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敵討札所の霊験(かたきうちふだしょのれいげん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-12 9:22:13  点击:  切换到繁體中文


        三十五

傳「あれ、それじゃアねえさん、だがね、困るねどうも、うお前さん言ってしまっては……何とか云い様が有りそうなものだ、うも困るね、左様そうじゃア」
やま「左様じゃアって考えて御覧なさい、お前さんは頼まれたか知らないが、此処こゝにいらっしゃる方は大小を差した立派なお武家様で、人の娘を知りもしないところ無理遣むりやりに引摺込ひきずりこんで、飲めもしない者に盃をさして何うなさる、の方は本当に馬鹿々々しくて、わたくしも武士の家に生れたが、武家はそんな乱暴な馬鹿な真似ははしません、あんまり馬鹿な事で呆れて愛想もこそも尽果てた厚かましい人だ」
典「なに厚かましいと、なんだ、馬鹿々々しいとは何だ、いやなら否で宜しい、無理に嫁に貰おうと云う訳ではないが、手前が……」
やま「厚かましいから厚かましいと申しました、袖をお放しなさいよ」
 と袖を引張るのを、
やま「お放しなさい」
 と立上りながら振切って百度のくじをぽんと投付けると、柳田典藏の顔へあたったからいとうございます。はっとつらを押えて居るうち戸外おもてへ駈出しました。
典「傳次々々」
傳「へえ、何うもの通りで仕様がねえ」
典「だからいけぬと云うに、無理遣りに連れ出して、内々ない/\ならば仕様も無いが、ういう茶見世へ参って恥を与えるとはしからん事」
傳「お前さん、そう怒っちゃアいけねえ」
典「貴様はおれうちへ来るな」
傳「そんな事を言ってはいけねえ、旦那腹を立ってはいけません、ばゝあがね、娘の跡を追掛おっかけたが、居ないから最う仕方がないが、お前さん腹を立っちゃアいけません、そこは処女きむすめで、仮令たとい向うが惚れていても、気障きざだよお止しよと振払うのは娘っ子の情で、ことには二十二まで何だって島田で居る様な変りもんだから、気短かに何う斯うと云うなア、からもう色をした事もないようで、極りが悪いじゃア有りませんか、何でも気長にかなければいけません、旦那斯うしましょう」
典「もう手前の云う事は聴かぬ、種々いろ/\の事を云ってさしを投付けて」
傳「さしなんぞは何でも無い、此の前張倒されてどぶへ落ちた人も有るそうでねえ、斯うなさい、娘を何うかして、そーッと他処わきへ連れて行こう」
典「連れて行って何うする」
傳「何うすると云ってまアお聞きなさい、何処どこかへ夜連出して、ひどい様だがわっち一人ではいけねえ、ぎゃア/\云わねえ様に猿轡さるぐつわでもめて、庄吉と二人で葉広山はびろやまかついで行って、芝原しばはらの綺麗な人のねえ処で、さて姉さん、是程惚れて居る者を宜く此間こないだは大滝村で恥を掻かしたな、殺して仕舞うと云うのだが、可愛くって殺せねえ、し云う事を聴かぬ時は武士が立たぬとか男が立たぬとか云って、何でも女房にょうぼに成って呉れいやてえば仕方がねえから、腕を押えても□□□寝るが何うだ、それよりは得心して知れない様にと云えば命がおしいから造作アねえ、それからうちへ連れて来て、得心ずくでお前さん□□□寝ちゃア何うです宜うがすか、それで娘の方で屹度きっと惚れるねえ、初めて男の味を覚えて、真にあゝ云う人ならと先方むこうから惚れて、伯父さん嫁にってようと先方から云うよ」
