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血ぬられた懐刀(ちぬられたかいとう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-3 6:55:10  点击:  切换到繁體中文



聚楽第の秘密

 そもそも幸蔵主とは何者であろうか? 豊臣秀吉の大奥に仕えてそれの切り盛りをしているところの、いうところの老女であった。女ながらもずば抜けた知恵者で、一面権謀術数に富み、一面仁慈寛大であった。加藤清正や福島正則や、片桐且元かたぎりかつもとというような人さえ、幸蔵主には恩顧を蒙り、一目も二目も置いていた。秀吉さえも智謀を愛して、裏面の政治に関与させ、懐中刀として活用した。もう老年ではあったけれど、壮者をしのぐ、意気もあった。
 また秀次が孫七郎となのって、三好法印浄閑ほういんじょうかんなるものの、実子として家にいた頃から、幸蔵主は秀次を知っていた。三好康長やすながが秀次を養い、さらに秀吉が養子として、秀次を殊遇しはじめてから、幸蔵主は一層秀次に眼をかけ、よき注意を与えていた。で、幸蔵主は秀次にとっては、母とも乳母ともあたる人であった。
 ところで秀次は累進して、そうして秀吉の後を受けて、関白職に経上って、聚楽じゅらくだいの主人となって、権を揮うようになって以来、ようやく秀吉と不和になった。
 秀吉の謀将の石田三成や、増田長盛ながもりというような人と、気が合わなかったのが原因の一つで、秀吉の愛妾の淀君なるものが、実子秀頼ひでよりを産んだところから、秀頼に家督をとらせたいと、淀君も思えば秀吉も思った。自然秀次が邪魔になる――というのが原因の第二でもあった。
 秀吉との不和は秀次にとっては、何よりも恐ろしいものであった。で、甘心を買おうとした。それを中にいて斡旋したのが他ならぬ老女の幸蔵主であった。
 その幸蔵主が忍ぶようにして、伏見の秀吉の居城からこの聚楽へ来たのであった。
 そうして何やら幸蔵主は、秀次に旨を含ませたらしい。
 どういう旨だかわからない。
 しかしどうやら秀次にとっては、快くない旨らしい。それには従おうとはしないのであった。
 そうして終日不機嫌であった。
 で、何となくここ数日、聚楽第の空気は険悪であった。
「ナーニ大丈夫だ大丈夫だ」
 不破小四郎は事もないように、さも不雑作にこう云ったが、自信がありそうに一同を見た。
「幸蔵主の姥がやって来て、殿下のご機嫌がよくなくて、終日終夜の乱痴気騒ぎで、上下が昏迷をしているのが、かえって俺には好都合なのさ。どさくさまぎれに申し上げて、殿下のお許しを受けるのさ。よろしいれ! と仰せられるであろうよ。どっちみち俺は明日か明後日、関白殿下のお使者として、北畠の邸へ出かけて行こう。承知くも承知かないもありはしない。関白殿下よりのご命令なのだ。娘を差し出すに相違ない。承知かない場合には攫って来る」
 間違いはないよと云うように、小四郎は額をこするようにしたが、果たして成功するであろうか?


