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雪霊続記(せつれいぞくき)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 16:37:24  点击:  切换到繁體中文

底本: 泉鏡花集成7
出版社: ちくま文庫、筑摩書房
初版発行日: 1995(平成7)年12月4日
入力に使用: 1995(平成7)年12月4日第1刷
校正に使用: 2003(平成15)年5月15日第2刷


底本の親本: 鏡花全集 第二十一卷
出版社: 岩波書店
初版発行日: 1941(昭和16)年9月30日

 

   一

 機会がおのずから来ました。
 今度の旅は、一体はじめは、仲仙道線で故郷へ着いて、そこで、一事あるようすましたあとを、姫路行の汽車で東京へ帰ろうとしたのでありました。――この列車は、米原まいばらで一体分身して、分れて東西へはしります。
 それが大雪のために進行が続けられなくなって、晩方武生たけふ駅(越前えちぜん)へ留ったのです。強いて一町場ひとちょうばぐらいは前進出来ない事はない。が、そうすると、深山の小駅ですから、旅舎にも食料にも、乗客に対する設備が不足で、危険であるからとの事でありました。
 元来――帰途にこの線をたよって東海道へ大廻りをしようとしたのは、……実は途中で決心が出来たら、武生へ降りて許されない事ながら、そこから虎杖いたどりの里に、もとの蔦屋つたや(旅館)のおよねさんを訪ねようという……見る見る積る雪の中に、淡雪の消えるような、あだなのぞみがあったのです。でそののぞみあおるために、もう福井あたりから酒さえ飲んだのでありますが、酔いもしなければ、心もきまらないのでありました。
 ただ一夜、いたずらに、思出の武生の町に宿っても構わない。が、宿りつつ、そこに虎杖の里を彼方かなたて、心も足も運べない時のはかなさにはなお堪えられまい、と思いなやんでいますうちに――
 汽車は着きました。
 目をつむって、耳をおさえて、発車を待つのが、三分、五分、十分十五分――やや三十分過ぎて、やがて、駅員にその不通の通達を聞いた時は!
 雪がそのままの待女郎まちじょろうになって、手を取って導くようで、まんじともえ中空なかぞらを渡る橋は、さながらに玉の桟橋かけはしかと思われました。
 人間は増長します。――積雪のために汽車が留って難儀をすると言えば――旅籠はたごは取らないで、すぐにお米さんのもとへ、そうだ、行ってけなそうな事はない、が、しかし……と、そんな事を思って、早や壁も天井も雪の空のようになった停車場ステエションに、しばらく考えていましたが、余り不躾ぶしつけだとおのれを制して、やっぱり一旦は宿に着く事にしましたのです。ですから、同列車の乗客のうちで、停車場ステエションを離れましたのは、多分私が一番あとだったろうと思います。
 大雪です。

「雪やこんこ、
 あられやこんこ。」

 大雪です――が、停車場ステエション前の茶店では、まだ小児たちの、そんな声が聞えていました。その時分は、山の根笹を吹くように、風もさらさらと鳴りましたっけ。町へ入るまでに日もとっぷりと暮果てますと、

じいさイのウばばさイのウ、
 綿雪小雪が降るわいのウ、
 雨炉も小窓もしめさっし。」

 と寂しいわびしい唄の声――雪も、小児こども爺婆じいばあに化けました。――風も次第に、ごうごうと樹ながら山をゆすりました。
 店屋さえもう戸がしまる。……旅籠屋も門をとざしました。
 家名いえなも何も構わず、いまそこも閉めようとする一軒の旅籠屋へ駈込かけこみましたのですから、場所は町の目貫めぬきむきへは遠いけれど、鎮守の方へは近かったのです。
 座敷は二階で、だだっ広い、人気の少ないさみしい家で、夕餉ゆうげもさびしゅうございました。
 若狭鰈わかさがれい――大すきですが、それが附木つけぎのように凍っています――白子魚乾しらすぼし切干大根きりぼしだいこんの酢、椀はまた白子魚乾に、とろろ昆布の吸もの――しかし、何となく可懐なつかしくって涙ぐまるるようでした、なぜですか。……
 酒も呼んだが酔いません。むかしの事を考えると、病苦を救われたお米さんに対して、生意気らしく恥かしい。
 両手を炬燵こたつにさして、俯向うつむいていました、濡れるように涙が出ます。
 さっという吹雪であります。さっと吹くあとを、ごうーと鳴る。……次第に家ごとゆするほどになりましたのに、何という寂寞さびしさだか、あの、ひっそりと障子の鳴る音。カタカタカタ、白い魔が忍んで来る、雪入道が透見すきみする。カタカタカタカタ、さーッ、さーッ、ごうごうと吹くなかに――見る見るうちに障子の桟がパッパッと白くなります、雨戸のすきへ鳥のくちばし程吹込む雪です。
「大雪の降るなど、町のみちが絶えますと、三日も四日も私一人――」
 三年以前にった時、……お米さんが言ったのです。
    ……………………
「路の絶える。大雪の。」
 お米さんが、あの虎杖の里の、この吹雪に……
「……ただ一人。」――
 私は決然として、身ごしらえをしたのであります。
「電報を――」
 と言って、旅宿を出ました。
 実はなくなりました父が、その危篤きとくの時、東京から帰りますのに、(タダイマココマデキマシタ)とこの町から発信した……とそれを口実に――時間は遅くはありませんが、目口もあかない、この吹雪に、何と言って外へ出ようと、放火つけびか強盗、人殺ひとごろしに疑われはしまいかとあやぶむまでに、さんざん思いまどったあとです。
 ころ柿のような髪を結った霜げた女中が、雑炊ぞうすいでもするのでしょう――土間で大釜おおがまの下をいていました。番頭は帳場に青い顔をしていました。が、無論、自分たちがその使つかいに出ようとは怪我けがにも言わないのでありました。

