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花のき村と盗人たち(はなのきむらとぬすびとたち)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-10-23 6:50:05  点击:  切换到繁體中文

     一

 むかし、はなのきむらに、五人組にんぐみ盗人ぬすびとがやってました。
 それは、若竹わかたけが、あちこちのそらに、かぼそく、ういういしい緑色みどりいろをのばしている初夏しょかのひるで、松林まつばやしでは松蝉まつぜみが、ジイジイジイイといていました。
 盗人ぬすびとたちは、きたからかわ沿ってやってました。はなのきむらぐちのあたりは、すかんぽやうまごやしのえたみどり野原のはらで、子供こどもうしあそんでおりました。これだけをても、このむら平和へいわむらであることが、盗人ぬすびとたちにはわかりました。そして、こんなむらには、おかねやいい着物きものったいえがあるにちがいないと、もうよろこんだのでありました。
 かわやぶしたながれ、そこにかかっている一つの水車すいしゃをゴトンゴトンとまわして、むら奥深おくふかくはいっていきました。
 やぶのところまでると、盗人ぬすびとのうちのかしらが、いいました。
「それでは、わしはこのやぶのかげでっているから、おまえらは、むらのなかへはいっていって様子ようすい。なにぶん、おまえらは盗人ぬすびとになったばかりだから、へまをしないようにをつけるんだぞ。かねのありそうないえたら、そこのいえのどのまどがやぶれそうか、そこのいえいぬがいるかどうか、よっくしらべるのだぞ。いいか釜右ヱ門かまえもん。」
「へえ。」
釜右ヱ門かまえもんこたえました。これは昨日きのうまでたびあるきの釜師かましで、かま茶釜ちゃがまをつくっていたのでありました。
「いいか、海老之丞えびのじょう。」
「へえ。」
海老之丞えびのじょうこたえました。これは昨日きのうまで錠前屋じょうまえやで、家々いえいえくら長持ながもちなどのじょうをつくっていたのでありました。
「いいか角兵ヱかくべえ。」
「へえ。」
とまだ少年しょうねん角兵ヱかくべえこたえました。これは越後えちごから角兵ヱ獅子かくべえじしで、昨日きのうまでは、家々いえいえしきいそとで、逆立さかだちしたり、とんぼがえりをうったりして、一もんもんぜにもらっていたのでありました。
「いいか鉋太郎かんなたろう。」
「へえ。」
鉋太郎かんなたろうこたえました。これは、江戸えどから大工だいく息子むすこで、昨日きのうまでは諸国しょこくのおてら神社じんじゃもんなどのつくりをまわり、大工だいく修業しゅぎょう[#「修業しゅぎょうを」は底本では「修業しゅぎょう」]していたのでありました。
「さあ、みんな、いけ。わしは親方おやかただから、ここで一服いっぷくすいながらまっている。」
 そこで盗人ぬすびと弟子でしたちが、釜右ヱ門かまえもん釜師かましのふりをし、海老之丞えびのじょう錠前屋じょうまえやのふりをし、角兵ヱかくべえ獅子ししまいのようにふえをヒャラヒャラらし、鉋太郎かんなたろう大工だいくのふりをして、はなのきむらにはいりこんでいきました。
 かしらは弟子でしどもがいってしまうと、どっかとかわばたのくさうえこしをおろし、弟子でしどもにはなしたとおり、たばこをスッパ、スッパとすいながら、盗人ぬすびとのようなかおつきをしていました。これは、ずっとまえからつけや盗人ぬすびとをしてたほんとうの盗人ぬすびとでありました。
「わしも昨日きのうまでは、ひとりぼっちの盗人ぬすびとであったが、今日きょうは、はじめて盗人ぬすびと親方おやかたというものになってしまった。だが、親方おやかたになってると、これはなかなかいいもんだわい。仕事しごと弟子でしどもがしててくれるから、こうしてころんでっておればいいわけである。」
とかしらは、することがないので、そんなつまらないひとりごとをいってみたりしていました。
 やがて弟子でし釜右ヱ門かまえもんもどってました。
「おかしら、おかしら。」
 かしらは、ぴょこんとあざみのはなのそばからからだこしました。
「えいくそッ、びっくりした。おかしらなどとぶんじゃねえ、さかなあたまのようにこえるじゃねえか。ただかしらといえ。」
 盗人ぬすびとになりたての弟子でしは、
「まことにあいすみません。」
とあやまりました。
「どうだ、むらなか様子ようすは。」
とかしらがききました。
「へえ、すばらしいですよ、かしら。ありました、ありました。」
なにが。」
おおきいいえがありましてね、そこの飯炊めしたがまは、まず三ぐらいはける大釜おおがまでした。あれはえらいぜにになります。それから、おてらってあったかねも、なかなかおおきなもので、あれをつぶせば、まず茶釜ちゃがまが五十はできます。なあに、あっしのくるいはありません。うそだとおもうなら、あっしがつくってせましょう。」
馬鹿馬鹿ばかばかしいことに威張いばるのはやめろ。」
とかしらは弟子でししかりつけました。
「きさまは、まだ釜師根性かましこんじょうがぬけんからだめだ。そんな飯炊めしたがまがねなどばかりてくるやつがあるか。それになんだ、そのっている、あなのあいたなべは。」