巨人と怪人

 その日からちょうど二日経った。
 ここは聚楽の奥庭である。おりから深夜で月はあったが、植え込みが茂っているために、月の光が遮られている。
 一宇のちんが立っていて、縁の一所が月光に濡れて、水のように蒼白く暈けていた。
 そこに腰をかけている武士がある。
 思案にあまったというように、胸の辺りへ腕を組んで、じっと足許を見詰めている。
 木の間をとおして聚楽第の、宏壮な主殿おもやが見えていたが、今夜も酒宴と思われて、陽気な声が聞こえてくる。間毎々々まごとまごとに点もされたが、不夜城のようにも明るく見える。
「どうしたのだろう、遅いではないか」
 縁に腰をかけた大兵の武士は、誰かを待ってでもいると見えて、ふとこう口に出して呟いた。
 と、その呟きに呼ばれたかのように、巨大な蘇鉄の根元を巡って、小兵の武士があらわれた。
「木村殿かな? 常陸ひたち殿かな」
「おお五右衛門か、待ちかねていたよ」
「約束の時刻よりは早いつもりだ」
 云い云い静かに歩み寄って、縁へ腰をかけた常陸介と、押し並ぶように腰かけたのは、無徳道人むとくどうじん事石川五右衛門であった。
 ちょいと五右衛門は主殿おもやの方を見たが、
「相変わらず今夜も盛んだの」
「うん」と云ったものの常陸介の声には、憂わしい不安な響きがあった。
「あの有様だから困るのだ」
「そうさ、あれでは困るだろう」
 で、沈黙が二人へ来た。
「ところで五右衛門結果はどうだ?」
 ややあって常陸介がこうたずねた。
「うむ、ともかくも一通りは探った」
 五右衛門の声には笑殺しょうさつがある。
「ただの私用ではないのだよ」
「俺もそうだろうとは感付いていたが、幸蔵主の態度が不明なのでな」
「あれは秀吉の懐中ふところ刀さ」
「が、我君にも忠実のはずだ」
「しかしそれは私情だよ。大事に処せば私情などは、古沓ふるぐつのように捨てしまう」
「お互いそれには相違ないさ。……で、幸蔵主が我君を連れて伏見の城へ行こうとするのは、やはり太閤の指し金かな?」
「そうだ秀吉の指し金なのだ」
「伏見へ召してどうするのだろうな?」
「まず詰腹でも切らせるだろうよ」
「詰腹。……ふうむ。……そうかも知れない。……」
 常陸介にもそういうことは、以前から心にあったものと見えて、そう云われても驚かなかった。しかし苦悶は感じたらしい。俯向いて足許を睨んでいる。五右衛門もしばらくは物を云わない。で、この境地はひそやかであった。
 それと反対の趣をなして、明るい華やかな笑い声が、主殿の方から聞こえてきた。
「五右衛門」と常陸介は呼びかけた。
「ひとつ詳しく話してくれ、伏見はどんな様子なのだ」
「詳しく話せと云ったところで、これと云って詳しく話すところもないが。だがマア探っただけを話して見よう。……お前から依頼たのみを受けたので、その足で直ぐに伏見へ行って、城中へ忍んだというものさ。秀吉め天下に敵がないというので、安心しきっているのだろう。城のかためなんか隙だらけだった。で、奥御殿へ行くことが出来た。それでもさすがに宿直とのいの部屋には、仙石せんごく権兵衛だの薄田隼人すすきだはやとだのが、肩や肘を張って詰めていたよ、しかしそいつの話と来ては、お話にも何にもならなかった。女の話ばかりしているのだからな。ところで秀吉はどうかといえば、例の淀君めを相手にして、これもやはりたわいないことを、話していたというものさ。と、声が聞こえてきた。
『……幸蔵主に胸を[#「胸を」はママ]含ましておいた。大方うまくやるだろう。……そう心にかけないがよい。……実子は俺だって可愛いいからの……』
 秀吉が淀君へ云ったのさ。すると淀めが笑い出したっけ。――これだけ聞けば用はない。で城から抜け出したが、その時つくづく思ったものだ。ナニ秀吉の寝首などは、掻こうと思えば掻けるものだとな。……秀吉だと云ったって人間だ、油断もあれば隙もあるとな。……それから俺は念のために、石田治部ちぶめの屋敷へ忍んだ。するとどうだろう増田長盛ながもりめが、ちゃんと遣って来ているではないか。
『幸蔵主殿の甘言を以て秀次君をおびき出し、城中で詰腹を切らせましょう』
『いやいや我君のお眼に入れては、血縁のある伯父姪[#「姪」はママ]でござる。いっそ途中の伏見街道で、お腹を召さすがよろしかろう』
 これが二人の話なのだ。――これだけ耳にすれば用はない。で俺は直ぐに抜け出したのだが、道々俺は考えたよ。大胆不敵の話だとな。何故というに他でもない。とにかく天下の関白職を、まるで鶏でも絞めるように、無雑作に殺すことに決めているからさ。そうしてにわかに恐ろしくなった。やはり秀吉は偉い奴だ。やろうと思えばどんなことでもやる。とても普通の人間ではない。隙だらけと思っていた伏見の城が、恐ろしいものにも思われて来た。今度忍んだらられるだろう――そんなようにも思ったものさ」
 黙って聞いていた木村常陸介は、五右衛門の話が終えてからも、いぜんとして沈黙をつづけていた。
 で、境地はひそやかである。
 それだけに聚楽の主殿における、夜宴の賑かさが気味悪く聞こえる。
 と、卒然と常陸介は云った。
「五右衛門もう一度忍んでくれ」
「もう一度伏見城を探れと云うのか?」
「秀吉の寝首を掻いてくれ」
「…………」
 またも沈黙がやって来た。
 二人ながら黙っている。

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