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加利福尼亜の宝島(カリフォルニアのたからじま)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-2 7:26:18  点击:  切换到繁體中文


        六

 オンコッコは憤慨したが、相手が名におう伝説にある東邦人というところから、どうすることも出来なかった。
 こうして、またも数日経った。その時、船から使者が来た。その使者こそは、他ならぬ来島十平太その人であって、案内人はゴーであった。
 酋長オンコッコは熟慮した後、その十平太と逢うことにした。通弁の役はゴーである。
「我らは東邦の君子国、日本という国の軍人でござる」まず十平太はこう云った。
「それには何か証拠がござるかな?」オンコッコも負けてはいない。
「証拠と申して何もないが、東邦人には相違ござらぬ」十平太は昂然こうぜんと云う。
「それはそれとして何用あって我らの国へは参られたな?」オンコッコは突っ込んだ。
交際まじわりを修め貿易をなし利益交換を致したいために」
「東邦人に相違なくば、祖先より伝わる数連の謎語と、固くむすぼれた不思議な紐とを、何より先にお解きくだされい。修交貿易はその後のことでござる」
「ははあさようか、よろしゅうござる。一旦船中へ取って返し、御大将おんたいしょうに申し上げ、改めて再度参ることに致す」
 こう云い残して十平太は湾の方へ帰って行った。ゴーも一緒にいて行く。どうやらゴーは土人などより東邦人の方が好きになったらしい。
 翌日数十人の東邦人が土人部落へやって来た。小豆島紋太夫と十平太とが部下を従えて来たのである。と、酋長のオンコッコはこれも部落中の土人を従え例の広場へ出張って来た。
「拙者は小豆島紋太夫。東邦人の頭領でござる」
「拙者はオンコッコと申すもの。チブロン島国の酋長でござる」
 こう両軍の大将は物々しげになのり合った。
「何か謎語めいごがござるよし、拙者必ず解くでござろう」自信あり気に紋太夫は云う。
「しからばこなたへおいでくだされい」
 こう云ってオンコッコは歩き出した。十平太初め部下の者が紋太夫の後から続こうとするのを、オンコッコは手で止めた。そうしてたった二人だけで林の中へ分け入った。ただし通弁のゴーだけは従いて行かなければならなかった。
 三人はずんずん進んで行く。
 林の中は薄暗くそしてほとんど道がなかった。しかし豪勇の紋太夫はびくともせず進んで行く。
 行く手に巨岩が立っていた。数行の文字がり付けられてある。
「これでござる」
 と云いながらオンコッコは足を止め、指で石文字を差し示した。

この地上に一物あり
四脚にして二脚にて、三脚なり
しかして声は一あるのみ
四脚を用いて歩む時、彼の歩行最も遅し。

 こういう意味のことがり付けてあった。
「その一物とは何物じゃな? もしこの謎語を解くことが出来れば、大岩自然に左右に開く、とこう伝説に云われております。その一物とは何物じゃな?」
 酋長オンコッコは得意そうに云った。
「何んだ詰まらないこんな事か。よろしいすぐに解いて進ぜる」紋太夫はカラカラと笑ったものだ。
「聞け、よいかさあ解くぞ。そもそも人間というものは、赤児あかごの時分には四つ脚がある。手が脚の用をするからじゃ。壮年時代に至っては云うまでもなく脚は二本だ。老人となって杖を突く、すなわち脚は三本となる。四つの脚を働かせて這い廻っている赤児時代に、人間は一番歩行が遅い、人間には声は一つしかない。謎の一物とは人間のことじゃ!」
 こう叫んだそのとたんに、岩に刻られた文字が消えた。
 そうして岩が二つに割れ、左右へ開いて道を作った。道のあなたに社殿がある、古びた小さい社殿である。
「一つの謎はこれで解けた。さあこんどは二番目だ」
 酋長オンコッコは胆を潰したが、こう云って社殿の方へ走り出した。
 社殿の棟から太い紐が長々と地の上に垂れていた、それは細い細い女の髪の毛を、千八重ちやえに結んで出来た紐で、たといどのように根気よく幾年かかって解こうとしても人間業では解けそうもない。
「さあこの紐を解くがいい、細い髪の毛をバラバラに、一本一本解くがいい」
 オンコッコは怒鳴り出した。
「うむ、これか」と云いながら、紋太夫は紐を握ったが、「一本一本解けばよいのか? バラバラに解けばよいのだな?」
「一本一本バラバラに解いて、それが神の御旨みむねかなえば社殿の奥から鈴が鳴る筈じゃ」
「よし心得た」と云ったかと思うと、紐を小脇にい込んだ。

