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権三と助十(ごんざとすけじゅう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-27 9:22:10  点击:  切换到繁體中文

 
おかん なに、あいつ等へ面當つらあてさ。
權三 面當てでなけりやあ大事にしてくれねえのか。心ぼそいことだな。
(上のかたにて又もや大勢の聲きこゆ。)
大勢 引いた、引いた。エンヤラサア。
(上のかたより以前の雲哲と願哲が先に立ちて井戸換への綱を引き、つゞいて長屋の男二人と子供一人、その次に助十、いづれも綱をひいて出づ。又そのあとから長屋の女房と娘、つゞいて猿まはし與助は猿を背負ひ、その次に助八、長屋の男、子供など同じ綱をひいて出づ。井戸端にては水をあける音。一同は又引返して上のかたに入る。)
助十 (行きながら權三を見かへる。)やい、この野郎。早く出て來ねえか。
權三 勝手にしやがれ。
助十 なんだ。(寄らうとして、綱にひかれてよろ/\となる。)えゝ、さう無暗に引いちやあいけねえ。やい、權三、手前はどうしても出て來ねえのか。えゝ、さう引いちやあいけねえと云ふのに……。
(助十は綱に引かれて、よろけながら上のかたへ引返して入る。與助と助八はあとに殘る。)
助八 (これも行きながら權三夫婦を見て。)やい、やい、夫婦ながら唯見てゐることがあるものか。お祭が通るのぢやあねえ。早く出て來い。こいつ等、出て來ねえと唯は置かねえぞ。
(助八は寄らうとすると、與助の猿はその頭髻たぶさをつかんで引く。)
助八 えゝ、だれだ、誰だ。惡ふざけをしちやあいけねえ。止せ、よせ。
(助八は猿に引かれながら、上のかたに入る。)
權三 (笑ふ。)はゝ、好いせ物だぜ。
おかん あいつはさつきも猿に引つかゝれたんだよ。
權三 あんな奴等は猿を相手に、きやつ/\と云つてゐるのが丁度相富だ。
おかん ほんたうに猿芝居の役者だねえ。
(夫婦は笑つてゐる。やがておかんは氣がついたやうに上のかたを見かへる。)
おかん お長屋の人達がみんな出てゐるのに、中途から拔けてしまふのも何だから、せめてあたしだけでも行つて來ようかねえ。
權三 なに、打つちやつて置けといふのに……。ぐづ/\云ふのは助の兄弟ぐらゐのものだ。ほかにも文句をいふ奴があつたら、どいつでもおれが相手になつてらあ。長屋中がたばになつて來ても、びくともするもんぢやあねえ。矢でも鐵砲でも持つて來いだ。
おかん でも、大屋さんに叱られると困るぢやあないか。
權三 むゝ。(少し考へる。)去年もさん/″\あぶらを取られたつけな。
おかん それ、御覽な。ほかの奴はどうでも構はないけれど、大屋さんの心持を惡くするといけないからねえ。
權三 だが、大屋さんは善い人だ。まさかに店立たなだては食はせるとも云ふめえ。
おかん 善い人だけに、こつちでも其のつもりで附合はなくちやあ惡いよ。
權三 さうかなあ。(又かんがへる。)ぢやあ、いつそおれが行つて來ようか。(起ちかけて又かんがへる。)だが、これからのそ/\出て行くと、なんだか助の野郎におどかされたやうで、ちつとしやくだな。おれはまあ止さう。おめえも止せよ。
おかん 止してもいゝかねえ。
權三 大屋さんに叱られたら、あやまる分のことだ。なに、むづかしいことはねえ。あやまればきつと堪忍してくれるよ。
おかん あの大屋さんにあやまるのは、幾らあやまつても口惜しくはないけれど……。
權三 それだからあやまると決めて置けばいゝよ。
(上のかたより助八は猿を引つかゝへて出づ。あとより與助が追つて出づ。)
與助 これ、これ、わたしの猿をどこへ持つて行くのだ。
助八 こん畜生、二度も三度もおれにからかやあがつて……。もう生かして置かれるものか。あの井戸へ叩つ込んでしまふのだ。(上のかたへ引返して行きかゝる。)
與助 えゝ、飛んでもないことだ。
(與助は猿を取返さうとして爭ふところへ、上のかたより助十出づ。)
助十 これ、八。馬鹿なことをするなよ。
助八 なにが馬鹿だ。
助十 この最中に猿なんぞを相手にして騷いでゐる奴は馬鹿に相違ねえ。そんなものは打つちやつて置いて、早く行け、行け。
