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藤村詩抄(とうそんししょう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-11 9:02:10  点击:  切换到繁體中文


 おえふ


處女をとめぬるおほかたの
われは夢路ゆめぢを越えてけり
わが世の坂にふりかへり
いく山河やまかはをながむれば

みづしづかなる江戸川の
ながれの岸にうまれいで
岸の櫻の花影はなかげ
われは處女をとめ[#ルビの「をとめ」は底本では「おとめ」]となりにけり

都鳥みやこどり大川おほかは
流れてそゝぐ川添かはぞひ
白菫しろすみれさく若草わかぐさ
夢多かりし吾身かな

雲むらさきの九重こゝのへ
大宮内につかへして
清涼殿せいりやうでんの春の
月の光に照らされつ

雲をちりばなみ
霞をうかべ日をまねく
玉のうてな欄干おばしま
かゝるゆふべの春の雨

さばかり高き人の世の
耀かゞやくさまを目にも見て
ときめきたまふさまざまの
ひとのころものをかげり

きらめきむる曉星あかぼし
あしたの空に動くごと
あたりの光きゆるまで
さかえの人のさまも見き

あまつみそらを渡る日の
影かたぶけるごとくにて
夕暮ゆふぐれに消えて行く
ひいでし人の末路はても見き

春しづかなる御園生みそのふ
花に隱れて人を
秋のひかりの窓に倚り
夕雲ゆふぐもとほき友を

ひとりの姉をうしなひて
大宮内のかどを出で
けふ江戸川にて見れば
秋はさみしきながめかな

櫻の霜葉しもはに落ちて
ゆきてかへらぬ江戸川や
流れゆく水しづかにて
あゆみは遲きわがおもひ

おのれも知らず世をれば
若きいのちに堪へかねて
岸のほとりの草を
微笑ほゝゑみて泣く吾身かな
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 おきぬ


みそらをかける猛鷲あらわし
人の處女をとめの身に落ちて
花の姿に宿やどかれば
風雨あらしかわき雲に
あまかけるべきすべをのみ
願ふ心のなかれとて
黒髮くろかみ長き吾身こそ
うまれながらの盲目めしひなれ

芙蓉をさきの身とすれば
なみだは秋の花の露
小琴をごとさきの身とすれば
うれひは細きいとおと
いまさきの世は鷲の身の
處女をとめにあまる羽翼つばさかな

あゝあるときは吾心
あらゆるものをなげうちて
世はあぢきなき淺茅生あさぢふ
しげれる宿やどと思ひなし
身はすべもなき蟋蟀こほろぎ
よる野草のぐさにはひめぐり
たゞいたづらにをたてて
うたをうたふと思ふかな

いろにわが身をあたふれば
處女をとめのこゝろ鳥となり
戀に心をあたふれば
鳥の姿は處女をとめにて
處女をとめながらもそらの鳥
猛鷲あらわしながら人の身の
あめつちとに迷ひゐる
身の定めこそ悲しけれ
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 おさよ


