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藤村詩抄(とうそんししょう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-11 9:02:10  点击:  切换到繁體中文


  一葉舟より
     明治三十年――同三十一年
        (仙臺及び東京にて)
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 鷲の歌


みるめの草は青くして海のうしほににほひ
流れ藻の葉はむすぼれて蜑の小舟にこがるゝも
あしたゆふべのさだめなき大龍神おほたつがみの見る夢の
くらきあらしに驚けば海原うなばらとくもかはりつゝ

とくたちかへれ夏波に友よびかはす濱千鳥
もしほやく火はきえはてて岩にひそめるかもめどり
蜑は苫やに舟は磯いそうちよする波ぎはの
削りて高き巖角いはかどにしばし身をよす二羽の鷲

いかづちの火の岩に落ち波間なみまに落ちて消ゆるまも
寢みだれ髮か黒雲くろくもの風にふかれつそらに飛び
葡萄の酒の濃紫いろこそ似たれ荒波あらなみ
波のみだれて狂ひよるひゞきの高くすさまじや

つばさの骨をそばだててすがたをつゝむ若鷲の
身は覆羽おおひばやさごろもや腋羽ほろばのうちにかくせども
見よ老鷲はそこ白く赤すぢたてる大爪に
岩をつかみて中高きかしら靜かにながめけり

げに白髮しらかみのものゝふのつるぎの霜を拂ふごと
唐藍からあゐの花ますらをのかの青雲あをくもを慕ふごと
黄葉もみぢの影に啼く鹿の谷間たにまの水にあへぐごと
まなこ鋭く老鷲は雲の行くへをのぞむかな

わが若鷲はうちひそみわが老鷲はたちあがり
小河にうつる明星の澄めるに似たるまなこして
黒雲くろくもの行く大空おほぞらのかなたにむかひうめきしが
いづれこゝろのおくれたり高しはげしとさだむべき

わが若鷲は琴柱尾ことぢをや胸にあやなすしぎ
承毛うけげは白く柔和やはらかに谷のおと飛ぶときも
湧きて流るゝ眞清水ましみづの水につばさをうちひたし
このめる蔭は行く春のなごりにさける花躑躅

わが老鷲は肩剛く胸腹むなばら廣く溢れいで
烈しき風をうち凌ぐはねしるくもあらはれて
藤の花かも胸のもゝよろひをおくごとく
とりいのちの戰ひに翼にかゝる老の霜

げにいかめしきものゝふのたてにもいづれ翼をば
張りひろげたる老鷲のふたゝびみたびばたきて
踴れる胸は海潮うみじほの湧きつ流れつ鳴るごとく
力あふれて空高く舞ひたちあがるすがたかな

黒岩茸の岩ばなに生ふにも似るか若鷲の
巖角いはかどふかく身をよせて飛ぶ老鷲をうかゞふに
紋は花菱舞ひ扇ひらめきかへる疾風はやかぜ
わが老鷲を吹くさまは一葉ひとはるに似たりけり

たゝかふためにうまれてははねつるぎの老鷲の
うたむかたむと小休なき熱き胸より吹く氣息いき
色くれなゐの火炎ほのほかもげに悲痛かなしみの湧き上り
つよき翼をひるがへしかの天雲あまぐもを凌ぎけり

ひかりを慕ふ身なれども運命さだめかなしや老鳥おいどり
一こゑ深き苦悶くるしみのおとをみそらに殘しおき
金絲きんしの縫の黒繻子の帶かとぞ見る黒雲くろくも
羽袖のうちにつゝまれて姿はいつか消えにけり

あゝさだめなき大空おほぞらのけしきのとくもかはりゆき
くらきあらしのをさまりて光にかへる海原や
細くかゝれる彩雲あやぐもはゆかりの色の濃紫
薄紫のうつろひに樂しき園となりけらし

