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敵討札所の霊験(かたきうちふだしょのれいげん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-12 9:22:13  点击:  切换到繁體中文


        五

 水司又市が悪念の発しまする是れが始めでございます。若いうちは色気から兎角了簡の狂いますもので、血気いまだ定まらず、これをいましむる色にりと申しますが、すこぶ別嬪べっぴんが膝にもたれて
「一杯おあがんなさいよ」
 なぞと云われると、下戸でも茶碗でぐうと我慢して飲みましてわずらうようなことが有りますが、惚抜ほれぬいている者には振られ、ことに面部を打破られ、其の頃武家がかしらに疵が出来ると、屋敷の門をまたいでは帰られないものでございました。又市は無分別にも中根善之進を一刀両断に切って捨て、毒食わば皿までねぶれと懐中物をも盗み取り、小増にりました処の二十両の金は有るし、これを持って又市は越中国えっちゅうのくにへ逐電いたしました。此方こちら翌朝よくちょうになりましてもお帰りがないと云うので、下男が迎いに参りますと、七軒町で斯様かよう/\と云う始末、まず死骸を引取り検視沙汰、殊に上役の事でございますから内聞のはからいにしても、重役の耳へ此の事が聞え、部屋ずみの身の上でも、中根善之進何者とも知れず殺害せつがいされ、不束ふつゝかいたりと云うので、父善右衞門は百日の間蟄居ちっきょ致してまかれという御沙汰でございますから、翌年に相成りようやく蟄居がりましたなれども、う五十の坂を越して居ります善右衞門、大きに気力も衰え、娘おてると云うがございまして年十九に成りますから、これに養子を致さんではならんと心配致して居りましたが、丁度三月末の事、善右衞門が遅く帰りまして、
善右衞門「一寸ちょっとお前」
妻「お帰り遊ばせ」
善「いや帰りにね武田へ寄って来た」
妻「おや、大分だいぶお帰りがお遅うございますから、何処どこかへお立寄と存じまして」
善「少し悦ばしい話があるが」
妻「はい」
善「う云う訳だが、かねてお前も知っての通り、昨年悴がアいう訳になってわしつとめは辛いし、大きに気力も衰えたから、照にどんな者でも養子をして、隠居して楽がしたい訳でもないが、養子を致さんではと思って居た処が、幸いと武田の次男重二郎じゅうじろうが養子になるように相談がきまったよ」
妻「おやまアそれはうも此の上もない事でございます、お屋敷うちでも親孝行で、武芸と云い学問と云い、あんな方はございません、評判のい方でござりますねえ」