うしおさみしき荒磯あらいそ
巖陰いはかげわれは生れけり

あしたゆふべの白駒しろごま
故郷ふるさと遠きものおもひ

をかしくものに狂へりと
われをいふらし世のひとの

げに狂はしの身なるべき
この年までの處女をとめとは

うれひは深く手もたゆく
むすぼゝれたるわがおもひ

流れてあつきわがなみだ
やすむときなきわがこゝろ

みだれてものに狂ひよる
心を笛のに吹かむ

笛をとる手は火にもえて
うちふるひけりとをゆび

にこそかわ口脣くちびる
笛を尋ぬる風情ふぜいあり

はげしく深きためいきに
笛の小竹をだけや曇るらむ

髮は亂れて落つるとも
まづ吹き入るゝ氣息いきを聽け

ちからをこめし一ふしに
黄楊つげのさしぐし落ちにけり

吹けば流るゝ流るれば
笛吹き洗ふわが涙

短き笛のふし
長きおもひのなからずや

七つのこゝろ聲を得て
をこそきかめ歌神うたがみ

われよろこびを吹くときは
鳥も梢にをとゞめ

いかりをわれの吹くときは
を行く魚もふちにあり

われかなしみを吹くときは
獅子ししも涙をそゝぐらむ

われたのしみを吹くときは
蟲も鳴くをやめつらむ

あいのこゝろを吹くときは
流るゝ水のたち歸り

にくみをわれの吹くときは
散り行く花もとゞまりて

よくおもひを吹くときは
心のやみひゞきあり

うたへ浮世うきよの一ふしは
笛の夢路ゆめぢのものぐるひ

くるしむなかれわがとも
しばしは笛のかへ

落つる涙をぬぐひきて
靜かにきゝね吾笛を
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 おくめ


こひしきまゝに家を
こゝの岸よりかの岸へ
越えましものとて見れば
千鳥鳴くなりゆふまぐれ

こひにはおやも捨てはてて
やむよしもなき胸の火や
鬢の毛を吹く河風よ
せめてあはれと思へかし

河波かはなみくらく瀬をはや
流れていはくだくるも
君を思へば絶間なき
戀の火炎ほのほかわくべし

きのふの雨の小休をやみなく
水嵩みかさや高くまさるとも
よひよひになくわがこひの
涙の瀧におよばじな

しりたまはずやわがこひは
花鳥はなとりの繪にあらじかし
空鏡かゞみ印象かたちすな文字もじ
梢のかぜの音にあらじ

しりたまはずやわがこひは
雄々をゝしき君の手に觸れて
嗚呼口紅くちべにをその口に
君にうつさでやむべきや

戀は吾身のやしろにて
君は社の神なれば
君の祭壇つくゑの上ならで
なににいのちをさゝげまし

くだかば碎け河波かはなみ
われにいのちはあるものを
河波高く泳ぎ行き
ひとりの神にこがれなむ

心のみかは手も足も
吾身はすべて火炎ほのほなり
思ひ亂れて嗚呼戀の
千筋ちすじの髮の波に流るゝ
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 おつた


仄見ほのみゆる春の夜の
すがたに似たる吾命わがいのち
朧々おぼろ/\父母ちゝはゝ
二つの影と消えうせて
世に孤兒みなしごの吾身こそ
影より出でし影なれや
たすけもあらぬ今は身は
わかひじりに救はれて
人なつかしき前髮まへがみ
處女をとめとこそはなりにけれ
わかひじりののたまはく
時をし待たむ君ならば
かの※(「柿」の正字、第3水準1-85-57)をとるなかれ
かくいひたまふうれしさに
ことしの秋もはや深し
まづその秋を見よやとて
ひじり※(「柿」の正字、第3水準1-85-57)をすゝむれば
その口脣くちびるにふれたまひ
かくも色よき※(「柿」の正字、第3水準1-85-57)ならば
などかは早くわれに告げこぬ

わかひじりののたまはく
人の命のしからば
嗚呼かの酒を飮むなかれ
かくいひたまふうれしさに
酒なぐさめの一つなり
まづその春を見よやとて
ひじりに酒をすゝむれば
夢の心地に醉ひたまひ
かくも樂しき酒ならば
などかは早くわれに告げこぬ

わかひじりののたまはく
道行きいそぐ君ならば
迷ひの歌をきくなかれ
かくいひたまふうれしさに
歌も心の姿なり
まづその聲をきけやとて
一ふしうたひいでければ
ひじりたまも醉ひたまひ
かくも樂しき歌ならば
などかは早くわれに告げこぬ

わかひじりののたまはく
まことをさぐる吾身なり
道の迷となるなかれ
かくいひたまふうれしさに
なさけも道の一つなり
かゝるおもひを見よやとて
わがこの胸に指ざせば
ひじりは早く戀ひわたり
かくも樂しき戀ならば
などかは早くわれに告げこぬ

それ秋の日の夕まぐれ
そゞろあるきのこゝろなく
ふと目に入るを手にとれば
ゆきより白き小石こいしなり
わかひじりののたまはく
智惠ちえの石とやこれぞこの
あまりに惜しき色なれば
人にかくして今もはなたじ
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 おきく