命を岩につなぎては細くも絲をかけとめて
腋羽ほろばにつゝむかしらをばうちもたげたる若鷲の
はりにも似たる爪先の雨にぬれたる岩ばなに
かたくつきたる一つはそれも名殘か老鷲の

霜ふりかゝる老鷲の一羽ひとはをくはへ眺むれば
夏の光にてらされて岩根にひゞく高潮たかしほ
碎けて深き海原うなばら岩角いはかどに立つ若鷲は
日影にうつる雲さして行くへもしれず飛ぶやかなたへ
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 白磁花瓶賦


みしやみぎはの白あやめ
はなよりしろき花瓶はながめ
いかなるひとのたくみより
うまれいでしとしるやきみ

かめのすがたのやさしきは
根ざしも清き泉より
にほひいでたるしろたへの
こゝろのはなと君やみむ

さばかり清きたくみぞと
いひたまふこそうれしけれ
うらみわびつるわが友の
うきなみだよりいでこしを

ゆめにたはふれ夢に醉ひ
さむるときなきわが友の
名殘は白き花瓶はながめ
あつきなみだの殘るかな

にごりをいでてさくはなに
にほひありとなあやしみそ
ひかりは高き花瓶はながめ
戀の嫉妬ねたみもあるものを

命運さだめをよそにかげろふの
きゆるためしぞなしといへ
あまりに薄きえにしこそ
友のこのよのいのちなれ

やがてさかえむゆくすゑの
ひかりも待たで夏の夜の
短かき夢は燭火ともしび
花と散りゆきはかなさや

つゆもまだひぬみどりばの
しげきこずゑのしたかげに
ほとゝぎすなく夏のひの
もろ葉がくれの青梅あをうめ

夏の光のかゞやきて
さつきの雨のはれわたり
黄金こがねいろづく梅が
たのしきときやあるべきを

胸の青葉のうらわかみ
朝露あさつゆしげきこずゑより
落ちてくやしき青梅あをうめ
のひとつなる花瓶はながめ

いのちは薄き蝉の羽の
ひとへごろものうらもなく
はじめて友の戀歌こひうた
花影はなかげにきてうたふとき

緑のいろの夏草の
あしたの露にぬるゝごと
深くすゞしきまなこには
戀の雫のうるほひき

影をうつしてさく花の
流るゝ水を慕ふごと
なさけをふくむ口脣に
からくれなゐの色を見き

をとめごゝろを眞珠しらたま
くらとは友の見てしかど
たからの胸をひらくべき
戀のかぎだになかりしか

いとけなきかなひとのよに
智惠ありがほの戀なれど
をとめごゝろのはかなさは
友の得しらぬ外なりき

あひみてのちはとこしへの
わかれとなりし世のなごり
かなしきゆめと思ひしを
われや忘れじ夏の夜半よは

月はいでけり夏の夜の
青葉の蔭にさし添ひて
あふげば胸に忍び入る
ひかりのいろのさやけさや

ゆめにゆめ見るこゝちして
ふたりの膝をうち照らす
月の光にさそはれつ
しづかに友のうたふうた

  たれにかたらむ
  わがこゝろ
  たれにかつげむ
  このおもひ

  わかきいのちの
  あさぼらけ
  こゝろのはるの
  たのしみよ

  などいたましき
  かなしみの
  ゆめとはかはり
  はてつらむ

  こひはにほへる
  むらさきの
  さきてちりぬる
  はななるを

  あゝかひなしや
  そのはなの
  ゆかしかるべき
  かをかげば

  わがくれなゐの
  かほばせに
  とゞめもあへぬ
  なみだかな

  くさふみわくる
  こひつじよ
  なれものずゑに
  まよふみか

  さまよひやすき
  たびびとよ
  なあやまりそ
  ゆくみちを

  たつを刻みし宮柱みやばしら
  ふとき心はありながら
  薄き命のはたとせの
  名殘は白きかめひとつ

  たをらるべきをいのちにて
  はなさくとにはあらねども
  朝露あさつゆおもきひとえだに
  うれひをふくむ花瓶はながめ

  あゝあゝ清き白雪しらゆき
  つもりもあへず消ゆるごと
  なつかしかりし友の身は
  われをのこしてうせにけり

  せめては白き花瓶はながめ
  消えにしあとの野の花の
  色にもいでよわが友の
  いのちの春の雪の名殘を
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 銀河


