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地球を狙う者(ちきゅうをねらうもの)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-25 6:40:45  点击:  切换到繁體中文


     涼風ふく甲板

「おお、君は加瀬谷教授の門下かね」
 その翌朝のことであったが、涼しい甲板の藤椅子に並んで、轟博士が精力家らしい大きい声でいったことである。すでに、自己紹介をすませていた。
「加瀬谷は、僕と同じ中学の出で――もっともわしが四年も上級だったが――よく知っているよ。そのころからわしは火星の研究をやっていたが、あいつは小さいくせに、いつも悪口ばかりいってね。『轟さんのように火星ばかりをのぞいていると、いまに火星の人間にさらわれてしまうぞ』などと、憎まれ口を叩いたものじゃ。あっはっはっ」
 僕は、太平洋のまんなかで波にゆられながら、恩師の少年時代のうわさを聞こうとは、夢にもおもっていなかった。
「先生は、こんどもやっぱり火星研究のご旅行なんですか」
「なんじゃ、妙なことを聞く男じゃ」
「いや、ちがいましたら、おゆるしください」
「あっはっはっ。なにがちがうどころか。およそわしは、火星以外のことで旅行をしたり、金をつかったりすることは絶対にないのじゃ。君は知らんのか。この五月十八日に、火星はいちばん地球に近づくのじゃ。だから、それを期して、いろいろ興味ある観測をせんけりゃならん。そうでもなきゃ、花陵島なんて、あんな辺鄙なところへ金と時間とをかけて行きゃせぬわい」
「ああ、先生ご一行はやっぱり、僕と同じように花陵島へいらっしゃるんですか」悦びのあまり僕はおもわず大きな声でいったので、博士は眼鏡の奥で、ぎょろりと両眼をうごかした。
「お話中で、おそれいりますが――」
 彼女の声だ。僕はどきりとした。なんといういい香水か、彼女の身体から発散するのが、僕の内臓をかきたてる。
「うん、なんじゃ志水」
「さっき持ってこいとおっしゃったのは、この鞄でございましょうか」
「ああ、それそれ。そこへおいておけ。その椅子のうえに――」
「はあ、ではここに」
 彼女は僕に会釈して船室へひきかえした。僕は、うしろから追いかけていって連れもどしたい衝動にかられた。
「いまのお方は、先生のご令嬢でいらっしゃいましょうか」
 僕は、おもいきって、重大な質問の矢をはなった。
「誰? あああの女かね。あれはわしの助手をやっとる志水理学士じゃ」
 助手なのか。志水理学士――なるほど、そういえば新聞などに時々博士と名前が並んでいる記憶があった。
 轟博士は、僕の心のなかの動揺などにはいっこう無頓着に、
「おい君。君は地震を研究するにしても、あまり加瀬谷の学説などを鵜のみにしていちゃとてもえらい学者になれんぞ。当の加瀬谷にしてもそうじゃ。昔からせっかくわしが注意をあたえているのに、その注意を用いないからして、いまだに平々凡々たる学者でいる」
 轟博士は、いいたいことをずばりといって平気な顔をしている。師の悪口をいわれて、僕は内心おだやかではなかった。
「いまおっしゃいました加瀬谷先生へのご注意というのは、いったいどんなことですか」
「それかね。それは――」といいかけて博士は言葉を切った。「君も加瀬谷の門下だから、わしが話してやっても多分分るまい。わしはこのごろ気がかわって、従来とはちがって無駄なことは喋らないことにした。そのかわり、実際の物をつかまえて、さあこのとおりだ、よく見ろ――というふうにやることに変更した」
「では、こんどのご旅行も、火星の運河などを写真にとって、実際私たちにみせてくださるためなんですか」
「火星の運河? あっはっはっ火星の運河などがあってたまるものか。火星に運河があるというのは、火星の表面に見える黒い筋を運河だと思っているのだろうが、それは大まちがいだ。船みたいなもので交通しなければならぬような、そんな未開な火星ではない。地球上の常識で、運河説を得々と述べる者は、身のほど知らぬ大馬鹿者だというよりほかない」
 轟博士の語気は、老人と思われぬほどつよかった。
「では、運河みたいなあの黒い筋は、いったいなんですか」
 と僕は聞かないではいられなかった。
「さあ。あの黒い筋がなんであるか、それをわしが説明しても、君はやっぱり信用しないだろう。さっきいったように、わしは当分喋ることはやめて、そのかわりに実際的なものを地球の人々の目の前にもっていって、ほら、これが火星の文化だよ。さあ、これでも信じないかねといってやりたいのだ」
 火星の文化! 船みたいなもので交通しなければならぬほどの未開な火星ではない! 轟博士の言葉の奥には、わが地球人類にとっておだやかならぬ秘密の実在があるらしく感じられるのであった。
 はたして博士は、何事を知っているのであろうか?

