您现在的位置: 贯通日本 >> 作家 >> 楠山 正雄 >> 正文

葛の葉狐(くずのはぎつね)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-1 12:05:16  点击:  切换到繁體中文

    一

 むかし、摂津国せっつのくに阿倍野あべのというところに、阿倍あべ保名やすなというさむらいんでおりました。この人の何代なんだいまえ先祖せんぞ阿倍あべ仲麻呂なかまろという名高なだか学者がくしゃで、シナへわたって、こうの学者がくしゃたちの中にまじってもちっともけをとらなかった人です。それでシナの天子てんしさまが日本にっぽんかえすことをしがって、むりやりめたため、日本にっぽんかえることができないで、そのままこうで、一しょうらしてしまいました。仲麻呂なかまろんでからは、日本にっぽんのこった子孫しそん代々だいだい田舎いなかにうずもれて、田舎侍いなかざむらいになってしまいました。仲麻呂なかまろだいからつたえた天文てんもん数学すうがくのむずかしい書物しょもつだけはいえのこっていますが、だれもそれをむものがないので、もうなんねんというあいだふるはこの中にしまいまれたまま、むしうにまかしてありました。保名やすなはそれを残念ざんねんなことにおもって、どうかして先祖せんぞ仲麻呂なかまろのような学者がくしゃになって、阿倍あべいえおこしたいとおもいましたが、子供こどもときからうまったりゆみたりすることはよくできても、学問がくもんてることはおもいもよらないので、せめてりっぱな子供こどもんで、その子を先祖せんぞけないえらい学者がくしゃ仕立したてたいとおもちました。そこで、ついおとなり和泉国いずみのくに信田しのだもり明神みょうじんのおやしろ月詣つきまいりをして、どうぞりっぱな子供こども一人ひとりさずくださいましと、熱心ねっしんにおいのりをしていました。
 あるとしあきなかばのことでした。保名やすなは五六にん家来けらいれて、信田しのだ明神みょうじん参詣さんけいに出かけました。いつものとおりおいのりをすましてしまいますと、おりからはぎやすすきのみだれたあきうつくしい景色けしきをながめながら、保名主従やすなしゅじゅうはしばらくそこにやすんで、幕張まくばりの中でお酒盛さかもりをはじめました。
 そのうちだんだん日がかたむきかけて、みじかあきの日はれそうになりました。保名主従やすなしゅじゅうはそろそろかえ支度じたくをはじめますと、ふとこうのもりおくで大ぜいわいわいさわぐこえがしました。その中には太鼓たいこだのほらがいだののおとまじって、まるで戦争せんそうのようなさわぎが、だんだんとこちらのほうちかづいてました。主従しゅじゅう何事なにごとがはじまったのかとおもっておもわずちかけますと、そのときすぐまえ草叢くさむらの中で、「こんこん。」とかなしそうにこえこえました。そしてわか牝狐めぎつねが一ぴき、中からかぜのようにんでました。「おや。」というもなく、きつね保名やすなまくの中にんでました。そして保名やすなあしの下でくびをうなだれ、しっぽをって、さもかなしそうにまたきました。それは人にわれてうしなったきつねが、ほかの慈悲じひぶか人間にんげんたすけをもとめているのだということはすぐかりました。保名やすななさぶかさむらいでしたから、かわいそうにおもって、家来けらいにかつがせたはこの中にきつねれて、かくまってやりました。するともなく、「うおっうおっ。」というやかましいときこえげて、なんにんとないさむらいが、もりの中からしてました。そしていきなり保名やすなまくの中にばらばらとんでて、ものもいわずにそこらをさがまわりました。
 この乱暴らんぼうなしわざをて、保名やすなはかっとはらてて、
「あなたはだれです。ことわりもなく、けに人のまくの中にはいってるのは、乱暴らんぼうではありませんか。」
 ととがめました。
生意気なまいきをいうな。我々われわれがせっかくつけたきつねが、このまくの中にんだからさがすのだ。はやきつねせ。」
 とその中の頭分かしらぶんらしいさむらいがいいました。それから二言ふたこと三言みこといいったとおもうと、乱暴らんぼう侍共さむらいどもはいきなりかたないてってかかりました。保名やすな家来けらいたちもみんなつよさむらいでしたから、けずにふせたたかって、とうとう乱暴らんぼう侍共さむらいどものこらずはらってしまいました。そしてはこの中にかくしておいたきつねをさっそくして、そのがしてやりました。きつねはまるで人間にんげんが手をわせておがむようなかたちをして、二三おがんだとおもうと、さもうれしそうにしっぽをって、草叢くさむらの中へげて行ってしまいました。
 きつね姿すがたえなくなったとおもうと、またこうのもりの中で、せんよりも三ばいも四ばいもさわがしい人声ひとごえがしました。保名やすなおどろいてかえってるひまもなく、すぐまえ一人ひとり、りっぱなうまった大将たいしょうらしいさむらいさきてて、こんどはなんにんというさむらいが、一塊ひとかたまりになってせてて、保名主従やすなしゅじゅうかこみました。そこでまたはげしいいくさがはじまりました。保名主従やすなしゅじゅういくつよくっても、先刻せんこくはたらきでずいぶんつかれている上に、百ばいもあるてきかこまれていることですから、とてもかないようがありません。保名やすな家来けらいのこらずたれて、保名やすな体中からだじゅう刀傷かたなきず矢傷やきずった上に、大ぜいに手足てあしをつかまえられて、とりこにされてしまいました。
