您现在的位置: 贯通日本 >> 作家 >> 芥川 竜之介 >> 正文
岩野泡鳴氏(いわのほうめいし)

底本: 芥川龍之介全集 第九巻
出版社: 岩波書店
初版発行日: 1996(平成8)年7月8日発行
入力に使用: 1996(平成8)年7月8日発行

 

何でも秋の夜更けだつた。
 僕は岩野泡鳴氏と一しよに、巣鴨行すがもゆきの電車に乗つてゐた。泡鳴氏は昂然かうぜんと洋傘の柄にマントのひぢをかけて、例の如く声高に西洋草花の栽培法だの氏が自得の健胃法だのをいろいろ僕に話してくれた。
 その内にどう云ふ拍子だつたか、話題が当時評判だつた或小説の売れ行きに落ちた。すると泡鳴氏は傍若無人に、
「しかし君、新進作家とか何とか云つたつて、そんなに本は売れやしないだらう。僕の本は大抵――部売れるが、君なんぞは一体何部位売れる?」と云つた。
 僕はいささか恐縮しながら、止むを得ず「傀儡師くわいらいし」の売れ高を答へた。
「皆そんなものかね?」
 泡鳴氏は更に追求した。
 僕よりも著書の売れ高の多い新進作家は大勢ある。――僕は二三の小説を挙げて、僕の仄聞そくぶんする売れ高を答へた。それらは不幸にも氏の著書より、多数は売行きが好いに違ひなかつた。
「さうかね。存外好く売れるな。」
 泡鳴氏は一瞬間、不審さうに顔を曇らせた。が、それは文字通り、一瞬間に過ぎなかつた。僕がまだ何とも答へない内に、氏の眼にはたちまち前のやうな溌剌たる光がかへつて来た。と同時に泡鳴氏はあたかも天下を憐れむが如く、悠然とかう云ひ放つた。
「尤も僕の小説はむづかしいからな。」
 詩人、小説家、戯曲家、評論家、――それらの資格は余人がきめるが好い。少くとも僕の眼に映じた我岩野泡鳴氏は、ほとんど荘厳な気がする位、愛すべき楽天主義者だつた。





底本:「芥川龍之介全集 第九巻」岩波書店
   1996(平成8)年7月8日発行
入力:もりみつじゅんじ
校正:松永正敏
2002年5月17日作成
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について
  • このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
[1] [2] [下一页]

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作家:

  • 下一篇作家:
  • 发表评论】【加入收藏】【告诉好友】【打印此文】【关闭窗口

    相关文章

    私の好きなロマンス中の女性(わたしのすきなロマンスちゅうのじょせい)
    露訳短篇集の序(ろやくたんぺんしゅうのじょ)
    LOS CAPRICHOS(ロス カプリチョス)
    路上(ろじょう)
    六の宮の姫君(ろくのみやのひめぎみ)
    老年(ろうねん)
    恋愛と夫婦愛とを混同しては不可ぬ(れんあいとめおとあいとをこんどうしてはならぬ)
    るしへる(るしへる)
    竜(りゅう)
    羅生門の後に(らしょうもんのあとに)
    羅生門(らしょうもん)
    世之助の話(よのすけのはなし)
    横須賀小景(よこすかしょうけい)
    妖婆(ようば)
    百合(ゆり)
    夢(ゆめ)
    誘惑(ゆうわく)
    悠々荘(ゆうゆうそう)
    槍が岳に登った記(やりがたけにのぼったき)
    槍ヶ岳紀行(やりがたけきこう)
    山鴫(やましぎ)
    藪の中(やぶのなか)
    保吉の手帳から(やすきちのてちょうから)
    文部省の仮名遣改定案について(もんぶしょうのかなづかいかいていあんについて)
    桃太郎(ももたろう)