くろかみながく
    やはらかき
をんなごゝろを
    たれかしる

をとこのかたる
    ことのはを
まこととおもふ
    ことなかれ

をとめごゝろの
    あさくのみ
いひもつたふる
    をかしさや

みだれてながき
    びん
黄楊つげ小櫛をぐし
    かきあげよ

あゝつきぐさの
    きえぬべき
こひもするとは
    たがことば

こひて死なむと
    よみいでし
あつきなさけは
    がうたぞ

みちのためには
    ちをながし
くにには死ぬる
    をとこあり

治兵衞はいづれ
    こひ
忠兵衞も名の
    ために

あゝむかしより
    こひ死にし
をとこのありと
    しるや君

をんなごゝろは
    いやさらに
ふかきなさけの
    こもるかな

小春はこひに
    ちをながし
梅川こひの
    ために死ぬ

お七はこひの
    ために燒け
高尾はこひの
    ために

かなしからずや
    清姫は
へびとなれるも
    こひゆゑに

やさしからずや
    佐容姫は
石となれるも
    こひゆゑに

をとこのこひの
    たはふれは
たびにすてゆく
    なさけのみ

こひするなかれ
    をとめごよ
かなしむなかれ
    わがともよ

こひするときと
    かなしみと
いづれかながき
    いづれみじかき
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 醉歌


旅と旅との君や我
君と我とのなかなれば
醉うて袂の歌草うたぐさ
醒めての君に見せばやな

若き命も過ぎぬ
樂しき春は老いやすし
が身にもてる寶ぞや
君くれなゐのかほばせは

君がまなこに涙あり
君が眉には憂愁うれひあり
堅く結べるその口に
それ聲も無きなげきあり

名もなき道を説くなかれ
名もなき旅を行くなかれ
甲斐なきことをなげくより
來りてうまき酒に泣け

光もあらぬ春の日の
獨りさみしきものぐるひ
悲しき味の世の智惠に
老いにけらしな旅人よ

心の春の燭火ともしび
若き命を照らし見よ
さくまを待たで花散らば
かなしからずや君が身は

わきめもふらで急ぎ行く
君の行衞はいづこぞや
琴花酒ことはなさけのあるものを
とゞまりたまへ旅人よ
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 哀歌


   中野逍遙をいたむ
『秀才香骨幾人憐、秋入長安夢愴然、琴臺舊譜※(「土へん+盧」、第3水準1-15-68)前柳、風流銷盡二千年』、これ中野逍遙が秋怨十絶の一なり。逍遙字は威卿、小字重太郎、豫州宇和島の人なりといふ。文科大學の異材なりしが年僅かに二十七にしてうせぬ。逍遙遺稿正外二篇、みな紅心の餘唾にあらざるはなし。左に掲ぐるはかれの清怨を寫せしもの、『寄語殘月休長嘆、我輩亦是艶生涯』、合せかゝげてこの秀才を追慕するのこゝろをとゞむ。



  思君九首  中野逍遙

思君我心傷  思君我容瘁
中夜坐松蔭  露華多似涙

思君我心悄  思君我腸裂
昨夜涕涙流  今朝盡成血

示君錦字詩  寄君鴻文册
忽覺筆端香  ※(「窗/心」、第3水準1-89-54)外梅花白

爲君調綺羅  爲君築金屋
中有鴛鴦圖  長春夢百禄

贈君名香篋  應記韓壽恩
休將秋扇掩  明月照眉痕

贈君双臂環  寶玉價千金
一鐫不乖約  一題勿變心

訪君過臺下  清宵琴響搖
佇門不敢入  恐亂月前調

千里囀金鶯  春風吹緑野
忽發頭屋桃  似君三兩朶

嬌影三分月  芳花一朶梅
潭把花月秀  作君玉膚堆


かなしいかなや流れ行く
水になき名をしるすとて
いまはた殘る歌反古うたほご
ながきうれひをいかにせむ

かなしいかなやする墨の
いろに染めてし花の木の
君がしらべの歌の音に
薄き命のひゞきあり

かなしいかなや前の世は
みそらにかゝる星の身の
人の命のあさぼらけ
光も見せでうせにしよ

かなしいかなや同じ世に
生れいでたる身を持ちて
友の契りも結ばずに
君は早くもゆけるかな

すゞしきまなこつゆを帶び
葡萄のたまとまがふまで
その面影をつたへては
あまりにねたき姿かな

同じ時世ときよに生れきて
同じいのちのあさぼらけ
君からくれなゐの花は散り
われいのちあり八重葎やへむぐら

かなしいかなやうるはしく
さきそめにける花を見よ
いかなればかくとゞまらで
待たで散るらむさける

かなしいかなやうるはしき
なさけもこひの花を見よ
いといと清きそのこひは
消ゆとこそ聞けいと早く

君し花とにあらねども
いな花よりもさらに花
君しこひとにあらねども
いなこひよりもさらにこひ

かなしいかなや人の世に
あまりに惜しきざえなれば
やまひちりかなしみ
にまでそしりねたまるゝ

かなしいかなやはたとせの
ことばの海のみなれ棹
磯にくだくる高潮たかじほ
うれひの花とちりにけり

かなしいかなや人の世の
きづなも捨てて嘶けば
つきせぬ草に秋は來て
聲も悲しき天の馬

かなしいかなやを遠み
流るゝ水の岸にさく
ひとつの花に照らされて
ひるがへり行く一葉舟ひとはぶね
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 秋思