 このうまった大将たいしょうは、やはりおとなり河内国かわちのくにんでいる石川悪右衛門いしかわあくうえもんというさむらいでした。奥方おくがたがこのごろおもやまいにかかって、いろいろの医者いしゃせてもすこしもくすりえないものですから、ちょうど自分じぶんのにいさんが芦屋あしや道満どうまんといって、その時分じぶん名高なだか学者がくしゃで、天子様てんしさまのおそばにつかえて、天文てんもんうらないでは日本にっぽん一の名人めいじんという評判ひょうばんだったのをさいわい、あるとき悪右衛門あくうえもん道満どうまんたのんで、てもらいますと、奥方おくがた病気びょうきはただのくすりではなおらない、わか牝狐めぎつねぎもってせんじてませるよりほかにないということでした。そこで信田しのだもりへ大ぜい家来けらいれて狐狩きつねがりにたのでした。けれども運悪うんわるく、一にちもりの中をまわっても一ぴき獲物えものもありません。すっかりかんしゃくをおこしてぷんぷんしながらげようとしますと、ひょっこり、親子おやこびききつねながいすすきのかげにかくれているのをつけました。大喜おおよろこびでさっそく大ぜいかかりますと、きつねおどろいて、牝牡めすおすきつねはとうとうげてしまいましたが、まだわか小狐こぎつねが一ぴきうしなって、大ぜいにわれながら、すばやく保名やすなまくの中までんだのでした。
 こうしてせっかくれかけたきつね横合よこあいからられてしまったのですから、悪右衛門あくうえもんはくやしがって、やたらに保名やすなにくみました。そしてったまま保名やすなころしてしまおうとしますと、ふいにこうから、
「もしもし、しばらくおちなさい。」
 というこえこえました。
 悪右衛門あくうえもんおどろいてかえると、それはおな河内国かわちのくに藤井寺ふじいでらというおてら和尚おしょうさんでした。そのおてら石川いしかわいえ代々だいだい菩提所ぼだいしょで、和尚おしょうさんとは平生へいぜいから大そう懇意こんい間柄あいだがらでした。
「これはめずらしいところでお目にかかりました。どういうわけで、その男をころそうとなさるのです。」
 と和尚おしょうさんはたずねました。
 悪右衛門あくうえもんはそこで、今日きょう狐狩きつねがりの次第しだいをのべて、とうとうおしまいに保名やすなにじゃまをされて、くやしくってくやしくってたまらないというはなしをしました。
 和尚おしょうさんは、しずかにはなしいたあとで、
「なるほど、それはおはらつのはごもっともです。けれども人のいのちるというのは容易よういなことではありません。こと大切たいせつ御病人ごびょうにんいのちたすけようとしておいでのとき、ほかの人間にんげんいのちるというのは、ほとけさまのおぼしめしにもかなわないでしょう。そうすると、せっかくたすかる御病人ごびょうにんが、かえってたすからなくなるまいものでもない。」
 こう和尚おしょうさんにいわれると、さすがに傲慢ごうまん悪右衛門あくうえもんも、すこ勇気ゆうきがくじけました。和尚おしょうさんはここぞと、
「しかし、ただたすけるというのが業腹ごうはらにおおもいなら、こうしましょう。この男を今日きょうからさむらいをやめさせて、わたしの弟子でしにして、出家しゅっけさせます。それで堪忍かんにんしておやりなさい。」
 といいました。
 悪右衛門あくうえもんもとうとう和尚おしょうさんにせられて、いったんとりこにした保名やすなはなしてやりました。
 やがて悪右衛門あくうえもん主従しゅじゅう和尚おしょうさんにわかれをげて、またもりの中にすっかり姿すがたえなくなりますと、和尚おしょうさんは、そのときまで、ぼんやりゆめをみたようにすわっていた保名やすなかって、
「さあ、乱暴者らんぼうものどもが行ってしまいました。またつからないうちに、そっとこうのみちとおってげていらっしゃい。わたくしはさっきあなたにたすけていただいた、このもりきつねです。御恩ごおん一生いっしょうわすれません。」
 こういうがはやいか、和尚おしょうさんはもうまたもときつね姿すがたになって、しっぽをりながら、悪右衛門あくうえもんたちがかえっていった方角ほうがくとはちがったこうのもりの中のみちはいっていきました。それはさも、自分じぶんについていというようでした。保名やすなはいよいよゆめの中でゆめたような心持こころもちがしながら、うかうかとそのあとについていきました。

[1] [2] [3] 下一页  尾页


 

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作家:

  • 下一篇作家:
  •  
     
     
    网友评论:(只显示最新10条。评论内容只代表网友观点,与本站立场无关!)
     

    没有任何图片作家

    广告

    广告