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政談月の鏡(せいだんつきのかがみ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-7 10:51:31  点击:  切换到繁體中文


        六[#「六」は底本では「五」と誤記]

 お筆は何うしたら宜かろうと種々(いろ/\)考えましたが、斯(こ)うなっては迚(とて)も致し方がないから、能く人が切羽に詰った時には往来の人の袖に縋(すが)る事も有ると聞いた事もあるから、袖乞(そでごい)に出る気に成りましたが、あゝ恥かしい事では有るが親の為には厭(いと)う処でないが袖乞をする事がお父さんに知れたら猶御心配をかけるようなものだと種々に考えまして親父の寝付いた時分に窃(そっ)と抜け出して数寄屋河岸(すきやがし)の柳番屋の脇の処に立って居りました。寒くなると人の往来(ゆきゝ)は少のうなります、酒臭き人の往逢(ゆきあ)う寒さかなという句がありますが、たま/\通る人を見ても恵(めぐみ)を受けようと思う様な人はさっぱり通りません。お筆は手拭を冠(かぶ)って顔を隠し焼け穴だらけの前掛に結びっ玉だらけの細帯を締めて肌着が無いから慄(ふる)えて柳の蔭に立って居ると、丁度此処(こゝ)へ小田原提灯を点けて二人連れで通り掛った者がありますから、
 筆「もし貴方」
 と言掛けましたが是は中々云えんそうでございますが実に慣れないでは云えるものではない、乞食が慣れて来ると段々貰いが多くなるそうで、只今では無いが浪人者が親子連れで「永々の浪人御憐愍(ごれんみん)を」と扇へ受けまして、有難う存じます、と扇を左の手に受けて一文貰うと右の手に取って袂(たもと)へ入れる、其の間に余程手間が取れるから往々貰い損(そこな)います、少し馴(なれ)て来ると、有難う存じますと直(すぐ)に扇から掌(てのひら)へお銭(あし)を取る様に成る、もう一歩慣れたら何(ど)うなりますか、併(しか)し乞食などは余り慣れないでも宜(よ)いが、有難う存じますと扇を持って居る掌へ辷込(すべりこ)ませると申しますが、慣れない事は仕様のない者で中々その初めの中(うち)は云えん者だが明日(みょうにち)御飯(おまんま)を喰べる事が出来ないと云う境界(きょうがい)でございますから一生懸命であります、殊に命を助けて呉れた大恩のあるお父(とっ)さんに御心配をかけては御病気にも障る事で何分にも他に何を致そうと思っても手放す事が出来ず、暗夜(やみよ)の事だから人に顔を見られなければ親の恥にも成るまいと思い、もう一生懸命で怖いも何も忘れて仕舞い、
 筆「貴方お願いでございます」
 ○「アヽ、何(なん)だい突然(だしぬけ)に恟(びっく)りした、どうも此処等(こゝら)へは獺(かわうそ)が出るから……」
 筆「永々親父が煩いまして難渋致します、何卒(どうぞ)親子の者を助けると思召して御憐愍(ごれんみん)を願います」
 ○「然(そ)んなら早く然(そ)う云えば宜(よ)いのに吉田さん/\、袖乞だ一寸御覧」
 と小田原提灯の火影(ほかげ)で見ると
 「中々美(い)い女だ繻絆を着ないで薄い袷(あわせ)見た様な物を着て何(ど)うも気の毒な事だの」
 △「成程是は美い素敵だ姉(ねえ)さん親父(おとっ)さんは余程悪いかえ」
 筆「はい永い間病気で」
 ○「困るだろうねえ無尽(むじん)を取って来たから……取って来たって割返しだよ、当れば沢山(たんと)上げるが只(たっ)た六十四文ほきゃアないが是をお前に私(わし)が志しで」
 筆「有難う存じます」
 と金を貰ってしくしく泣(ない)て居りました、此の為体(ていたらく)を見て一座の男が、
 甲「アヽ、泣くよ本当に嬉しいのだ、真に喜んで泣くよ偽乞食(にせこじき)でないから、お遣りお前は小花(こばな)の鬮(くじ)が当ったから皆(みんな)お遣りよ何を愚図/\して居るのだ」
 一人の男が不承/″\に出すを受取って、
 甲「さア此の人のだ二朱と二百上げるよ」
 筆「有難う存じます/\」
 男「何うしても二朱と二百の方が礼が多い、だがね、姉さん此の男のは小花が当って余計ものですが、私のはたった六十四文でも割返しだから、丁度二十両の内に這入って居る者だから私の方は親切が深い」
 乙「そう自分許(ばか)りいゝ子になりたがらなくってもいゝぜ」
 と銭を恵んで呉れましたのは天の助けで、それから又翌晩も出て是が三日四日続くと、もう幾らか様子を覚えましたから通り掛った人の袖にすがりましてお願いでございますというと、其の人は恟りして、
 男「何(なん)だい、恟りさせやがる」
 筆「親父が永々の病気で、難渋致しますから何卒(どうぞ)お恵みを……」
 男「アヽ、美(よ)い女だ美い娘(こ)だねえ、五百やるから材木の蔭へ這入らないか」
 などという悪い奴が中には有ります、お筆は驚いて御免遊ばせと云って逃出しましたが、段々寒くなるに従って人通りがなくなり、十二月の月に這入ってヒュウ/\と云う風が烈しいから夜(よ)に入(い)ると犬の吠える許(ばか)り、往来は絶えて一人も通らんから、もう仕方がない私の様な者でも人様の云う事を聞けば五百文でもやると仰しゃるが、身を売ってもお父(とっ)さんを助けたいけれども、私が居なければ介抱をしてもなし、お父さんに御飯(おまんま)をたべさせる事も出来ないから、身を売る訳にも行(ゆ)かず、進退谷(きわ)まりまして誰(たれ)にも知れる気遣いないから、思い切って、身を穢(けが)してもお銭(あし)を貰ってお父さんに薬も飲ませ、旨い物を喰べさせて上げたいと可哀想に僅(わずか)五百か六百の銭(ぜに)の為に此の孝行の美婦人が身を穢しても親を助けようという了簡になりましたのは実に不幸の娘であります。九ツも過ぎ、芝の大鐘(おおがね)は八ツ時でちらり/\と雪の花が顔に当る処へ、向うから白張(しらはり)の小田原提灯を点けて、ドッシリした黒羅紗(くろらしゃ)の羽織に黒縮緬の宗十郎頭巾(そうじゅうろうずきん)に紺甲斐絹(こんがいき)のパッチ尻端折(しりはしおり)、紺足袋に雪駄穿(せったば)き蝋色鞘(ろいろざや)の茶柄の大小を落差(おとしざ)しにしてチャラリチャラリとやって参りました、此の武家にお筆が頼み入る処、是が又一つの災難に相成るのお話。

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