二十一
梅「誰だえ」
眞「ちょっと開けてくださませ」
梅「誰だえ」
眞「眞達で、旦那に逢いたいので、
永「居ないてえ云え」
梅「あの旦那は
眞「その様なことを云うてもいかぬ、そこに並んで居るじゃ」
永「あゝ
梅「おや覗いたり何かして人が悪いよ」
永「障子
梅「さア
永「いや今
眞「帰らぬでも
永「いや
眞「もしお梅はん、大事に気晴しのなるようにして呉れんなさませ…あゝ
永「
眞「
永「黙れ、何だ二三百のお布施で
眞「
永「うーん種々な事を云うな……貸すが跡で返せ、それ持って
眞「有難い、これども……お梅はん
とさあッ/\と帰って来て、
眞「傳次さん貸したぜ」
傳「え」
眞「貸した」
傳「何うだい貸したろう」
眞「えらいもんじゃア十両貸した」
傳「なんだ十両か、たったそればかり」
眞「いや初めてだから十両、又
などと是から納所部屋にて勝負事をする。
「御用/\」
と云う声に驚きましたが、旅魚屋の傳次は斯う云う事には
源「さア出ろ/\」
と
庄「こりゃはい
自分の掴まえて
二十二
お話は
眞「お梅はん/\ちょと明けてお
梅「はい…旦那、眞達はんが来ましたよ」
永「あゝ来やアがったか、居ないてえ云え、なに、いゝえ来ぬてえ云えよ」
梅「あの眞達さん、何の御用でございますか」
眞「旦那にお目に懸りたいのでげすが、
梅「旦那はあの今夜は
眞「そんな事を云うても来てえるのは知っているからえけません、宵にお目に懸って
永「じゃア仕方がない、明けて
と云うので、仕様がないからお梅が立って裏口の雨戸を明けますると、眞達はすっとこ
永「
眞「お梅はん、
永「何う
眞「和尚さん最前なア、
永「
眞「それは
永「それ見ろ、えらい事になった、寺へ手の這入るというは此の上もない恥な事じゃアないか、どゞゞ何うした」
眞「
永「えゝ何……死骸それは……どゞどうして出た」
眞「何うして出たもないもんじゃ、あんたは
永「ふうーん」
眞「ふうーんじゃない、斯うしてお呉んなさい、
永「そりゃまア宜く知らしてくれた、眞達悪い事は
眞「
永「庄吉にも
眞「過りでも
永「路銀だって今此処に無いからな、その路銀を隠して有る所から持って来るが、死人が出たので其処へ張番でも付きやアしないか」
眞「張番
永「お梅、何をぶる/\
二十三
永禪和尚も
永「さア早く急げ/\」
と云うので、お梅は男の様な姿に致しまして、自分も頭にはぐるりと
永「あゝー寒い、
眞「おおい」
永「早う来んかなア」
眞「
永「
梅「歩かぬじゃいかぬと云ったってお前さん、休みもしないで
永「しらりと夜が明け掛って来て、もうぼんやり
眞「
永「うん
眞「まだ渡しは開きやアしません、この霙の吹ッかけでは向うから渡って来やアしますまい」
と眞達が
眞「やアお師匠さん、
とどん/″\/″\/″\と
永「えゝ知れたこっちゃ、静かにしろ」
と
梅「旦那」
永「えゝ
梅「確かりせえと云ったって、お前さん
永「えゝもう
と眞達の着物で
永「さア来い」
と無暗に手を引いて
永「お梅、
と厭がるお梅を無理無体に勧めて頭を剃らせましたが、年はまだ三十で、滅相美しいお
永「さ、幸い下に着て居る己の無地の着物が有るから、是を
と云うので、是から永禪和尚の着物を直してお梅が着て、その上に眞達の持って居りました文庫の中より衣を出して着、
二十四
永禪は
永「まア
梅「それじゃア
と云うので多分に手当を
又「おい婆さん/\」
婆「あい何だえ」
又「小鹿を一匹撃って来たよ」
婆「
又「あの
とこれから亭主が料理をしてちゃんと膳立ても出来ましたから、六畳の部屋へ来て破れ障子を明けて、
