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加利福尼亜の宝島(カリフォルニアのたからじま)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-2 7:26:18  点击:  切换到繁體中文


        二十六

 一方ジョージ・ホーキン氏は、地下人どもを相手とし、人骨製の槍をもって、悪戦苦闘を続けていた。五人の土人を突き伏せた時、自分も数痕すうこんこうむったが、そんな事にはビクともしない。さらに敵中へ飛び込んで行った。その時、耳朶じだを貫いたのが大爆発の音響である。
 これにはホーキン氏も驚いたが、一層驚いたのは土人達で、ワッという悲鳴を上げると共に十間余りも逃げ延びた。
 で、ホーキン氏は振り返って見た。濛々たる煙り、累々たる死屍、その中から走り出た二人の少年のその一人が、自分の子のジョンだと知った時、その喜びと驚きとはほとんど形容のほかにあった。
「ジョンよ! ジョンよ! ジョンではないか!」
 思わず大声で呼んだものである。
 呼ばれたジョンはホーキン氏を見たが、
「あッ、お父さんだ! お父さんだ!」
 歓喜の声を高く上げると、まりのように飛んで来た。それをホーキン氏は両手を拡げひしとばかりに抱き締めた。
 親子久しぶりでの邂逅めぐりあいである。死んだと思ったのが生きていたのである。……しばらく、二人は抱き合ったまま、一言も云わずに立っていた。涙が頬をつたわっている。
 と、不意にジョン少年は地下人の群れを睨んだが、
「ああ、あいつらは土人ですね。憎い僕らの敵ですね。それでは僕退治てやろう」
 云うより早く、ポケットから、れいの不思議な乞食から貰った黒い玉を取り出すと、土人目がけて投げ付けた。
 ふたたび轟然たる爆発の音が、坑道一杯に鳴り渡ったが、続いて起こった大音響は全く予期しないものであった。
 その辺の岩組が弱かったためか、左右の岩壁と天井とが、同時に崩れて来たのである。
 地下人どもは一人残らず岩石の下へ埋められたが、今まで通じていた地下への道も同じくその地点で埋没された。
 こうして腹背敵を受けたその危険からはがれたが、神秘を極めた地下国へは再び行くことが出来なくなった。
 しかし地上へは出ることが出来る。
 でホーキン氏を先頭に、ジョン少年、大和日出夫、小豆島紋太夫が殿しんがりとなり、坑道を先へ辿ることにした。
 一里余りも行った時、道が二つに分れていた。左へ行けば社殿へ出られ、右へ行けば空井戸へ出られる。
「さてどっちへ行ったものかな?」――ここで一同は躊躇した。
 その時、左手の坑道から大勢の足音が聞こえて来た。そうして人声も聞こえて来た。
「また土人軍がやって来たらしい」一同は少なからず当惑した。
 大勢の足音はそういう間も次第次第に近寄って来る。はっきり人声も聞こえて来る。
「や、あれは日本の言葉だ」紋太夫は思わず云った。
「英国の言葉も雑っている」続いてホーキン氏もこう云った。
 松火たいまつの火を真っ先にやがて人影が現われたが、それは土人の軍勢ではなく、土人祭司バタチカンを案内役に先に立てたすなわち日英の同盟軍――来島十平太とゴルドン大佐と、彼ら二人の部下とであった。
「これはこれは小豆島殿!」「ああお前は十平太か!」
「これはこれはホーキン隊長!」「おお君はゴルドン大佐か!」
 忽ち双方から歓喜に充ちたこういう会話が交わされた。
 そこで一同熟議の結果、大和日出夫の父の邸へひとまず落ち着こうということになった。で、道を右に取り、元気よく一同は先へ進んだ。
 一里余りも進んだ時、狭い坑道は行き詰まった。空井戸の底へ来たのである。そこで一同は順々に空井戸を上へ登って行った。それから日出夫を先に立て、荒野をズンズン歩いて行った。
 間もなく日出夫の邸へ着いた。
 思わぬ大勢の来客に日出夫の父は仰天したがまたひどく喜びもした。
 誰も彼も空腹であった。日出夫の父は家内を探しあるだけの食物たべものを提供した。
 それから一同一室に集まり今後の方針を議することとした。
 真っ先に立ち上がって発言したのは大和日出夫の父であった。
「拙者は日本の本草家大和やまと節斎せっさいと申す者でござる」
 これを聞くと紋太夫は驚いたような顔をしたが、
「ナニ大和節斎殿とな? これはこれはさようでござったか。和漢洋の学に通じ、本草学の研究においては一流の学者と申すこと、噂にうけたまわっておりました。しかし今より十数年前、支那上海シャンハイの方面にて行方不明になられたと、もっぱらの評判でござりましたが、意外も意外このような土地に、ご壮健にておいでとは、不思議な事でござりますな」
「いやそれには訳がござる」節斎は微妙に笑ったが、「まずともかくもお聞きくだされ。これは不思議な話でござる。そうしてこれは皆様にとって最も有益な話でござる。実はな拙者上海シャンハイにおいて珍らしい書物を手に入れたのでござる」

