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凱旋祭(がいせんまつり)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 12:28:02  点击:  切换到繁體中文



       四

 群集ばらばらと一斉いっせいに左右に分れ候。
 不意なれば蹌踉よろめきながら、おされて、人の軒に仰ぎ依りつつ、何事ぞと存じ候に、黒き、長き物ずるずると来て、町の中央なかを一文字に貫きながら矢の如くけ抜け候。
 これをば心付き候時は、ハヤその物体のかしらは二、三十けんわが眼の前を走り去り候て、いまはその胴中どうなかあたりしきりに進行いたしをり候が、あたかもたこの糸を繰出す如く、走馬燈籠まわりどうろうの間断なきやうにわかに果つべくも見え申さず。ただ人の頭も、顔も、黒く塗りて、肩より胸、背、下腹のあたりまで、墨もていやが上に濃く塗りこくり、赤褌襠あかふどし着けたるいしきはぎ、足、かかと、これをば朱を以て真赤に色染めたるおなじ扮装いでたち壮佼わかものたち、幾百人か。一人行く前の人のあとへ後へとつなぎあひ候が、繰出す如くずんずんと行き候。およそ半時間は連続いたし候ひしならむ、やがて最後の一人の、身体からだ黒く足赤きが眼前をよぎり候あと、またひらひらと群集左右より寄せ合うて、両側に別れたる路をふさぎ候時、その過行すぎゆきしかた打眺うちながめ候へば、の怪物の全体は、はるかなる向の坂をいまうねり蜿りのぼり候首尾しゅびまったきを、いかにも蜈蚣むかでと見受候。あれはと見る間に百尺ひゃくせき波状の黒線こくせんの左右より、二条の砂煙さえん真白ましろにぱツと立つたれば、その尾のあたりはほこりにかくれて、躍然やくぜんとしてもたげたるそのうすの如きこうべのみ坂の上り尽くる処雲の如き大銀杏おおいちょうこずえとならびて、見るがうちに、またただ七色の道路のみ、獅子の背のみながめられて、蜈蚣むかでは眼界を去り候。く既に式場に着し候ひけむ、風聞うわさによれば、市内各処における労働者、たとへばぼてふり、車夫、日傭取ひようとりなどいふものの総人数をあげたる、意匠のパフナリーに候とよ。
 の巨象と、幾頭の獅子と、この蜈蚣と、この群集とがついに皆式場に会したることをおんふくみの上、静にお考へあひなり候はば、いかなる御感おんかんじか御胸おんむねに浮び候や。

       五

 別に凱旋門がいせんもんと、生首提灯なまくびじょうちんと小生は申し候。人の目鼻書きて、青く塗りて、血の色染めて、黒き蕨縄わらびなわ着けたる提灯と、竜の口なる五条の噴水と、銅像と、この他に今も眼にみ、脳に印して覚え候は、式場なる公園の片隅に、人を避けて悄然しょうぜんと立ちて、さびしげにあたりを見まはしをられ候、一個ひとり年若き佳人にござ候。何といふいはれもあらで、薄紫のかはりたる、藤色のきぬ着けられ候ひき。
 このたび戦死したる少尉B氏の令閨れいけいに候。また小生知人にござ候。
 あらゆる人の嬉しげに、楽しげに、をかしげに顔色の見え候に、小生はさて置きて夫人のみあはれにしおれて見え候は、人いきりにやのぼせたまひしと案じられ、近う寄り声をかけて、もの問はむと存じ候折から、おツといふ声、人なだれを打つて立騒ぎ、悲鳴をあげて逃げ惑ふ女たちは、水車の歯にかかりてね飛ばされ候やう、倒れてはげ、転びては遁げ、うづまいて来る大蜈蚣むかでのぐるぐると巻き込むる環のなかをこぼれ出で候が、令閨れいけいとおよび五三人はその中心になりて、十重二十重とえはたえに巻きこまれ、のがるるひまなくふしまろび候ひし。警官けつけてのち、他は皆無事に起上り候に、うつくしき人のみは、そのままもすそをまげて、起たず横はり候。塵埃ちりほこりのそのつややかなる黒髪をけがす間もなく、衣紋えもんの乱るるまもなくて、かうはなりはてられ候ひき。
 むかでは、これがために寸断され、此処ここに六尺、彼処かしこに二尺、三尺、五尺、七尺、一尺、五寸になり、一分になり、寸々ずたずたに切り刻まれ候が、身体からだの黒き、足の赤き、切れめ切れめに酒気を帯びて、一つづつうごめくを見申し候。
 日暮れて式場なるは申すまでもなく、十万の家軒ごとに、おなじ生首提灯の、しかもたけ三尺ばかりなるを揃うて一斉いっせいひともし候へば、市内の隈々くまぐま塵塚ちりづかの片隅までも、真蒼まっさおき昼とあひなり候。白く染め抜いたる、目、口、鼻など、大路小路のつちの上に影を宿して、青きのなかにたとへば蝶の舞ふ如く蝋燭ろうそくのまたたくにつれて、ふはふはとそのまぼろしの浮いてあるき候ひし。ひとり、唯、単に、一宇いちうの門のみ、生首にひともさで、さびしく暗かりしを、怪しといふ者候ひしが、さる人は皆人の心も、ことのやうをも知らざるにて候。その夜けて後、俄然がぜんとして暴風起り、須臾しゅゆのまに大方の提灯を吹き飛ばし、残らずきえて真闇まっくらになり申し候。闇夜やみよのなかに、唯一ツすさまじき音聞え候は、大木の吹折られたるに候よし。さることのくはしくは申上げず候。唯今風の音聞え候。何につけてもおなつかしく候。
  月  日

ぢい様



 



底本:「外科室・海城発電 他五篇」岩波文庫、岩波書店
   1991(平成3)年9月17日第1刷発行
   2000(平成12)年9月5日第18刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第三巻」岩波書店
   1942(昭和17)年12月25日第1刷発行
初出:「新小説」第二年第六巻
   1897(明治30)年5月
※「読みにくい語、読み誤りやすい語には現代仮名づかいで振り仮名を付す。」との底本の編集方針にそい、ルビの拗促音は小書きしました。
入力:門田裕志
校正:鈴木厚司
2003年8月28日作成
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