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右門捕物帖(うもんとりものちょう)28 お蘭しごきの秘密

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-7 9:47:04  点击:  切换到繁體中文


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 しかし、そろえて待っていたその二丁の駕籠に乗ると同時です。けたたましく伝六が音をあげました。
「だんな、だんな、今ごろになって出りゃがった。変な野郎が、ちょこちょことつけだしましたぜ!」
「ほほう。案の定新芽が出たか。いずれはちゃちな野郎だろうが、念のために首実検しようかい」
 おどろきもせず、たれのあわいからのぞいてみると、これが早い、――年のころは三十七、八、町人づくり。雨の中を長ぞうりはいて着流しのくせに、ちょこちょこと二十間ばかりのあとから、じつに足が早いのです。
「まず町飛脚という見当かな。黒幕はたしかに二本差しにちげえねえが、あんなやつまで手先に使って、上野へ来たことまでかぎつけて、この山下に張り込んでいたところを見ると椋鳥むくどりゃおおぜいさんかもしれねえや。かまわねえから、ほっときな」
「だ、だいじょうぶですかい」
「いま騒ぎだしゃ、えさがなくなるじゃねえかよ。草香流が節鳴りしてるんだ。こわきゃ先へ飛ばしな」
 ゆうゆうとうち乗ったまま急がせて、ほどなく乗りつけたところは、並木町のかどのかざり屋から三軒めの、お蘭が宿下がりしているというそのしもた屋です。――同時でした。見えがくれにつけてきた足早男が、ちらりとそれを見届けるや、いっさんにまたいずれかへ姿を消しました。
「ウフフ。おいらを相手に回して、古風なまねをしていやがらあ、久しぶりにあざやかなところを見せるかね。ついてきな」
 おどろきもせず、案内も請わずにずかずかはいっていくと、しいんと家のうちが静まり返っているのです。――と思われたその静かな屋内の奥から、よよとばかりに忍び泣く女のすすり音がきこえました。
 声をたよりに奥へはいってみると、へやは内庭にのぞんだ離れの六畳。見る目もえんにくずおれ伏して、ひとりしんしんと泣きつづけていたのは、ひと目にそれとわかるお蘭です。
「おどしの手がもう回ったね」
 えッ――というように、おどろき怪しみながら、ふり向いたお蘭の美しい泣き顔へ、さわやかに微笑を含んだ名人の声が注がれました。
「だいじょうぶ、幸助殿御から始終のことはもう承りましたよ」
「そういうあなたさまは!」
「むっつりとあだ名の右門でござんす」
「ま……それにしても、そのあなたさまがまた何しにここへ!」
「心配ご無用。幸助どんからおむつまじい仲を聞きましたんでね。いいや、あんたへ届けるはずの仕掛けしごきが人手に買われて、どうやらその買い主がふみを種にあんたをおどしつけていやしねえかとにらみがついたんで、ちょっくらお見舞いに来たんですよ。泣いていたは、にらんだとおりそいつの手がもう回ったんでしょうね」
「そうでござりましたか! それで何もかもはっきり納得が参りました。まちがえて人手に買われたら買われたと、どのようにでもしてひとことそれをわたくしにお知らせくだされば、手だても覚悟もござりましたものを、いきなりさる男がやって参りまして、不義密通の種があがったとおどしの難題言いかけられましたゆえ、どうしようとお宿下がりを願って、このように生きたここちもなく取り乱していたのでござります」
「やっぱりね。おどしのその相手は、いったい何者でござんす」
「それが、じつは少し――」
「だいじょうぶ! おいらが乗り出したからにゃ、力も知恵も貸しましょうからね。隠さずにいってごらんなせえよ。どこのだれでござんす?」
「めぐりあわせというものは不思議なもの、もと同じ加賀様に仕えて、二天流を指南しておりました黒岩清九郎さまとおっしゃるかたでござります」
