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政談月の鏡(せいだんつきのかがみ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-7 10:51:31  点击:  切换到繁體中文


        五[#「五」は底本では「四」と誤記]

 えゝ、米倉屋孫右衞門の家では、二月の十日が娘の三十五日で谷中静雲寺(せいうんじ)に於(おい)て、水死致した娘の事で有りますから、猶更懇(ねんご)ろに法事供養を致しました。すると其の年の八月此の米倉屋孫右衞門の家内おゆうが四十七歳で死去(みまかり)ました、重ね/″\の不幸のみならず、娘の入水致した時などは、余程入費も費(ついや)しました事で、引続いて種々(いろ/\)の物入(ものいり)のございましたので、身代も余程衰えて来た処へ、其の年の十一月二十九日の日(ひ)に籾倉(もみぐら)の脇から出火で福井町から茅町(かやちょう)二丁目を焼き払った時に土蔵を落して丸焼に成り、米倉孫右衞門、神田三河町に立退きまして商売替を致し、米商売を始めました処、案外の損を致しました、然(しか)るに又宝暦の六年は御案内の年代記にも出て居りますが、江戸の大火で再び焼失致しましたから遂に身代限りを致し、何(ど)うも致方(いたしかた)がないから僅(わずか)の金を借りて京橋の鍛冶町(かじちょう)へ二間間口の家を借り、娘に小間物を商なわせ、小商(こあきない)を致して居ります中(うち)に、余り心配を致したのが原因(もと)に成って孫右衞門は病の床に就(つ)きました、娘のお筆は大切に看病を致して居りますが、誠に不幸な人でございまして、死ぬ処を助けられて宜(よ)い処へ行ったと思うと其の家が零落を致し養母には間も無く死別(しにわか)れ、親父は病気に成って其の看病を致しますが、一体孝心の娘でございますから、店で商いを致しながら父の看病を怠(おこたり)なく致しまする故か、孫右衞門の病気も怠った様でございますが、頓と身体が利きません、先ず中気の様に成りました、仕方がないから家主藤兵衞(とうべえ)へ相談の上、店を仕舞って裏屋住いに成り、お筆が僅の内職を致しますが居立(いたち)の悪い親を介抱致しながらでございますから、内職を致す間(ま)も碌々ございません、親父が寝付いた間(ま)に内職を致すのだから何程の工銭(こうせん)も取れません、売り喰いに致して居りましたが、末には、何うも致方がない、読者(あなたがた)は御存じがありますまいが、貧乏人の身にある事で米薪が切れる、着物が切れる畳が切れる、其のぼろを隠すのは苦(くるし)いもので有ります。お筆はお米を買う事が出来ないから、自分が喰べずに米櫃(こめびつ)を払ってお粥にして父に喰べさせても、己(おのれ)はお腹(なか)が空いた顔を父に見せません、近処でも是を知って可哀想に思って居りますが直(じ)き其の裏に五斗俵市(ごとびょういち)と云う人がございます。茶舟(ちゃぶね)の船頭で五斗俵(ごとびょう)を担(かつ)ぐと云う程の力の人でございます、其処(そこ)の姐御(あねご)は至極情け深い人で、然(そ)う云う強い人の女房でございますから鬼の女房(にょうぼ)に鬼神(きじん)の譬(たとえ)、ものゝ道理の分った婦人で有りますから、お筆を可愛がって居ります。
 女房「おい、勘次(かんじ)や、お前あの奥のお筆さんの処へ序(ついで)に水を汲んでやんなよ、病人があるから定めし不自由だろう、何かお菜(かず)を拵(こしら)えてやろうと思うが、手一つで親の看病をしながら内職をして居るので、何もする事が出来ないとよ、可哀想だから目をかけて遣(や)んなよ」
