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権三と助十(ごんざとすけじゅう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-27 9:22:10  点击:  切换到繁體中文

 
六郎 息子のおまへさんがさう思ひつめるのも無理はないが、この一件は南の町奉行所のお係りで、お役人は各奉行ときこえてゐる大岡越前守樣だ。そのおさばきで落着らくちやくしたことだから、決して間違ひのあらう筈はないのだ。
彦三郎 さきほどは御吟味中と仰しやりましたが、それではもう落着いたしたのでござりますか。
六郎 實は本人の白状で事件は落着、そのお仕置は獄門ときまつた時に、彦兵衞さんは牢死したのだ。もう何と云つても仕方がない。せめてその死骸を引取つてやりたいと思つて、色々お嘆き申してみたが、重罪人であるから死骸を下げ渡すことは相成らぬといふので、殘念ながらどうすることも出來なかつたのだ。必ず惡く思はないで下さい。
彦三郎 情けないことでござりますな。(泣く。)
(このあひだに、上のかたよりおかん出づ。權三は眼で招けば、おかんもそつと家のうしろをまはつてゆく。權三は何かさゝやけば、おかんは首肯うなづいて、再び下のかたより自分の家のうしろへ廻つてゆく。權三は助十の家の縁に腰をかける。)
彦三郎 (眼をふいて。)いくら名奉行でも、大岡樣でも、このお捌きはきつと間違つて居ります。わたくしの父にかぎりまして、決してそんなことはない筈でござります。どう考へても、それはお奉行樣のお眼違ひでござります。
六郎 (なだめるやうに。)まあ、まあ、落着いて物を云ひなさい。今更おまへが何と云つたところで、お捌きも濟み、本人も死んでしまつたものを、どうにも仕樣があるまいではないか。
彦三郎 勿論唯今となりましては、たとひ何と申したところで死んだ父が生き返るわけではござりません。それはよんどころない不運と諦めも致しませうが、せめては無實の罪といふことをお上へ申立てまして、父彦兵衞の惡名を清めたうござります。お家主樣。わたくしが一生のおねがひでござりますから、どうぞお力添へをねがひます。御承知の通り、父は大坂生れ、わたくしも御當地は初めてで、右を見ても左を見ても、誰ひとり頼みになる人はござりません。もし、お家主樣。(手をあはせる。)お願ひでござります。お願ひでござります。
六郎 あゝ、そんなことを云つて泣かせてくれるな。(眼をふく。)折角のおまへの頼みだ。わたしも何うかして遣りたいのは山々だが、こればかりはどうも困つたな。(かんがへてゐる。)
(このあひだに、家の奧よりおかんがそつと出で、そこにある團扇をつて、氣のつかぬやうに六郎兵衞と彦三郎を煽いでゐる。上のかたより助十は汗をふきながら出づ。)
助十 あゝ、あつい、暑い。
權三 (小聲で。)おい、おい。
助十 なんだ。
(權三は彦三郎を指さして眼で知らせれば、助十もうなづいて、そつと家のうしろを廻つてゆく。)
彦三郎 もし、心ばかりははやつても、わたくしは若年者じやくねんもの、殊に御當地の勝手は知れず、なんとも致方がござりません。おまへ樣によい御分別はござりますまいか。
六郎 まあ、待つてくれ。わたしもしきりに考へてゐるのだが、これはなか/\むづかしい。
彦三郎 むづかしいと申しても、どうしても此儘では濟まされません。大坂を立ちます時にも、お父さんに限つてそんなことのあらう筈がないから、わたしがどんな難儀をしても、屹とお父さんの無實を訴へて來ると、母や弟にも立派に約束して參つたのでござります。
六郎 さうやかましく云はれると、氣が散つてならない。まあ靜かにして考へさせてくれなければいけない。
彦三郎 (せいて。)このまゝのめ/\と戻りましては、母にも弟にも會はす顏がござりません。わたくしを生かすも殺すも、おまへ樣のお心一つでござります。
六郎 むゝ、判つた、判つた。よく判つてゐます。それだからわたしも色々に工夫をこらしてゐるのだ。(上の方に向つて。)おい、おい。そつちの井戸がへも少し待つてくれ。さうざうしいと、どうも好い智慧が出ない。
