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流線間諜(りゅうせんスパイ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-26 6:48:39  点击:  切换到繁體中文



   首領対帆村


 ――遺言はないか?
 と天井裏から叫んだ者は、紛れもなく密室から逃げ去った首領にちがいなかった。その首領は(帆村探偵君!)と呼んだが、一体あの青年探偵帆村はどこにいるというのだ。此処ここは×国間諜団かんちょうだん巣窟そうくつではないか。累々るいるいよこたわるのは、みな×国の間諜たちだった。もっとも一人だけ覆面を取らぬ団員があったが……。
「――君の勝だ! 好きなようにしたまえ」
 と、突然叫んだのは、覆面を取らぬ彼の団員だった。彼はスックと立ち上るなり、両手を頭上にあげて、敵意のないのを示した。
「はッはッはッ」と天井裏の声は憎々にくにくしげな声で笑った。「日本の探偵さんは、案外もろいですネ。……さァ、動くと生命いのちがないぞ。じッとしているんだ」
 いよいよ首領は、この部屋に出て来る気勢をみせた。それを知ると「赤毛のゴリラ」は色を失ってしまった。首領が出て来れば、赤毛の生きていることが分り、一発のもとにたおされるに決っている。いやすでに首領は赤毛が帆村から恵まれた簡易防弾衣で生命を助かったことを知っているかも知れない。彼としては団員として働いていた間は死を覚悟していた。しかしもう彼は団員でもない。それどころか既に銃殺されて黄泉こうせんの客となっていたはずである。死線を越えて――彼の場合は、死ぬのが恐ろしくなった。
「どうか、私を助けて下さい――」
 赤毛はワナワナふるえながら帆村の腰に獅噛しがみついた。
 室内にはシューシューとなり耳に立つ音がしている。それは毒瓦斯どくガスをしきりに排気している送風機の音だった。排気が済まないと、首領は出て来られないのだと、帆村は早くも悟った。
 そこで彼は低い声で、何事かを早口にしゃべった。それを聞くと赤毛はうなずいた。そしてゴロンとその場に倒れてしまった。
 やがて送風機の音が止った。そして正面の鉄扉が弾かれたようにパッと開くと、まるで開帳された厨子ずしの中の仏さまのように、覆面の首領が突っ立っていた。その手にはコルトらしいピストルを握って……。
「さあ帆村君。動きたければ動いてみたまえ。ナニ動きたくないって。そうだろう。ぐピストルの弾丸たまを御馳走するからネ。――さて、それよりも君に至急聞きたいことがあるのだから、答えて呉れたまえ」
 といって首領はジリジリと帆村の方に近づいて来た。覆面対覆面――それは首領対帆村の呼吸いきづまるような一大光景だった。
「帆村君」と首領はなおも油断なくピストルの口金を帆村の胸にピタリと当てて「君は銀座事件でマッチ函を怪しいと睨んでいるそうだが、一体あのマッチ函のどこが怪しいというのかネ」
「……」帆村はしばらく黙っていたが「函は普通のマッチ函ですこしも怪しくはない。怪しいのはマッチの棒だ」
「マッチの棒? それがなぜ怪しい」
「函の中に半分くらいしか残っていなかった。その癖、擦った痕が一つもない……」
「そんなことは分っている。それ以上のことを云いたまえ」
「だから云ってるではないか。残りの半分のマッチの棒は、あの銀座の鋪道に斃れた川村秋子かわむらあきこという懐姙みもち婦人が喰べてしまったのだ」
「ナニ、あの女が喰べた?……」
「そうだ」と帆村は首領のおどろくのを尻目しりめにかけて喋りつづけた。「喰べたから、擦り痕がついていないのだ。喰べても大して不思議ではない。姙婦というものは、生理状態から変なものを喰べたがるものだ。この場合の彼女は、胎児の骨骼こっかくを作るために燐が不足していたので、いつもマッチの頭を喰べていたのだ。あの日も何気なしに、あのマッチ函を君の一味から買ったのだ、そこは店の表から見ると、何の変哲もない煙草店だった、だからそんな恐ろしいマッチともしらず、君の仲間が間違えたまま一函買いとってそしてガリガリ噛みながら、銀座へ出てきた。ところが……」
「ところが――どうしたというのだ」
「ところが、そのマッチは特別に作ったもので、燐の外に、喰べるといけない劇薬が混和されていたのだ。イヤ喰べるとは予期されなかったので劇薬が入っていたのだといった方がよいだろう。その成分というのは……」
「うん。その成分というのは――」


