您现在的位置: 贯通日本 >> 作家 >> 海野 十三 >> 正文

地獄街道(じごくかいどう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-24 16:53:03  点击:  切换到繁體中文


     5


 辻永は大変興奮してきたようだった。この分では今に酔払って前後ぜんごがわからなくなるのであろう。私は今のうちに、先刻せんこくの話を聞いて置こうと考えた。
「あの話ネ、かゆくなるというのは、どういうわけなのだ」
「かゆくなるわけかい。ウン、話をしてやろう。――西洋に不思議な酒作さけづくりがある。それは禁止の酒を作っては、高価ですきしゃに売りつけるのだ。法網ほうもうをくぐるために、酒瓶さかびんの如きも普通のウイスキーの壜に入れ、ただレッテルの上に、玄人くろうとでなければ判らない目印めじるしを入れてある。こうした妖酒ようしゅのあることは君にも判るだろう」
「……」私は黙ってうなずいた。それは例の媚薬びやくなどを入れた密造酒のことを指すのであろう。
「これは大変に高価なもので、到底とうてい日本などには入って来ないわけのものだが、だが一本だけ間違ってこの銀座に来ているのだ。或るバーのたなの或る一隅いちぐうにあるんだ。ところがそのバーの主人も、その酒の本当の効目ききめというものを知らないのだから可笑おかしな話じゃないか」
「それではしや……」
「まア聞けよ」と辻永は私をさえぎった。「その酒は滅多めったに客に売らないのだ。だが特別のお客に売ることがあるし、また間違って売る場合もある。それはバーの主人がときどき休む月曜日の夜に、不馴ふなれなマダムが時々こいつを客に飲ませるのだ。勿論もちろんマダムはそんな妖酒とは知らず、安ウイスキーだと思って使ってしまうのだ。――ところでこの酒を飲まされたが最後大変なことになる」
「ナニ大変なこと!」
「そうだ。大変も大変だ、自分の身体が箱詰はこづめになってしまうんだ。無論むろん息の根はない。再び陽の光はあおげなくなるのだ」
「オイ辻永。その洋酒の名を早く云ってしまえよ」と私は卓子テーブルから立ち上った。
「まアしずまれ。鎮まれというに」彼はいよいよ赤とも黄とも区別のつかぬ顔色になって、眼を輝かせた。「おれ様の探偵眼たんていがんの鋭さについて君はおどろかないのか。いいかネ。その妖酒を飲んで例のバーを出るとフラフラと歩き出すころ一時に効目ききめが現れてくるのだ。まず第一に尿意にょういもよおす。第二に怪しい興奮にどうにもしきれなくなる。ところでそのバーを出てから尿意を催すと、どこかで始末をつけねばならぬが、適当なところがない。どこかで――と考えると、頭に浮かんでくるのは、そのぐ先の川っぷちだ。その川っぷちへ行って用を足す。ところがその辺にさくらぼうという例のストリート・ガールが網を張っているのだ。これはカフェくずれの青年たちを目当てのガールなのだが、たまたまバー・カナリヤから出て来たの妖酒に酔いしれたお客さんだとて差閊さしつかえない。客の方では差閊えないどころかもう半分気が変になっている。だから桜ン坊の捕虜ほりょになって、円タクを拾うと、例の女の家の方面へ飛ぶのだ。そのうちに、又々妖しの酒の反応が現れて、こんどは全身がかゆくなる。かゆくて苦しみ出すころ、自動車は彼女の家の近くに来ている。隠れ家をくらますために家の近所で降りて、あとはおひろいだ。しかし何分にもかゆくて藻掻もがきだす。そこであの近所にある一軒の薬屋を叩き起して、かゆみ止めの薬を売って貰う。――どうだ、この先はどこへ続いていると思う」
「いや、それはあまりに独断どくだんすぎる筋道すじみちだと思う」私は最初のうちは彼の鋭い探偵眼に酔わされていたような気持だったが、話をいているうちに、なんだかあまりにうまく組立てられているところが気になった。
「独想ではない、厳然げんぜんたる事実なのだ、いいか」と辻永は圧迫あっぱくするような口調で云った。「そのかゆみ止めの薬が又大変な薬で、かゆみを止めはするけれど、例の妖酒に対して副作用を生じるのだ。その結果夜中になって、その男をさくらぼうの寝床から脱け出させる。うつつともまぼろしともなく彼は服を着て、家の外にとび出すのだ。一寸ちょっと夢遊病者むゆうびょうしゃのようになる」
「まさか――」
「事実なんだから仕方がない。その擬似ぎじ夢遊病者はフラフラとさまよいでて、必ず例のユダヤ横丁に迷いこむ」
「それは偶然だろう」
「イヤ地形ちけいがユダヤ横丁へ引張りこむのだ。あとは簡単だ。あの夢遊病者のような歩き方が、団員の認識手段にんしきしゅだんなのだ。夢遊病者がやって来た。それ団員だといって、その男を本部へ引張りこむ。その上でたずねてみると、どうも様子がおかしい。ついに正体が露見ろけんするが、結社の本部を知られてはもうかして置けぬということになる。やっつけられて気を失ったところを、黒塀くろべいの向うへ投げこみあのかごに載せて、ギリギリとビール会社の高い窓へ送る。あとは器械に自然にきこまれて息の根もとまれば、屍体も箱詰めになって、ビールと一緒に積み出される――」
「そんな歯車仕掛けのようにうまくゆくものか。行けば奇蹟きせきだ」
「奇蹟が三人の犠牲者を作るものか。ゆくかゆかないか。第四番目の犠牲者はもう出発を始めているのだ」
「なに?」
「考えても見給みたまえ。例の妖酒から始まって、川っぷち、薬屋、ガールの家、ユダヤ横丁、黒塀くろべい、クレーンとかご、ビール工場の高窓、箱詰め器械、それかち貨物駅と、これだけのものは次から次へとつながっているのだ。切迫せっぱくした尿意と慾情よくじょうとかゆみと夢遊むゆうと地形とユダヤ横丁のおきてと動くクレーンと動く箱詰め器械と、これだけのものが長いトンネルのようにつながっている。トンネルの入口はあの妖酒で、出口はビール箱だ。入口を入ったが最後、箱詰め屍体になるまで逃げることはできないのだ。なんと恐ろしいことではないか」

上一页  [1] [2] [3] [4] [5] [6] 下一页  尾页


 

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作家:

  • 下一篇作家:
  •  
     
     
    网友评论:(只显示最新10条。评论内容只代表网友观点,与本站立场无关!)
     

    没有任何图片作家

    广告

    广告