅男?」
「蠅男いうたら、お父つぁん、一体誰のことをいうとりまんの」
「そ、そんなこと、俺が知っとるもんか。全然知らんわ」
「お父つぁん。その新聞の中に、蠅の死骸が一匹入っとるの見やはった?」
「うえッ、蠅の死骸――そ、そんなもの見やへんがナ」
「そんなら封筒の中を見てちょうだい。はじめはなア、その『蠅男』とサインの下に、その蠅の死骸が貼りつけてあったんやしイ」
 総一郎は封筒をさかさにふってみた。すると娘の云ったとおり、机の上にポトンと蠅の死骸が一匹、落ちてきた。それはぺちゃんこになった乾枯ひからびた家蠅の死骸だった。そして不思議なことに、翅も六本の足も※(「てへん+毟」、第4水準2-78-12)むしりとられ、そればかりか下腹部が鋭利な刃物でグサリと斜めに切り取られている変な蠅の死骸だった。よくよく見れば、蠅の死骸と分るような、変った蠅の木乃伊ミイラめいたものであった。
 この奇怪な蠅の死骸は、果して何を語るのであろうか。


   籠城ろうじょう準備


 ――二十四時間以ないニ、ナんじの生命ヲ取ル。ユイ言状を用意シテ置け。――
 それだけが、活字の上に赤鉛筆で丸が入れてある。
 ――蠅男――
 この二字だけは、不器用なゴム印の文字であって、インキは赤とも黒とも見えぬ妙な色でしてあった。
 更に、奇怪な翅や脚を※(「てへん+毟」、第4水準2-78-12)むしりとり、下腹部を半分に切ってある蠅の木乃伊ミイラ。――
 全く妙な通信文であるが、とにかく脅迫状に違いない。
「お父つぁん。きっと心当りがおますのやろ。隠さんと、うちに聞かせて――」
「阿呆いうな。蠅男――なんて一向知らへんし、第一、お父さんはナ、人様から恨みを受けるようなことはちょっともしたことないわ。ことに殺されるような、そんな仰山な恨みを、誰からも買うてえへんわ」
「本当やな。――本当ならええけれど」
「本当は本当やが、とにかくこれは脅迫状やから、警察へ届けとこう」
「ああ、それがよろしまんな。うち電話をかけまひょか」
「電話より、誰かに警察へ持たせてやろう。会社へ電話かけて、庶務の田辺に山ノ井に小松を、すぐ家へこい云うてんか」
 娘の糸子が電話をかけに行っている間に、邸内ていないの男たちが呼び集められた。玉屋総一郎は、ともかくも蠅男の襲撃を避けるため、自分の居間に引籠ひきこもる決心を定めた。それだからまず外部から蠅男の侵入してくるのを防ぐために、四つの硝子窓を内側から厳重に羽根蒲団とトタン板とでサンドウィッチのように重ねたもので蓋をし、釘づけにした。それでもまだ心配になると見え、窓のところへ、大きな書棚や戸棚をピタリと据えた。
「どうです、旦那はん。これでよろしまっしゃろか」
「うん、まあその辺やな」
「あとは、いとるところ云うたら、天井にある空気あなだすが、あれはどないしまひょうか」
「あああの空気孔か」と、総一郎は白い天井の隅に、一升ますぐらいの四角な穴が明いている空気抜きを見上げた。そこには天井の方から、重い鋳物いもの格子蓋こうしぶためてあった。「さあ、まさかあれから大の男が入ってこられへんと思うが、――」
「さようですナ、あの格子の隙から入ってくるものやったら、まあ鼠か蚊か――それから蠅ぐらいなものだっしゃろナ」
「なに、蠅が入ってくる。ブルブルブル。蠅は鬼門きもんや。なんでもええ、あの空気孔に下からふたをはめてくれ」
「下から蓋をはめますんで……」
「出来んちゅうのか」
「いえ、まだ出来んいうとりまへん。いま考えます。ええ、こうっと、――」
 下僕しもべたちが脳味噌を絞った挙句あげく、その四角な空気孔を、下から厚い紙で三重に目張りをしてしまった。
「さあ、これでもう大丈夫です。こうして置いたら蠅や蚊どころか、空気やって通ることが出来しまへん」
 総一郎は、それでも不安そうに天井を見上げた。
 そのうちに、会社からは田辺課長をはじめ山ノ井、小松などというりすぐりの用心棒が駈けつけた。総一郎はすこし生色をとりかえした。
 警察への使者には、田辺課長が立った。
 彼は新聞紙利用の脅迫状を、蠅の木乃伊ミイラとともに提出し、主人の懇願こんがんすじをくりかえして伝えて、保護方ほごかたを頼んだ。
 署長の正木真之進まさきしんのしんは、そのとき丁度、鴨下ドクトル邸へ出かけていたので、留守居の警部補が電話で署長の指揮を仰いだ結果、悪戯いたずらにしても、とにかく物騒だというので、二名の警官が派遣されることになった。
 すると田辺はペコンと頭を下げ、
「モシ、費用の方は、玉屋の方でなんぼでも出して差支さしつかえおまへんのだすが、警官の方をもう三人ほど増しておもらい出来まへんやろか」
 というと、警部補はカッと目を剥き、
「阿呆かいな。おかみを何と思うてるねン」
 と、一発どやしつけた。
 脅迫状は、一名の刑事が持って、これを鴨下ドクトルの留守宅にたむろしている署長の許へとどけることになった。