       二

「どうなるのだろう……とにかくこれは尋常事ただごとじゃない。」
 私は幾度いくたびとなく雪に転び、風に倒れながら思ったのであります。
天狗てんぐわざだ、――魔の業だ。」
 何しろ可恐おそろしおおきな手が、白い指紋の大渦を巻いているのだと思いました。
 いのちとりの吹雪の中に――
 最後に倒れたのは一つの雪の丘です。――そうは言っても、小高い場所に雪が積ったのではありません、粉雪こゆき吹溜ふきだまりがこんもりと積ったのを、どっと吹く風が根こそぎにその吹く方へ吹飛ばして運ぶのであります。一つ二つのすうではない。波のかさなるような、幾つも幾つも、さっと吹いて、むらむらと位置を乱して、八方へ高くなります。
 私はもう、それまでに、幾度いくたびもその渦にくるくると巻かれて、おおきな水の輪に、孑孑虫ぼうふらむしひっくりかえるような形で、取っては投げられ、つかんでは倒され、き上げては倒されました。
 私は――白昼、北海の荒波の上で起る処のこの吹雪の渦を見た事があります。――一度は、たとえば、敦賀つるが湾でありました――絵にかいた雨竜あまりょうのぐるぐると輪を巻いて、一条ひとすじ、ゆったりと尾を下に垂れたような形のものが、降りしきり、吹煽ふきあおって空中に薄黒い列を造ります。
 見ているうちに、その一つが、ぱっと消えるかと思うと、たちまち、ぽっと、続いて同じ形があらわれます。消えるのではない、かすかに見える若狭わかさの岬へ矢のごとく白くなって飛ぶのです。一つ一つがみなそうでした。――吹雪の渦はいては飛び、湧いては飛びます。
 私の耳を打ち、鼻をじつつ、いま、その渦が乗っては飛び、かすめては走るんです。
 大波に漂う小舟は、宙天に揺上ゆすりあげらるる時は、ただ波ばかり、白き黒き雲の一片をも見ず、奈落に揉落もみおとさるる時は、海底のいわの根なる藻の、あかあおきをさえ見ると言います。
 風の一息死ぬ、真空の一瞬時には、町も、屋根も、軒下のながれも、その屋根を圧して果しなく十重とえ二十重はたえに高くち、はるかつらなる雪の山脈も、旅籠はたご炬燵こたつも、かまも、釜の下なる火も、はては虎杖の家、お米さんの薄色の袖、紫陽花あじさい、紫の花も……お米さんの素足さえ、きっぱりと見えました。が、脈を打って吹雪が来ると、呼吸はむせんで、目はめしいのようになるのでありました。
 最早もはや、最後かと思う時に、鎮守のやしろが目の前にあることに心着いたのであります。同時に峰のとがったような真白まっしろな杉の大木を見ました。
 雪難之碑のある処――
 天狗――魔の手など意識しましたのは、その樹のせいかも知れません。ただしこれに目標めじるしが出来たためか、背に根が生えたようになって、倒れている雪の丘の飛移るような思いはなくなりました。
 まことは、両側にまだ家のありました頃は、――中に旅籠も交っています――一面識はなくっても、同じ汽車に乗った人たちが、まばらにも、それぞれの二階にこもっているらしい、それこそ親友が附添っているように、気丈夫に頼母たのもしかったのであります。もっともそれを心あてに、頼む。――助けて――助けて――と幾度いくたびか呼びました。けれども、窓一つ、ちらりと燈火ともしびの影の漏れて答うる光もありませんでした。聞えるはずもありますまい。
 いまは、ただお米さんと、間に千尺の雪を隔つるのみで、一人死を待つ、……むしろ目をねむるばかりになりました。

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