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葛の葉狐(くずのはぎつね)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-1 12:05:16  点击:  切换到繁體中文


     二

 もう日がとっぷりれて、よるになりました。くらあいだから、けばびそうにうす三日月みかづきがきらきらとひかってえていました。保名やすなはいつのにかきつね行方ゆくえ見失みうしなってしまって、心細こころぼそおもいながら、もりの中のみちをとぼとぼとあるいて行きました。しばらく行くと、やがてもりきて、山と山とのあいだの、たにあいのようなところへ出ました。体中からだじゅうにうけたきずがずきんずきんいたみますし、もうつかれきってのどがかわいてたまりませんので、みずがあるかとおもってたにへずんずんりていきますと、はるかの谷底たにぞこひとすじ、白いぬのをのべたような清水しみずながれていて、つきひかりがほのかにたっていました。そのひかりの中にかすかに人らしい姿すがたえたので、保名やすなはほっとして、いたあしをひきずりひきずり、岩角いわかどをたどってりて行きますと、それはこんなさびしいたにあいにもつかない十六七のかわいらしい少女おとめが、谷川たにがわ着物きものあらっているのでした。少女おとめ保名やすな姿すがたるとびっくりして、あやうくまえていたいわみはずしそうにしました。それから保名やすなだらけになった手足てあしと、ぼろぼろにけた着物きものと、それになによりも死人しにんのようにあおざめたかおると、おもわずあっとさけびごえをたてました。保名やすなどくそうに、
おどろいてはいけません。わたしはけっしてあやしいものではありません。大ぜいの悪者わるものわれて、こんなにけがをしたのです。どうぞみずを一ぱいませてください。のどがかわいて、くるしくってたまりません。」
 といいました。
 むすめはそうくとたいそうどくがって、谷川たにがわみずをしゃくって、保名やすなませてやりました。そしてそのみじめらしい様子ようすをつくづくとながめながら、
「まあ、そんな痛々いたいたしい御様子ごようすでは、これからどこへいらっしゃろうといっても、途中とちゅうあるけなくなるにきまっています。むさくるしいいえで、おいやでしょうけれど、ともかくわたくしのうちへいらしって、きずのお手当てあてをなさいまし。」
 といいました。
 保名やすなたいそうよろこんで、むすめあとについてそのいえへ行きました。それはやまかげになったさびしいところで、うちにはむすめのほかにだれも人はおりませんでした。このむすめおや兄弟きょうだいもない、ほんとうの一人ひとりぼっちで、このさびしいもりおくんでいるのでした。
 そのくる日保名やすなは目がめてみると、昨日きのううけたからだきず一晩ひとばんのうちにひどいねつをもって、はれがっていました。体中からだじゅう、もうそれは搾木しめぎにかけられたようにぎりぎりいたんで、つこともすわることもできません。そこで保名やすなこころのうちにはどくおもいながら、毎日まいにちあおむけになってたまま、親切しんせつむすめ世話せわからだをまかしておくほかはありませんでした。
 保名やすなからだもとどおりになるにはなかなか手間てまがかかりました。むすめはそれでも、毎日まいにちちっともきずに、親身しんみ兄弟きょうだい世話せわをするように親切しんせつ世話せわをしました。保名やすなからだがすっかりよくなって、ってそと出歩であるくことができるようになった時分じぶんには、もうとうにあきぎて、ふゆなかばになりました。もりおくまいには、毎日まいにち木枯こがらしがいて、ちつくすと、やがてふかゆきもりをもたにをもうずめつくすようになりました。保名やすなはそのままいっしょにゆきの中にうずめられて、もりを出ることができないでいました。そのうちゆきがそろそろけはじめて、時々ときどきもりの中に小鳥ことりこえこえるようになって、はるちかづいてきました。保名やすな毎日まいにち親切しんせつむすめ世話せわになっているうち、だんだんうちのことをわすれるようになりました。それからまた一ねんたって、二めのはるおとずれてくる時分じぶんには、保名やすなむすめあいだにかわいらしい男の子が一人ひとりまれていました。このごろでは保名やすなはすっかりもとのさむらい身分みぶんわすれて、あさはやくから日のれるまで、いえのうしろのちいさなはたけてはお百姓ひゃくしょう仕事しごとをしていました。おかみさんのくずは、子供こども世話せわをする合間あいまには、はたかって、おっと子供こども着物きものっていました。夕方ゆうがたになると、保名やすなはたけからいてあたらしい野菜やさいや、仕事しごと合間あいまもりった小鳥ことりをぶらげてかえってますと、くず子供こどもいてにっこりわらいながら出てて、おっとむかえました。
 こういうたのしい、平和へいわ月日つきひおくむかえするうちに、今年ことし子供こどもがもう七つになりました。それはやはり野面のづらにはぎやすすきのみだれたあきなかばのことでした。ある日いつものとおり保名やすなはたけに出て、くず一人ひとりさびしく留守居るすいをしていました。お天気てんきがいいので子供こどもへとんぼをりに行ったまま、あそびほおけていつまでもかえってませんでした。くずはいつものとおりはたかって、とんからりこ、とんからりこ、はたりながら、すこつかれたので、手をやすめて、うっとりにわをながめました。もううすれかけたあき夕日ゆうひの中に、白いきくはながほのかなかおりをたてていました。くずなんとなくうるんださびしい気持きもちになって、われわすれてうっかりとたましいしたようになっていました。そのときそとから、
「かあちゃん、かあちゃん。」
 とびながら、あそつかれた子供こどもけてかえってました。うっとりしていて、そのこえにもがつかなかったとみえて、くず返事へんじをしないので、不思議ふしぎおもって子供こどもはそっとにわはいってみますと、いつものようにはたかっている母親ははおや姿すがたえましたが、はたる手はやすめて、はたうえにつっぷしたまま、うとうとうたたをしていました。ふとるとそのかおは、人間にんげんではなくって、たしかにきつねかおでした。子供こどもはびっくりして、もう一見直みなおしましたが、やはりまぎれもないきつねかおでした。子供こどもは「きゃっ。」と、おもわずけたたましいさけびごえげたなり、あとをもずにそとしました。
 子供こどものさけびごえに、はっとしてくずは目をましました。そしてちょいとうたたをしたに、どういうことがこったか、のこらずってしまいました。ほんとうにこのくず人間にんげんの女ではなくって、あのとき保名やすなたすけられたわか牝狐めぎつねだったのです。きつね今日きょうまでかくしていた自分じぶんみにくい、ほんとうの姿すがた子供こどもられたことを、ぬほどはずかしくも、かなしくもおもいました。
「もうどうしても、このままこうしていることはできない。」
 こうくずはいって、はらはらとなみだをこぼしました。
 そういいながら、八ねんあいだなれしたしんだ保名やすなにも、子供こどもにも、このすまいにも、わかれるのがこの上なくつらいことにおもわれました。さんざんいたあとで、くずがって、そこの障子しょうじの上に、

