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敵討札所の霊験(かたきうちふだしょのれいげん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-12 9:22:13  点击:  切换到繁體中文


        二

 翌朝よくあさ門切もんぎれにならんうちにと支度を致しまして、
又「これ/\婆ア/\」
婆「厭だよ婆アなんてさ」
 と云いながら屏風を開けて、
婆「お呼びなはいましたか」
又「いや昨夜ゆうべちっとも小増はぬて」
婆「誠にねどうも、流行はやりですから生憎あいにくお馴染が落合ってさ、う折の悪い時は仕様がないもので、立込んでね」
又「左様かね、かねて聞くが、初会は座敷切りと聞くが全く左様か」
婆「まアねう云った様なもので有りますから」
 吉原の上等の娼妓ならお座敷切りという事も有りましたが、岡場所では左様なことは有りませんが、そこが国育ちで知りませんから、成程そうかと又四五日置いて来ましたが、また振られ、又二三日置いて来たが振って/\振抜かれるが、ほれるというものは妙なもので、小増が煙草を一ぷく吸付けてお呑みなはいと云ったり、また帰りがけに脊中せなかをぽんと叩いて、
小増「誠に済まねえのだよ、今度屹度きっと来ておくんなはい」
 と云われるのが嬉しく思いまして、しげ/\通いましたが、又市も馬鹿でない男でございますから、しまいには癇癪をおこして、藤助とうすけという若者わかいものを呼んで居ります。
婆「藤助どん行っておくれ、小増さんも時々顔でも見せてればいのに、ひどく厭がるから困るよ」
又「これ/\袴を出せ」
婆「おや誠にどうもおはんにお気の毒でね」
又「婆ア此処こゝへ来い、どうも貴公の家は余りと云えば不実ではないか、一度も小増は快くわしが側にったことはないぞ」
婆「何時いつでもう云ってるので、生憎あいにく流行はやりだからね、おはん腹を立っては困りますよ、まことに間が悪いじゃアねえか、お前はんの来る時にゃアお客が落合ってさ、済まねえとお帰し申したあとでお噂して、一層気を揉んでりますのさ」
又「そんな事は度々たび/\聞いたが、最早二度と再び来ないが、田舎者にはアいう肌合はだあいな気象だから、肌は許さぬとかいう見識が有るから、お前が来てもとて買通かいとおせぬから止せと親切に云ってくれてもさそうなものだ、つべこべ/\馬鹿世辞を云って、此ののち二度ふたゝび来ぬから宜いか、其の方達は余程不実な者だね、どうも」
婆「不実と云ったって私達わっちたちのどうこうと云う訳にはきませんからさ、まことに自由にならないので」
藤助「へい、あのおさんは流行妓はやりっこでございますから、お金で身体を縛ってしまいますから」
又「小増の身体をたれか鎖で縛ると申すか」
婆「あれさ、小増さんに此方こっちで三十両出そうと云うと、彼方あっちで五十両出そうと云って張合ってするのだから、まことに仕様がございませんよ、流行妓てえなア辛いものでそれだから苦界くがいと云うので、察して気を長くお出でなさいよ」
