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権三と助十(ごんざとすけじゅう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-27 9:22:10  点击:  切换到繁體中文


  第二幕

前の場とおなじ道具。權三と助十の家。第一幕より一月ほど後の朝。
(權三の家では、權三とおかんが酒の膳を前にして、夫婦喧嘩をしてゐる。)
權三 (片肌ぬいで。)やい、やい、この阿魔あま。叩つ殺すからさう思へ。
おかん さあ、殺せるなら殺して御覽。いくら自分の女房でも、横町の黒やぶちを殺したのとは譯が違ふからね。おまへさんも勘太郎の二代目になりたいのかえ。
權三 なに、勘太郎の二代目だ。おれがいつ人殺しをした。
おかん 現在あたしをぶち殺さうとしてゐるぢやあないか。勘太郎は赤の他人を殺したんだが、おまへは自分の連れ添ふ女房を殺さうといふのだから、なほ/\罪が深いよ。
權三 べらぼうめ。手前なんぞは横町の黒や斑と大したちげえがあるものか。黒や斑はおれの顏をみると、をふつて來るだけも可愛らしいや。
おかん 尻つ尾をふつて來るどころか、あたしなんぞはこんな家へ來て、女房の役からおさんどんの役まで勤めてゐるんぢやあないか。それでも可愛くないのかよ。一體おまへだの、隣の助十だのといふ奴を唯置くといふ法があるものか。このあひだの時に牢屋へでもはふり込んでしまへばいゝものを、町内預けにして無事に歸してよこしたお奉行樣の氣が知れないねえ。
權三 あのときに手前は一粒十六もんといひさうな涙をこぼして、おい/\泣きやあがつたのを忘れたか。おれが町内あづけになつて、無事にけえつて來た顏をみると、手前は又むやみに喜んで、子供のやうに手放しで泣きやあがつた。さうして、大岡樣はありがたいと手をあはせて拜んだぢやあねえか。今になつてお奉行樣の氣が知れねえもねえものだ。手前勝手も好加減にしろ。
おかん そのときは其時さ。けふのやうに亭主風を吹かせて勝手氣儘のことを云はれちやあ、あたしだつて蟲が承知しないだらうぢやないか。
權三 亭主が酒を買つて來いといふのが、なんで勝手氣儘だ。どんな裏店うらだなでも一軒のあるじが、酒ぐらゐ飮むのは當りめえだぞ。
おかん 一軒のあるじなら主人あるじらしく、酒を買ふ錢を五十でも百でも、耳を揃へてならべてお見せよ。
權三 その錢がねえから手前に頼むのぢやねえか。判らねえ外道げだうだな。
おかん 外道でも般若はんにやでも、質草はもう何にもないよ。
權三 それだから大屋さんへ行つて頼めといふのだ。
おかん 家賃を小半年こはんとしも溜めてゐる上に、そんな蟲のいゝことが云つて行かれるものかね。まして此の矢先ぢやあないか。
權三 この矢先だから頼みに行けといふのだ。ふだんの時とは譯が違はあ。
おかん そんならお前が自分で行つておいでな。
權三 おれが行かれねえから、手前に頼むのだ。さういふことは女の役だ。
おかん 金を借りに行くのは女の役だ……。(あざ笑ふ。)權現樣ごんげんさまがそんなことをお決めなすつたのかえ。
權三 あゝ云へば斯ういふと、手前のやうに亭主を見くびつてゐる女も世界に少ねえものだ。
おかん おまへのやうに女房をいぢめる亭主も世界にたんとあるまいよ。
權三 うぬ、もうどうしても助けちやあ置かねえぞ、念佛でも題目でも勝手に唱へてゐろ。
(權三は土間に飛び降りて、駕籠の息杖いきづゑを持ち來れば、おかんはいくゞりて駕籠のかげに隱れるを、權三は杖をふりあげて追ひまはす。上のかたより猿まはし與助は商賣に出る姿にて、猿を背負ひて出で、このていをみて割つて入る。)
與助 又いつもの夫婦喧嘩か。まあ、まあ、靜かにしなさい。
權三 こん畜生があんまり不貞腐ふてくさるから、ぶち殺してしまはうと思ふのさ。
おかん まあ、聽いて下さいよ。毎日商賣にも出られないで、米櫃こめびつがた付いてゐる最中に、朝から酒を買への何のと勝手な熱ばかり吹くから、あたしが少し口答へをすると、すぐに生かすの殺すのといふ騷ぎさ。愛想が盡きるぢやあありませんか。
與助 どつちの贔屓ひいきをするでもないが、どうもそれは御亭主の方がよくないやうだな。
權三 なぜ惡いんだよ。
與助 なぜと云つて、おまへは町内あづけの身の上ではないか。それが朝から酒を飮んで、女房を生かすの殺すのと騷ぎ立てて、そんなことがお上の耳に這入つたらどうするのだ。今度の一件の落着らくちやくするまでは、せい/″\謹愼してゐなければなるまいではないか。
おかん それをあたしが云つて聞かせても、馬の耳に念佛なんですよ。
權三 うるせえ。引込んでゐろ。(すこし眞面目になつて。)なるほど、おめえの云ふ通り、こんなことが聞えたら好くねえだらうね。
與助 それはよくないに決まつてゐる。それだから、まあおとなしくしてゐなさいと云ふのだ。
權三 むゝ。(いよ/\しよげて。)どうも詰らねえことになつてしまつたな。
(この時、隣の助十の家でも怒鳴る聲がきこえる。)
助十 この野郎、どうしても唯は置かねえぞ。
助八 喧嘩なら廣いところへ出て來い。