典「うーんう旨くくかえ」
傳「それは大丈夫いきますとも」
 とそれから様子をうかゞって居ると、八月の十八日は白島村の鎮守の祭礼で、今日は屹度来るに相違ない、何うかして担ぎ出そうと昼から附けて居ると、昼のうちは用が有るから物見遊山にも出ず、不動様へお参りにくだけで、って山之助と二人で、祭礼だから見て来ようと云って来ると、突然だしぬけに竹藪の茂みから駈出して来て、おやまを担ぎ上げて、どん/\/\/\林の小路こみちへ駈上りました事でございますから、山之助は盗賊どろぼう……勾引かどわかし……と呼んで跣足はだし追掛おっかけると山之助は典藏に胸をどんと突かれましたから、田の中へ仰向あおむけに転がり落ちます。其のうちにどん/\とみちを走り、葉広山まで担いで駈上ります。折から雨がざあー/\と降出して来ましたが、その中をどん/\滑る路を漸々よう/\と登りまして芝原へおやまを引据ひきすえて、三人で取巻く途端、秋の空の変りやすたちまちに雲は晴れ、を漏れる月影に三人の顔をにらみ詰め、おやまは口惜くやしいから身をふるわして芝原へ泣倒れました。

        三十六

傳「おいねえさん、泣いたっていけねえ、おい、おめえ本当に今日ってかつぎ上げたのはひどい、盗賊どろぼう勾引かどわかしと思うだろうが、うでない、実は旦那が又惚れたんだ、お前がさしをぽんと投付けていやだと云ったので、何うも堅い娘だ、感心だ、あんな女を女房にょうぼに貰わないではおれが一旦口を出したのが恥だから、おとっさんの帰った時はどの様にもわびをする……担ぎ上げたのは酷いが、話をたいからの事だが、これから柳田の旦那のところへ行って……なに泊めやアしない、一寸ちょっと彼処あすこで酒の相手をして、な、否てえば仕方がねえ、わっちが中へ這入って旦那に済まねえ、済まねえから二人で腕を押え足を押えて居ても、否でも応でも旦那に思いを遂げさせなくちゃアならねえが、左様そうすればお前得心ずくでなくきずを付けられて、ほかへ縁付く事も出来ねえ、それよりはうんと云って得心さえすれば弟御おとうとご仕合しあわせ、旦那もんな挙動まねを為たくはねえが、お前があゝ云う気性だから仕方がねえ、よう後生だ、ようそれで連れて来たんだ、私が困るからうんと云って、よう後生だから諾と云って呉んねえ」
やま「さア殺しておしまい、何うも恐しい悪党だ、徒党をして山へ連れて来て慰さもうとする気か、舌を噛んでも人に肌身をけがされるものか、さア殺してしまえ」
傳「それじゃア仕様がねえ、おいそんな事を……おめえが否だと云えば手足を押えても□□ぜ」
やま「慰めば舌を喰切って」
典「なに」
傳「旦那腹を立ってはいけねえ、おいねえさん、おめえ否だと云えば仕方がない」
 と無理遣むりやりに手を取りますると、
やま「何を、放せえ」
 と手に喰付きますから、
傳「いけねえ、此のあまっちょ、おい庄吉さん□□□□□□」
 と□□□押転おしこかし、庄吉は足を押える。
やま「ひー殺してしまえ、殺せえ」
 と云う声はこだまに響きます、うしろ三峰堂みみねどうの中に雨止あまやみをしていた行脚あんぎゃ旅僧たびそう、今一人は供と見えてすげの深い三度笠さんどうがさに廻し合羽で、柄前つかまえへ皮を巻いて、鉄拵てつごしらえの胴金どうがねに手を掛け、千草木綿ちくさもめんの股引に甲掛草鞋穿こうがけわらじばきで旅馴れた姿、明荷あけにを脇に置き、一人は鼠の頭陀ずだくびに掛け、白い脚半きゃはんに甲掛草鞋。
男「あゝ気の毒な、助けてらん」