又「成程是まで度々参っても振られる故、屋敷へ帰っても同役の者が…それ見やれ、とても無駄じゃ、詰らぬから止せと云って大きに笑われ、迚も貴公などには買遂げられぬ駄目だと云われたが、金ずくで自由になる事なら誠に残念だから、幾られば必らずわしなびくか」
婆「ねえ藤助どん、金ずくで自由になればと云うが……まアねえ其処そこは義理ずくだからね、お金をまアねえ二拾両も遣って長襦袢でも買えと云えば、気の毒なと云って嬉しいと思って、又おはんに前よりじょうの増す事が有るかも知れませんよ」
又「婆アの云う事はりあげられんが、藤助しかと請合うか」
藤「それは義理人情で、たしかにそれは是非小増さんがねえ」
又「しからば宜しい、今日は機嫌く帰って二十両持って来よう」
 と笑って、其の日は屋敷へ帰ったが、勤番者でほかから金子を送る者もないから、大事の大小を質入しちいれして二十五金をこしらえ、正直に奉書の紙へ包み、長い水引をかけ、折熨斗おりのしを附けて金二十両小増殿水司又市と書いて持って参りまして、すぐに小増につかわし、これから酒肴さけさかなを取って機嫌好く飲んで居たが、その晩も又小増が来ないから顔色がんしょくを変えておこりました。いつもの通り手を叩くことおびたゞしいが、怖がってたれも参りません。
婆「一寸ちょっと藤助どん往っておくれよ」
藤「困りますね」
婆「今日は中根なかねはんが来て居るので、いゝえさ、どうも中根はんと深くなって居て、中根はんが上役だから下役の足軽みたいな人の所へは行かないのだよ」
藤「困りますな、おこるとあの太い腕でぶたれますが、今度は取捕とっつかまるとんな目に逢うか知れまいから驚きますねえ」
婆「私は怖いからお前一寸行ってお呉れよ」
藤「困りますね何うも……御免」
又「此方こっちへ這入れ」
藤「どうも誠に」
又「何も最早聴かんで宜しい、再度欺かれたぞ、小増が来られなければ来ぬで宜しい、飲食のみくいは手前したのだから払うが、今晩の揚代金ことに小増に遣わした二十金は只今持って来て返せ、不埓至極な奴、斯様かような席だから兎や角云わぬが、余りと申せばしからん奴、金を持って来て返せ」
藤「何ともどうも私共わたくしどもには」
又「いやわたくしどもと云っても手前何と云った…わきまえぬか」
婆「一寸水司はん、生憎今日も差合さしあいがあって」
又「黙れ、婆アの云う事は採上とりあげんが、これ藤助、其の方は何と申した、二十両遣わせば小増は相違なく参りますと申したではないか、男が請合って、それを反故ほごにする奴があるか、男子たるべき者が」
藤「中々男子だってういう訳には参りませんので、この廓では女の子に男がつかわれるので、わたくしどもの云う事は聴きませんからね、どうも」
又「これ」
藤「あいた、痛うございます、何をなさる」
又「これくもおれを欺いたな、此奴こやつめ」
藤「あいた……いけません、遊女屋で柔術やわらの手を出してはいけません、わたしどもの云う事を聴くのではございませんから」
 とびても聞き入れず、若者わかいものの胸ぐらを取って捻上ねじあげました。