あま河原かはら
  ながむれば
星のちから
  おとろへて
遠きむかしの
  ゆめのあと
こゝにちとせを
  すぎにけり

そらのいづみ
  よのひとの
汲むにまかせて
  わきいでし
天の河原は
  かれはてて
水はいづこに
  うせつらむ

ひゞきをあげよ
  織姫よ
みどりの空は
  かはらねど
ほしのやどりの
  今ははた
いづこに梭の
  をきかむ

あゝひこぼしも
  織姫も
今はむなしく
  老いちて
夏のゆふべを
  かたるべき
みそらに若き
  星もなし
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 きりぎりす


去年こぞ蔦の葉の
  かげにきて
うたひいでしに
  くらぶれば
ことしも同じ
  しらべもて
かはるふしなき
  きりぎりす

耳なきわれを
  とがめそよ
うれしきものと
  おもひしを
自然しぜんのうたの
  かくまでに
ふるきしらべと
  なりけるか

同じしらべに
  たへかねて
草と草との
  花を分け
聲あるかたに
  たちよりて
蟲のこたへを
  もとめけり

花をへだてて
  きみがため
聞くにまかせて
  うたへども
うたのこゝろの
  かよはねば
せなかあはせの
  きりぎりす
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 春やいづこに


かすみのかげにもえいでし
糸の柳にくらぶれば
いまは小暗き木下闇こしたやみ
  あゝ一時ひととき
      春やいづこに

色をほこりしあさみどり
わかきむかしもありけるを
今はしげれる夏の草
  あゝ一時ひととき
      春やいづこに

梅も櫻もかはりはて
枝はみどりの酒のごと
醉うてくづるゝ夏の夢
  あゝ一時ひととき
      春やいづこに
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  夏草より
     明治三十一年
       (木曾福島にて)
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 子兎のうた


ゆきてとらへよ
   大麥の
はたにかくるゝ
   小兎こうさぎ

われらがつくる
   麥畠むぎはた
青くさかりと
   なるものを

たわにみのりし
   穗のかげを
みだすはたれの
   たはむれぞ

麥まきどりの
   きなくより
丸根まるねに雨の
   かゝるまで

朝露あさつゆしげき
   星影ほしかげ
かたさがりなき
   くはまくら

ゆふづゝ沈む
   山のはの
こだまにひゞく
   はたけうち

われらがつくる
   麥畠むぎはた
青くさかりと
   なるものを

ゆきてとらへよ
   大麥の
畠にかくるゝ
   小兎を
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 晩春の別離


時は暮れ行く春よりぞ
また短きはなかるらむ
うらみは友の別れより
さらに長きはなかるらむ

君を送りて花近き
高樓たかどのまでもきて見れば
緑に迷ふ鶯は
かすみむなしく鳴きかへり
白き光は佐保姫の
春の車駕くるまを照らすかな

これより君は行く雲と
ともに都を立ちいでて
おもへば琵琶のみづうみ
岸の光にまよふとき
膽吹いぶきの山高く
西には比叡比良の峯
日は行き通ふ山々の
深きながめをふしあふぎ
いかにすぐれしおもひをか
沈める波にたゝふらむ

流れは空し法皇の
ゆめはるかなる鴨の水
水にうつろふ山城の
みやびのみやこ行く春の
霞めるすがた見つくして
畿内に迫る伊賀伊勢の
鈴鹿の山の波遠く
海に落つるを望むとき
いかによろづうらみをば
空行く鷲に窮むらむ

