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四次元漂流(よじげんひょうりゅう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-26 6:43:37  点击:  切换到繁體中文


   問答もんどう

 道夫のおどろきはその絶頂に達した。
 雪子の幽霊が廊下を歩いてこっちへきたというのに、その影も形もない。そして室内にさっきまではたしかにあった研究ノート第九冊がなくなっているというのだ。なんという不思議なことの連続だろうか。
 が、道夫は大きなおどろきにあうと同時に勇気が百倍した。それは、今こそ一つの機会が到来しているのだと思った。雪子姉さんはかならずどこかこの付近にいるのに違いない。そういう気がした。そしてもっと熱心に、もっと機敏に探すならば、今にも雪子姉さんを発見できるのではないか。雪子姉さんはかならず生きている。でなければ、さっきまでこの部屋にたしかにあった研究ノートが突然紛失するなどということがあってたまるものではない。この廊下、この別棟にはほかに出入口はない行停ゆきどまりとは聞いたがどこかに誰も知らない抜け道があるのでなかろうかという気がした道夫は、いきなり研究室の北側の窓のところへかけよって外を見た。そこは庭園になっているのであるが、
「あっ、あいつだ」
 と、思わず大きな声で叫んだ。
 道夫の目が捕えたのは、今しも庭園の木蔭こかげをくぐって足早に立去ろうとする老浮浪者の姿であった。
「誰?」
 川北先生が道夫の傍へ飛んできた。
「あの怪しい老浮浪者です。あいつを捕えましょう。あいつは、この窓の下から中の様子を見ていたか、それともこの部屋へ出入したかもしれないんです」
「この部屋へ出入りができるとも思われんが、とにかく捕えて詰問きつもんしよう。家宅侵入をおかしたことは確かだろう」
 川北先生と道夫は玄関へとびだした。そこで老浮浪者の先まわりをして、表の塀の西の方へ廻り、裏道へでた。
「やっ」
「いたぞ」
 細い道で、双方はぱったり出会った。川北先生と道夫は、相手をにらめつけながら、じりじりと傍へ寄った。老浮浪者の目にはちょっと狼狽ろうばい気色けしきが見えたが、すぐ平静な態度になって、二人の横をすり抜けて通ろうとした。
「待ちたまえ。ちょっと聞きたいことがある」
 と川北先生がいった。
 すると老浮浪者はかぶりをふって、そのまま強引に通り過ぎようとした。
「待ちたまえというのに……」
 と、先生はとうとう老浮浪者の長い外套がいとうの腕をつかんで引きもどした。すると老浮浪者は足をめてのっそりと立停った。
「何をしていたのかね、君は。さっき木見さんの庭へ入りこんで怪しい振るまいをしていたが……」
 老浮浪者は、それを聞いても知らんふりをしていた。
「聞こえないのか、君は……」
 と、先生はもう一度、同じことを繰返した。すると老浮浪者は、ごそごそする髯面ひげづらを左右にふった。道夫はそれを見ると、さっきからこらえていた憤慨ふんがいを一時に爆発させて、
「僕はちゃんと見ましたよ。あんたが窓の下から逃げだしたところをね。木見さんのお嬢さんをかどわかしたのはあんたでしょう」
 それでも老浮浪者は、頭を左右にふるばかりであった。その質問を否定するのか、自分は耳が聞えず、二人のいうことが聞き取れないというのか、どっちだか分らなかった。
 川北先生は、相手が一通りの手段ではいかないことを知ると、態度を改めて、
「ねえ君。雪子さんの行方が知れないで木見さんのお宅ではほんとうにお気の毒にもなげき悲しんでいられるのです。前後の事情から考えると、君はそれについて何かを知っていられるように思う。どうかわれわれなり、木見さんの家の人を助けると思って、君が知っていることを話して下さらんか。どんなにか感謝しますがねえ」
 川北先生の話をしている間に老浮浪者のおもてには、何か感情が動いた瞬間があった。
「ねえ、分るでしょう。そうだ、これについて教えて下さい。さっきあの廊下を伝わって研究室の方へきた若い洋装の女の人は庭園の方へでてこなかったですか」
 老浮浪者は、一つだけ頭を横に振った。見なかったという返事らしい。
「ああ、ありがとう。次に……そうだ、君は窓から、今の話の若い洋装の女が部屋にいたのを見ましたか」
 老浮浪者は、かるく一つうなずいた。――道夫は老浮浪者が返事をしていると知って、新しい希望に心をおどらせた。
「ありがとう。もう一つ――研究室から研究ノート第九冊が見えなくなったが、誰が持っていったんだか、君は知っていますか」
 川北先生は重大な質問を発した。老浮浪者はどんな答をするかと、道夫は固唾かたずをのんで、相手の髯面を見つめた。
 すると老浮浪者は、大きな手袋をはめた両手を、自分の頭のところへあげ、長いかみの毛を示すらしい手つきをし、それから片手で女の身体らしい形を作ってみせた。
「なに、するとあの研究ノートは、あの若い女が持っていったというのですか」
 先生は、さっと顔をこわばらせて聞いた。そんな奇怪なことがあっていいだろうか。いつの間にかあの生ける幽霊は研究室へ入って、あの研究ノートを持っていったものらしい。
 老浮浪者は、また一つうなずいたが、そのあとで大口をぱくぱく開いて、声なき笑いをしてみせた。
「じゃあもう一つ。あの若い洋装の女はどこからあの部屋をでていったですか」
 老浮浪者は大きく首をかしげたが、それには答えようともせず、すたすたと歩きだした。川北先生があわてて老浮浪者のそでをとってとどめた。が老浮浪者はその袖を払って川北先生を押し返した。よほどの力だったと見え、川北先生はどーんと後へ引っくり返って土にまみれた。道夫がおどろいて老浮浪者にとびついたが、たちまち彼も、はげしく突き飛ばされた。なんという怪力であろう、老人のくせに……。
 老浮浪者は、さっさと立去った。

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