「へえ、これは、その、いえまえとおりますと、まきがきにこれがかけてしてありました。るとこの、しりあながあいていたのです。それをたら、じぶんが盗人ぬすびとであることをついわすれてしまって、このなべ、二十もんでなおしましょう、とそこのおかみさんにいってしまったのです。」
なんというまぬけだ。じぶんのしょうばいは盗人ぬすびとだということをしっかりはらにいれておらんから、そんなことだ。」
と、かしらはかしららしく、弟子でしおしえました。そして、
「もういっぺん、むらにもぐりこんで、しっかりなおしてい。」
めいじました。釜右ヱ門かまえもんは、あなのあいたなべをぶらんぶらんとふりながら、またむらにはいっていきました。
 こんどは海老之丞えびのじょうがもどってました。
「かしら、ここのむらはこりゃだめですね。」
海老之丞えびのじょうちからなくいいました。
「どうして。」
「どのくらにも、じょうらしいじょうは、ついておりません。子供こどもでもねじきれそうなじょうが、ついておるだけです。あれじゃ、こっちのしょうばいにゃなりません。」
「こっちのしょうばいというのはなんだ。」
「へえ、……錠前じょうまえ……。」
「きさまもまだ根性こんじょうがかわっておらんッ。」
とかしらはどなりつけました。
「へえ、あいすみません。」
「そういうむらこそ、こっちのしょうばいになるじゃないかッ。くらがあって、子供こどもでもねじきれそうなじょうしかついておらんというほど、こっちのしょうばいに都合つごうのよいことがあるか。まぬけめが。もういっぺん、なおしてい。」
「なるほどね。こういうむらこそしょうばいになるのですね。」
海老之丞えびのじょうは、感心かんしんしながら、またむらにはいっていきました。
 つぎにかえってたのは、少年しょうねん角兵ヱかくべえでありました。角兵ヱかくべえは、ふえきながらたので、まだやぶこうで姿すがたえないうちから、わかりました。
「いつまで、ヒャラヒャラとらしておるのか。盗人ぬすびとはなるべくおとをたてぬようにしておるものだ。」
とかしらはしかりました。角兵ヱかくべえくのをやめました。
「それで、きさまはなにたのか。」
かわについてどんどんきましたら、花菖蒲はなしょうぶにわいちめんにかせたちいさいいえがありました。」
「うん、それから?」
「そのいえ軒下のきしたに、あたま眉毛まゆげもあごひげもまっしろなじいさんがいました。」
「うん、そのじいさんが、小判こばんのはいったつぼでもえんしたかくしていそうな様子ようすだったか。」
「そのおじいさんが竹笛たけぶえいておりました。ちょっとした、つまらない竹笛たけぶえだが、とてもええがしておりました。あんな、不思議ふしぎうつくしいははじめてききました。おれがききとれていたら、じいさんはにこにこしながら、三つながきょくをきかしてくれました。おれは、おれいに、とんぼがえりを七へん、つづけざまにやってせました。」
「やれやれだ。それから?」
「おれが、そのふえはいいふえだといったら、笛竹ふえたけえている竹藪たけやぶおしえてくれました。そこのたけつくったふえだそうです。それで、おじいさんのおしえてくれた竹藪たけやぶへいってました。ほんとうにええ笛竹ふえたけが、なん百すじも、すいすいとえておりました。」
むかしたけなかから、きんひかりがさしたというはなしがあるが、どうだ、小判こばんでもちていたか。」
「それから、またかわをどんどんくだっていくとちいさい尼寺あまでらがありました。そこではなとうがありました。おにわにいっぱいひとがいて、おれのふえくらいのおおきさのお釈迦しゃかさまに、あまちゃをかけておりました。おれもいっぱいかけて、それからいっぱいましてもらってました。ちゃわんがあるならかしらにもっててあげましたのに。」
「やれやれ、なんというつみのねえ盗人ぬすびとだ。そういうひとごみのなかでは、ひとのふところやたもとをつけるものだ。とんまめが、もういっぺんきさまもやりなおしてい。そのふえはここへいていけ。」
 角兵ヱかくべえしかられて、ふえくさなかへおき、またむらにはいっていきました。
 おしまいにかえってたのは鉋太郎かんなたろうでした。
「きさまも、ろくなものはなかったろう。」
と、きかないさきから、かしらがいいました。
「いや、金持かねもちがありました、金持かねもちが。」
鉋太郎かんなたろうこえをはずませていいました。金持かねもちときいて、かしらはにこにことしました。
「おお、金持かねもちか。」
金持かねもちです、金持かねもちです。すばらしいりっぱないえでした。」
「うむ。」
「その座敷ざしき天井てんじょうたら、さつますぎ一枚板いちまいいたなんで、こんなのをたら、うちの親父おやじはどんなによろこぶかもれない、とおもって、あっしはとれていました。」
「へっ、面白おもしろくもねえ。それで、その天井てんじょうをはずしてでもかい。」
 鉋太郎かんなたろうは、じぶんが盗人ぬすびと弟子でしであったことをおもしました。盗人ぬすびと弟子でしとしては、あまりかなかったことがわかり、鉋太郎かんなたろうはバツのわるいかおをしてうつむいてしまいました。
 そこで鉋太郎かんなたろうも、もういちどやりなおしにむらにはいっていきました。
「やれやれだ。」
と、ひとりになったかしらは、くさなか仰向あおむけにひっくりかえっていいました。
盗人ぬすびとのかしらというのもあんがいらくなしょうばいではないて。」