 と飛出しましたのはぜん申上げました水司又市の永禪和尚、の川口の薬師堂に寺男になって居ると、尼様に寺男が御経を教えて居る、あれは寺男が本当の坊主の果で有ろうと段々噂が高くなり、薄気味が悪いから、川口を去って越後から倉下道くらげみちを山越をして信濃路へ掛って、葉広山の根方を通り掛ると村雨に逢い、少しの間雨止あまやみと三峰堂へ這入って居ると、雨も止みましたから、支度をして出ようと思う処へ人殺し、殺してしまえと云う女の鉄切かなきり声ゆえ、つか/\と飛出しまして、又市は物をも言わずに、娘の腕を押えて居りました傳次の襟髪えりがみを取って引倒し、足を押えて居た庄吉のあごを土足で蹴倒しますると、柳田典藏は驚き、何者だと長いのを引抜いて振上げる。此方こちらすかさず道中差をすらりっと引抜き、
又「何者とはなんだ、悪い奴らだ、繊弱かよわい女を連れて来て、手前達てまいたちが何か慰もうと云うのか、ひい/\泣く者を不埓な奴だ、旅だから許してやる、さっ/\とけ、う云えば承知致さぬぞ、さっさっと行け」
傳「あゝいたえ、突然だしぬけに無闇と蹴やアがって、飛んだ奴だ、手前てめえは訳を知るめえが己達は勾引かどわかしでも何でもねえ、このあまっちょには訳があって旦那に済まねえかどが有るから、此方こっちが為になる様に納得させようと思って居るのに、きいきい云やアがるからおどしに押えるのだ、おめえは何も知らねえで、何もいらざる所へ邪魔アしやアがるな、旅の者だとぬかしやアがる手前は」
 と月影で顔を見合せると、互に見忘れませぬ。又市も傳次も見たようなと思うと、庄吉は宗慈寺に旧来奉公して居りましたから永禪和尚の顔をく知って居りますから、
庄「えゝ/\/\貴方は高岡の永禪様」
永「庄吉か」
庄「永禪様か」
 と此の時は又市も驚きまして、此奴こいつらはわが身上みのうえを知って居る上からは助けて置いては二人の難儀と思い、永禪和尚と声を掛けられるや否や持って居た刀で庄吉の肩へ深く切付ける、庄吉はきゃアと云って倒れる。傳次は驚いて逃げに掛る処を袈裟掛けさがけに切りましたから、ばったり倒れると、柳田典藏は残念に思い、この乱暴人と自分の乱暴人を忘れ振冠ふりかぶって切掛ける。又市は受損じ、よろめくはずみに又市が小鬢こびんをはすってかしらへ少し切込まれたが、又市は覚えの腕前返す刀に典藏がひじあたりへ切込みますと、典藏は驚き、抜刀を持ちながらばら/\/\/\山から駈下かけおりました。傳次は面部へきずを受けながら、
ふてえ奴だ人殺し」
 と又市の足へすがり付く処を。
又「放せえ、うーん」
 ととゞめを刺しましたから、其の儘息は絶えました。
永「惠梅々々」
梅「はいびっくりしました」
又「いかえ」
梅「あゝ怖い」
又「お前はさぞ怖かったで有ろうのう、斯様かような奴を助けて置くと村方を騒がしてようなる事をるかも知れぬから、土地の助けに殺したのだ」
やま「有難うございます、命の親でございます」
 と手を合せたが、おやまはあとさがる、是は又市が刃物を持って居りますから気味が悪いから後へ下る。
又「何も心配は無いから」
 とのりぬぐってさやに納め、額の疵へ頭陀の中より膏薬こうやくを出して貼付け、後鉢巻うしろはちまきをして、
又「さア是からうちまで送ろう」
 とおやまの手を取って白島村へ帰ろうとする途中、山之助が帰って伯父に知らせたから、村方の百姓二十人ばかりおやまの行方を捜しに来る者に途中で出逢い、これから家まで送り届けると云う。是が縁に成って惠梅と水司又市の二人がおやま山之助の家へ来て永く足を留める。これが又一つ仇討あだうちに成りまする端緒いとぐちでございます。