又「はい御免」
永「いや御亭主か」
又「まことに続いてお寒いことでございます、なれども沢山も降りませんでまア宜うございますが、是からもう
永「いゝやもう
又「へい有難いことでございます、毎日婆アともはア
永「いや、
又「左様でげすか、鹿は
梅「有難う存じます、まア本当に
婆「何う致しまして、もうこんな
又「さアこの御酒を召上りませ、それから鍋は一つしかございませんから取分けて上げましょう」
永「いや皆
又「左様でげすか、いろ/\又
と
永「何うだい、お前方は何うも山の中にいる人とは違い、また言葉
又「えゝ旦那様お馴染に成りましたから
永「
又「へえー左様でげすかえ、
永「なに
又「へえー左様で、お比丘尼様はこの頃
永「えゝいゝえ……なに
又「へえ左様でげすかえ」
永「
又「へえー左様で、
永「それは門前の小僧習わぬ経を
又「そうでございますかえ、
婆「お止しよ、ひちくどくお聞きで無いよ、欝陶しく
又「でもお互に昔は……旦那
婆「爺さんお止しよ、詰らない事を言い出すね、よしなよ」
又「なに、いゝや、旦那の御退屈
二十五
又「旦那此の
婆「およしよ爺さん」
又[#「又」は底本では「婆」]「いゝやな、昔は
婆「およしよう、詰らない事を言って間が悪いやね、恥かしいよ」
又「恥かしいも無いものだ、もう恥かしいのは通り過ぎて居るわ」
永「おや左様かえ、何でも
梅「おや然うかね、長く御厄介になって見ると私はどうも御当地の方じゃないと実は思って居ましたが、然うでございますか、不思議なものだねえ増田屋に、どうも妙だね、然うかね」
永「どうも妙だのう、それじゃアお前何かえ、江戸の者かえ」
又「いゝえ
永「ふうん然うかえ」
又「それがお前さん面白い話でどうも高山にもうっかり
永「そうかねえ、苦労の果じゃがら万事に届く訳じゃのう、でも
又「情合だって婆さんも私も
永「じゃア富山の稲荷町で良い
又「えゝそれは私が家を出てから行方が知れぬと云って、家内が心配して
永「はアそれは妙な事だなア、
又「はい真言寺で」
永「そこにお前の忰が出家を
又「はい名は何とか云ったなア、婆さんお
永「左様か」
とじろりっと横眼でお梅と顔を見合わした
二十六
又「それで婆さんの云うのには、前の事をあやまって尋ねて行ったら宜かろうと云いますが、何だか今更親子とも云い
永「なるほど
又「へえ……まことに
婆「本当にお退屈様で
又「
婆「誠にお邪魔さまで……さア…此方へお出でよ、また飲みたければお
と手を引いてお
梅「旦那々々」
永「えゝ」
梅「もう、
永「立つと云っても
梅「いかぬたってお前さん怖いじゃア無いか、此処は
永「これ/\黙ってろ、
梅「何うかしてお呉んなさい、私は怖いから」
とその晩は寝ましたが、
薬屋清「やア御免なさいませ」
又「おやこれはお珍らしい……去年お泊りの清兵衞さんがお
清「誠に、是れははや、去年は
又「今夜はお泊りでげしょう」
清「いや
又「婆さん今日は落合までいらっしゃるてえが仕方が無いのう、まア今夜はお泊りなさいな、この頃は米が有ります、それに良い酒もありますからお泊りなさい、お
清「いや然うは
又「それは仕方が無いなア、然うでしょうがまア一杯飲んで」
清「いゝや……」
又「そんな事を云わずに、これ婆さん早く一杯…」
婆「能くお出でなさいました、去年は誠にお
又「清兵衞さん、去年お
清「いや何うも
又「へいどうか成りましたか」
清「いやもうらちくちのつかない事に成りみしたと云う訳は、お
又「賭博を、ふうん/\成程」
清「ところがお
又「えー忰が
清「いやもう何とも」
又「誰が殺しました」