善「それにあれは武田流の軍学をくし、剣術は真影流の名人、文学も出来、役に立ちますが、継母に育てられ気がれて居て、如何いかにも武芸と云い学問と云い老年の者も及ばぬ、実にのくらいの養子は沢山たんとあるまい、此の上もない有難い事でのう、早く照をお呼びなさい」
妻「はい、お照や一寸此処こゝへおで、お父様とっさまがお帰りになったよ、さア此処へお出で」
 御重役でも榊原様では平生へいぜいは余りなりはしない御家風で、下役の者は内職ばかりして居るが、なれども銘仙めいせんあらい縞の小袖に華美はでやかな帯をめまして、文金の高髷たかまげで、お白粉しろいは屋敷だから常は薄うございますが、十九つゞ二十はたちは色盛り、器量よしの娘お照、親の前へ両手を突いて、
照「お帰り遊ばせ」
善「はい……此処へお出で、今お母様っかさまにお話をしたが、お兄様あにいさまは去年あの始末、お前にも早く養子をしたいと思ったが、親の慾目で、何うかまア心掛のよいむこをと心得て居ったが、武田の重二郎が当家へ養子に来てくれる様にうから話はして置いたが、ようやく今日話が調とゝのったからお母様と相談して、善は急げで結納の取交とりかわせをしたいが、媒妁人なこうどは高橋をもってする積りで、嫁入よめいりの衣裳や何かお前の好みもあろう、ういう物が欲しい、くしかんざしは斯う云うのとか、立派なことは入らぬが、くお母様と相談して、其の上で先方へも申込むから宜いかえ」
照「はいお父様わたくしに養子を遊ばす事はもう少しお見合せなすって」
善「見合せる、其様そんな事はありません、なんで見合せるのだえ」
照「はいわたくしはまだあなた養子は早うございます、それに他人が這入りますと、お父様お母様に孝行も出来ません様になりますから、私も心配でございますから、何卒どうぞもう四五年お待ち遊ばして」
善「そんな分らぬ事を云ってはいけません、早く養子をして初孫ういまごの顔を見せなければ成りません」
妻「ほんとうに養子をしてお前の身が定まれば、お父様も私も安心する、双方に安心させるのが孝行だよ……まことにあなた何時いつまでも子供のようでございます……あんない養子はございませんよ、うちへいらっしゃってもあの凛々りりしいお方で、本当に此の上もないお前仕合せな事だよ」
善「さア、はいと返辞をすればすぐに結納を取交せるから」
照「はい、わたくしはあのいけはたの弁天様へ、養子を致す事を三年の間願掛がんがけをしてちました」
善「そんな分らぬ事を言っては困りますよ、弁天へ行ってう云って来い、願掛けは致したが、親の勧めだからおがんを破ると云って来い、それでばちを当てれば至極分らぬ弁天と申すものだ、そんな分らぬ弁天なら罰の当てようも知るまいから心配はありませんよ、これ何時まで子供の様な事を云って何うなります、私が約束して今更変替へんがえは出来ません、直様すぐさま返事をおしなさい、これ照、困りますなア」