   あやしき図譜ずふ


「さあ、早く云わぬか。――そのマッチの成分というのは何だったと云うのだ!」
 と、首領「右足のないふくろう」はせきこむように詰問した。
「極秘のマッチの成分なら、君がたの方がよく知っているじゃないか」
 と、帆村は肝腎のところで相手の激しい詰問に対し、軽く肩すかしを喰わせた。
嘲弄ちょうろうする気かネ。ではむを得ん。さあ天帝に祈りをあげろ」
「あッ、ちょっと待て!」
「待てというのか。じゃ素直に云え」
「云う、といったのではない、それよりも――君のために忠告して置きたいことがあるからだ」と帆村は騒ぐ気色もなく「僕を殺すのは自由だが、すると例のマッチがわが官憲の手に渡り、添えてある僕の意見書によって綿密な分析が行われ、結局君たちの計画が大頓挫だいとんざをするが承知かネ」
「マッチが日本官憲の手に渡るというのか。そんな莫迦ばかなことがあってたまるか。残りのマッチ函は『赤毛のゴリラ』の働きで取りかえしてあることは知っているではないか」
「そうでない。川村秋子の胃液に交っているのを分析すれば分る」
「そんな事なら心配いらない。胃酸に逢えば化学変化を起して分らなくなる。はッはッ」
「まだ有る。安心するのは早いぞ。――実は僕があのマッチ函から数本失敬して某所ぼうしょに秘蔵している。僕がここ数日間帰らないと、先刻さっき云ったようにそのマッチと僕の意見書とが、陸軍大臣のところへ提出されることになる。そうなれば後はどんなことになるか君にも容易に想像がつくだろう」
「ウーム、貴様という貴様は……」
 と、首領は全身をブルブル震わし、銃口をグイグイと帆村の肋骨あばらぼねりつけたが、引金を引くと一大事となるので、歯をギリギリ云わせて射撃したいのをこらえた。
「さあ、撃つなら撃つがいい……どうして撃たないのだ」
「ウム――」
 と相手は気を呑まれて一歩退いた。――と、エイッという気合が掛かって首領の身体は風車のようにクルリと大きく一回転すると、イヤというほど床の上に叩きつけられた。敵がひるんだと見るやその直後の一瞬時いっしゅんじを掴んだ帆村の早業の投げだった。――死にもの狂いの相手はガバと跳ね起きてピストルの引金を引こうとするのを、
「この野郎!」
 と飛びこんだ帆村がサッと足を払って、また転がるところをかさず逆手を取って上からドンと抑えつけた。
「さあ、どうだ」
 主客はハッキリと転倒してしまった。――帆村が云い含めてあったのか、この騒ぎのうちに、彼に救われた「赤毛のゴリラ」はサッと部屋から飛び出していった。
「右足のない梟君!」と帆村は逆手をとったまま首領に云った。「君の覆面は武士の情で、そのままにして置いてあげよう。――さあ、これから君にちと働いて貰わねばならぬが、それはこの巣窟そうくつの案内だ。ここにはいろいろな怪しい仕掛があるようだ。第一に気になるのは君が先刻さっきまで掛けていた椅子についている梟の彫刻だ」
 といって帆村は首領の座席だった椅子をゆびさした。
「怪しいと思うのは、あの梟の眼だ。あれは押しぼたんになっているに違いない。君を傍へ連れてゆくから、ちょっとしてみてくれないか」
 と帆村は首領を椅子のところへ連れてゆき、
「さあ、まず右の眼を圧してみてくれ給え」
「いやだ。乃公おれは圧さない」
「圧さなければ、貴様こそ地獄へゆかせてやるぞ。この短刀の切れ味を知らせてやろう」
「待て。では圧そう」
「どうせ圧すなら、早くすればいいのに……」
 全く主客は逆になった。――首領は渋々指をさしのべて、釦をギュッと圧した。その途端にジージーガチャリガチャリと機械の動き出す音が聞えだした、と思うと正面の鉄壁が真中から二つに割れ、静かに静かに左右へ開いていった。そしてその後から何ということだろう、竪横たてよこ五メートルほどの大壁画が現れたがそれは毒々しい極彩色の密画で、画面には百花というか千花というかおよそありとあらゆる美しい花がべた一面に描き散らしてあった。
 万花画譜ばんかがふ! 密偵の巣窟に、この似つかわしからぬ図柄は一体どんな秘密をかくしているのであろうか。

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