春去り行かば青丹よし
奈良の都に尋ね入り
としつき君がこひ慕ふ
御堂みだうのうちに遊ぶとき
古き藝術たくみの花の
伽藍がらんかべに遺りなば
いかににほひを身にしめて
深き思に沈むらむ

さては秋津の島が根の
南のつばさ紀の國を
囘りて進む黒潮くろしほ
鳴門に落ちて行くところ
天際あまぎは遠く白き日の
光を泄らす雲裂けて
目にはるかなる遠海の
波の踴るを望むとき
いかに胸うつおと高く
君が血潮のさわぐらむ

または名に負ふ歌枕
波に千とせの色映る
明石の浦のあさぼらけ
萬代よろづよに響く
舞子の濱のゆふまぐれ
もしそれ海の雲落ちて
淡路の島の影暗く
狹霧のうちに鳴き通ふ
千鳥の聲を聞くときは
いかに浦邊にさすらひて
遠きむかしを忍ぶらむ

げに君がため山々は
雲を停めむ浦々は
磯に流るゝ白波しらなみ
揚げむとすらむよしさらば
旅路たびぢはるかに野邊行かば
野邊のひめごと森行かば
森のひめごとさぐりもて
高きに登り天地あめつち
もなかに遊べ大川おほかは
流れをきはめ山々の
神をも呼ばひ谷々の
鬼をもおこ歌人うたびと
たまをも遠くかへしつゝ
すゞしき聲をうちあげて
ちせぬ琴をかき鳴らせ

あゝ歌神うたがみの吹く氣息いき
絶えてさびしくなりにけり
ひゞき空しき天籟は
いづくにかある

       九つの
藝術たくみの神のかんづまり
かんさびませしとつくにの
阿典あぜん宮殿みやの玉垣も
今はうつろひかはりけり
草の緑はグリイスの
牧場まきばを今も覆ふとも
みやびつくせしいにしへの
笛のしらべはいづくぞや
かのバビロンの水青く
千歳ちとせの色をうつすとも
柳に懸けしいにしへの
琴は空しく流れけり

げにや大雅みやびをこひ慕ふ
君にしあれば君がため
藝術たくみそらに懸る日も
時を導く星影も
いづれ行くへを照らしつゝ
深き光を示すらむ
さらば名殘はつきずとも
袂を別つ夕まぐれ
見よ影深き欄干おばしま
煙をふくむ藤の花
北行く鴈は大空おほそら
霞に沈み鳴き歸り
あやなす雲もうれひつゝ
君を送るに似たりけり

あゝいつかまた相逢うて
もとの契りをあたゝめむ
梅も櫻も散りはてて
すでに柳はふかみどり
人はあかねど行く春を
いつまでこゝにとゞむべき
われに惜むな家づとの
一枝の筆の花の色香を
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 うぐひす


さばれむなしきさへづりは
雀のむれにまかせてよ
うたふをきくや鶯の
すぎこしかたの思ひでを

はじめて谷を出でしとき
朔風きたかぜさむあられふり
うちに望みはあふるれど
行くへは雲にかくれてき

露は緑のはね
霜はつばさの花となる
あしたに野邊の雪を
ゆふべに谷の水を飮む

さむさに爪も凍りはて
絶えなむとするたびごとに
またあらたなる世にいでて
くしきいのちに歸りけり

あゝ枯菊かれぎくに枕して
冬のなげきをしらざれば
が身にとめむ吹く風に
にほひ亂るゝ梅が香を

谷間たにまの笹の葉を分けて
凍れる露を飮まざれば
が身にしめむ白雪の
下に萌え立つ若草を

げに春の日ののどけさは
暗くて過ぎし冬の日を
思ひ忍べる時にこそ
いや樂しくもあるべけれ

梅のこぞめの花笠はながさ
かざしつ醉ひつうたひつゝ
さらば春風吹ききた
にほひの國に飛びて遊ばむ
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