(六郎兵衞は又かんがへてゐるを、彦三郎は待ち兼ねるやうに眺めてゐる。おかんは貰ひ泣の眼をふいてゐる。)
權三 (小聲で。)どうだい。いつそ思ひ切つて云つてみようか。
助十 だが、あぶねえ。うつかりした事を云つて、飛んだ係り合ひになると詰らねえぜ。
權三 それもさうだが……。(考へる。)大屋さんも困つてゐるやうだ。第一あの若けえのが可哀さうぢやあねえか。
助十 おれも可哀さうだとは思ふのだが、なにしろほかの事と違ふからな。一つ間違つた日にやあ、おれ達がどんな目に逢ふか判るめえぢやあねえか。よく考へてみろよ。
權三 むゝ。(少し躊躇する。)
彦三郎 もし、お家主樣。まだお考へは付きませんか。
六郎 (ため息をつく。)どうも困つたな。わたしも橋本町の六郎兵衞といへば、名主の玄關でも御奉行所の腰掛けでも、相當に幅のきく人間だが、こればかりは全く困つた。一旦おさばきの付いてしまつたものを、今更こつちからこぢ返すといふのは、つまり大岡樣を相手取つて喧嘩をするやうなものだがら、こいつは並大抵のことで行く筈がない。小間物屋彦兵衞は確かに無實の罪だといふ立派な證據でもあるか、それとも罪人はほかにあると云ふ確かな證人でもない限りはなあ。(腕をくむ。)
(權三は何か云はうとして起ちかゝるを、助十はあわててその袖をつかみ、まあ待てと制すれば、權三はまた躊躇する。)
彦三郎 (堪へかねて。)では、どうしても出來ぬことだとおつしやるのでござりますか。
六郎 さあ、出來ないとも限らないが、なにしろこいつは大仕事だ。わたしもこの年になるまで家主を勤めてゐるが、こんなことに出逢つたのは初めてだからな。
彦三郎 (決心して。)では、もうお頼み申しますまい。わたくしは自分の思ひ通りにいたします。(起ちかゝる。)
六郎 (彦三郎の袖を捉へる。)まあ、待ちなさい。お前さんは眼の色を變へてどうする積りだ。
彦三郎 これから御奉行所へ駈込みます。
六郎 御奉行所へかけ込む……。それはいけない。駈込み訴へは御法度ごはつとだ。
彦三郎 それはわたくしも存じて居りますが、もうかうなつたら致方がござりません。どんなおとがめを受けるのも覺悟の上で、駈込み訴へをいたします。どうぞ留めずにつて下さい。(振切つて行かうとする。)
六郎 どうして無暗に遣られるものか。飛んでもないことだ。いくら年が若いと云つていてはいけない。まあ、待ちなさい。待ちなさい。
彦三郎 いや、放して下さい。放してください。
六郎 いけない、いけない。
(彦三郎は無埋に振切つて行かうとするを、六郎兵衞は留める。おかんはうろ/\しながら權三を手招ぎし、なんとかしろと云ふ。權三ももう堪らなくなつて進み出で、彦三郎の前に立塞たちふさがる。)
權三 まあ、おまへさん。待ちなせえ。
彦三郎 えゝ、どなたも邪魔をして下さるな。
(彦三郎は突きのけて行かうとするを、權三は抱きとめる。)
權三 邪魔をするわけぢやあねえ。おれが好い智慧を貸してやるのだ。やい、やい、助十。見てゐることはねえ。一緒に留めてくれ、留めてくれ。
おかん (縁に出る。)助さんも早く何とかおしなねえ。
(助十も決心して起つ。)
助十 (彦三郎に。)まあ、待ちなせえ。待ちなせえ。まつたくおれ達が好い智慧を貸してやるのだ。まあ、まあ、落ち着いて云ふことを聞くがいゝぜ。
權三 まあ、おとなしくしろ、おとなしくしろ。
(權三と助十は無理に彦三郎を元の縁さきに押戻す。)
六郎 井戸がへで汗になつたところへ、また汗をかゝされた。やれ、やれ。(汗を拭く。)そこでお前達はほんたうに好い智慧があるのか。
權三 さう改まつて聞かれると少し困るが……。おい、助十。おめえから云へ。
助十 いや、おれはいけねえ。おれは不斷から口不調法だからな。
權三 うそをつけ。人一倍大きな聲で呶鳴りやあがる癖に……。
助十 えゝ、手前こそ矢鱈やたらに無駄口をきくぢやあねえか。
六郎 これ、これ、そんなことを云つてゐては果てしがない。おい、權三。先づおまへから口をきけ。
權三 どうしてもわつしが口切りかえ。やれ、やれ。
六郎 何がやれ/\だ。おれが名指しでお前に聞くのだから、さあ、はつきりと云へ。
