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星あかり(ほしあかり)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 10:35:55  点击:  切换到繁體中文

底本: 書物の王国11 分身
出版社: 国書刊行会
初版発行日: 1999(平成11)年1月22日
入力に使用: 1999(平成11)年1月22日初版第1刷
校正に使用: 1999(平成11)年1月22日初版第1刷


底本の親本: 鏡花全集 第四卷
出版社: 岩波書店
初版発行日: 1941(昭和16)年3月15日

 

もとより何故なにゆえというわけはないので、墓石の倒れたのを引摺寄ひきずりよせて、二ツばかり重ねて台にした。
 その上に乗って、雨戸あまど引合ひきあわせの上の方を、ガタガタ動かして見たが、きそうにもない。雨戸のうちは、相州西鎌倉乱橋みだればし妙長寺みょうちょうじという、法華ほっけ宗の寺の、本堂にとなった八畳の、横に長い置床おきどこの附いた座敷で、向って左手ゆんでに、葛籠つづら革鞄かばんなどを置いたきわに、山科やましなという医学生が、四六しろく借蚊帳かりかやを釣って寝て居るのである。
 声を懸けて、たたいて、開けておくれと言えば、何の造作ぞうさはないのだけれども、せ、とめるのをかないで、墓原はかはらを夜中に徘徊はいかいするのはいい心持こころもちのものだと、二ツ三ツ言争いいあらそってた、いまのさき、うち心張棒しんばりぼうを構えたのは、自分を閉出しめだしたのだと思うから、我慢にもたのむまい。……
 つめた石塔せきとうに手を載せたり、湿臭しめりくさ塔婆とうばつかんだり、花筒はなづつ腐水くされみずに星の映るのをのぞいたり、漫歩そぞろあるきをして居たが、やぶが近く、ひどいから、座敷の蚊帳が懐しくなって、内へ入ろうと思ったので、戸を開けようとすると閉出されたことに気がついた。
 それから墓石に乗ってして見たが、もとよりうすればくであろうというのぞみがあったのではなく、ただるよりもと、いたずらに試みたばかりなのであった。
 なんにもならないで、ばたりと力なく墓石から下りて、腕をこまぬき、差俯向さしうつむいて、じっとして立って居ると、しっきりなしに蚊がたかる。毒虫が苦しいから、もっと樹立こだちの少い、広々とした、うるさくない処をと、寺の境内けいだいに気がついたから、歩き出して、卵塔場らんとうば開戸ひらきどから出て、本堂の前に行った。
 まで大きくもない寺で、和尚とばあさんと二人で住む。門までわずか三四けん左手ゆんでほこらの前を一坪ばかり花壇にして、松葉牡丹まつばぼたん鬼百合おにゆり夏菊なつぎくなど雑植まぜうえの繁った中に、向日葵ひまわりの花は高くはすの葉のごと押被おっかぶさって、何時いつにか星は隠れた。鼠色ねずみいろの空はどんよりとして、流るる雲もなんにもない。なかなか気が晴々せいせいしないから、一層いっそ海端うみばたへ行って見ようと思って、さて、ぶらぶら。
 門の左側に、井戸が一個ひとつ飲水のみみずではないので、きわめて塩ッ辛いが、底は浅い、かがんでざぶざぶ、さるぼうでらるる。石畳いしだたみ穿下ほりおろした合目あわせめには、このあたりに産する何とかいうかに甲良こうらが黄色で、足の赤い、小さなのがかずかぎりなくむらがって動いて居る。毎朝この水で顔を洗う、一杯頭から浴びようとしたけれども、あんな蟹は、夜中に何をするか分らぬと思ってやめた。
 門を出ると、右左、二畝ふたうねばかり慰みに植えた青田あおたがあって、向う正面の畦中あぜなかに、琴弾松ことひきまつというのがある。一昨日おとついばんよいの口に、その松のうらおもてに、ちらちらともしびえたのを、海浜かいひんの別荘で花火をくのだといい、いや狐火きつねびだともいった。そのときれたような真黒な暗夜やみよだったから、そので松の葉もすらすらと透通すきとおるように青く見えたが、いまは、あたかも曇った一面の銀泥ぎんでいに描いた墨絵のようだと、じっと見ながら、敷石しきいしんだが、カラリカラリと日和下駄ひよりげたの音のえるのが耳に入って、フと立留たちとまった。
 門外おもての道は、弓形ゆみなり一条ひとすじ、ほのぼのと白く、比企ひきやつやまから由井ゆいはま磯際いそぎわまで、ななめかささぎの橋を渡したようなり
 ハヤ浪の音が聞えて来た。
 浜の方へ五六間進むと、土橋が一架ひとつ、並の小さなのだけれども、滑川なめりがわかかったのだの、長谷はせ行合橋ゆきあいばしだのと、おなじ名に聞えた乱橋みだればしというのである。
 この上で立停たちとまって前途ゆくてを見ながら、由井ヶ浜までは、だ三町ばかりあると、つくづくかんがえた。三町はけだし遠い道ではないが、身体からだも精神も共にいたく疲れて居たからで。
 しかしそのまま素直まっすぐに立ってるのが、余りつらかったから又た歩いた。
 みちの両側しばらくのあいだ、人家じんかえては続いたが、いずれも寝静まって、しらけた藁屋わらやの中に、何家どこ何家どこも人の気勢けはいがせぬ。
 その寂寞せきばくやぶる、跫音あしおとが高いので、夜更よふけ里人さとびと懐疑うたがいを受けはしないかという懸念から、たれとがめはせぬのに、抜足ぬきあし差足さしあし、音は立てまいと思うほど、なお下駄げたひびきが胸を打って、耳をつらぬく。
 なにか、自分は世の中の一切すべてのものに、現在いまく、悄然しょんぼり夜露よつゆおもッくるしい、白地しろじ浴衣ゆかたの、しおたれた、細い姿で、こうべを垂れて、唯一人、由井ヶ浜へ通ずる砂道を辿たどることを、られてはならぬ、知られてはならぬ、気取けどられてはならぬというようなおもいであるのに、まあ! ひさしも、屋根も、居酒屋ののきにかかった杉の葉も、百姓屋の土間どまえてある粉挽臼こなひきうすも、皆目を以て、じろじろめるようで、置処おきどころないまでに、右から、左から、みちをせばめられて、しめつけられて、小さく、堅くなつて、おどおどして、その癖、け出そうとする勇気はなく、およそ人間の歩行に、ありッたけの遅さで、汗になりながら、人家のあるところをすり抜けて、ようよう石地蔵の立つ処。
 ほッと息をすると、びょうびょうと、しきりに犬のえるのが聞えた。

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