        六

妻「貴方、そう御立腹で仰しゃってもいけません……何時までもお前子供の様で、養子をすると云うものは怖いように思うものだけれど、私も当家へ縁付いた時は、こんな不器量な顔で恥かしい事だと否々いや/\ながら来ましたが、また亭主となれば夫婦の愛情は別で、お父様お母様にも云われない事も相談が出来て、結句頼もしいものだよ、あいとお云いよ/\、泣くのかえ」
善「なに泣くとは何事、泣くという事はありません、何だ」
妻「まア其様そんなにおおこり遊ばすな」
 と無理に手を取って娘の居間へ連れてき、種々いろ/\言含めたがたゞ泣いてばかり居て返答を致しませんのは、屋敷うちの下役に白島山平しろしまさんぺいという二十六歳になります美男とうから夫婦約束をして居りました。遠くして近きは恋の道でございます。逢引する処が別にございませんから、旧来うちに奉公を致して居りましたおきんと云う女中が、上野町うえのまちに団子屋をして居るので、此のうちの二階で山平と出会いますので、是が心配でございますから、おきんの所へ手紙を出しますと、此方こちらはおきんが山平を呼出しまして、二階で三鉄輪みつがなわで話をして居ります。
きん「どうも先達せんだっては有難うございます、貴方、あんな心配をなすっては困りますよ、お忙がしい処をお呼立て申しましたのは困った事が出来ましてね」
山「毎度厄介になりまして気の毒でのう、今日は急に人だから何事かと思って来たのだが、どう云うわけだえ」
きん「どう云うたって実に困りますよ、何うしたらかろうと存じまして、お照さまに御両親様から急に御養子を遊ばせと仰しゃるので、嬢様はいやだと云って弁天様へったと仰しゃったそうでござりますが、お父様が聴かぬので、一旦約束したから変替へんがえは出来ぬと云うので、仕方がないからわたくしは養子をする気はない、どんな事が有っても自分が約束したからは何処迄どこまでも強情を張る積りだが、お父様が腹を切るのなんのと云うから、いっそ身を投げて死んでしまおうと、小さいお子様の様な事を仰しゃるので困りますよ、何か云えばすぐに自害をするのなどと詰らん事を云うので困ります、わたくしは思案に余りますから貴方をお呼び申したので」
山「ふう成程、そうして何方どちらから御養子を」
きん「お嬢様の仰しゃるには、白島様には云わぬ方がいと仰しゃいますが、あの武田重二郎様ね、それあのいやな気の詰るお方で、私も御奉公して居るうち見ましたが、偏屈ないや堅苦かたっくるしいね嫌な人で、実に困った訳でございますけれども、いやと言切る訳にもきませんから誠に心配していらっしゃいます」
山「お照さん……この山平は江戸詰に成りまして間がない事で、これまでお引立ひきたてこうむりましたは、実は武田の重左衞門じゅうざえもん様の御恩でござります、そのお家の御二男様が御養子の約束になって居るものを、貴方がいやと仰しゃれば何故なにゆえそむくと、れより事があらわれますれば、拙者は屋敷を逐出おいだされる事になります、わたくしの身は仕方がない事でございますが、あなた様の御尊父にも済まぬ事で、何卒どうぞ是れまでお約束は致しましたが、何卒親御の意を背くは不孝なり、あなたも世間へ済まぬことになりますから、只今までの事は水にあそばして、何うかあなた武田から御養子をなすってください、実は只今まで私はお隠し申したが、国表を立出たちいでます時男子出産して今年二歳になります、国には妻子がございますので」
照「えゝ」
 と娘は驚きまして、じッと白島山平の顔を見て居りましたが、胸に迫ってわっとばかりに泣倒れました。
きん「あなた奥様があるの、おやお子さん方がお二人、まだ若いのに、おやうでございますかねえ…お嬢さん白島様が御迷惑になりますから、お厭でもございましょうけれども、思い切って貴方、お厭でも御養子を遊ばせな、此の事が知れると物堅い旦那様だからきんもきんだ、長らく勤めて居ながら娘を二階で逢引をさせるとは不埓ふらちな女だと仰しゃってわたくしが斬られるかも知れませんよ、ねえア云う御気象ですから、ねえ御養子をして置いて時々お逢い遊ばせよう、然うすりゃア知れやアしませんよ、あの釜浦かまうら様の御新造ごしんぞ様みたいな、彼アいう事もありますから、いじゃアありませんか、然う遊ばせよ」
山「誠に手前も夢の昔と諦めますから、申しお嬢様さぞ不実な者と思召おぼしめすでござりましょうが、この白島山平を可愛相かわいそうと思召すなら、あなた親御様の仰しゃる通り武田から御養子をなすって下さい、只今も金の申す通り、お聴済きゝずみがなければ止むを得ず、手前どうも切腹でもしなければならん訳で」
きん「貴方ア切腹なさると仰しゃるし、お嬢様は自害などと困りますねえ……お嬢様何う遊ばしますよ」
照「はい、それ程白島様が御心配遊ばす事なれば致方いたしかたがありませんから、それにお国に奥様もお子様もある事はわたくしは少しも知りません、う身を切られるより辛うございますけれども、あなたのお言葉でございますから、そむかず武田から養子致します」
 と云いながら、わっと泣き倒れました。