        三

 大騒ぎになりますと、此の事を小増が聞き、生意気ざかりの小増、止せばいのに胴抜どうぬきなり自惰落じだらくな姿をして、二十両の目録包を持って廊下をばた/\って来て、障子を開けて這入って来ました。又市は腹を立って居たが、顔を見ると人情で、間の悪い顔をしている。
小増「一寸ちょっと又市さん何をするの、藤助どんの胸倉をとってさ、此の人を締殺す気かえ、遊女屋の二階へ来て力ずくじゃア仕様がないじゃアないか、今聞けばお金を返せとお云いだね」
又「これさ返せという訳ではないが、お前が一度も来てくれんからの事さ、来てさえ呉れゝば宜しい、今まで度々たび/\参っても、お前がついに一度もわしに口を利いたこともないから、私はどうも田舎侍で気に入らぬは知っているが、同役の者にも外聞であるから、せめて側に居て、快く話でもしてくれゝばおおきに宜しいが、大勢打寄って欺くから…斯様かようなことを腹立紛れにしたのは私が悪かった」
小「悪かったじゃアないよ、わちきはおはんのような人は嫌いなの、お前大層な事を云っているね、金ずくで自由になるようなわちきやア身体じゃアないよ、二十両ばかりの端金はしたがねを千両がねでも出したような顔をして、手を叩いたり何かしてさ、騒々しくって二階中寝られやアしないよ、お前はんに返すから持って帰んなまし、お前はんのような田舎侍は嫌いだよ」
 と云いながら又市の膝へ投付けて、
小「いけ好かないよう、腎助じんすけだよう」
 と部屋着のすそをぽんとあおって、廊下をばた/\駈出して行った時は、又市は後姿うしろすがたを見送って、真青まっさお顔色がんしょくを変えて、ぶる/\ふるえて、うーんと藤助の腕を逆にねじり上げました。
藤「あいた/\/\、あなた、あいた……そんな乱暴なことをしては困りますねえ、わたくしなどの云う事を聞くではありませんから」
又「田舎侍はいやだと云うは、もとより其の方達も心得ろうに」
藤「あいた……腕が折れます、一寸ちょっとおかやどん、小増さんを呼んで来てというに、あゝいた/\/\/\」
 大騒ぎになりましたが、丁度此の時遊びにまいって居たのが榊原藩の重役中根善右衞門なかねぜんえもん嫡子ちゃくし善之進ぜんのしんと云う者でございますが、御留守居役[#「御留守居役」は底本では「御留守居後」]《おるすいやく》の御子息で、まだ二十四歳でございますから、隠れ忍んで来るが、取巻とりまきは大勢居まして、
取巻「もし困るではございませんか、遊女屋の二階で柔術やわらの手を出して、若者わかいもの拳骨げんこつをきめるという変り物でございますが、大夫たいふが是にいらっしゃるのを知らないからの事さ、大夫のお馴染を知らないで通うぐらいの馬鹿さ加減はありません、あなた一寸ちょっとお顔を見せると驚きますよ、ちょいと鶴の一と声で向うで驚きますよ、ね小増さん」
小増「左様そうさ、一寸ちょいと顔を見せておりなさいよう」
 と大勢に云われますと、そこが年のかんからぐに立上りましたが、黒出くろでの黄八丈の小袖にお納戸献上なんどけんじょうの帯の解け掛りましたのを前へはさみながら、十三間平骨ひらぼねの扇を持って善之進は水司のいる部屋へ通ります。又市は顔を一寸ちょっと見ると重役の中根でございますから、其の頃は下役の者は、重役に対しては一言半句いちごんはんくも答えのならぬ見識だから驚きました。あとさがって、
又「是はしからん所で御面会、かゝる場所にてなにとも面目次第もござらん」
善「これこれ水司、うしたものじゃ、遊女屋の二階でそんな事をしてはいかん、此処こゝは色里であるよ、左様そうじゃアないか、たけき心をやわらぐる廓へ来て、取るに足らん遊女屋の若い者を貴公が相手にして何うする積りじゃ、馬鹿な事じゃアないか、ことに新役では有るし、度々屋敷を明けては宜しくあるまい、わしなどは役柄で余儀なく招かれたり、あるい見聞けんもんかた/″\毎度足を運ぶことも有るが、貴公などは今の身の上で彼様かような席へ来て遊女狂いをする事が武田へでも知れるとすぐにしくじる、内聞に致すから帰らっしゃい」
又「まことに面目次第もございません、つい一夜ひとよ参りましたが、とんと不待遇ふあしらいでござって、残念に心得、朋友にもとても田舎侍が参っても歯は立たぬなどと云われますから、残念に心得再度参りました処が、如何いかに勝手を心得ません拙者でも、余りと云えば二階中の者が拙者を欺きまして、あまり心外に心得まして……それ其処そこに立って居ります、貴方あなたのお側に立ってるその小増と申す婦人に迷いまして、金を持って来れば必らずなびくと申しますから、昨夜二十金才覚致して持って参りますと、それを不礼ぶれいにも遊女の身として拙者へ対して悪口あっこうを申すのみか、金を膝の上へ叩付けましたから残念に心得、彼様かような事に相成りまして、誠に何うもお目にとまり恐れ入りますが、どうか御尊父様へも武田様にも内々ない/\に願います」

