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権三と助十(ごんざとすけじゅう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-27 9:22:10  点击:  切换到繁體中文

底本: 現代日本文學全集56 小杉天外 小栗風葉 岡本綺堂 眞山青果集
出版社: 筑摩書房
初版発行日: 1957(昭和32)年6月15日
入力に使用: 1957(昭和32)年6月15日第1刷
校正に使用:  

 

登場人物

駕籠かごかき 權三ごんざ
權三の女房 おかん
駕籠かき 助十すけじふ
助十の弟 助八
家主 六郎兵衞
小間物屋 彦兵衞
彦兵衞のせがれ 彦三郎
左官屋 勘太郎
猿まはし 與助
願人坊主ぐわんにんばうず 雲哲うんてつ
おなじく 願哲
石子伴作いしこばんさく
ほかに長屋の男 女 娘 子供 捕方とりかた
 駕籠かきなど

  第一幕

享保きやうほ時代。大岡越前守ゑちぜんのかみが江戸の町奉行まちぶぎやうたりし頃。七月初旬の午後。
神田橋本町の裏長屋。壁一重を境にして、かみのかたには駕籠かき權三、しもの方は駕籠かき助十が住んでゐる。いづれも破れ障子のあばら屋にて、權三の家の臺所は奧にあり。助十のうちの臺所は下のかたにある。權三の家の土間には一ちやうの辻駕籠が置いてある。二軒の下のかたに柳が一本立つてゐて、その奧に路地の入口があると知るべし。