        三十七

 おやまのあやうところを助けて、水司又市と惠梅比丘尼はのおやまのうちまで送って参る途中で出会いました者は、弟山之助に村方の者でございます。
山「姉は何処どこへ担がれて参ったかと、伯父多右衞門と大きに心配して尋ねに参る処で、貴方が助けて下すったか有難う存じます」
 皆々も大悦びでございます。
又「実はう云う訳で、はからずも通り掛ってお助け申したが実にあぶない事であった、しかしお怪我もなくて幸いの事で有りましたが、ついてはわしも止むを得ず二人まで殺したからは其の届を出さなければ成るまいが」
多「はい/\届けましても御心配はございません、重々悪い事が有る奴でございますから」
 と是から名主へ届けました処が、もとより悪人という事は村方で大概ほしの付いて居ります旅魚屋の傳次なり、おやまをはずかしめようとしたかどがあり、すぐに桑名川村へ調べに参ると、典藏は家を畳み、急に逐電致しました故、此の事は山家ではあるし、事なく済みましたが、此方こっちは急ぐ旅でないからきずなおる間逗留して下さいと云われ、おやま山之助二人暮しの田舎住居ずまい、又市は幸いにして膏薬を貼って此のいえに逗留して居る間は、惠梅比丘尼は方々へときに頼まれて参り、種々いろ/\な因縁話を致しまして、
梅「私も因縁あって尼になり、誠に私は若い時分種々の苦労も有ったが、只今では仏道にって胸の雲も晴れて、実に世の中を気楽に渡る、是が極楽と申します」
 などと、もっともらしい事を云うと、田舎の百姓衆は此方こちら何卒どうぞいらっしゃって、私の親類が三里先に有りますが、是へもと云ってお布施を貰い、諸方へ参ってお斎を致しますと、お布施のほか割麦ひきわりあるいあわひえなどを貰って、おやまのうちの物を食って居るから、実は何時いつまでも置いて貰いたいと思って居りますうちに疵も癒り、或日あるひ惠梅比丘尼は山之助と隣村まで参りまして、又市は疵口の膏薬を貼替えまして、白布で巻いては居りますが、疵も大方いえたから酒好さけずきと云う事を知り、膳立ぜんだてをして種々の肴をこしらえまして、
やま「もしあなた、一杯お酒をけましたから召上りませんか、お医者様も少し位召上ってもさわりには成らないと仰しゃりますから、一口召上りまして」
又「いや誠に有難う、大した事ではなし、一体酒がすきで旅をするには一杯飲めば気が晴れるから、宿で一杯出せば尼様に隠して内所ないしょで飲むこともある、これは/\有難う……えゝお前はまア姉弟衆きょうだいしゅう二人ながら仲よう稼ぎなさる、暗いうちから起きて糸を繰ったりはたを織ったり、また山之助さんは牛馬ぎゅうばいて姉弟で斯う稼ぐ人は余り見た事がない、実に感心の事じゃ」
やま「いゝえもう二人ながら未だ子供のようでございます、あれが年もきませんから届きません、只私を大事にして呉れます、日々あゝやって御城下へ参りまして、荷を置いて参ります、又彼方あちらから参る物は此方こちらへ積んで参りまして少々の賃銭ちんせんを戴きます、はい宜く稼ぎますが、丁度飯山の御城下へまいり、お酒のいのを買って参りましたが、お肴はなんにもございませんが、召上って下さいまし」
又「いや此処こゝらは山家でも御城下近いから便利でございます、一杯頂戴致しましょう、是ははい御馳走に成ります……一杯いで下さい、四五日酒をめて居たので酔いはせんかな」
やま「どうぞ召上って」
