您现在的位置: 贯通日本 >> 作家 >> 芥川 竜之介 >> 正文

二人小町(ふたりこまち)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-17 14:49:56  点击:  切换到繁體中文


 使 (小町を抱(だ)きながら)ほんとうですか?
 小町 (半ば眼を閉じたまま)ほんとうならば? 
 使 こうするのです。(接吻(せっぷん)しようとする)
 小町 (突きのける)いけません。
 使 では、……では嘘なのですか?
 小町 いいえ、嘘ではありません。ただあなたが本気かどうか、それさえわかれば好(よ)いのです。
 使 では何でも云いつけて下さい。あなたの欲しいものは何ですか? 火鼠(ひねずみ)の裘(かわごろも)ですか、蓬莱(ほうらい)の玉の枝ですか、それとも燕(つばめ)の子安貝(こやすがい)ですか?
 小町 まあ、お待ちなさい。わたしのお願はこれだけです。――どうかわたしを生かして下さい。その代りに小野の小町を、――あの憎(にく)らしい小野の小町を、わたしの代りにつれて行って下さい。
 使 そんなことだけで好(よ)いのですか? よろしい。あなたの云う通りにします。
 小町 きっとですね? まあ、嬉しい。きっとならば、……(使を引き寄せる)
 使 ああ、わたしこそ死んでしまいそうです。

        三

 大勢(おおぜい)の神将(しんしょう)、あるいは戟(ほこ)を執(と)り、あるいは剣(けん)を提(ひっさ)げ、小野(おの)の小町(こまち)の屋根を護(まも)っている。そこへ黄泉(よみ)の使、蹌踉(そうろう)と空へ現れる。
 神将 誰だ、貴様は?
 使 わたしは黄泉の使です。どうかそこを通して下さい。
 神将 通すことはならぬ。
 使 わたしは小町をつれに来たのです。
 神将 小町を渡すことはなおさらならぬ。
 使 なおさらならぬ? あなたがたは一体何ものです?
 神将 我々は天(あめ)が下(した)の陰陽師(おんみょうじ)、安倍(あべ)の晴明(せいめい)の加持(かじ)により、小町を守護する三十番神(さんじゅうばんじん)じゃ。
 使 三十番神! あなたがたはあの嘘つきを、――あの男たらしを守護するのですか?
 神将 黙れ! か弱い女をいじめるばかりか、悪名(あくみょう)を着せるとは怪(け)しからぬやつじゃ。
 使 何が悪名です? 小町はほんとうに、嘘つきの男たらしではありませんか?
 神将 まだ云うな。よしよし、云うならば云って見ろ。その耳を二つとも削(そ)いでしまうぞ。
 使 しかし小町は現にわたしを……
 神将 (憤然(ふんぜん)と)この戟(ほこ)を食(く)らって往生(おうじょう)しろ! (使に飛びかかる)
 使 助けてくれえ! (消え失せる)

