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踊る地平線(おどるちへいせん)08しっぷ・あほうい!

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-27 6:55:04  点击:  切换到繁體中文

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 葡萄牙ポルトガルのリスボンで、僕はリンピイ・リンプと呼ぶびっこ英吉利イギリス人と仲よしになった。
 リンピイは海から来た男で、そしてPIMPだった――あとで解る――それはいいが、ついうっかりしてるうちに僕もき込まれて、その跛足リンピイリンプの助手みたいな仕事をしなければならないことになった。これも詳しくは「後章参照」だが、早く言えば、毎晩僕が夜の埠頭ふとうへ出かけて古いINKの海を眺めてるあいだに、いつからともなくこのリンピイと知り合いになったというだけなのだ。
 ほるつがる――種が島と煙草と社交病を日本へ紹介した国。
 日本――葡萄牙ポルトガル
 東の果てと西のはずれ。
 地理的には遠く、歴史的には近い。
 両国共通の言語でちょっとこんな判じ物みたいな小景スナップが出来るくらいだ。

 彼は Raxaラシャ の「まんと」の「ぼたん」をかけていた。彼女は「石鹸さぼん」で洗ったばかりの「かなきん」の襦袢じゅばん「Jib※(チルド付きA小文字)o」に、「びろうど」Veludo の着物をきていた。「びょうぶ」の前に、ふたりは「さらさ」Caraca の座ぶとんを敷いて、Carta「歌留多かるた」をしながら飲んだり食べたりしていた。が、彼はあんまり「ふらすこ」のお酒を「こっぷ」で呑んだし、彼女が Pao「ぱん」と「こんぺいとう」を Tanto「たんと」食べ過ぎるので、お互いにいやになって離婚した。
FINIS
 といったように、これだって君、あの、この頃産業的に需用の多い「朝飯あさめしの食卓で焼麺麭トウスト・卵子・珈琲コーヒーと一しょに消化してあとへ残らない程度の退屈で幸福な近代結婚生活の小説」の作例には、ちゃんとなってるじゃないか。BAH!
 で、とにかくリンピイの Who's Who へかかる。
 彼の商売は三つから成り立っていた。
 第一にリンピイは、マルガリイダという五十近い妻と一しょに、市の山の手バイロ・アルトに独特の考案になる魔窟まくつをひらいていた。マルガリイダは、CINTRAの古城のように骨張った、そして、不平でたまらない七面鳥みたいに絶えず何事か呪いわめいてる存在で、リンピイの人生全体に騒々しく君臨していたと言っていい。そのうえ彼女は恐ろしくけちだったし、自分の思いつき一つでハウス流行はやったので、しぜん稼業のことはすっかり一人で支配していて、リンピイは more or less そこの居候いそうろうみたいに、波止場カイスの客引きだけを専門にしていた。それも、実際マルガリイダ婆さんに言わせると、リンピイなんか居てもいなくてもいいんだけれど、商売の性質上、男のにらみの必要な場合もあったし、それに、リンピイは跛足のくせに素晴しく喧嘩が上手ハンディ・アト・フィストだったから、お婆さんも重宝がって、格別追い出そうともせずにただあごだけ預けとくがいいよと言った程度に置いてやっていたのだ。この「マルガリイダの家」の呼び物は、テレサという白熊のような仏蘭西フランス女の一夜の身体からだを懸賞に博奕ばくちをさせるのだった。だから、いつ行っても寄港中の船員がわいわいしてて、マルガリイダ婆さんの靴下は紙幣束さつたばでふくれてた。が、このリンピイとマルガリイダは、お互いにどまでも経済的独立を厳守する夫婦関係――何と近代的な!――だった。と言うより、つまりそれは、彼女が彼に充分な儲けをけてらなかったからだが、そこで当然リンピイは、妻の一使用人として以外に自分だけの内職を持っていた。ここに企業家リンピイ・リンプの非凡な着眼が窺われる。すなわち、第二に彼は、一種の「船上出張商人ヴェンデドゥル・デ・アポルド」――英語でう―― ship-chandler「しっぷ・ちゃん」――を開業していたのだ。
 夜のりすぼん波止場で、僕は一つの不思議を見た――。
 AYE! 闇黒あんこくがLISBOAの海岸通りを包むとき!
 各国船員の行列パレイドあるこほるが参加し、林立するマストに汽笛がころがり、眠ってる大倉庫のあいだに男女一組ずつの影がうろうろし、どこからともなく出現するこの深夜の雑沓・桟橋の話声・水たまりの星・悪臭・嬌笑・SHIP・AHOY!