助八 いやだ、いやだ。こん畜生を井戸へ叩つ込まなけりやあ料簡出來ねえ。
助十 折角井戸がへをしたところへ、そんなものを叩つ込まれて堪るものか。馬鹿野郎、よせと云ふのに……。
助八 さねえ、止さねえ。
助十 そんなら猿の身代りに手前をぶち込むからさう思へ。
助八 なにを云やあがる。
(兄弟はむしり合ひ、なぐり合ひの喧嘩になる。その隙をみて與助は猿を取返し、逆さまに背負ひて上のかたへ走り去る。)
權三 仕樣のねえ奴等だな。(おかんに。)留めてやれ、留めてやれ。
(夫婦は縁から降りて、無理に兄弟を引き分ける。)
權三 毎日めづらしくもねえ、兄弟喧嘩はよせ、よせ。
おかん 八さんも兄さんにたてを突くのはよくないよ。
助八 べらぼうめ。猿の味方をして弟をなぐるやうな奴は兄貴ぢやあねえ。
助十 手前のやうな判らずやは猿にも劣つてゐるのだ。
權三 まあ、いゝと云ふことよ。兄弟喧嘩ぢやあ、どつちから膏藥代かうやくだいを取るわけにも行かねえ。つまり毆られ損だ。止せ、止せ。
(上のかたより家主六郎兵衞出づ。)
六郎 これ、これ、みんな何をしてゐるのだ。もうちつとだから怠けてはいけない。(上のかたに向つて團扇をあげる。)さあ、さあ、早く引いた、引いた。
(上のかたより雲哲、願哲をはじめ長屋の人々は綱を持ちて出で來り、再び上のかたへ引返してゆく。)
六郎 助八。おまへはこの忙がしい最中に猿にからかつて騷いでゐたさうだな。
助八 なに、こつちが猿にからかはれたので……。
六郎 まあ、なんでもいゝから早く行つて、手傳へ、手傳へ。貴樣は長屋で一枚看板の馬鹿野郎だ。
助八 あい、あい。大屋さんに逢つちやあかなはねえ。
(助八は叱られて、これも早々に上のかたへゆく。)
おかん 大屋さん。今日はお暑いのに御苦勞樣でございます。
權三 まあ、まあ、こゝへお掛けなせえ。
六郎 (權三を見て。)おゝ、お前はさつきから井戸端へ些とも顏を見せなかつたやうだな。
權三 (ぎよつとして。)え。實は其、すこし用がありまして……。
おかん 早くあやまつておしまひよ。(眼で知らせる。)
權三 まつたくよんどころない用がありまして……。
六郎 よんどころない用があつた……。
權三 へえ、急病人が出來まして……。
助十 いや、こいつ呆れた奴だ。もし、大屋さん。だまされちやあいけねえ。そんなことは皆んな嘘ですよ。
(夫婦はあわてて手をふる。)
助十 (いよ/\呶鳴る。)えゝ、嘘だ、嘘だ。大うその川獺かはうそだ。奧に樂々と晝寢をしてゐやあがつて、おれが幾度催促に來ても出て來なかつたぢやあねえか。
權三 だから、急病人が出來たと云つてゐるのが判らねえかよ。
助十 その急病人はどこにゐる。
權三 その急病人は……。おれだ、おれだ。
助十 這奴こいついよ/\呆れた奴だ。朝つぱらから酒を飮んでゐやあがつた癖に、急病人もよく出來た。あんまり人を馬鹿にするな。
おかん そのお酒にあたつたんですよ。
助十 えゝ、なにも彼も嘘だ、嘘だ。
六郎 成程これは嘘らしいぞ。これ、權三。おまへは去年のことを忘れたか。一年につた一度の井戸がへで、家主のおれまでが汗みづくになつて世話を燒いてゐる。そのなかで假病けびやうの晝寢なぞをしてゐて、長屋の義理が濟むと思ふか。去年もあれほど叱つて置いたのに、今年も相變らず横着をきめるとは太い奴だ。又、女房も女房だ。さつきちよいと其のなまちろい顏を出したかと思ふと、もうそれぎりで隱れてしまふとは、揃ひも揃つた横着者め。さあ、さあ、早く出て働け、働け。
夫婦 はい、はい。
(上のかたにて大勢の呼ぶ聲きこゆ。)
大勢 それ、引いた。引いた。エンヤラサア。
六郎 (上のかたを見て。)それ、引いて來る。早くしろ、早くしろ。
(助十は上のかたへ駈けてゆく。權三とおかんもかけ出してゆく。やがて上のかたより以前の如く、雲哲、願哲が先に立ち、長屋の男二人と子供ひとりが綱をひいて出づ。助十と權三とおかんも綱をひいてゐる。この時、下のかたの路地口より小間物屋彦三郎、廿歳ぐらゐの若者、旅すがたにて出づ。)
助十 さあ、さあ、引け、引け。
權三 引いたり、引いたり。
一同 エンヤラサア。