權三 仕樣がねえな。(頭をおさへる。)ぢやあ、まあ聽いておくんなせえ。實はね、去年の十一月の末のことでごぜえました。(助十に。)おい、あれは幾日だつけな。
助十 さあ、おれもよくは覺えてゐねえが、なんでも二のとりの前の晩あたりぢやなかつたかな。
權三 違えねえ、二の酉の前の晩だ。その晩の九つ過ぎでもありましたらうか、この助十とわつしとが遲い仕事から歸つて來まして、馬喰町の横町へ差しかゝると、頬かむりをした一人の野郎が天水桶で何か洗つてゐるやうでしたから、何をしてゐるのかと提灯の火で透かしてみると、そいつは着物の袖を洗つてゐるらしいのです。
六郎 むゝ。それから何うした。
權三 (助十をみかへる。)おい、おれにばかり云はせてゐねえで、手前もちつとしやべれよ。かうなりあうでおたげえに係り合だ。
六郎 では、助十。そのあとを早く云へ。
助十 もし、大屋さん。うつかりした事をしやべつて、若しそれが間違ひだつた時には、どういふことになりませうね。
六郎 それは事にもよるな。その事によつて重い罪にもなれぱ、輕い罪にもなる。
助十 人殺しなんぞは重い方でせうね、
六郎 それは勿論のことだ。
助十 いけねえ、いけねえ。それだからおれはいやだといふのだ。權三。手前は勝手に何でもしやべれ。おらあ知らねえ、知らねえ。
權三 知らねえことがあるものか。おれと相棒をかついでゐたんぢやあねえか。
おかん (權三に。)もし、お前さん。そんな人にかまはないで、知つてゐることがあるなら早く云つておしまひなさいよ。あたしも何だか聽きたくなつて來たからさ。
彦三郎 (すり寄る。)どうぞ早く話して下さい。
權三 たうとうおれが人身御供ひとみごくうにあげられてしまつたか。ぢやあ、まあ話しませう。今もいふ通り、天水桶で袖を洗つてゐるだけならば、別に不思議と云ふほどのことでもねえが、そいつが光るものを持つてゐる。
六郎 光るものを持つてゐた……。それから何うした。
(人々はすり寄つて聽く。)
權三 その光るものを水で洗つてゐたんですよ。
六郎 天水桶で袖を洗ひ、何か光るものを洗つてゐたのだな。その光る物といふのは刃物らしかつたか。
權三 どうもさうらしいやうでした。それでもその時はたゞ變な奴だと思つたばかりで通り過ぎてしまつたのですが、明る朝になつて聞いてみると、その晩馬喰町の米屋といふ旅籠屋はたごやの隱居所で、六十幾つになる隱居婆さんが殺されて、門跡樣もんせきさまへ納めるとかいふ百兩の金を取られたさうで、わつしもびつくりしましたよ。
六郎 むゝ。(かんがへる。)して、その男はどんな風體ふうていで、年頃や人相は判らなかつたか。
權三 さあ、そこだ。(助十に。)おい、いゝかえ。思ひ切つて云つてしまふぜ。
助十 まあ、待つてくれ。もし、大屋さん。これから權の野郎が何を云ひ出すか知りませんが、わつしに係り合を付けねえで下さいよ。わつしはなんにも知らねえんだから……。
權三 いや、さうは行かねえ。おれと相棒でゐる以上は、どうしたつて手前もかゝり合ひだぞ。
助十 だつて、おれはなんにも云はねえ。
權三 云つても云はねえでも同じことだ。
おかん まあ、そんなことは何うでもいゝから、肝腎のところを早くお云ひなさいよ。じれつたい人だねえ。
六郎 まつたくおれもじれつたい。さあ、早く云へ、早く云へ。
彦三郎 さあ、早く聞かしてください。(詰めよる。)
權三 寄つてたかつておればかりいぢめちやあ困るな、助の野郎め、狡い奴だ。おぼえてゐろ。
彦三郎 もし、早く云つてください。早く……早く……。
權三 云ふよ、云ふよ。かうなつたら何でも云つて聞かせるよ。その男は……年頃は三十四五で、職人のやうな風體ふうていで……。
彦三郎 職人のやうな風體でござりましたか。
助十 (權三に。)おい、おい。もうその位にして置くがいゝぜ。
六郎 やかましい、默つてゐろ。(權三に。)まだそのほかに何か目じるしは無かつたか。
權三 さあ。(躊躇する。)
六郎 (おどすやうに。)これ、權三。なぜおれの前で隱し立てをする。正直に云はないとお前の爲にならないぞ。
おかん お前さん、なぜ隱してゐるんだねえ。をかしいぢやあないか。


 

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