        七

 と、やにわに腰の太刀を掛け声も掛けず引き抜いたが、そのままさっと切り付けた。髪のより紐は中央なかばから断たれ、結ぼれていた髪の毛は瞬間にバラバラに解けてしまった。その時はたして社殿の奥からカラカラカラカラと鈴の音がした。
「おお鈴の音がする鈴の音がする。神がご嘉納なされたと見える」
 オンコッコは仰天し、思わず両手を天へ上げたが、にわかに何か叫びながら社殿の格子戸を引き開けた。と、内陣の板の間に老土人が一人眠っていた。そうしてそのそばに少年がいた。しかし土人の子供ではない。白い肌、青い眼、黄金色の髪、紛れもないそれは欧羅巴ヨーロッパ人で、他ならぬそれはジョン少年であった。そうしてジョンは鈴の紐を両手に握って振っていた。そのつど鈴はカラカラと鳴る。
「こやついったい何者だ!」
 オンコッコは怒鳴りながら、ジョン少年をにらみ付けたが、老土人の側へツカツカと進み、
「起きろ起きろバタチカン」こう云って肩を揺すぶった。
 バタチカンと呼ばれた老土人は、眼を覚ましてムックリ起き上がったが、
「おおこれは酋長様で」
「こやついったい何者だな?」ジョン少年を指差した。
「ああその子供でございますかな。欧羅巴ヨーロッパ人の子供だそうで」
「それでは俺達の敵ではないか」オンコッコは顔をしかめ、
「いったいどこから捕らえて来たのだ?」
「ドームの森の附近ちかくだそうで」
「誰がいったい捕らえたのだ?」
「物見に行った仲間達で」
「何故俺達の敵の子を神聖な社殿などへ隠匿かくまうのだ?」
「あまり不愍ふびんでございましたから」
「不愍とは何んだ。何が不愍だ」
「この子を捕らえた仲間達は、戦勝を祈る犠牲にえだと申して、この子を神の拝殿の前で焼き殺そうと致しました、見るに見かねてこの私が命乞いを致したのでございます。私は祭司でござります。神の御旨みむねはこの私が誰よりも一番存じております。神は助けよと申されました」
 祭司バタチカンはこう云いながらジョン少年を引き寄せようとした。
 酋長オンコッコは月形をした長い太刀を引き抜いたが、左の腕でジョン少年を捕らえ、自分の方へ引き寄せた。おびえて泣くジョン少年。バタチカンはひざまずいて何やらブツブツ云い出したのは神へお祈りでもするのであろう。
 オンコッコは力をこめてジョン少年の胸の辺を偃月刀えんげつとうで突き刺そうとした。とにわかに手が麻痺しびれた。
「お待ちなされい!」と沈着おちついた声。紋太夫が背後うしろに立っている。オンコッコの腕は紋太夫の手の中にしっかり握られているのであった。
「女子供には罪はない。女子供は非戦闘員でござる。助けておやりなさるがよい」紋太夫は静かに云った。
「おお助けよとおっしゃるなら助けないものでもござらぬが、それには償いがいり申すぞ」オンコッコは憎さげに云う。
「拙者代わって償いましょう」
「この深い深い林の中を西へ西へと三里余り参ると一つの大きな巌窟いわやがござる。巌窟いわやの中につるぎがござる」
「ははあそれではその剣を持って参れと云われるのか」
「さよう」とオンコッコはうなずいた。
「いと容易やすいことじゃ。すぐに参ろう」
 こう云うと紋太夫は社殿から下りて林の中へはいって行った。
 彼はズンズン進んで行く。

「ははあこれだな」
 とつぶやきながら、大岩の前にたたずんだのは、それから三時間も経った後で、永い永い南国の日も今は暮れて夜となっていた。
 彼の眼前に大岩が――大岩というより岩山が、高さ数十丈広さ数町、峨々がが堂々どうどうとしてそびえていたが、正面に一つの口があってそこから内へはいれるらしい。
「内は暗いに相違あるまい。松火たいまつを作る必要がある」
 紋太夫はこう思って、枯れ枝を集めに取りかかった。やがて松火が出来上がる。燧石いしを打って火を作る。松火は焔々と燃え上がった。
 で、紋太夫は元気よく、しかし充分用心していわやなかへはいって行った。道が一筋通じている。その道をズンズン歩いて行く。
 やがて一つの辻へ出た。道が二つに別れている。紋太夫はちょっと考えてから左の方へ進んで行った。道はきわめて平坦でそして天井も高かった。しかし幅はかなり狭く、腕を左右に拡げると、指の先が岩壁へ届くのであった。