        七

 おきんも山平も安心して、
きん「宜く仰しゃいました、それで何うでも成ります、またねえ時々お逢い遊ばす工夫もつきますから」
 とようや身上みのうえの相談をして、お照は宅へ帰って、得心の上武田重二郎を養子にした処が、お照は振って/\振りぬいて同衾ひとつねをしません。家付の我儘娘、重二郎は学問にって居りますから、ふすまを隔てゝふけるまで書見をいたします。お照は夜着よぎかぶって向うを向いて寝てしまいます。なれども武田重二郎は智慧者ちえしゃでございますから、わしを嫌うなと思いながらも舅姑しゅうとの前があるから、照や/\と誠に夫婦中の宜い様にして見せますから、両親は安心致して居りますうち、段々月日が立ちますと、お照は重二郎の養子に来る前に最う身重みおもになって居りますから、九月の月へ入って五月目いつゝきめで、おなかが大きく成ります。若いうちは有りがちでございますから、まア/\淫奔おいたは出来ませんものでございます。お照は懐妊と気が付きましたから何うしたらかろう、何うかお目にかゝり相談をたいと、山平へ細々こま/″\と手紙をしたゝめ、今日あたりきんが来たらきんに持たせてやろうと帯の間へはさんで居りましたが、何処どこへ振落しましたか見えませんから、又細々とふみを認めおきんに渡し、それからすぐにおきんより山平へ届けましたので、九月二十日に団子茶屋へ打寄ったが、此の時は山平は真青まっさおになりました。
きん「もし白島様実に驚きましたよ、お嬢さん同衾ひとつねを遊ばさないので、それだからいけやアしません、同衾をなされば少し位月が間違って居てもごまかしますよ、何うしたって指の先ぐらいは似て居りますから、何うでも出来ますのを、振って/\振抜いて、同衾をしないので隠し様がありませんからさ、押して云えば仕方がないから、私は自害して死ぬばかり、私は二度と夫は持たない、親が悪い、無理に持たせたから当然あたりまえと仰しゃるだけで仕方がありませんよ」
山「露顕しては止むを得ない、何うしても割腹致すまでの事で」
きん「貴方は又そんな事を云って、仕様がございません、それじゃア相談のまとまり様がございません」
 とれの是れのと云って居りますと、折悪しく其の晩養子武田重二郎は傳助でんすけと云う下男を連れて、小津軽こつがるの屋敷へ行って、両国を渡って帰り、御徒町おかちまちへ掛ると、
重「大分だいぶ傳助道がぬかるのう」
傳「先程降りましたが塩梅あんばいに帰りがけに止みました」
重「長い間待遠まちどおで有ったろう」
傳「いえもう貴方お疲れでございましょう、御番退ごばんびけから御用おおでいらしって、彼方此方あちらこちらとお歩きになって、お帰り遊ばしてもすぐ御寝おげしなられますと宜しいが、矢張お帰りがあると、御新造ごしんぞ様と同じ様に御両親が話をしろなどと仰しゃると、お枕元で何か世間話を遊ばして御機嫌を取って、お帰り遊ばしても一口召上って、ゆる/\お気晴しは出来ませんで、誠に恐入りましたな」
重「何も恐入ることはない、わしは仕合せだのう、幼年の時継母に育てられても継母が邪慳じゃけんにもしないが、気詰りであったけれど、当家へ養子に来てからは舅御しゅうとごの通りい方で、此の上もない仕合せで」
傳「へえわたくしは旧来奉公致しますが、旦那様も御新造様もいかつい事を云わないお方で、誠にわたくしも仕合せで、実にアいう方でございますから、斯様かようなことを申しては恐入りますが、若御新造様はすこしも御奉公遊ばさない、世間を御存じがない方でございますからな、あなたがお疲れの処へ、御両親様の御機嫌を取ってお長くいらっしゃる時には、御新造様がうお疲れだからとい様に云ってお居間に連れ申して、おすきな物で一杯上げる様にお気が付くとよろしいが、余り遅くお帰りになるのが御意に入らぬのか知れませんが、つーと腹を立ったように、お帰りがあってもろくにお言葉もかけない事がありますからな」
重「いゝやうでない、御新造は奉公せぬに似合わぬ中々く心付くよ」
傳「へえ……何うもわたくしも旧来奉公致しますが、あなた様には誠にうもなんとも済まぬことで、実に恐入ったことで、私は心配致しますが、だからと申して黙っていても何うせ知れますからな」
重「何を」
傳「へえー、誠に何うも恐入って申上げられませんが、実は貴方様に対して御新造様がな、何うも何う云うものか、誠に恐入りますな」
重「大分恐入るが、なんだい」
傳「へえ……申し上げませんければほかから知れますからな、かえって御家名をけがすようになりますから、御両親様も……また貴方の名義を汚す一大事な事でございますから、ほかのお方様なら申上げませんが、あなた様でございますから何うか内聞に願い、そこの処は世間に知れぬうち御工夫が付きますように参りましょうかと存じますが、何うか御内聞に、何うも何とも恐れ入りまして」
重「恐れ入ってばかりではとんと何だか分らんが、他の事と違って家名にさわると、わしが身は何うでもよろしいが、中根の苗字に障っては済まぬが、なんじゃか言ってくれよ、よ、傳助」