   東京からの客


 そのころ鴨下ドクトルの留守宅では、たむろしていた警官隊が、不意に降って湧いたように玄関から訪れた若き男女を上にあげて、保護とは名ばかりの、辛辣しんらつなる不審訊問ふしんじんもんを開始していた。
「お前は鴨下ドクトルの娘やいうが、名はなんというのか」
「カオルと申します」
 洋装の女は、年齢としのころ、二十二、三であろうか。断髪をして、ドレスの上には、贅沢なてんの毛皮のコートを着ていた。すこぶる歯切れのいい東京弁だった。
「それから連れの男。お前は何者や」
「僕は上原山治うえはらやまじといいます」
「上原山治か。そしてこの女との関係はどういう具合になっとるねん」
「フィアンセです」
「ええッ、フィなんとやらいったな。それァ何のこっちゃ」
「フィアンセ――これはフランス語ですが、つまり婚約者です」
「婚約者やいうのんか。なんや、つまり情夫いろおとこのことやな」
「まあ、失礼な。――」と、女は蒼くなって叫んだ。
「まあ、そう怒らんかて、ええやないか。のう娘さん」
「警官だといっても、あまりに失礼だわ。それよか早く父に会わせて下さい。一体何事です。父のうちを、こんなに警官で固めて、なにかあったんですか。それなら早く云って下さい」
 署長は金ぶち眼鏡ごしに、ニヤニヤしながらカオルの様子を眺めていた。部下の一人が近づいてソッと署長に耳うちをしていった。村松検事が間もなく到着するという電話があったことを返事したのであった。
「――娘さん。鴨下ドクトルから、二、三日うちに当地へ来いという手紙が来たという話やが、それは何日の日附ひづけやったか、覚えているか」
「覚えていますとも。それは十一月二十九日の日附です」
「へえ、二十九日か」署長は首をかしげ「そらおかしい。ドクトルは三十日に、当分旅行をするという札を玄関にかけて、この邸を留守にしたんや。旅行の前日の手紙で、二、三日うちに大阪へ来いといって置いて、その翌日に旅行に出るちゅうのは、ったいなことやないか。そんな手紙貰うたなどと、お前はさっきから嘘をついているのやろう」
「まあひどい方。わたしが嘘を云ったなどと――」
「そんなら、なんで手紙を持って来なんだんや。この邸へ入りこもうと思うて、警官に見つかり、ドクトルの娘でございますなどと嘘をついて本官等をたぶらかそうと思うたのやろが、どうや、図星すぼしやろ、恐れいったか。――」
 女は身をふるわせて、署長に打ってかかろうとした。青年上原はあわててそれを止め、
「――警官たちも、取調べるのが役目なんだろうが、もっと素直に物を云ったらどうです」
「なにをッ――」
 そういっているところに、村松検事の到着が表から知らされた。
 正木署長は席を立って、検事を玄関に迎えに出た。一伍一什いちぶしじゅうを報告したあとで、
「――どうも怪しい女ですなア。あの変り者の鴨下ドクトルに娘があるというのも、ちと妙な話ですし、それに娘のところへ二、三日うちに出てこい云うて、二十九日附で手紙を出しておきながら、翌三十日から旅行するちゅうて出かけ、そして今日になってもドクトルは帰ってきよらしまへん。ドクトルが娘に手紙出したちゅうのは、ありゃ嘘ですな」
 と、自信ありな口調で、検事に説明をした。検事はそうかそうかとうなずいた。
 二階に設けた仮調室に現われた検事は、カオルと名のる女をさしまねき、
「貴女は鴨下ドクトルの娘さんだそうだが、たびたびこの家へ来るのかネ」
 と尋ねた。
 カオルは、新しく現われた調べ手に、やや顔を硬ばらせながら、
「いいえ、物心ついて、今夜が初めてなんですのよ」
「ふうむ。それは又どういうわけです」
「父はあたくしの幼いときに、東京へ預けたのです。はじめは音信も不通でしたが、この二、三年来、手紙を呉れるようになり、そしてこんどはいよいよ会いたいから大阪へ来るようにと申してまいりました。父はどうしたのでしょう。あたくし気がかりでなりませんわ」
「いやもっともです。実はネ――」と検事はカオルの顔を注意深く見つめ「実は――おどろいてはいけません――お父さんは三十日に旅行をされ、いまだに帰って来ないのです。そしておまけに、この家のうちに何者とも知れぬ焼屍体しょうしたいがあるのです」
「まあ、父が留守中に、そんなことが出来ていたんですか。ああそれで解りましたわ。警官の方が集っていらっしゃるのが……」
「貴女はお父さんがこの家に帰ってくると思いますか」
「ええ勿論、そう思いますわ。――なぜそんなことをお聞きになるの」
「いや、私はそうは思わない。お父さんはもう帰って来ないでしょうネ」
「あら、どうしてそんな――」
「だって解るでしょう。お父さんには、貴女との固い約束を破って旅に出るような特殊事情があったのです。そして留守の屋内の暖炉ストーブの中に一個の焼屍体しょうしたいが残っていた」
 村松検事はそう云って、女の顔を凝視ぎょうしした。

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