(彦三郎は綱をひく人々をけながら來るうちに、助十に突きあたる。)
助十 えゝ、なにをしやあがる。
(助十に突き退けられて、彦三郎はよろめきながら更に權三に突きあたる。)
權三 この野郎、邪魔な奴だ。
(權三に蹴られて、彦三郎はつまづき倒れる。水の音。一同は見返りもせずに、綱をひいて上のかたへ引返してる。)
六郎 これ、これ、手暴てあらいことをするな。(彦三郎を介抱する。)もし、飛んだ失禮をいたしました。
彦三郎 お江戸馴れませぬ者がお取込みのなかへ出まして、わたくしこそ飛んだお邪魔をいたして相濟みません。
六郎 いや、お若いにも似合はず御丁寧の御挨拶で、重々痛み入りました。御覽の通り、けふはこの長屋の井戸換へで混雜してゐるところへ、丁度におまへさんがお出でなすつたので、どうもお氣の毒なことを致しました。店子たなこに代つて家主のわたしがお詫をしますから、どうぞ料簡れうけんして遣つてください。おゝ、おゝ、泥だらけになつた。(手拭で彦三郎の膝のあたりを拭いてやる。)
彦三郎 いえ、おかまひ下さりますな。では、おまへ樣がこゝのお家主樣でござりますか。
六郎 はい、はい。こゝは神田の橋本町、その長屋をあづかつてゐる家主の六郎兵衞でございますよ。
彦三郎 おゝ、左樣でござりましたか。
(この時、以前の長屋の女房と娘、その次に助八と長屋の男三人、與助と子供ふたりが綱をひいて出づ。)
助八 (彦三郎に。)えゝ、なにをぼんやり突つ立つてゐやあがるのだ。この案山子かゝし野郎め。邪魔だ、邪魔だ。
六郎 よそのお方に失禮をするな。おまへの方でよけて行け。馬鹿野郎め。
助八 又叱られたか。
(水の音。人々はわや/\云ひながら上の方へ引返して去る。)
六郎 こゝらの長屋にゐる者は我殺がさつな奴等ばかり揃つてゐるので、他國のお方にはお恥かしうございます。して、おまへさんは誰をたづねてお出でなすつた。
彦三郎 お家主樣をおたづね申してまゐりました。
六郎 なに、わたしを尋ねて來た……。いや、それは、それは……。では、まあこゝへおかけなさい。
(六郎兵衞は先に立ちて、權三の家の縁に腰をかける。)
六郎 して、おまへさんはどこのお人だね。
彦三郎 大坂からまゐりました。
六郎 大坂からわたしを尋ねて……。では、もしや彦兵衞さんの……。
彦三郎 はい。わたくしはこのお長屋で長年お世話樣になりました小間物屋彦兵衞のせがれ彦三郎と申す者でござります。
六郎 あゝ、彦兵衞さんの息子かえ。(急に顏色を曇らせる。)遠いところをよく出て來なすつた。
彦三郎 (これも聲を曇らせる。)もし、お家主樣。父の彦兵衞はまつたく牢死いたしたのでござりますか。
六郎 いや、どうもお氣の毒なことで、今更なんとも云ひやうがない。手紙にも書いてあげた通り、彦兵衞さんは去年の暮にお召捕になつて、その御吟味中に病氣が出て、この三月に……。(鼻を詰まらせる。)たうとう御牢内で歿なくなりましたよ。
彦三郎 その節は色々御厄介になりまして、お禮の申上げやうもござりません。まことに有難うござりました。(涙ながらに手をつく。)御手紙によりますと、父は馬喰町ばくろちやうの米屋といふ旅籠屋はたごやの隱居所へ忍び込み、六十三歳になる女隱居を殺害して、金百兩をうばひ取つたと申すことでござりますが、それは本當でござりますか。
六郎 (氣の毒さうに。)さあ、彦兵衞さんに限つてそんな事のあらう筈はないと思つてゐたが、御奉行所の嚴しいお調べで本人はたうとう白状したと云ひますよ。
(上のかたより權三はぶら/\出で來り、この體をみて少し躊躇ちうちよし、やがて拔足をして家のうしろを廻り、下のかたの柳の下に立つて聽いてゐる。)
彦三郎 それがどうしても本當とは思はれません。わたくしの父は盜みを働くやうな、まして人を殺して金をぬすむやうな、そんな不義非道の人間ではござりません。あまりに御吟味がきびしいので、身におぼえのないことを申立てたのかも知れません。(だん/\激して來る。)もし、おまへ樣。いづれにしてもこれは何かの間違ひに相違ござりません。きつと何かの間違ひでござります。


 

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