 勘「えゝ姐さん目をかける処(どころ)じゃアない、何時(いつ)でも井戸端へ行くたア、水を汲んでやります」
 女「焼豆腐を煮てやりたいと思うが、勘次、お前出来るかえ」
 勘「えゝ出来ますとも私(わっち)が煮て上げましょう」
 女「お前に煮られる者か」
 勘「煮られなくって、七輪を此処(こゝ)へ持って来やしょう」
 女「そうだねえ、まア火を煽(おこ)してお呉れ……消炭(けしずみ)を下へ入れて堅い炭を上へ入れるのだよ、あら、鍋が空じゃアないか、湯を入れて掛けるのだアね、旨くやんねえよ」
 勘「宜(よ)うげす…それ七輪の火が煽って来た…徐々(そろ/\)湯が沸立(にた)って来たぞ御覧(ごろう)じろ今に旨く煮てやるから一寸(ちょっと)お塩梅(あんばい)をしよう」
 女「おい、お前が何も塩梅しなくっても宜(い)い、然(そ)うバタ/\七輪の下を煽(あお)がないでも宜いよ、お前のは他見(わきみ)ばかりして居るから、上の方で灰ばかり立って火が煽(おこ)りゃアしない」
 勘「なに、大丈夫だ今旨く煮て見せやす、ねえ姐さん/\」
 女「何(なん)だい」
 勘「裏のお筆さん位美(い)い女は沢山(たんと)はありませんねえ」
 女「あゝ美い嬢(こ)だねえ、人柄がいゝねえ」
 勘「女が美(よ)くって人柄が宜(い)い上に、一寸気が利いて、親孝行で、あんな好(い)い娘はありませんぜ」
 女「可哀想にあの位の器量をもって…」
 勘「ありゃア姐さん、親父(おとっ)さんが死んで仕舞うと却って助かりますぜ」
 女「そんな事を云いなさんなよ」
 勘「あの親父(おやじ)は堅いから喧(やかま)しいが親父が死んで仕舞えば旦那でも何(なん)でも取れます、あれで軟かい着物でも着せてお化粧(しまい)をさせて置いて御覧なせえ、そりゃア素敵なもんだ、親父はもう、直(じき)に死にますぜ」
 女「馬鹿な事をお云いでない、只(たっ)た一人のお父(とっ)さんが逝去(なくな)った日には本当に可哀そうだ」
 勘「なに死ねば宜(い)いや、兎も角も美(い)い嬢(こ)ですねえ」
 女「真実(まこと)に宜いのう、愛らしいこと、人※(ひとがら)恰(まる)でお屋敷さんのお嬢さん見たようで、実に女でも惚れ/″\するのう」
 勘「姐さんでも惚れますかえ」
 女「お前水を汲んでやんなよ」
 勘「汲んでやる処じゃアない、お筆さんが井戸端へ行くと跡から飛んで行って汲んでやるので、此間(こないだ)も佐吉(さきち)の野郎が水を汲んで喧嘩をしやした、恰でお筆さんは手を下(おろ)す事もないが、佐吉の野郎が助倍(すけべい)な奴で、お筆さんだと大騒ぎやって汲んでやりやアがって井戸端へ洗濯屋の婆さんが来て私にも汲んでお呉れというとね、佐吉が井戸を覗き込んでいゝ塩梅に中に水があれば宜(い)いが、と井戸に水のねえ訳はねえが現金な野郎で…何しろ好(い)い女だ、親父が死んで仕舞うと旦那を取るよ、親父が死ぬと彼方此方(あっちこっち)で世話をする者があると死んだ親父に済まないから旦那なんぞを取るのは厭だと云うねえ、それを強(たっ)て勧めるから旦那を取るけれども若い好(い)い男は取らないねえ、何(なん)でも六十三四位の金のある奴を勧めると屹度旦那に取りますぜ」
 女「どうだか知れやアしない」
 勘「なアに取りますよ、取るけれども彼(あ)ア云う気性だから旦那に金を遣わせないね、大きな家(うち)へも這入らない、新道(しんみち)で一寸八畳に六畳位の小さな土蔵でもある位な家を借りて居るね、下女は成丈(なりた)け遣わない、自分でお飯(まんま)を焚いたり何か為(し)ますそれで綺麗好だから毎朝表の格子を拭きますよ、其の時其の前を私(わっち)が通り掛ったら、何(ど)うだろう」