        二十七

 大和節斎は演説を続けた。――
「さよう、拙者は上海シャンハイにおいて、珍らしい書物を手に入れました。孔子以後現代までの聖人賢人悪人どもの知識について書き記したもので、この本一冊持っていさえしたら、世界のあらゆる出来事はさながら掌上を指すがごとく理解出来るのでございます。で、拙者はこの書物を『聖典』と呼ぶことに致しました。さて、その聖典の暗示によって、この島のどこかに大宝庫があり、発掘を待っているということを、おぼろ気ながら知ることを得たのは十数年前のことであって、その時以来この島へ移住し、土人どもと交際をし今日まで暮らして参りました。最近聖典を失いましたため、一時研究を放擲ほうてきしましたが、大挙して諸君が参られたからは、再び勇気をふるい起こし、所期を貫徹致すべく努力するつもりでございます」
 ここで彼は一がいしたが、
「さて、ついては今日まで、十数年間この島に関して、研究致しました成績について、あらかたお話し致しましょう。……まず第一この島には宝石の土蔵がございます」
 ここでまた一咳した。
「それから第二にこの島には黄金の土蔵がございます。そうしてこの島の樹木たるやいずれも珍木でございます。要するにこの島その物が一大宝庫なのでございます。しかるにこの島の土人なる者が、昔から剽悍ひょうかんでございましたので、幾多著名の冒険家達もついにこの島を窺うことが出来ず、今日まで捨てられておりました。さてところで、この島には、これら天然の財産の他に、人工的の大財宝が隠されてあるのでございます。すなわち代々の土人酋長が部下を従え海を越え、他国に向かって侵略し、奪い取ったところの貨幣珍器が、莫大もないたかとなって隠されてある筈でございます。ところでそれはどこにあるかというに、今日までの研究によれば地下の世界にある筈です。そして地下のどこにあるかというに、この島の伝説として語られているつるぎの神殿に、隠されてある筈でございます。拙者をして云わしむれば、つるぎに関する伝説などは作り話としか思われません。つまり物々しい伝説を作り地下の世界を神聖の物とし、他人の侵入を防いだのであります。秘密の通路を二つ設け、その一方を迷路としたのも侵入を防ぐ手段であります。
 で、我々がその財宝を手に入れようと思うなら、是非とも地下の世界へ行き、その活き剣の神殿なるものをあばかなければなりません。しかるにまことに残念なことには、二つの中の一つの通路は、完全に破壊されてしまいました。でこの道からは行けません。ところでもう一つの迷路からも絶対に行くことは出来ません。お聞きすれば紋太夫殿は、迷路に住んでいる巫女みこに教わり、奇数偶数、奇数偶数と、こう辿って行かれた結果、地下の世界へ参られたというが、しかし再びその巫女の所へどうして行くことが出来ましょう。なるほど、巫女の住む場所からはそういう順序でも行けましょう。しかし入り口から巫女の部屋へはそういう順序では参れません。もしそんな順序で参れるようなら、それは迷路ではありません。仮りにも迷路とあるからは、そんな簡単な順序では到底行くことは出来ません。
 で、要するに地下の世界へは、今のところ我々は、絶対に行けないのでございます。
 ではどうしたらよかろうか?
 当分の間我々には、地下の世界の財宝を諦らめ、この天産の無限に多い島その物の開拓に従事すべきではありますまいか。そうして緩々ゆるゆるその間に、壊れた地下道を修繕するもよし、新に開鑿かいさくするもよし、手段はいくらもございます。その上で地下へ参ったなら、成功することと思われます」
 節斎の長い物語はようやくここで終りとなった。
 他に手段がなかったので、紋太夫もホーキン氏もその説に従い、島を開拓することにした。
 まず住宅が作られた。
 各自愉快に生活した。
 予想にも増してこの島には天産物が豊富にあった。規則正しい労働と、この時代の文明から推してきわめて進んだ設備とで、彼らはドシドシ発掘した。
 この間、島の土人達と、幾度か小競合こぜりあいが行なわれたが、とても彼らに敵すべくもない。間もなく完全にチブロン島は彼らの手中に帰することになった。
 島の政体は共和であった。第一期の大統領には紋太夫が選ばれた。選挙は毎年行なわれ、二期の大統領にはホーキン氏がなった。大和節斎は老人ではあり、且つ学者でもあったので、最高顧問ということになった。祭礼方面は土人司祭のバタチカンがつかさどった。
 ジョン少年と大和日出夫とは、この共和国の寵児として仲間の者から可愛がられたが、云うまでもなくこの二人はこの上もない親友であった。

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