 となみ/\とつぐ。もとより好きな酒、又市二三杯飲むうち、少し止めて居たから顔へ色がぼうと出ましたけれども、桜色という訳にはいきません、栗皮茶くりかわちゃのような色に成りましたが、だん/\えいが廻りますと、もとより邪淫奸智じゃいんかんち曲者くせもの、おやまは年齢とし二十二でございます、美くしい盛りで、莞爾にっこりと笑います顔を、余念なく見て居りましたが、
又「あゝ見惚みとれますねえ、お前さんの其の、品の良いこっちゃなア…あゝ最う十分にいました、もしおやまさん/\」
やま「はい」
又「あのなんで、この先に伯父さんが有るが、あれはあなたの真実の伯父さんかえ」
やま「はいわたくしの真実の伯父でございます」
又「御両親はないのかえ」
やま「はい両親はまアない様なものでございます、母は亡なりましたが、親父はわたくしちいさい時分行方知れずに成りましてから、いまだに音沙汰がございません、死んだと存じまして出た日を命日として居りますが、ひょっとして存命で帰って来たらと姉弟きょうだいで信心して居ります位で」
又「はア左様かえ、お前さんまだ御亭主ごていしは持たずに」
やま「はい」
又「二十二に成って亭主ていしゅを持たずに、此のどうも花なら半開という処その何うも露を含める処を、斯うって置くは実に惜しいものじゃアね、お前さん」
やま「はい」
又「お前まアねえ、一杯飲みなさいな」
やま「いゝえわたくしは御酒は少しも戴きません」
又「其様そんな事云わんでもい、わしのじゃアにって半分ぐらい飲んで呉れても宜いじゃないか」

        三十八

やま「いゝえ半分などと仰しゃっては困ります、お厭なれば何卒どうぞ其処そこへお残し遊ばして」
又「おやまさん、わしは最うこれ四十に近い年をして、お前のような若い女子おなごを想うても是は無駄と知っては居るが、真実お前のようなやさしい、器量といい、其のどうも取廻しなり口の利きようといい別じゃアて、心に想うて居ても私はまア今まで口に出して言やせぬがうだえ、私は真実お前に惚れたぜ」
 とおやまの手を取ってぐっと引寄せに掛りましたから堅い娘で驚きまして、振払ってあとへずうとさがりまして、呆れて又市の顔を見て居りました。
又「怖がって逃げんでもいじゃないか」
やま「あらまア貴方あなた御冗談ばかり仰しゃって困りますよ」
又「困る訳はない、いじゃアないか、えゝたった一度でもお前わしの云う事を聴いて呉れたら、お前の為にはようにも情合じょうあいを尽そうと思うて居る」
やま「御冗談でございましょう、貴方の様な方がわたくしの様な者にそんな事を仰しゃっても私は本当とは思いません」
又「何故なぜわしは年を取って冗談やおどけにお前さん此様こんな事を言掛ける事はない、お前さん、実はうから真に想うても云出し兼ていたが、酔うた紛れに云うじゃアないけれども、お前さん私はたった一度で諦めますぜ」
やま「あなた本当に仰しゃるのですか」
又「本当だって今まで如何いかにもい娘じゃアと思うても色気も何も出やアせぬが、けれども朝夕膏薬を貼替えて呉れる其の優しい手で額をう押えて呉れまする、其のどうも手当にわしは惚れた、さア最う斯う云い出したら恥も外聞もないじゃア、たれらぬは幸いじゃア、たった一度で諦めるから」
やま「あら呆れたお方様で、それでは折角の貴方御親切も水の泡になります、伯父も彼様あんなお方はない、額にきずを受けるまで命懸で助けて下すったから、その御恩を忘れては済まないよと伯父も申しますから、わたくしも有難いお方と存じて居りまして、実に届かぬながらお世話致します心得でございますに、そんな事を仰しゃって下さると実に腹が立ちます」