        八

傳「実は申上げようはございませんが、もう往来も途切れたから申上げますが、御新造様は誠にしからん、密夫みそかおこしらえ遊ばして逢引を致しますので」
重「ふう嘘を云え、左様な嘘をつくな決して左様な事は有りません、世間の悪口わるくちだろうから取上げるなよ、わしが来ましてから御新造はちっともほかへ出た事はないぞ、弁天へ参詣にくにも小女が附き、決して何処どこへも行った事はない」
傳「それが有るのでへえ……実に恐入りますがな、不埓至極なのはお金と申す旧来勤めて居りました団子茶屋おきん、へい彼奴あいつが悪いので、へい、奉公して一つ鍋の飯を喰いました女でございますからわたくしは存じて居りますが、口はべら/\喋るが、彼奴が不人情でしからん奴で、お嬢様を自分のうちの二階で男と密会をさせて、幾らかしきを取る、何如いかにも心得違いの奴で」
重「そりゃアたれがよ、誰が左様なる事を云う、相手は何者か」
傳「相手はそれはうも、白島山平と云うの下役の山平で、わたくしほかの方なら云いませんが貴方様だから、お舅御様しゅうとごさまのお耳にはいらぬ様にお計らいが附こうと思って申しますが、何うも恐入ります」
重「嘘を云え、白島山平は義気正しい男で、役は下だが重役にまさる立派な男じゃ、他人の女房と不義致すような左様な不埓者でない」
傳「それが誠に有るので、実は昨日な証拠を拾って持って居りますが、開封致しては相済みませんが、捨置すておかれませんから心配して開封いたしましたが、山平へ送る艶書を拾いました」
重「どう見せろ」
傳「何うか御立腹でございましょうが内聞のお計らいを」
重「見せろ、どれもっと提灯を上げろ」
 と重二郎艶書をひらいて繰返し二度ばかり読みまして、
重「傳助」
傳「へえー」
重「少しも存ぜぬで知らぬ事であったがよく知らしてくれた」
傳「何うも恐入ります、それだから貴方様がお帰りになっても、御新造様が快よく御酒の一と口も上げませんので、何うも驚きますな」
重「この文の様子では懐妊致してるな」
傳「へえー何うもしからん事でげすな」
重「団子屋のきんの宅に今晩逢引を致して居るな」
傳「へえ丁度今晩逢引致して居ります」
重「きんの宅を存じて居るなれば案内しろ」
傳「いらっしゃいますか」
重「おれこう」
傳「貴方いらっしゃッても内聞のお計らいを」
重「たわけた事を云うな、武士たる者が女房を他人ひとに取られて刀の手前此のまゝでは済まされぬから、両人の居処いどころへ踏込み一刀に切って捨て、生首を引提ひっさげて御両親様へ家事不取締の申訳をいたすから案内致せ」
傳「是は何うも飛んだ事を云いました、是は何うも恐入りましたな、外様ほかさまなれば云いませんが、貴方様でございますから内聞に出来る事と心得て飛んだ事を申しました」
重「飛んだ事と申して捨置かれるものか、け/\」
 と云われ真青まっさおになってぶる/\ふるえて傳助地びたへかゝとが着きませんで、ひょこ/\歩きながら案内をするうちに、団子屋のきんの宅の路地まで参りました。
重「これ/\其処そこに待って居れ、町家ちょうかを騒がしては済まぬから」
傳「何うかお手打ちは御勘弁なすって」
重「黙れ、提灯を消してそれに控え居れ」
傳「へえー」
 重二郎は傳助を路地の表に待たして、自分一人で裏口の腰障子へぼんやりあかりがさすから小声で、
重「おきんさんの宅は此方こちらかえ」
 と云うと二階に三人で相談をして居りましたが、
きん「はい魚政うおまさかえ…いゝえ此の頃出来た魚屋でございますから、器物いれものすけないのでお刺身を持って来ると、すぐあと※(「赭のつくり/火」、第3水準1-87-52)うまにを入れるからお皿を返して呉れろと申して取りに来ますので」
 きんは魚屋と間違えて、
きん「少し待っておでよ」
 と階子段はしごだんを下りて、
きん「魚政かえ、今お待ちよ」
 と障子を開けて見ると、魚屋とは思いのほか重二郎が刀を引提ひっさげてずうと入り、
重「これ照が二階に参ってるなら一寸ちょっと逢わして呉れよ」
きん「いゝえ御新造様は此方こちらへはいらっしゃいません」
重「入っしゃいませんたって参って居るに相違ない、是に駒下駄があるではないか」
きん「あのそれは先刻さっきあのいらっしゃいまして、それはあの、雨が降って駒下駄ではけないから草履ぞうりを貸してと仰しゃいまして」
重「馬鹿な、たわけた事を云うな、逢わせんと云えばじきに二階へ通るぞ」
きん「はーい何卒どうぞ真平まっぴら御免遊ばして、何うぞ御勘弁遊ばして、御新造様がお悪いのではございません、皆きんが悪いのでございますから何うぞ」
重「何だ袖へすがって何う致す、放さんか、えい」
 と袖を払って長い刀を引提ひっさげて二階へどん/\/\/\と重二郎駈上ります。これから何う相成りますか一寸いき致して。


 

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