       二

 とつぜん、
「ぬすとだッ。」
「ぬすとだッ。」
「そら、やっちまえッ。」
という、おおぜいの子供こどもこえがしました。子供こどもこえでも、こういうことをいては、盗人ぬすびととしてびっくりしないわけにはいかないので、かしらはひょこんとびあがりました。そして、かわにとびこんでこうぎしげようか、やぶなかにもぐりこんで、姿すがたをくらまそうか、と、とっさのあいだにかんがえたのであります。
 しかし子供達こどもたちは、縄切なわきれや、おもちゃの十手じってをふりまわしながら、あちらへはしっていきました。子供達こどもたち盗人ぬすびとごっこをしていたのでした。
「なんだ、子供達こどもたちあそびごとか。」
とかしらはいがぬけていいました。
あそびごとにしても、盗人ぬすびとごっことはよくないあそびだ。いまどきの子供こどもはろくなことをしなくなった。あれじゃ、さきがおもいやられる。」
 じぶんが盗人ぬすびとのくせに、かしらはそんなひとりごとをいいながら、またくさなかにねころがろうとしたのでありました。そのときうしろから、
「おじさん。」
こえをかけられました。ふりかえってると、七さいくらいの、かわいらしいおとこうしをつれてっていました。かおだちのひんのいいところや、手足てあししろいところをると、百姓ひゃくしょう子供こどもとはおもわれません。旦那衆だんなしゅうっちゃんが、下男げなんについてあそびにて、下男げなんにせがんで仔牛こうしたせてもらったのかもれません。だがおかしいのは、とおくへでもいくひとのように、しろちいさいあしに、ちいさい草鞋わらじをはいていることでした。
「このうしっていてね。」
 かしらがなにもいわないさきに、子供こどもはそういって、ついとそばにて、あか手綱たづなをかしらのにあずけました。
 かしらはそこで、なにかいおうとしてくちをもぐもぐやりましたが、まだいいさないうちに子供こどもは、あちらの子供こどもたちのあとをってはしっていってしまいました。あの子供こどもたちの仲間なかまになるために、この草鞋わらじをはいた子供こどもはあとをもずにいってしまいました。
 ぼけんとしているあいだにうしたされてしまったかしらは、くッくッとわらいながらうしました。
 たいていうしというものは、そこらをぴょんぴょんはねまわって、っているのがやっかいなものですが、このうしはまたたいそうおとなしく、ぬれたうるんだおおきなをしばたたきながら、かしらのそばに無心むしんっているのでした。
「くッくッくッ。」
とかしらは、わらいがはらなかからこみあげてくるのが、とまりませんでした。
「これで弟子でしたちに自慢じまんができるて。きさまたちが馬鹿ばかづらさげて、むらなかをあるいているあいだに、わしはもううしをいっぴきぬすんだ、といって。」
 そしてまた、くッくッくッとわらいました。あんまりわらったので、こんどはなみだました。
「ああ、おかしい。あんまりわらったんでなみだやがった。」
 ところが、そのなみだが、ながれてながれてとまらないのでありました。
「いや、はや、これはどうしたことだい、わしがなみだながすなんて、これじゃ、まるでいてるのとおなじじゃないか。」

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