又「腹が立ちますと云ったって、恩義に掛けるわけではないが、けれども、いじゃアないか、わしも命懸で彼処あすこへ這入って助け、私が通り掛らぬ時は、悪者に押え付けられて、いやでも応でも三人のため瑕瑾きずが付くじゃアないか、それを助けて上げたから、彼処で□□□□れたと思うて素性の知れた私に一度ぐらい云う事を聴いても宜いじゃアないか」
やま「貴方にはお内儀かみさんがお有んなさるではございませんか」
又「女房は有りやせん」
やま「あら惠梅様は貴方のお内儀でございます、お比丘尼様に済みませんから貴方の側へは参りません」
又「比丘だってれは女房ではない、彼れは山口の薬師堂に居た時にわしは寺男に這入ったので」
やま「それでも夜分は一緒に御寝げしなるじゃアございませんか」
又「御寝なるたって彼奴あいつが薬師堂に居た時、わしは奉公に這入ったが、彼奴も未だ老朽おいくちる年でもないから、肌寒いよって、この夜着の中へ這入って寝ろと云うので、よんどころなく這入って寝たが、婆ア比丘尼じゃアから厭で/\ならん、お前がうんと云うてくれゝば、惠梅に別れて、私は此処こゝの家へ這入って働き男になり、うしうまいたり、山で麁朶そだをこなし、田畑へ出てすきくわ取っても随分お前の手助けしようじゃアないか、うして置いて下さい」
やま「そんな事を仰しゃっては困ります、それでは明日あしたにもすぐにお発足たち遊ばして下さい、わたくしは御恩になったお方ゆえ大事と思うから手厚くお世話をするのでございます、それを恩に掛けるなれば、私も随分貴方へ御恩報じと思って出来ないながらも看病して居る心得でございます、はい」
又「お前のように堅く出られては面白くない、そんな事を云わずに」
 と無理遣りに手を取って引寄せまする。この時は腹が立ちますから殴付はりつけてやりたいと思うが、そこは命を助けられた恩義が有るから、余り無下にしても愛想尽あいそうづかし気の毒と存じまして、おやまは何うしようかともじ/\して居ります。

        三十九

 又市は増長して無理に引付け、ひげだらけの頬片ほうぺたをおやまにこすり付けようとするところへ、帰って来たは惠梅に山之助でございますが、山之助は気の毒だからあとさがる。惠梅は腹を立って、麁朶そだを持って二三度続けて殴ったからきもつぶして、
又「いや帰ったか」
梅「まことに呆れてしまって……おやまさん、さぞ腹が立ちましたろう、私もびっくりしました、山之助さんにも誠にお気の毒で、お前さん何をするのだよ、おやまさんにさ」
又「誠に困ったなア、今御馳走が出たので一杯ったところ、つい酔うてそのな、酒を飲めば若い女子おなごに冗談をするは酒飲さけのみの当り前だ、突然いきなりちやアがって、打たんでもいわ」
梅「おやまさんお腹も立ちましたろうが堪忍して下さいよ、私は少し云う事が有りますから彼方あちらへ行って居て下さい、あんまりやれこれ云って下さると増長するのでございますから、どうぞ其方そちらへ……又市さん今の真似はあれはなんだえ」
又「酔うたのだよ、酔うて居るからゆるせと云うに……困ったね、突然いきなりつとはえらい、きずが出来たらどうも成らん、みともないわ」
梅「何だえ今の真似は、ようお前幾歳いくつにお成りだよ、命を助けたの何のと恩義に掛けて、あの彼様あんなに厭がるものを無理に引寄せてなぐさむ了簡かえ、呆れた人だね、怖い人だね」
又「怖い事は有りやせん、若い娘にからかうは酒飲の当り前だ」