(けふは長屋の井戸がへにて、相長屋の願人坊主、雲哲、願哲の二人も手傳ひに出てゐるていにて、いづれも權三の家の縁に腰をかけて汗をふいてゐる。助十の弟助八は廿歳はたち前後のわか者、刺青ほりもののある男にて片肌をぬぎ、鉢卷、尻からげの跣足はだしにて澁團扇しぶうちはを持つて立つてゐる。權三の女房おかん、河岸かしの女郎あがりにて廿六七歳、これも手拭にて頭をつゝみ、たすきがけにて浴衣ゆかたつまをからげ、三人に茶を出してゐる。少しく離れて、猿まはし與助は手拭を頸にまき、浴衣の上に猿を背負ひ、おなじく尻からげの跣足にてぼんやりと立つてゐる。表には角兵衞獅子の太鼓の音きこゆ。)
雲哲 やれ、やれ、暑いことだぞ。
願哲 まさか笠をかぶつて井戸がへにも出られず、この素頭すあたまじり/\と照りつけられては、眼がくらみさうになる。
雲哲 まつたく今日の井戸がへは焦熱せうねつ地獄だ。
おかん お前さん達もあたしのやうに手拭でつつんでゐれば好いぢやありませんか。
願哲 かういふ時には女は格別、男は鉢卷でないとうも威勢がよくないからな。
助八 はゝ、笑はせるぜ。鉢卷をしたつて、すつとこかぶりをしたつて、願人坊主の相場がどう上るものか。
おかん 與助さん。おまへさんもお飮みでないかえ。(茶碗を出す。)
與助 (進みよりて丁寧に會釋する。)はい、はい。いや、これはありがたい。實はさつきからのどかわいてひり/\してゐました。
助八 いくらおめえの商賣でも、長屋の井戸がへにえて公を背負しよつて出ることもあるめえぢやあねえか。
與助 それがね。(猿をみかへる。)なにしろ這奴こいつがよく馴染なじんでゐるのでね。ちつとの間でもわたしの傍を離れないのですよ。
おかん 畜生でも可愛いもんだねえ。
與助 可愛いもんですよ。
助八 ぢやあ、おれも可愛がつてらうか。(猿のあたまを撫でる。)やい、えて公。手前も一緒に出て來ながら、親方の背中で高見の見物をきめてゐる奴があるものか。人並はづれて長え手を持つてゐるんぢやあねえか。みんなと一緒に綱をひいて、威勢好くエンヤラサアと遣つてくれ。おい、判つたか、判つたか。(猿の耳を引張れば、猿は引つかく。)え、え、てえ、痛てえ。こん畜生、だしぬけに引つ掻きやあがつたな。
おかん おまへさんが惡戲いたづらをするから惡いんだよ。
與助 こいつは何うも氣があらくつていけません。八さん。まあ堪忍して遣つてください。
助八 痛てえ、痛てえ。(手の甲を撫でながら。)氣がれえにも何にも、まつたく其奴は旅の山猿だ。江戸前の猿ぢやあねえ。
おかん 猿に江戸前も旅もあるものかね。うなぎと間違へてゐるんだよ。(笑ふ。)
雲哲 山の芋が鰻になつても、山猿がうなぎになつたと云ふ話は聞かないな。
願哲 はゝ、こいつは大笑ひだ。
助八 おい、與助。その山猿をおれに貸してくれ。
與助 え、どうするのだね。
助八 おれ一人が引つかゝれた上に、みんなのお笑ひ草になつちやあ割に合はねえ、そいつをこゝへ追つ放して、片っ端から引つ掻かして遣るのだ。
おかん (おどろく。)あれ、馬鹿なことをお云ひでないよ。あきれた人だねえ。
雲哲 惡巫山戲わるふざけはいけない、いけない。(起ちあがる。)
(助八は猿を取らうとする。與助は遣るまいとする。この爭ひのあひだに助八は又引つかゝれる。)
助八 あ、こん畜生め、又遣りやあがつたな。もういよ/\料簡れうけんがならねえ。うぬ、生膽いきぎもを取った上で、兩國りやうごくもゝんじい屋へ賣飛ばすからさう思へ。
與助 えゝ、人の商賣物をどうするのだ。
(助八と與助は爭つてゐるところへ、上のかたより助八の兄助十、三十歳前後、これも鉢卷、刺青のある肌ぬぎ、尻端折しりはしよりの跣足にて出づ。)
助十 やい、やい。なにを騷いでゐるのだ。煙草休みも好い加減にしろ。いつまでもこんな泥仕事をしちやあゐられねえ。日の暮れねえうちに早く濟して仕舞はなけりやあならねえのだ。みんなも精出して遣つてくれ。大屋さんに叱られるぞ。
與助 大屋さんに叱られては大變だ。さあ、行きませう。
雲哲 さうだ、さうだ。
願哲 やれ、やれ、又一と汗かくかな、
(與助と雲哲、願哲は上のかたに去る。)
助十 (おかんに。)おい、かみさん。おめえの宿六やどろくはどうしたね。
おかん 奧に寢てゐますよ。
助十 冗談ぢやあねえ。一年に一度の井戸がへだから、長屋中の者がみんな商賣を休んで、かうして泥だらけになつて働いてゐるんぢやねえか。その最中に自分ひとり悠々いう/\緩々くわん/\と寢そべつてゐる奴があるものか。あんまりお長屋の義理を知らねえ狸野郎の横着野郎わうちやくやろうだ。ぬす人のひる寢も好加減にしろと云って、早く引摺ひきずり起して來い。
おかん (むつとして。)何もそんなに呶鳴どなり散らさなくつてもいゝぢやありませんか。亭主の代りにわたしが出てゐりやあお長屋の義理は濟んでゐますよ。