        八

 紋太夫はズンズン進んで行く。
 とまた辻へ現われた、道が四つに別れている。で、同じように左を取って彼は躊躇ちゅうちょせず進んで行った。行くにしたがって次々にほとんど無際限に辻が現われた。そうして全く不思議なことには、二、四、八、十六というように、枝道の数がえるのであった。こうしてとうとう十回目の辻の前へ立った時、彼はすっかり当惑した。一千〇二十四本の枝道が別れているではないか!
「むう、さては迷宮だな」初めて彼は気が付いた。
「うかうか先へは進まれない。今のうちに引っ返すことにしよう」さすがの彼も心細くなり、元来た道へ引き返そうとした。しかしその時彼は一層当惑せざるを得なかった。どれも、これも同じような道である。今来た道がどれであるか全く見分けが付かないのであった。
「…………」彼は無言で立ち止まった。初めて恐怖が心に湧いた。
「この無数の枝道のうち戸外そとへ出られる道と云えば、今自分が通って来たその道以外にはありそうもない。その他の道は迷路に相違ない。むう、こいつは困ったぞ。戸外そとへ出られる肝心の道を俺はすっかり見失ってしまった。それをいちいち調べていた日には十日も二十日も掛かるだろう。食物がない。水がない。みすみす俺は餓え死ななければならない。土人酋長オンコッコめさては俺を計ったな!」
 紋太夫は歯噛みをしたけれどどうすることも出来なかった。
 そのうちに松火たいまつの火も消えた。四辺あたりは真の如法暗夜にょほうあんや。そうして何んの音もない。
 紋太夫は生きながら地の中へ全く葬られてしまったのである。
 こうして幾時間か経たらしい。
 その時一つの枝道の、奥の方から一点の赤い火の光が見えて来た。
「おお」と思わず歓喜の声が紋太夫の口から飛び出したのはまことにもっとものことである。いわば地獄でのほとけである。彼は勇気を振り起こし、火の光の方へ走って行った。近付くままによく見れば、そこは小広い部屋であって、一人の女が火を焚いている。打ち見たところ土人の娘であるが、どことなく様子が違っている。
 紋太夫はそばへ寄って行った。そうして手真似てまねで話し出した。
「あなたはいったい何者です? ここで何をしておられるのです!」
 すると娘も覚束おぼつかない手真似で、
わたし巫女みこでございます。ここが妾の住み家なのです」こうようやく答えたのである。
「拙者は東邦の人間でござるが、計らず洞中へ迷い入り、帰りの道を失ってござる。あなたのご好意をもちまして洞窟外へ出るを得ましたら有難き仕合せに存じます」
「それはとうてい出来ますまい」
 これが巫女の返辞であった。
「それはまた何故でござりますな?」
「何故と申してこのわたしも、やはり出口を存じませぬゆえ」
「おおあなたもご存じない?」
「はい妾も存じませぬ。物心ついたその頃から妾はずっとこの洞内に起き伏ししておるのでございます」
「食物もなく水もなくどうしてきておいでなさるな?」
「いえいえ水も食物も、運んでくださる方がござります」
「それは何者でござるかな?」
「妾は一向存じませぬ」
「ご存知ないとな、これは不思議」
「きっと妾のお仕えしている尊い尊い壺神様つぼがみさまがお運びくださるのでござりましょう」
 紋太夫は早くも聞きとがめた。
「何、壺とな? 壺神様とな?」

 英国の探険家ジョージ・ホーキン氏は、愛児のジョンを失ったことを、驚きも悲しみもしたけれど、そこは冷静な英人気質かたぎ、あわても血迷いもしなかった。
 彼は部下を呼び集め、今後の方針について物語った。
「我々の露営もかなり久しい。土人の様子もたいがい解った。平和手段では駄目らしい。で船を出し海峡を越え砲火を交じえて征服しよう。しかし、聞けば不思議な軍艦が、ビサンチン湾に碇泊し、やはり我々と同じようにチブロン島を狙っているそうだ。まず使者をつかわして彼らと一応商議しようと思う」
「賛成」
 と部下達は一斉に叫んだ。
 そこで二十人の部下達は、後備こうび少佐ゴルドンという勇敢な軍人に引率され湾を指して出発した。
 往復三日はかかるであろう。……こういう予定で出発したのが五日になっても帰って来ない。で、不安には思ったけれど、待っていることも無意味だというので、いよいよホーキン氏は全軍を率いチブロン島へ襲撃し土人と一戦することにした。