「やっぱり二本差しだったね。どうしてまたそやつの手にはいったんですかい」
「それも不思議なめぐりあわせ、じつは黒岩さまが今のようなご浪人になったのも、家中のご藩士をふたりほどゆえなくあやめたのがもとなのでござります。さいわい、その証拠があがりませなんだゆえ、ご処分にも会わず浪人いたしまして、今はここからあまり遠くもない下谷御徒町おかちまちに、ささやかな町道場とやらを開いてとのことでござりまするが、そのご門人衆のひとりの姪御めいごさんとやらが買ったしごきの中に、わたくしあての恥ずかしい文があったとやらにて、不審のあまり清九郎さまに見せましたところ、同じ家中に仕えていたおかたでござりますもの、わたくしの名を知らぬはずはござりませぬ。このあて名のお蘭ならばまさしくあれじゃと、すぐにご見当がつきましたとみえ、ついおとついの日でござります、鬼の首でも取ったような意気込みで不意にお屋敷のほうへたずねてまいり、このとおり不義密通の種があがったぞ、ご法度はっと犯した証拠は歴然、殿のお手討ちになるのがいやなら、くどうはいわぬ、いま一度加賀家の指南番になれるよう推挙しろ、でなくばみどものいうがままにと――」
「けがらわしいねだりものをしたんですかい」
「あい。恥ずかしいことをいいたてて、どうじゃ、どうじゃと責めたてますゆえ、思案にあまり、きょうの晩までご返事お待ちくだされませと、その場をのがれて、ただ恐ろしい一心から、かく宿下がりをいたしましたが、幸助さまにご相談したとてもご心配をかけるばかり。ほかに力となるものとては、おじいさまおばあさまのおふたりがあるばかり、そのふたりもあいにくと善光寺参りに出かけまして、るすを預かっているのはたよりにならぬばあやがひとりきり、困り果ててこのように泣き乱れておりましたのでござります」
「そうでしたかい。黒岩だかどろ岩だか知らねえが、江戸っ子にゃ気に入らねえ古手のおどし文句を並べていやがらあ。ようがす! ちっと気になるやつが、さっき表をうろうろしやがって姿を消したからね。ちょっくら様子を見てまいりましょうよ」
 のぞいてみると、意外! 脱兎だっとのごとく消えてなくなったはずのあの町人が、いつのまにかかいがいしいわらじ姿につくり変えて、身ごしらえもものものしいうえに、こしゃくな殺気をその両眼にたたえながら、じっと中のけはいをうかがっているのです。
「ウフフ、背水の陣を敷いたかい。じゃ、こっちでもひとしばいうってやらあ」
 ずかずかと縁側伝いに離れへ帰ってくると、
「お蘭どの!」
 上がりがまちから不意に鋭く呼びかけたと見るや、じつに突然でした。いぶかるように呼ばれたそのお蘭がひょいと障子をあけたせつな!
「ちょっとあの世へいってきなせえよ!」
 声もろともに、ダッとひと突き、みごとな草香の当て身でした。
「冗、冗、冗談じゃねえ、だんな! 払い下げるなら、あっしがいただきますよ! こんなとてつもねえ弁天さまを、なんだってまたそんなにむごいことするんですかよ! べっぴんすぎて、ふらふらとなったんじゃござんすまいね」
「黙ってろい! ついてくりゃいいんだ。もうけえるんだよ」
 唖然あぜんとなって、ぱちくりやっている伝六を促しながら、じつに不思議です。ゆうゆうと両手をふところにして、手もなくのけぞり倒れたお蘭をあとにしながら、さっさと表のほうへ出ていきました。同時に、ちらりとその姿をながめて、疾風のごとくに身を隠そうとした怪しの尾行者に、追いかけていったものです。
「ご苦労ご苦労。みんなによろしくな」
 言い捨てると、なぞは深し、行くのです、帰るのです。小降りの雨の中をぬれて歩いてかどを曲がりながら、ほんとうにさっさと道を急ぎました。――と見えたのはしかし二町足らず、ずかずかとふたたびかざり屋のかどまで引っ返してくると、ぴたり、そこの物陰に身を潜めながら、帰ると見せて立ち去ったお蘭の家の表のけはいに烱々けいけいと鋭いまなこを配り放ちました。
 来る! 来る!