梅「当り前だって宿屋の女中や芸者じゃアない、一軒のあるじじゃアないか、うして姉弟きょうだいで堅くしてアやって、温和おとなしくして居る堅人かたじんだよ、伯父さんも村方でなんとかかんとか云われる人で失礼ではないか、お前さんを主人の様に、姉弟二人で私の事を尼様々々と大事に云って呉れるじゃアないか、それに恩をせてあんな真似をすれば、今までの事は水の泡に成るじゃアないか」
又「己が悪いから宥せ」
梅「宥せじゃアない、お前さんは何だね、あのがもし義理に引かされて、仕方なしにあいと云ったら、あの娘をなぐさんで、あの娘とおかしい中になると、私を見捨る気だね」
又「いゝや見捨てやアせんじゃア、そのような心ではない」
梅「おとぼけでない、嘘ばかりいて、越後の山口でお前の処へ這込んだ助倍すけべい比丘尼と云ったろう」
又「あゝ聞いて居たな、酔うた紛れだ……つな、血がにじんで来た」
梅「私はお前さん故で斯様こんなに馴れない旅をして、峠を越したり、夜夜中よるよなか歩いて怖い思いをするのはお前さん故だよ、お前さんも元は榊原様の藩中で、水司又市と云う立派な侍では有りませんか、武士に二言はない、決して見捨てない、おれも今までの坊主とは違い、元の武士の了簡に成ったから見捨てないと云うから、亭主にしたけれども、お前さん何だろう、浮気をして私を見捨る人だと思うと心細くって、附いて居るも何だかどうも案じられて、見捨られたら何うしようと思うと、こんな山の中へ来てと考えると心細くなるよ」
又「見捨てやアせん」
梅「見捨てかねないじゃアないか、見捨てられて難儀するもばちと思うのさ、ついには七兵衞さんのたゝりでも、私の身もすえ始終碌な事はないと思っては居りますけれどもね」
又「愚痴をいうな、一寸ちょっと酔うた紛れに云うたのだ…大きな声をするなよ」
梅「お前さんも高岡の大工町で永禪和尚という一箇寺の住職の身の上で有りながら、亭主のある私に無理な事を云うから、いやとも云えない義理詰に、お前さんとういう訳に成ったのが私の因果さ、それで七兵衞さんを薪割で殺して」
又「これ馬鹿、大きな声をするな」
梅「云いたくもないけれどもさ、先刻さっき云う事を聞けば、比丘尼を打捨うっちゃってしもうても、お前がうんと云う事を聴けば、おれは此のうちへ這入って、寺男同様な働きをしてうしうまいて百姓にもなろうと云ったが、くそんな事が云われた義理だと思って居るよう」

        四十

又「それは悪いよ、悪いが大きな声をして聞えると悪いやアな」
梅「いったっていよ」
又「馬鹿いうなよ」
梅「言ったってうございます」
又「いたって、此の事が世間に知れちゃアお互に」
梅「お互だって当りまえで、馬鹿々々しいね、本当にくあんなことが云われたと思うのだよ、私は本当に高岡を出て、お前に連れられて飛騨の高山ごえに」
又「そんな事を云うな、己が悪いよ」
梅「たゞ悪いと云えばゝかと思って、お前は見捨る了簡になったね」
又「あいた/\/\痛い、ねじり上げて痛いわ、なんじゃア」
梅「痛いてえあんまりで」
又「また殴付はりつけやアがる、これ己が悪いからゆるせと云うに、おれが酔うたのだ、はっと云うはずみじゃア」
梅「わたしはもう厭だ、此処こゝに居るのは厭だよ、立つよ」
又「おれも立つよ、おれが悪いから宥せ」
