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運命論者(うんめいろんしゃ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-11-26 8:51:03  点击:  切换到繁體中文


「それならず手近な酒のことから話しましょう。貴様は定めし不思議なことと思って居るでしょうが、実は世間に有りふれたことで、苦悩くるしみを忘れたさの魔酔剤に用いてるのです。砂の中に隠して置くのは隠くして飲まなければならない宅の事情があるからなので、その上、この場所は如何いかにも静で快濶かいかつで、如何いかな毒々しい運命の魔も身を隠して人をうかがう暗いかげのないのが僕の気に入ったからです。此処ここへ身を横たえて酒精アルコールの力に身をたくし高い大空を仰いで居る間は、僕の心が幾何いくらか自由を得る時です。そのうちには此激烈な酒精アルコールなきだに弱りはてた僕の心臓を次第に破って、ついには首尾よく僕も自滅するだろうと思って居ます。」
「そんなら貴様あなたは、自殺を願うて居るのですか。」と自分は驚いて問うた。
「自殺じゃアない、自滅です。運命は僕の自殺すら許さないのです。貴様、運命の鬼が最もたくみに使う道具の一は『まどい』ですよ。『惑』はかなしみくるしみに変ます。苦悩くるしみを更に自乗させます。自殺は決心です。始終まどいのために苦んで居る者に、如何どうして此決心が起りましょう。だから『惑』という鈍い、重々しい苦悩くるしみから脱れるには矢張やはり、自滅という遅鈍ちどんな方法しか策がないのです。」
沁々しみじみ言う彼の顔にはあきらかに絶望の影が動いてた。
如何どういう理由わけがあるのか知りませんが、僕は他人の自殺を知ってこれを傍観する訳には行きません。自滅というも自殺に違いないのですから。」と自分が言うや、
「けれども自殺は人々の自由でしょう。」と彼は笑味えみを含んで言った。
「そうかも知れません。しかし之を止め得るならば、止めるのが又人々の自由なり義務です。」
う御座います。僕も決して自滅したくは有りません貴様あなたが僕の物話はなし悉皆すっかりきいて、そのうえで僕を救うの策を立てて下さるのなら僕はこのうえもない幸福です。」
 う聞いては自分も黙って居られない、
よろしい! 何卒どう悉皆すっかり聴かしてもらいましょう。今度は僕の方からお願します。」