        九

 ホーキン氏の率いる遠征隊が、チブロン島へ上陸するや否や、土人の斥候が早くも見附け、ピューッと鋭い笛を吹いた。するとその笛は他の笛を呼び、さらにその笛は他の笛を呼び、次々に吹き継いで、土人部落へ報告したらしい。
 海岸へ上がるやホーキン氏はただちに部下を一所ひとところに集めた。
「土人を殺すが目的ではない。彼らを威嚇し降参させ、財宝を発見みつけるのが目的である。鉄砲は是非とも打たねばなるまい。しかし急所は避けるがよい。戦闘力を失わせる! これが最も肝心である。……では諸君進もうではないか! 土人は毒矢を射るであろう。木立ちを楯に進むがよい」
 まだ言葉の終らぬうちに、一斉に毒矢が降って来た。
「林の中へ!」とホーキン氏は云った。
 遠征隊は一散に林の中へ飛び込んだ。棗椰子なつめやし山毛欅ぶなのき棕櫚しゅろの木などにおおわれて林の中は暗かった。
「散って!」とホーキン氏が叫んだので密集していた部下の者は二間のへだてを置きながら左右へ翼のように拡がった。
 毒矢は今は飛んで来ない。土人の姿も見ることは出来ない。全軍粛々しゅくしゅくと進んで行く。
 深い林が浅くなり日光がキラキラ射し込んで来た。遙か前方に丘が見えた。そこに土人が集まっている。
「打て!」とホーキン氏が令を下した。と同時に火蓋ひぶたが切られ白煙りがパッと立ち上がり木精こだまが四方から返って来た。
 三人の土人が地にたおれた。あわてふためいあとの土人は仆れた土人を抱きかかえ忽ち丘から見えなくなった。
「左へ!」とホーキン氏が号令を掛けた。
 全軍素早く左へ走り、敵に位置を知られないようにした。
 突然その時背後うしろにあたって異様な叫び声が湧き起こり、同時に毒矢が降って来た。案内知った土人軍は早くも背後うしろへ廻ったと見える。
「止まれ! 伏せ!」とホーキン氏は勇ましい声で命令した。部下達はバタバタと地へ伏した。そうして後方うしろをすかして見た。
 土人の姿がチラチラ見える。いずれも刺青ほりもので肉体を飾りそのある者は鳥の羽根を附け、そのある者は髑髏どくろを懸け、そうしてほとんど一人残らず毒矢を入れたやなぐいを負い、手に半弓を握っている。
「随意打て!」とホーキン氏は、全軍に令を下して置いて自分も銃の狙いをつけた。
 パン、パン、パンという小銃の音は、忽ち諸方から響き渡り、その音に連れて土人どもは見る見るバタバタと仆れたが、彼らも獰猛のセリ・インデアン、容易に退しりぞこうとはしなかった。草に伏し木に隠れ岩を楯にし頻々と毒矢を飛ばせて来る。
 その時、今度は丘の方からワーッという声が聞こえて来た。そうして毒矢が飛んで来た。
 土人は挟み撃ちを試みるらしい。
 遠征軍は隊を分かち、前後の敵に向かうことになった。そうして数人毒矢に当たったが、幸いに命は取られなかった。永い露営のその間に研究して置いた対症療養がこの時効を奏したのである。
 戦闘は発展しなかった。敵も味方も居坐ったまま矢弾やだまをポンポン飛ばせるばかりである。
「これはいけない」とホーキン氏は鉄砲を打ちながら考えた。
「戦いが長引けば長引くほど味方の者を損ずるばかりだ。……一方の敵を打ち破り安全の場所へ引き上げることにしよう」
 丘の土人軍を一掃し、丘を手中に納めるよう彼は全軍に命を下した。遠征隊は立ち上がり、一斉に喊声を上げながら丘へ向かって突進した。敵は頑強に手向かったが間もなく散々ちりぢりに逃げてしまった。
 丘を占領した遠征軍は丘の背後うしろに空地があり、空地を取り巻いて土人の小屋が円形の屋根を陽に輝かせ、無数に建っているのを見て驚きもし喜びもした。
「ついでに部落も占領するがよい!」
 ホーキン氏は銃を握り自身真っ先に駈け下りた。不思議のことには部落から毒矢一筋飛んで来ない。
 部落は文字通り空虚からっぽであった。
 少しの家畜と少しの食料、それを部落へ残したまま住民はすっかり逃げてしまったらしい。しかし小屋は完全であった。で、小屋にさえはいっていれば土人の毒矢を防ぐことが出来る。
「諸所へ歩哨を立てて置いて、全軍、小屋の中で休息させよう」
 ホーキン氏はそこへ気が附いた。
 十人の歩哨を十方へ配り、その後で全軍は小屋にはいった。
 不思議のことには土人どもは、追撃をして来なかった。でのびのびと遠征軍は小屋の中で休むことが出来、元気を恢復したのであった。

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