        四

善「左様か、この小増はわしが久しい馴染で、ういうくるわには意気地いきじと云って、一つ屋敷の者で私に出ている者が、下役の貴公には出ないものじゃ、そこが意気地で、少しは傾城けいせいにも義理人情があるから、私が買って居る馴染の遊女だから貴様に出ないのだから、小増の事は諦めてくれ、是は私が馴染の婦人だから」
又「へえー左様で、貴方のお馴染で、ふうー」
小「一寸ちょっと水司はん、わちきの大事のね、深い中になって居るお客というのは此の中根はんで、中根はんに出ている私がおはんの様な下役に出られますかねえ、く考えて御覧なはいよ、出たくも出られませんからさ、又おまえはんの様な人に誰が好いて出るものかねえ、お前顔を宜く御覧、あの己惚鏡うぬぼれかがみで顔をお見よ、お前鏡を見た事がないのかえ、火吹達磨ひふきだるまみたいな顔をしてさア、おはんの顔を見ると馬鹿/\しくなるのだよう」
 と云われるから胸に込上げて、又市のぼあがって、此度こんどなお強く藤助の胸ぐらを取ってうーんと締上げる。
藤「あなたいたい……わたくしを、どう…」
又「黙れ、今中根様の仰せらるゝ事を手前存じてるか、一つ屋敷の者には出ない、上役がお愛しなさる遊女をなぜ己に出した」
藤「あいた……これはあなた気が遠くなります、お助け下さい、死にます」
善「これ/\水司、あれほど云うに分らぬか、若い者を打擲ちょうちゃくして殺す気か、たわけた奴だ、左様なる事をすると武田へ云ってしくじらせるがうか、これ此の手を放さぬか/\」
 と云いながら十三間の平骨の扇で続けうちにしても又市は手を放しませんから、月代際さかやきぎわの所を扇のかなめこわれる程強く突くと、額は破れて流れる血潮。又市は夢中で居ましたが、額からぽたり/\血が流れるを見て、
又「はアお打擲にいまして、手前面部へきずが出来ました」
善「左様なまねをするから打擲したが如何いかゞ致した、汝はな此の斯様かような所へ立廻ると許さぬから左様心得ろ、痴呆たわけめ、早く帰れ/\」
又「何も心得ません処の田舎侍でござって、一つ屋敷の侍が斯様なる所へ来て恥辱を受けますれば、その恥辱を上役のお方がそゝいで下さることと心得ましたを、かえって御打擲に遇いまして残念でござりまする、只今帰るでござる、これ女ども袴と腰の物を是へ持て」
 と急に支度をしてどん/\/\/\と毀れるばかりに階子はしご駈下かけおりると、止せばいに小増を始め芸者や太鼓持まで又市の跡を付けて来まして、
小「あれさ、お上役に逢っては一言もないからさ泣面なきつらしてさ、泣面は見よい物じゃアないねえ、あの火吹達磨や、泣達磨や、へご助や」
 とわい/\言われるから猶更逆上のぼせて履物はきものも眼にらず、紺足袋こんたびのまゝ外へ出ましたが、丁度霜月三日の最早あけ近くなりましたが、霜が降りました故かもや深く立ちまして、一尺先も見分みわかりませんが、又市は顔に流るゝ血を撫でると、手のひらへ真赤まっかに付きましたから、
又「残念な、武士の面部へ疵を付けられ、此のまゝには帰られん、たとえ上役にもせよ憎い奴は中根善之進、もう毒喰わば皿まで、彼奴あいつ帰れば武田に告げ、わしをしくじらせるに違いない、ことには衆人満座の中にて」
 と恋の遺恨と面部の疵、捨置きがたいは中根めと、七軒町しちけんちょう大正寺たいしょうじという法華寺ほっけでらむこう、石置場いしおきばのある其の石のかげに忍んで待っていることは知りません、中根は早帰りで、銀助ぎんすけという家来に手丸てまる提灯ちょうちんを提げさして、黄八丈の着物に黒羽二重の羽織、黒縮緬の宗十郎頭巾そうじゅうろうずきんかぶって、かなめの抜けた扇を顔へ当てゝ、小声でうたいを唄って帰ります所へ、物をも言わず突然だしぬけに、水司又市一刀を抜いて、下男の持っている提灯を切落すと、腕がえて居りますから下男は向うのみぞへ切倒され、善之進は驚きあとさがって、細身の一刀を引抜いて、
善「なゝ何者」
 と振りかぶる。
又「おゝ最前の遺恨思い知ったか」
 と云う若気の至り、色に迷いまして身を果すと云う。これが発端はじめでございます。


 

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