        四

 数十年後(ご)、老いたる女乞食(こじき)二人、枯芒(かれすすき)の原に話している。一人は小野の小町、他の一人は玉造(たまつくり)の小町。
 小野の小町 苦しい日ばかり続きますね。
 玉造の小町 こんな苦しい思いをするより、死んだ方がましかも知れません。
 小野の小町 (独り語(ごと)のように)あの時に死ねば好(よ)かったのです。黄泉(よみ)の使に会った時に、……
 玉造の小町 おや、あなたもお会いになったのですか?
 小野の小町 (疑(うたがい)深そうに)あなたもと仰有(おっしゃ)るのは? あなたこそお会いになったのですか?
 玉造の小町 (冷やかに)いいえ、わたしは会いません。
 小野の小町 わたしの会ったのも唐(から)の使です。
 しばらくの間(あいだ)沈黙。黄泉の使、忙(いそが)しそうに通りかかる。
 玉造の小町 ┐
 小野の小町 ┘黄泉の使! 黄泉の使![#「黄泉の使! 黄泉の使!」は2行の中央、括弧は2行にわたる波括弧]
 黄泉の使 誰です、わたしを呼びとめたのは?
 玉造の小町 (小野の小町に)あなたは黄泉の使を御存知ではありませんか?
 小野の小町 (玉造の小町に)あなたも知らないとはおっしゃれますまい。(黄泉の使に)このかたは玉造の小町です。あなたはとうに御存知でしょう。
 玉造の小町 このかたは小野の小町です。やっぱりあなたのお馴染(なじみ)でしょう。
 使 何、玉造の小町に小野の小町! あなたがたが、――骨と皮ばかりの女乞食が!
 小野の小町 どうせ骨と皮ばかりの女乞食ですよ。
 玉造の小町 わたしに抱きついたのを忘れたのですか?
 使 まあ、そう腹を立てずに下さい。あんまり変っていたものですから、つい口を辷(すべ)らせたのです。……時にわたしを呼びとめたのは、何か用でもあるのですか?
 小野の小町 ありますとも。ありますとも。どうか黄泉へつれて行って下さい。
 玉造の小町 わたしも一しょにつれて行って下さい。
 使 黄泉へつれて行け? 冗談(じょうだん)を云ってはいけません。またわたしを欺(だま)すのでしょう。
 玉造の小町 あら、欺しなどするものですか!
 小野の小町 ほんとうにどうかつれて行って下さい。
 使 あなたがたを! (首を振りながら)どうもわたしには受け合われません。またひどい目に会うのは嫌(いや)ですから、誰かほかのものにお頼みなさい。
 小野の小町 どうかわたしを憐(あわ)れんで下さい。あなたも情(なさけ)は知っているはずです。
 玉造の小町 そんなことを云わずに、つれて行って下さい。きっとあなたの妻になりますから。
 使 駄目(だめ)です。駄目です。あなたがたにかかり合うと――いや、あなたがたばかりではない、女と云うやつにかかり合うと、どんな目に会うかわかりません。あなたがたは虎(とら)よりも強い。内心如夜叉(にょやしゃ)の譬(たとえ)通りです。第一あなたがたの涙の前には、誰でも意気地(いくじ)がなくなってしまう。(小野の小町に)あなたの涙などは凄(すご)いものですよ。
 小野の小町 嘘です。嘘です。あなたはわたしの涙などに動かされたことはありません。
 使 (耳にもかけずに)第二にあなたがたは肌身(はだみ)さえ任(まか)せば、どんなことでも出来ないことはない。(玉造の小町に)あなたはその手を使ったのです。
 玉造の小町 卑(いや)しいことを云うのはおよしなさい。あなたこそ恋を知らないのです。
 使 (やはり無頓着(むとんじゃく)に)第三に、――これが一番恐ろしいのですが、第三に世の中は神代(かみよ)以来、すっかり女に欺(だま)されている。女と云えばか弱いもの、優しいものと思いこんでいる。ひどい目に会わすのはいつも男、会わされるのはいつも女、――そうよりほかに考えない。その癖ほんとうは女のために、始終(しじゅう)男が悩まされている。(小野の小町に)三十番神(さんじゅうばんじん)を御覧なさい。わたしばかり悪ものにしていたでしょう。
 小野の小町 神仏(かみほとけ)の悪口(わるぐち)はおよしなさい。
 使 いや、わたしには神仏よりも、もっとあなたがたが恐ろしいのです。あなたがたは男の心も体も、自由自在に弄(もてあそ)ぶことが出来る。その上万一手に余れば、世の中の加勢(かせい)も借りることが出来る。このくらい強いものはありますまい。またほんとうにあなたがたは日本国中至るところに、あなたがたの餌食(えじき)になった男の屍骸(しがい)をまき散らしています。わたしはまず何よりも先へ、あなたがたの爪にかからないように、用心しなければなりません。
 小野の小町 (玉造の小町に)まあ、何と云う人聞きの悪い、手前勝手な理窟(りくつ)でしょう。
 玉造の小町 (小野の小町に)ほんとうに男のわがままには呆(あき)れ返ってしまいます。(黄泉(よみ)の使に)女こそ男の餌食(えじき)です。いいえ、あなたが何と云っても、男の餌食に違いありません。昔も男の餌食でした。今も男の餌食です。将来も男の、……
 使 (急に晴れ晴れと)将来は男に有望です。女の太政大臣(だいじょうだいじん)、女の検非違使(けびいし)、女の閻魔王(えんまおう)、女の三十番神、――そういうものが出来るとすれば、男は少し助かるでしょう。第一に女は男狩りのほかにも、仕栄(しば)えのある仕事が出来ますから。第二に女の世の中は今の男の世の中ほど、女に甘いはずはありませんから。
 小野の小町 あなたはそんなにわたしたちを憎(にく)いと思っているのですか?
 玉造の小町 お憎みなさい。お憎みなさい。思い切ってお憎みなさい。
 使 (憂鬱(ゆううつ)に)ところが憎み切れないのです。もし憎み切れるとすれば、もっと仕合せになっているでしょう。(突然また凱歌(がいか)を挙げるように)しかし今は大丈夫です。あなたがたは昔のあなたがたではない。骨と皮ばかりの女乞食です。あなたがたの爪にはかかりません。
 玉造の小町 ええ、もうどこへでも行ってしまえ!
 小野の小町 まあ、そんなことを云わずに、……これ、この通り拝みますから。
 使 いけません。ではさようなら。(枯芒(かれすすき)の中に消える)
 小野の小町 どうしましょう?
 玉造の小町 どうしましょう?
 二人ともそこへ泣き伏してしまう。

(大正十二年二月)




 



底本:「芥川龍之介全集5」ちくま文庫、筑摩書房
   1987(昭和62)年2月24日第1刷発行
   1995(平成7)年4月10日第6刷発行
底本の親本:「筑摩全集類聚版芥川龍之介全集」筑摩書房
   1971(昭和46)年3月~1971(昭和46)年11月
入力:j.utiyama
校正:かとうかおり
1999年1月10日公開
2004年3月10日修正
青空文庫作成ファイル:
このファイルは、インターネットの図書館、青空文庫(http://www.aozora.gr.jp/)で作られました。入力、校正、制作にあたったのは、ボランティアの皆さんです。




●表記について
  • このファイルは W3C 勧告 XHTML1.1 にそった形式で作成されています。
  • [#…]は、入力者による注を表す記号です。

上一页  [1] [2]  尾页


 

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作家:

  • 下一篇作家:
  •  
     
     
    网友评论:(只显示最新10条。评论内容只代表网友观点,与本站立场无关!)
     

    没有任何图片作家

    广告

    广告