(臺所の被れ障子を蹴放して、助八は擂粉木すりこぎを持ちてをどり出づ。つゞいて助十は出刃庖丁でばぼうちやうを持ちて出づ。)
おかん あら、隣でも大變だよ。
與助 あつちは刃物を特つてゐる。これはあぶない。
(與助は猿を縁におろして、怖々こは/″\ながら留めようとしてゐると、上のかたより願人坊主の雲哲と願哲は商賣に出る姿にて、住吉踊の傘をかつぎて出で、これを見て騷ぐ。)
雲哲 やあ、やあ、又はじめたのか。
願哲 刃物をふりまはしては劍難けんのんだ。
(助十と助八は捨臺詞すてぜりふにて鬪つてゐる。雲哲と願哲は思案して、權三の家の土間から駕籠を持ち出し、與助も手傳ひて、よき隙を見て助十と助八のあひだに突き出し、その駕籠をかせにして二人を隔てる。)
助十 えゝ、邪魔なものを持出しやあがるな。
助八 早く退けろ、退けてくれ。
雲哲 まあ、待つた、待つた。
願哲 あぶない、あぶない。
與助 兄弟喧嘩もいゝ加減にしなさい。
權三 さう/″\しい奴等だな。(縁先に出る。)おい、助十。もう止せよ。おれたちは町内あづけの身の上だから、むやみに騷ぎ立てるとお咎めを受けるのを知らねえか。
助十 そりやあおれも知つてゐるが、あの野郎があんまり癪にさはるからよ。
おかん (表に出る。)朝つぱらから喧嘩なんぞをして見つともないぢやないが。一體どうしたの。
助十 町内あづけの身の上で、うつかりと出あるくわけにも行かず、よんどころなしに小さくなつてゐると、あの野郎め、その思ひやりも無しに毎晩遊び歩いてゐやあがつて、ゆうべもたうとうけえらねえ。仕方がねえから、今朝もおれが水を汲む、飯を炊くといふ始末だ。そこへぼんやり歸つて來やあがつて、碌に挨拶もしねえでおれの炊いた飯を平氣でくらつてゐやあがる。あんまり人を馬鹿にしてゐやあがるから、おれが一番きめ付けてやると、逆ねぢに食つてかゝつて來やあがる。野郎め、ゆうべは何處かで振られて來やあがつて、その八つあたりを兄貴に持つて來るなんて、途方も途徹もねえ奴だ。おれが腹を立つのも無理はあるめえ。
助八 一年に一度や二度ぐらゐ兄貴に飯を炊かせたつて罰のあたるほどのこともあるめえ。第一その米はだれが買つたんだよ。
助十 おれはお預けの身の上だ。
助八 おあづけを好い幸ひにして、弟にばかり働かせることがあるものか。せめて小遣こづかひ取りに草鞋わらじでもへといふのに、それもしねえで毎日毎晩ごろ/\してゐやあがる。一體、うちの兄貴だの、隣の權三だのといふ野郎どもを、無事に歸してよこすといふ、お奉行樣の氣が知れねえ。このあひだから牢屋へぶち込んで置けばいゝのだ。
權三 こいつもかゝあと同じやうなことを云やあがる。手前の兄貴はどうだか知らねえが、この權三は牢に入れられるやうな惡いことはしねえのだ。うそだと思ふなら、大岡樣のところへ行つて聽いてみろ。
助八 えゝ、わざ/\聽きに行くまでもねえ。どうで所拂ところばらひか追放にでもなる奴等だから、お慈悲で當分歸してくれたのだ。手前達は知らねえのか、左官屋の勘太郎はきのふの夕方、無事に歸されて來たぞ。
助十 (おどろく。)え、ほんたうか。
(權三もびつくりして出て來る。)
權三 おい、おい。ほんたうか、本當か。
おかん 本當に勘太郎は歸されたのかえ。
助十 そりやあちつとも知らなかつた。(又かんがへて。)やい、手前。おれ達をかつぐのぢやあねえか。
助八 (すました顏で。)まあ、かれこれ云ふことはねえ。論より證據だ。豐島町へ行つて勘太郎の家を覗いてみろ。今ごろは鼻唄で祝ひ酒でも飮んでゐらあ。
權三 こりやあ驚いたな。どうしたのだらう。
おかん やつぱり人違ひだつたのかねえ。
雲哲 なるほどさう云へば、お奉行所からの差紙さしがみで、大屋さんと彦三郎さんは今朝早くから數寄屋橋へ出て行つたさうだ。
助十 ふむう。(權三と顏をみあはせる。)
與助 大屋さんの話では、左官の勘太郎といふ奴は不斷から身持のよくない男で、本職のこてよりもさいころを持つ方を商賣にしてゐる。さうして、丁度去年の暮頃から博奕ばくちに勝つたと云つて、急に身なりをこしらへたり、酒を飮んだり、女を買つたりして遊びあるいている。いや、まだそればかりでなく、馬喰町の女隱居の殺された晩にも、あいつは夜が更けてから歸つて來て、木戸を叩いてつと入れて貰つたといふことだ。
おかん そのほかにも色々怪しいことがあるから、どうしても勘太郎の仕業に相違ない。今度の一件も十に九つはこつちの物だと、大屋さんも大變よろこんでゐなすつたのだが、どういふわけでそれが急に引つくり返つてしまつたのかねえ。
願哲 流石さすがの大屋さんも今朝はよつぽど苦勞ありさうな顏をして出て行つたといふから、どうもむづかしいのかも知れないな。
與助 八さんのいふ通り、勘太郎がゆうべ歸されて來たのが論より證據だ。
おかん 困つたことになつたねえ。(權三に。)おまへさん。どうするえ。
權三 どうすると云つて……。おれも面喰めんくらつてしまつた。おい、助十。どうも困つたな。


 

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