 この腐ったインクの海は、何かしら異常な事件を呑んでるに相違ない。波止場の夜気は、僕の秘有チェリッシュする荒唐無稽趣味ワイルド・イマジネイションをいつも極度にまで刺激するに充分だ。それが僕の全 being を魅了してすぐに僕を「夜の岸壁」の自発的捕虜にしてしまった。もちろんそこには、何とかして変った話材に come across したいという探訪意識が多分に動いていたことも事実だが、とにかくリスボンでは、今日のつぎに明日が来るのと同じ確実さと連続性において、毎夜の波止場カイスが浮浪人としての僕をその附近に発見していた。一晩として僕は夜の波止場を失望させることはなかった。
 が、これには単なる探険心以上に、僕を駆り立てる理由があったのだ。
 それは、こうして毎晩「夜の波止場」に張り込んでた僕へ、僕の熱心な好奇癖を燃焼させるに足る一現象が run in したからだ。
 Eh? What?
 きまって真夜中だった。暗いなかに人影がざわざわして、その黒い一団がしずかに桟橋を下りていく。桟橋の端には、物語めいた一そうの短舟ボウテが、テイジョ河口の三角浪にくすぐられて忍び笑いしていた。訓練ある沈黙と速度のうちに一同がそれに乗り移ると、そのままボウテは漕ぎ出して、碇泊ていはく中の船影のあいだを縫って間もなく沖へ消える。そして暫らく帰ってこない。が帰って来るとその一団の人かげが、同じ沈黙と速度をもって小舟ボウテから桟橋へ上り、僕の立ってる前を順々に通り過ぎて、今度は町へ消えてしまう。夜なかに海を訪問する一隊! ははあ! 奇談のいとぐちには持って来いだ。しかも、believe me, それがみんな女で、引率してるのはびっこの小男だった。
 これが毎晩である。桟橋と沖を往復する謎の女群。熟練を示すその沈黙と速度。At last, 大MYSTERYは僕のまえに投げられた。何のための毎夜のとりっぷ? 女漁師? Absurd, 密輸団? Maybe.それにしても、何と祝福すべき小説――作者ライダア・ハガアド卿――的効果とシチュエイション!
 サスペンスもある。「はてなバッフル!」もある。大通りポロット小みちカウンタ・プロットも充分ある。こいつにちょいと「予期しない捻りアンエクスペクテド・タアン」さえ与えれば、ジョウンス博士主宰通信教授文士養成協会――名誉と財産への急飛躍! はじめて万人に開かれた成功の大秘門! 変名で有名になって親類知己をあっと言わせ給え!――の「必ず売れる小説を作る法」の講義録にぴったり当てはまって、どうだ君、そろそろ面白くなって来たろう。NO?
 まだまだこのあとが大変なんだ。
 YES。港だから、そら、毎日船がはいるだろう。船乗りってやつは、女を要求して――たとえばマルガリイダの家のテレサなんかを目的めあてに――やたらに上陸をいそぐものだ。が、上陸させちまっちゃあ話にならない。いたずらに老七面鳥マルガリイダをほくほくさせるばかりで、何らわが新事業家リンピイの利得にはならないから、そこで彼らの上陸の前夜か、もしくは過半上陸しても不幸な当番だけ居残ってるところへ、暗いいんくの海を桟橋から一そう小舟ボウテがこいで来て横づけになる。女肉を満載したボウテ! すると、訓練ある沈黙と速度をもって、五、六人の女隊が、アマゾン流域特産のぽけっと猿みたいにするする船腹サイド縄梯子ジャコップを這い上って甲板へ現れる。これが真夜中の船の女客――船上商人シップ・チャンリンピイがひそかに駆り集めて来た「商品」だ。が、これも、昼間の市民としては、女中や場末の売子をしてる女達――相当若いの・かなり若いの・ほんとに若いの・少女めいたの・肥ったの・せたの・丸顔の・面長おもながなの・金毛の・黒髪の――。
 それらが次ぎつぎに船の手すりをまたぎながら、細い、太い、円い、めいめい色のかわった声を発する。
今晩はボア・ノイテ
今晩はボア・ノイテ
今晩はボア・ノイテ

 と思うとすでに、長い海によごれ切った水夫と火夫のむれが、この呼吸する商品のまわりにぐるり素早く輪を作ってる。にやにやと殺気立つ選択眼。その、天候と粉炭と余剰精力とで黒い層の出来てる彼らの首根っこへ、女たちの白い腕がいきなり非常な自信をもって巻きついていく。最初に視線を交換した船員と売春婦――これほど直截ちょくさいな相互理解はまたとあるまい。港の挨拶はこれだけでたくさんだ。何という簡潔な「恋の過程プロセス」! 何て出鱈目でたらめな壮観! そこここの救命艇のかげ、船艙ハッチの横が彼らにとって船上の即席らんで※(濁点付き平仮名う、1-4-84)うだ。そして、星くず・インクの海・町の・夜風。五、六人の女と、時として五、六十人もの海の野獣と――こうして、それらの全場面に背中を向けて忍耐ぶかく待ってるあいだに、毎晩リンピイは一たい何本の煙草をじゅっと水へ投げ込むことか?――GOD・KNOWS。

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