 女「誰(だ)れが」
 勘「私(わっち)さ、扮装(なり)を拵(こしら)えるね此様(こん)な扮装(いでたち)じゃアいけないが結城紬(ゆうきつむぎ)の茶の万筋(まんすじ)の着物に上へ唐桟(とうざん)の縞(らんたつ)の通し襟の半※(はんてん)引掛(ひっか)けて白木(しろき)の三尺でもない、それより彼(あ)の子は温和(おとなし)い方が好きですかねえ、草履より駒下駄を履いて前を通りましょうお筆さんが見ると屹度声をかけますよ、おや勘次さん、おや姉(ねえ)さんお宅は此処(こゝ)ですかえ、はア斯(こ)んな処へ来ました、まアおよんなさいよお茶を飲(あが)って行ってお呉んなさいよと先方(むこう)で云うに違いない、義理堅い娘(こ)だから、水や何か汲んでもらった廉(かど)があるからお上(あが)んなさいましよと云うねえ、此処で私(わっち)が旦那でもお在(い)でだとお邪魔に成るからと云うと、いゝえ誰も居ませんから、まアお上んなさいましよと手を取って引張るね、寄りたいけれども其の時ゃア私は我慢して、何(いず)れ又というので無理に振り払って帰るね、二度目に通る時に又おつな扮装(なり)をして今度は此方(こっち)から声を掛けると、まア上ってお呉んなさいと引張り込んでお茶を入れる、家(うち)に酒も附いて居るから一寸お一つ召し上れと私の酒好きを知っているから、気が付く子だから酒を出す、これは済みませんねえ、旦那は毎晩お出でなさるかと聞くと、いゝえ毎晩は来ません通い番頭で年を老(と)って居ますから、月に漸く三度位しきゃア来ません、時々遊びに参っても宜うございますか、宜いどころじゃアありません、どうぞ始終遊びに来て下さい、姐(ねえ)さんはお壮健(たっしゃ)ですかとお前さんを聞くよ、情愛があるから……それから屡々(ちょく/\)遊びに行って何時も御馳走に成って済まないと偶(たま)には何か奢ってやるね、度々(たび/\)行く様に成るとそこは阿漕(あこぎ)の浦に引網(ひくあみ)とやらで顕(あらわ)れずには居ない、其の番頭が愚図/\云うに違いない、然(そ)うすると私が依怙地(えこじ)に成って何を云やアがる此方(こっち)じゃア元より一つ長屋に居たんだ、確乎(ちゃん)と約束がある女だ、誰(たれ)に断って此の女を慰み者にして居ると威張るね…いや然(そ)んな事を云うと彼(あ)の娘(こ)が驚いて愛想をつかすといけねえから…なに構わない向うは歳を老(と)って居るから威(おど)して先の家(うち)へねじ込んで仕舞えば然(そ)んならばと云うので、手切れに成る」
 女「何(なん)だえお前、何でも無いのに手切れが取れるものかね」
 勘「今はまだ何でもありませんが今に成るねえ、併(しか)し然う喧(やかま)しく掛合ってもあの子が心配をするから、其処(そこ)は旨く話合いにして百両取るよ、然うしたら私(わっち)は質から出したい着物がある、そうなるとお前さんに芝居を奢りますね」
 女「勘次お前気が違ったのかよ」
 勘「だって本気です、七輪の火がおこらねえが」
 女「其の筈よ猫の尻を煽(あお)いでるぜ」
 勘「シヽヽ猫め彼方(あっち)へ行(ゆ)け、是れは恐れ入った、姐(ねえ)さん今に煮えたら直(すぐ)に持って行きましょう」
 と交々(かわる/″\)近所の者がお菜(さい)を持って往(ゆ)きますから、喰物(たべもの)に不自由はないが肝心のお米と炭薪などは買わなければなりません、段々に冬に成る程詰って参り、遂には明日(あす)のお米を買って親父にたべさせる事も出来なくなりました。

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