      三

「僕は高橋信造たかはししんぞうという姓名ですが、高橋の姓は養家のをおかしたので、僕の元の姓[#「姓」は底本では「性」]大塚おおつかというです。
 大塚信造と言った時のことから話しますが、父は大塚剛蔵ごうぞうと言って御存知でも御座ございますか、東京控訴院の判事としては一寸ちょっと世間でも名の知れた男で、剛蔵の名の示すごとく、剛直一端いっぺんの人物。随分僕を教育する上には苦心したようでした。けれども如何どういうものか僕は小児こどもの時分から学問がきらいで、たゞ物陰ものかげ一人ひとり引込んで、何をかんがえるともなく茫然ぼんやりして居ることが何よりすきでした。十二歳の時分と覚えて居ます、ころは春のすえということは庭の桜がほとんど散り尽して、色褪いろあせた花弁はなびらこずえに残ってたのが、若葉のひまからホロ/\と一片ひとひら三片みひら落つるさまを今も判然はっきりおもいだすことが出来るので知れます。僕は土蔵くらの石段に腰かけていつもごと茫然ぼんやりと庭のおもてながめて居ますと、夕日が斜に庭のこんで、さなきだに静かな庭が、一増ひとしお粛然ひっそりして、凝然じっとして、ながめて居ると少年心こどもごころにもかなしいようなたのしいような、所謂いわゆ春愁しゅんしゅうでしょう、そんな心持こころもちになりました。
 人の心の不思議を知って居るものは、童児こどもの胸にも春のしずかゆうべを感ずることの、実際有り得ることをいなまぬだろうと思います。
 かくも僕はそういう少年でした。父の剛蔵[#「剛蔵」は底本では「剛造」]はこのことを大変苦にして、僕のことを坊頭臭ぼうずくさい子だと数々しばしば小言こごとを言い、僧侶ぼうずなら寺へやっしまうなど怒鳴ったこともあります。それに引かえ僕のおとと秀輔ひですけは腕白小僧で、僕より二ツ年齢としが下でしたが骨格も父にたくましく、気象もまるで僕とはちがって居たのです。
 父が僕をしかる時、母とおとととは何時いつも笑ってはたで見て居たものです。母というはおとよといい、言葉の少ない、柔和らしく見えて確固しっかりした気象の女でしたが、僕をしかったこともなく、さりとて甘やかす程に可愛かわいがりもせず、言わば寄らず触らずにして居たようです。
 それで僕の気象が性来今言ったようなのであるか、あるいはそうでなく、僕は小児こどもの時、早く不自然な境におかれて、我知らずの孤独な生活を送ったゆえかも知れないのです。
 成程父は僕のことを苦にしました。けれどもその心配はたゞ普通の親が其子の上をうれうるのとはちがって居たのです、それで父が『折角男に生れたのなら男らしくなれ、女のような男は育て甲斐がいがない』と愚痴めいた小言を言う、其言葉の中にも僕の怪しい運命の穂先が見えて居たのですが、少年こどもの僕にはだ気が着きませんでした。
 言うことを忘れて居ましたが、其頃は父が岡山地方裁判所長の役で、大塚の一家いっけは岡山の市中に住んでたので、一家が東京に移ったのは未だ余程後のことです。
 或日あるひのことでした、僕が平時いつものように庭へ出て松の根に腰をかけ茫然ぼんやりして居ると、何時いつの間にか父がそばに来て、
『お前は何を考がえて居るのだ。もって生れた気象なら致方しかたもないが、乃父おれはお前のような気象は大嫌だいきらいだ、最少もすこ確固しっかりしろ。』と真面目まじめの顔で言いますから、僕は顔も上げ得ないで黙って居ました。すると父は僕の傍に腰を下して、
『オイ信造』と言って急に声をひそめ『お前はだれかに何かききなかったか。』
 僕には何のことか全然すっかりわからないから、驚いて父の顔を仰ぎましたが、不思議にも我知らず涙含なみだぐみました。それを見て父の顔色はにわかに変り、益々ますます声をひそめて、
かくすには及ばんぞ、きいたら聞いたと言うがえ。そんなら乃父おれには考案かんがえがあるから。サア慝くさずに言うが可え。何か聞いたろう?』
 このときの父の様子は余程狼狽ろうばいして居るようでした。それで声さえ平時いつもと変り、僕は可怕こわくなりましたから、しく/\泣き出すと、父は益々ますます狼狽うろたえ、
『サア言え! 聞いたらきいたと言え! かくすかお前は』と僕の顔をにらみつけましたから、僕も益々可怕こわくなり、
『御免なさい、御免なさい』とたゞ謝罪あやまりました。
『謝罪れと言うんじゃない。し何かお前が妙なことをきいて、それで茫然ぼんやり考がえて居るじゃないかと思うから、それでくのだ。なんにも聞かんのならそれえ。サア正直に言え!』と今度は真実ほんとに怒って言いますから、僕はなんのことかわからず、たゞ非常な悪いことでもたのかと、おろ/\声で、
『御免なさい、御免なさい。』
『馬鹿! 大馬鹿者! たれが謝罪れと言った。十二にもなって男の癖にぐ泣く。』
 怒鳴られたので僕は喫驚びっくりして泣きながら父の顔を見てると、父もしばらくは黙ってじっと僕の顔を見て居ましたが、急に涙含なみだぐんで、
なかんでもえ、最早もう乃父おれも問わんから、サア奥へ帰るがえ、』とやさしく言ったその言葉は少ないが、慈愛にみちて居たのです。
 其後でした、父が僕のことを余り言わなくなったのは。けれども又其後でした僕の心の底に一片の雲影の沈んだのは。運命の怪しき鬼が其つめを僕の心に打込んだのは実にこのときです。

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