こいしくば
たずねてみよ、
和泉いずみなる
しのだのもり
うらみくず。」
 とこういて、またしばらくきくずれました。そしてやっとおもいきってがると、またなごりしそうにかえり、かえり、さんざん手間てまをとったあとで、ふいとどこかへ出ていってしまいました。
 もう日がれかけていました。保名やすな子供こどもれてはたけからかえってました。母親ははおやわった姿すがたてびっくりした子供こどもは、きながら方々ほうぼう父親ちちおやのいるところさがあるいて、やっとつけると、いまがたたふしぎを父親ちちおやはなしたのです。保名やすなおどろいて、子供こどもれて、あわててかえっててみると、とんからりこ、とんからりこ、いつものはたおとこえないで、うちの中はひっそりと、しずまりかえっていました。うちじゅうたずねまわっても、うらからおもてへとさがまわっても、もうどこにもくず姿すがたえませんでした。そしてもうがた薄明うすあかりの中に、くっきり白くしている障子しょうじの上に、よくると、いてありました。
こいしくば
たずねてみよ、
和泉いずみなる
しのだのもり
うらみくず。」

 母親ははおやがほんとうにいなくなったことをって、子供こどもはどんなにかなしんだでしょう。
「かあちゃん、かあちゃん、どこへ行ったの。もうけっしてわるいことはしませんから、はやかえってください。」
 こういいながら、子供こどもはいつまでもやみの中をさがまわっていました。さっきかおわったのにおどろいてこえてたので、母親ははおやがおこって行ってしまったのだとおもって、よけいかなしくなりました。きつねのかあさんでも、もののかあさんでもかまわない、どうしてもかあさんにいたいといって、子供こどもはききませんでした。
 あんまり子供こどもくので、保名やすなこまって、子供こどもの手をいて、てどもなくくらやみのもりの中をさがしてあるきました。とうとう信田しのだもりまでると、とうに夜中よなかぎていました。けっして二姿すがたせまいとこころちかっていたくずも、子供こどもごえにひかれて、もう一くさむらの中に姿すがたあらわしました。子供こどもはよろこんで、あわててりすがろうとしましたが、いったんもときつねかえったくずは、もうもと人間にんげんの女ではありませんでした。
「わたしのからだにさわってはいけません。いったんもとみかにかえっては、人間にんげんとのえんれてしまったのです。」
 とくずぎつねはいいました。
「おまえきつねであろうとなんであろうと、子供こどものためにも、せめてこの子が十になるまででも、もとのようにいっしょにいてくれないか。」
 と保名やすなはいいました。
「十まではおろか一生いっしょうでも、この子のそばにいたいのですけれど、わたしはもう二人間にんげん世界せかいかえることのできないになりました。これを形見かたみのこしておきますから、いつまでもわたしをわすれずにいてください。」
 こういってくずぎつねは一すんほうぐらいのきんはこと、水晶すいしょうのようなとおった白いたま保名やすなわたしました。
「このはこの中にはいっているのは、竜宮りゅうぐうのふしぎな護符ごふです。これをっていれば、天地てんちのことも人間界にんげんかいのことものこらず目にるようにることができます。それからこのたまみみてれば、鳥獣とりけもの言葉ことばでも、草木くさきいしころの言葉ことばでも、手にるようにかります。この二つの宝物たからもの子供こどもにやって、日本にっぽん一のかしこい人にしてください。」
 といって、二つの品物しなもの保名やすなわたしますと、そのまますうっときつね姿すがたはやみの中にえてしまいました。

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