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四次元漂流(よじげんひょうりゅう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-26 6:43:37  点击:  切换到繁體中文


   生きている幽霊ゆうれい

 次の日の午後、道夫は川北先生を、木見家の両親に紹介することに成功した。
「そのように御親切にいって下さるのはたいへん有難いです。厚くお礼を申します。なにしろ娘の失踪事件の捜査は、当局でも事実上すっかり打切った形ですからね。親としてまことに情なく思う次第です」
 雪子の父親の木見武平きみたけへいは、そういっそ川北先生と道夫の訪問に礼をのべたが、しかし、わざわいが先生と道夫の上に降りかかるようなことがあっては心苦しいからと武平は灰色の頭をふって、辞退の意をもらした。
 しかし川北先生は、それは心配無用と答え、とにかく当局とは違った考えがでるかもしれないから、ぜひお嬢さんの研究室を見せてくれるようにたのんだ。
 これには武平も応じないわけにはいかなかった。それで二人をそちらへ連れていった。暗い長廊下を通って、別棟べつむねになっている研究室の扉までくると、武平は懐中から鍵をだしてそれを開いた。ぷーんと、薬品の匂いが、入口に立つ三人の鼻を打った。
「暗いですね、電灯をつけましょう。はてどこにあったかな、スイッチは……」
小父おじさん、ここにありますよ」
 道夫は、この研究室へよくきたことがあるので、案内には明るかった。彼は入口の戸棚の裏になっている壁スイッチをぴちんと上げた。と、室内は夜が明けたように明るくなった。
「ほう、これは……」
 川北先生が、思わず歓声かんせいを発した。先生はこの研究室の豪華さにおどろいたのであった。部屋の広さは十坪以上もあろうか、天井も壁も良質の白亜はくあで塗装せられ、天井には大きなグローブが三つもついていて、部屋に蔭を生じないようになっていた。大きな実験台が、入口と対頂角をなしたところにすえてあり、電気の器具がならび、その向う側には薬品の小戸棚を越えてレトルトや試験管台や硝子ガラス製の蛇管じゃかんなどが頭をだしていた。その左側には工作台があり、工作道具や計器の入った大きな戸棚に対していた。壁という壁は、戸棚をひかえていたが、大きな事務机が、部屋の右手の窓に向っておかれてあり、その右には書類戸棚が、左側には長椅子ながいすがあった。また部屋の中央には、丸卓子まるテーブルがあってその上には本や書類や小器具などが雑然と置いてあった。大理石の手洗器が、実験台の向うのすみにあり、壁には電線の入った鉛管が並んで走っていた。個人の研究室としては実に豪華なものであった。
「こっちに図書室があります」
 武平は、部屋の東側の壁にかかっている藤色のカーテンをかかげて、その中へ入っていった。そのときであった。川北先生が道夫の身体をついて、ひくい早口で話しかけた。
「道夫君、君はこの部屋で女の首を見たといったね。その女の首は、どのへんに浮んでいたと思うのかね」
 道夫は、ぞっとして首をちぢめたが、
「そのへんです」
 といって実験台と丸卓子との中間を指さした。
「ここかね」
 川北先生は、そこまでいってみた。
「いえ、もっと丸卓子の方へよっているように思いました」
「するとここらだね」
 川北先生は、手を伸ばして丸卓子の上に大きな獅子のブックエンドにはさんである大きな帳簿をなでた。その帳簿は皮革の背表紙で「研究ノート」とあり第一冊から始まって第九冊まであった。
「どうぞこちらへ」
 図書室から武平が顔をだしたので、川北先生と道夫とは、そっちへいった。図書室には学術雑誌や洋書が棚にぎっちり並び、その外に器械もほうりこんであった。
「もう一つあちらに寝室がついています。それも見て頂きましょう」
 武平は図書室をでて再び広間に出、南側の壁にはめこんである扉の前に立った。扉には錠が下りていたので、武平は鍵をだして腰をかがめて、あけにかかった。が、鍵が違ったらしく、すぐにはあかなかった。道夫は武平のそばへいって手助けをしようとした。川北先生はその間、部屋をぐるぐる見廻みまわしていた。そのとき先生が入口の扉の方へ眼をやったとき、暗い廊下からこっちをのぞきこんでいる背の低い洋装の少女があった。
(誰だろう。お手伝いかな。それとも親類の人かな)と思っているとき、寝室の扉があく音がした。
「あきました。どうぞこちらへ……」
 武平の声に、川北先生はそっちを見ると、武平と道夫は中へずんずん入っていく。
 川北先生は、それを追い駆けるようにして寝室へ入った。そこはくすぐったいような匂いと色調とを持った高雅な女性の寝室であった。ベッドは右奥の壁に――。
「ゆ、雪子、雪子……」
 突然昂奮こうふんした女の声がして、研究室の中へ駆け込んできた者がある。武平が、さっと顔色をかえて寝室を飛びだした。
「おい、どうしたんだ、そんな頓狂とんきょうな声をあげて。……おい、落着きなさい」
「ああ貴郎あなた。雪子ですよ、雪子が今、ここへ入ってきたでしょう」
「なに、雪子が……」
 武平の声がふるえた。
「さあ、わしは見なかったが……もっとくわしく話をなさい」
 道夫も、川北先生もすぐかけつけたが、昂奮している主は、雪子の母親だった。その母親のいうことに、たしかに雪子と思われる後姿うしろすがたの人影が、こっちの離家はなれやへ向って廊下を歩いていくのを見かけたので、すぐ声をかけながら後を追ってきたのだという。
 この話は一同をおどろかせた。そこで声をかけながら皆は其処此処そこここを懸命に探したが、雪子の姿はどこにもなかった。どこからかでていったのではないですかと川北先生が聞いたが、武平夫妻の話では、この離家は出口がないのででていける筈はないし、窓も皆しまっているという。まことに変な話だ。
「お前、気の迷いじゃないか」
 武平はきいた。すると母親は首を強く左右へふって、
「いえ、たしかに見ましたですよ。廊下をこっちへ歩いていくのを……」
「変だね。でもたしかに入ってこないよ」
「じゃあ、あれは幽霊だったでしょうか」
「幽霊? そんなものが今時あるものか」
「いや、幽霊ですよ。幽霊にちがいないと思うわけは、後姿は雪子に違いないんですが、背がね、いやに低いんですよ」
 そういって武平夫妻がいいあらそっているとき、川北先生が突然大きな声をあげた。
「これは変だ。いつの間にか『研究ノート』の第九冊がなくなっているぞ。さっきまでたしかに第一冊から第九冊までそろっていたのに……」
 先生は丸卓子の上にならんだ「研究ノート」の列を指しながらくちびるをぶるぶるふるわせていた。
 怪また怪。はたしてそれは雪子の幽霊だけだろうか。引抜かれた「研究ノート」第九冊は誰が持っていったか。木見雪子学士の研究室には深い異変がこもっているように見える。

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