秋は
  秋は來ぬ
一葉ひとはは花は露ありて
風の來てく琴の音に
青き葡萄は紫の
自然の酒とかはりけり

秋は來ぬ
  秋は來ぬ
おくれさきだつ秋草あきぐさ
みな夕霜ゆふじものおきどころ
笑ひの酒を悲みの
盃にこそつぐべけれ

秋は來ぬ
  秋は來ぬ
くさきも紅葉もみぢするものを
たれかは秋に醉はざらむ
智惠あり顏のさみしさに
君笛を吹けわれはうたはむ
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 初戀


まだあげめし前髮まへがみ
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛はなぐし
花ある君と思ひけり

やさしく白き手をのべて
林檎をわれにあたへしは
薄紅うすくれなゐの秋の
人こひめしはじめなり

わがこゝろなきためいきの
その髮の毛にかゝるとき
たのしき戀のさかづき
君がなさけに酌みしかな

林檎畑のした
おのづからなる細道ほそみち
が踏みそめしかたみぞと
問ひたまふこそうれしけれ
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 狐のわざ


庭にかくるゝ小狐の
人なきときによるいでゝ
秋の葡萄の樹の影に
しのびてぬすむつゆのふさ

戀は狐にあらねども
君は葡萄にあらねども
人しれずこそ忍びいで
君をぬすめる吾心
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 髮を洗へば


髮を洗へば紫の
小草をぐさのまへに色みえて
足をあぐれば花鳥はなとり
われに隨ふ風情ふぜいあり

目にながむれば彩雲あやぐも
まきてはひらく繪卷物ゑまきもの
手にとる酒は美酒うまざけ
若きうれひをたゝふめり

耳をたつれば歌神うたがみ
きたりてたまふえを吹き
口をひらけばうたびとの
一ふしわれはこひうたふ

あゝかくまでにあやしくも
熱きこゝろのわれなれど
われをし君のこひしたふ
その涙にはおよばじな
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 君がこゝろは


君がこゝろは蟋蟀こほろぎ
風にさそはれ鳴くごとく
朝影あさかげきよ花草はなぐさ
しき涙をそゝぐらむ

それかきならす玉琴の
一つの糸のさはりさへ
君がこゝろにかぎりなき
しらべとこそはきこゆめれ

あゝなどかくは觸れやすき
君が優しき心もて
かくばかりなる吾こひに
觸れたまはぬぞ恨みなる
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 傘のうち


二人ふたりしてさす一張ひとはり
かさに姿をつゝむとも
なさけの雨のふりしきり
かわくもなきたもとかな

顏と顏とをうちよせて
あゆむとすればなつかしや
梅花ばいくわの油黒髮くろかみ
亂れて匂ふかさのうち

戀の一雨ぬれまさり
ぬれてこひしき夢の
染めてぞ燃ゆる紅絹もみうらの
雨になやめる足まとひ

歌ふをきけば梅川よ
しばしなさけを捨てよかし
いづこも戀にたはふれて
それ忠兵衞の夢がたり

こひしき雨よふらばふれ
秋の入日の照りそひて
かさの涙をさぬ
手に手をとりて行きてかへらじ
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 秋に隱れて


わが手に植ゑし白菊の
おのづからなる時くれば
一もと花の暮陰ゆふぐれ
秋にかくれて窓にさくなり
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 知るや君


こゝろもあらぬ秋鳥あきとり
聲にもれくる一ふしを
        知るや君

深くもめる朝潮あさじほ
底にかくるゝ眞珠しらたま
        知るや君

あやめもしらぬやみの夜に
しづかにうごく星くづを
        知るや君

まだきも見ぬをとめごの
胸にひそめる琴の
        知るや君
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