     火星の秘密

 かわり者の轟博士が、火星の秘密をあえて喋ろうとしない態度をみせると、僕は逆に、なんとしてもそれを聞きださずには我慢ができなかった。しかもそれを聞く機会は、この場において外にないような気さえした。
「ねえ、轟先生。さっき先生がおっしゃったことに、私ども地震学者も火星のことを考えに入れてやらねばまちがいが起るといったような意味が感じられましたが、それにまちがいはありませんですか」
 僕は、すこし思う仔細があって、わざと搦んだもののいい方をした。
「わしのいうことに、絶対まちがいはない。加瀬谷は、それを信じなかった。あいつは見かけ以上の愚者じゃ」
「でも先生、私にも信じられませんね。わが地球の海底地震が、なぜ火星と関係をもつのでしょう。火星と関係をもつならば、地球にもっと近い月と関係をもちそうなものではありませんか」
「ばかをいっちゃァいかん、月には、生物が棲んでいるかい。問題にならん」
「じゃあ火星には生物が棲んでいるのですか」
 僕はここぞと切りこんだ。
 博士は、うーむと呻った。手応えがあったのだ。僕の胸は早鐘のようにおどる。
「いかにも、火星には生物が棲んでいる。生物が棲んでいるから文化もあるんじゃ。では一つだけ君に話をしよう。さっき君がいいだした火星の運河といわれる黒い筋の話だが、わしの研究によると、あれは原動力輸送路だ。これに似たものをわれわれ地球上に求めると、送電線とかガス鉄管とかいったものがそれにあたる。だが火星では、電気やガスを原動力としてはいない。そんなものよりも幾億倍も大きな或る力を原動力としている。どうだ、わかるかな」
 轟博士は、奇想天外なことをいう。電気やガスなどの幾億倍も強大な原動力などというものがこの宇宙に存在しうるのであろうか。僕はあまり意外で、返事をしかねていると博士はまた口を開いた。
「あの原動力輸送路が、網状をなしているのは、なぜだとおもうか。あれは原動力を、必要によっていつでも一つところへ集めるためじゃ。あの輸送路が東西南北から[#「東西南北から」は底本では「西南北から」]集った交叉点においては、わが人類の頭では到底考えられないほどの巨大な力が集るのじゃ」
「そんなに巨大な原動力を、火星の生物はどういうことに使うのですか」
「そのことじゃ。その使い道が問題なのじゃ。わしの観測によれば、彼等は目下のところ輸送路の建設を完成してはいないようじゃ。輸送路の完成の暁には、それをどんなことのために使うのか、それはわしにも見当がついていない。ただこういうことはいえると思う」といって、そこで轟博士はちょっと深刻な顔をして、「あのような巨大な原動力の集中は、火星のなかでの生活だけに使うものとしては、とても桁はずれに多きすぎるということじゃ。わしの計算によると、火星の生物が一千年かかっても使いきれないほど巨大なる原動力が一瞬間にあの交叉点に集められる仕掛になっている。それを考えると訳はわからないながらも、背中がぞくぞくと寒くなるのじゃ」
 そういった轟博士の顔色は、この暖気のなかに、まるで氷倉から出てきた人のように青ざめた。
 不可解なる謎を秘めた火星の「運河」!
 僕もなんだか博士につられて、背中がひやりとしてきた。「すると先生、火星の生物というのは、わが地球の人類よりはずっと知恵があるのですね」
「もちろんのことじゃ。だからわれわれ地球上の学問は、火星の生物の存在を無視して研究をすすめても無駄じゃ。君の専攻している地震学にも、火星の力を勘定にいれておかないと、とんだまちがった結論を生みだすことになろう」そういって博士は、額のうえににじみでた汗をハンカチーフで拭いながら、「いや、わしは思わず喋りすぎた。もうこのへんで口を噤むことにしよう。いずれ花陵島の観測の結果、こんどこそ人類のびっくりするようなものを見せることができるかもしれない。そのときはまた、興味ある話を君にも聞かせるよ」
 それっきり博士は、もう喋らなくなってしまった。そして博士はお尻の下に敷いていた書類をとりだすと、海の方をむいてしきりに読みだした。
 僕は、せっかくの話相手を失ったので、仕方なしに博士のとなりで、ぎらぎらする海上をながめながら、さっきからのあやしい火星の秘密を頭のなかで復習を始めた。だがそのうちにいつとなく睡気を催し、うとうとと仮睡かりねにはいったのであった。
 どのくらい睡ったのかしらぬが、ふとなにかの物音で、僕は睡りからさめた。意識がはっきりしてくると、僕の隣で鞄の金具の音がしているのに気がついた。僕はなにげなく、その音のする方を見た。
 轟博士が、後向きになって、しきりに鞄のなかを整理しているのが見えた。その多くは手垢で汚れきったような論文原稿らしい書類であった。なおも僕は、博士の手さきをみていると、そのうちに博士は鞄のなかに書類を一通り重ねあわせ、いったん鞄の蓋をやりかけたが、そのとき急に忘れていたことを思いだしたように、ポケットをさぐると、大型のピストルを一挺とりだし、右手にぐっと握った。
 それをみて、僕は心臓の停まるほどおどろいた。なんだか今にもそのピストルの口が僕の方にきそうな気配を感じたのだ。
 だがそれは杞憂におわった。博士はピストルを、書類の下にそっとさし入れると、鞄の蓋を閉じて、ぴーんと金具をかけた。僕はほっと胸をなでおろした。

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