 わらじ姿の町人こそは、まさしく黒岩の一味の、見る目、かぐ鼻、様子探りの先手であったとみえて、どこぞ向こうの町かげにでも潜み隠れていた清九郎たちに、いちはやく名人右門退散と注進したものか、待つほどもなくぞろぞろとやって来るのです。
 ひとり。ふたり。三人。四人。いずれも身ごしらえ厳重の武芸者ふうに作って、先頭に立った五分月代さかやきこそ、体の構え、目の配り、ひときわ立ちまさっているところを見ると、たしかに当の黒岩清九郎にちがいない。しかも、あたりのけはいを見はばかるようにして、そのまま足早にお蘭の住み家の中へぞろぞろと姿を消しました。
 見ながめるや同時です。
「たいでえびをつったかな。まごまごすりゃ、今度こそ、おめえの首がそっぽへ向くかもしれねえから、小さくなって見物していなよ」
 言い捨てて、伝六をうしろに、ゆうぜんと引っ返していくと、ちょうどその出会いがしら。――気を失ったままでいるお蘭のからだを横抱きにして中から出てきた四人の者と、ぱったり面を合わせました。せつな! 莞爾かんじとうち笑うと、すばらしい名啖呵たんかが飛んでいったものです。
「忘れるねえ! これがお江戸八丁堀のむっつり右門の顔だッ。少しはぴりっとからしがきいたかッ」
「なにッ」
「よッ」
「はかったなッ」
「そうよ、知恵の小引き出しは百箱千箱、こうとにらんだがんは狂い知らずだ。張ったり網にもこぼれはねえが、草香の当て身にもはずれがねえんだ。菜っ切り包丁抜いてくるかッ」
「ほざいたなッ。うぬにかぎつけられちゃめんどうと、おどしのくぎを一本刺しておいたが、こうなりゃなおめんどうだッ。二天流の奥義、見舞ってやるわッ」
 二本、三本、四本、いっせいに抜いて放って、さっと刃ぶすま固めながら小雨の表におどり出たのを、とどめの名啖呵です。
「笑わしやがらあ! これが折り紙つきの草香流だッ。お味はどんなもんかい」
 出たとならば、一陣、一風。二天流黒岩清九郎が赤岩清九郎になろうとも、右門秘蔵草香の当て身の前には歯も立たないのです。ばたり、ばたりと、一瞬の間に四人は雨どろの道にはいつくばりました。
「見ろいッ。弟子でしだか門人だか知らねえが、片棒かついだやつにゃ用はあるめえ。加賀大納言家じゃ清九郎一人に御用がおありだろうから、伝あにい、いつものとおりこれをなわにして自身番へしょっぴいてな、ご進物でござりますとすぐにお屋敷へ届けるよう、計らってきなよ。――おっと、待ったり。懐中にでもゆすりの種のかよわせぶみがあるだろう。地獄へ行くには目の毒だ。功徳のためにいただこうよ」
 果然、ふところ深くに忍ばせていたのをすばやく抜きとっておくと、何も知らぬげに気を失っていたお蘭の花のごとき乳ぶさのあたりへ軽い活の一手を入れながら、莞爾かんじとしていったことです。
「痛いめに会わせましたね、一石二鳥の右門流といやちっと口はばったいが、一つにゃやつらをおびき寄せるため、二つにゃおまえさんにおけがのねえようにと、涼んでいてもらったんですよ。そのかわりに、このとおり幸助どんの心をこめた玉章たまずさがおみやげだ。二度の奥勤めもできますまいから、しかるべき法を講じてね、早く長火ばちの向こうにおすわりなせえよ。――伝あにい、用を足してきたかい。人さまが手生けの花見でもけりがついたかな。花がこんなところでも散ってくらあ。かえるかね――」
 と、こともなげに立ち去りました。





底本:「右門捕物帖(三)」春陽文庫、春陽堂書店
   1982(昭和57)年9月15日新装第1刷発行
入力:tatsuki
校正:kazuishi
2000年4月14日公開
2005年9月22日修正
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