助十 えゝ、おめえのやうな曳摺ひきずかゝあによろによろしてゐたつて何の役に立つものか。よし原の煤掃すゝはきとは譯が違はあ。早く亭主をひき摺り出せといふのに……。
助八 今までおれも氣がかなかつたが、こゝの權三はまだ出て來ねえのか。なるほど盜人のひる寢にも程があらあ。(おかんに。)さあ、早く連れて來ねえよ。
おかん おまへさん達は人聞きが惡い。二口目にはぬす人のひる寢なんぞと、大きな聲で云つておんなさるなよ。内の人は夜の商賣が主だから、晝間寢てゐるのさ。それに不思議があるものかね。
助十 それを云へば、おれだつて同じ商賣で片棒をかついでゐるのぢやあねえか。そのおれが斯うして働いてゐるのに、相棒の權三が寢てゐるといふ法があるものか。
おかん 相棒と云つても、内の人は先棒だよ。ちつとは遠慮をするものさ。
助十 先棒でも後棒でも、斯ういふときに遠慮が出來るものか。
助八 先棒をかさにきて、おつ大哥風あにいかぜを吹かすなら、おめえの亭主なんぞは頼まねえ。これからは兄貴とおれとが相棒で稼ぎに出るばかりだ。
おかん 兄弟が相棒で御神輿おみこしでもかつぎに出るのかえ。(土間を見返りてあざ笑ふ。)肝腎かんじんのかつぐ物があるかよ。
助十 (すこし詰まつて。)なに、駕籠なんぞは何處からでも拾つて來る。なあ、八。
助八 むゝ、大川へ行つてみろ。そんな駕籠なんぞはしほで幾らも流れて來らあ。
おかん 下駄の古いのと一緒になるものかね。ばか/\しい。詰らない無駄口をおききでないよ。
助十 手前の方がよつぽど無駄口をいてゐやあがる。河岸の切見世きりみせぺちやくちやさへづつてゐた癖がぬけねえので、近所となりは大迷惑だ。おなじ年明ねんあきを引摺り込むにしても、もう少し眞人間らしいのを連れて來ればいゝのに、權三の奴めも見かけによらねえはならし野郎だ。
(奧の障子をあけて權三、これも三十歳前後の刺青のある男、浴衣の片褄を取りながら出づ。)
權三 やい、やい。さつきから奧で聞いてゐりやあ、手前たちは兄弟揃つて、よくも口から出放題の惡體あくたいもくたいならべ立てやあがつたな。なるほど俺のかゝあは吉原の河岸見世にゐた女で、飛んだのろけをいふやうだが、おたがひに好き合つて夫婦になつたのだ。それがなんで洟つ垂らしだ。惚れた女とは夫婦になるなといふ奉行所のお觸れでも出たのか。ざまあ見やがれ。
おかん ほんたうに近所迷惑とはこつちで云ふことさ。よるも晝も兄弟喧嘩を商賣のやうにしてゐて、その仲裁に行くのはいつでもあたしの役ぢやあないか。
助八 えゝ、手前たちこそ毎日毎晩、犬も食はねえ夫婦喧嘩ばかりしてゐやあがつて、その留男とめをとこの役はいつでも誰が勤めると思つてゐるのだ。
助十 まあ、まあ、だまつてゐろ。こんなすべた女郎を相手にしたつて始まらねえ。やい、權三。(縁に腰をかける。)手前も海驢あしかの生れ變りぢやああるめえ。なんで一日寢そべつてゐるのだ。長屋中が惣出そうでの井戸がへを知らねえか。寢ぼけたつらを早く洗つて、みんなと一緒に綱を引きに出て來い。ふだんから相棒のよしみに、長屋の義理や附合ひといふものを教へてやるのだ。ありがたいと思つて禮をいへ。
權三 それだからおれの名代みやうだいに、嚊をこの通り出してあるぢやあねえか。一軒の家から一人づつ出りやあ澤山だ。
助十 女なんぞは頭數ばかりで役にやあ立たねえ。おれの家ぢやあ斯うして大の男が兄弟揃つて出てゐるのだ。
權三 そりやあ手前たちの物ずきで勝手に騷いでゐるのよ。だれも頼んだわけぢやあねえ。折角よく寢てゐるところを、無暗にがあ/\呶鳴りやあがつて、たうとう起してしまやあがつた。(眼をこする。)おい、おかん。茶を一杯くれ。
おかん あい、あい。
(おかんは茶を汲んでやれぱ、權三は飮む、この時、上のかたにて大勢の聲きこゆ。)
大勢 さあ、さあ、引いた、引いた。
助八 あにい、又始まつたぜ。早く行かう。
助十 むゝ、こんな奴等にかゝり合つてゐると、日が暮れらあ。
大勢 引いた、引いた。
助十 おうい。待つてくれ。
助八 待つてくれ。
(助十と助八は鉢卷をしめ直して、急いで上のかたへ行く。)
おかん ほんたうに憎らしい奴だねえ。あたしももう行くまいかしら。
權三 かまふものか。打つちやつて置け。(團扇うちはを取る。)このごろは晝間でも藪つ蚊が出て來やあがる。
おかん 暑い暑いと云つても、もう秋だとみえて、しまのおはかまをはいた蚊がだん/\に大きくなつて來たねえ。
(おかんも澁團扇をとつて權三をあふいでやる。)
權三 おや、おや、手前けふはいやに亭主孝行だな。今の話でむかしの事を思ひ出したか。


 

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