 と悋気りんきでいうが、世間へ漏れては成りませんから、又市は種々いろ/\なだめて、その晩は共にふせりましたことで、ず機嫌も直りましたが、翌朝よくあさになり、又市は此処に長く居ては都合が悪いと心得、正午ひる時分までは何事もなくって居りましたが、昼飯を食ってしまって急に出立と成りましたから、おやまも悦び、いやな奴だから早く立った方がい、それでも義理だから伯父をんで詰らぬ物でも餞別など致します。これを又市が脊負しょいまして暇乞いとまごいをして出立致しました。御案内の通りあれから白島村を出まして、青倉あおくらより横倉よこくらへ掛り、筑摩川ちくまがわの川上を越えまして月岡村つきおかむらへ出まして、あれから城坂峠しろさかとうげへ掛ります。此方こちらを遅く立ちましたから、月岡へ泊れば少し早いなれども丁度いのを、長い峠を越そうと無暗むやみに峠へ掛りますると、松柏しょうはく生茂おいしげり、下を見ると谷川の流れもより見え、月岡の市街まちを振返って見ると、最うちら/\あかりのつく刻限。
又「あゝまだ月が出ねえで、真闇まっくらになったのう」
梅「ちょっと/\又市さん、私は斯様こんなに暗いところではないと思ったが、斯様に暗くなっては提灯ちょうちんがなくっては歩けないよ」
又「提灯は持っている」
梅「灯火あかりをおけな」
又「もうちっと先へ行って」
梅「先へくたって真暗まっくらで仕様がない、全体月岡へ泊ればいに、この峠を夜越して来たから仕様がないよ」
又「己も越したくも何ともないわ、えゝてめえがぎゃア/\騒ぎ立てるから彼処あすこうちにもられず、急ぐ旅ではなし、彼処に泊って彼処の物を喰って居て、おときに出て貰った物がたまれば、あとの旅をするにもい、後の旅が楽じゃア、それを詰らぬ事に嫉妬やきもちでぎゃア/\云うからられないで、よんどころなく立って来たのだ」
梅「よんどころなく立ったにもしろ月岡へ泊ればいのに、夜になって峠を越すのは困るね」
又「困って悪ければ是から別れよう」
梅「別れてうするの」
又「てめえおれが横面よこッつらを宜くも人中でったな」
梅「打ったってお前そんな事を何時いつまでも腹を立って居るがね、私も腹立紛れに打ったのじゃアないか、が義理ずくで、命を助けられた恩義が有るから、お前の云う事を聴けば見捨てかねないよ」
又「仮令たとえ見捨てると云ったにもせよ、何故かりそめにも亭主の横面をつという事が有るか」
梅「ったのは悪いが、お前さんも彼様あんな事をお云いだから、私も打ったのじゃアないか」
又「打ったで済むか、ことに面部の此のきず縫うた処がほころびたら何うもならん、亭主の横面を麁朶そだで打つてえ事が有るか、ふてえ奴じゃアおのれ
 と拳を固めて、ぽんと惠梅比丘尼の横面よこつらを打ったから眼から火が出るよう。
梅「あゝ……痛い、何をするのだね、何を打つのだよ」
又「打ったが何うした」
梅「呆れてしまう、腹が立つなればね、宿屋へ泊って落著おちついてお云いな、何もこんな夜道の峠へかゝって、人も居ない処へ来て打擲ぶちたゝきするはあんまりじゃアないか、此処こゝで別れるとお云いのはお前見捨てる了簡かえ」

        四十一

又「己は愛想あいそが尽きて厭になった、ふつ/\厭になった、坊主頭を抱えてい年をして嫉妬やきもちを云やアがるし、いやらしい事ばかり云うから腹が立ってたまらんわい、人中だからこらえて居た、ことに亭主の頭をちやアがって、さア是れで別れよう」
梅「呆れてしまった、私を見捨てる…あ痛い何をするのだね、うも怖ろしい人じゃアないか、腹立紛れに打ったのは悪いと謝まるじゃアないか、こんな峠へ来て何だねえ、私を見捨てゝ行処ゆきどころのない様にして何うする気だねえ」
又「何うもうもない、一大事の事を嫉妬紛やきもちまぎれにぎゃア/\云って、二人の首の落るを知らぬか、あんまり馬鹿で愛想が尽きた」
梅「愛想が尽きたってお前さん」
又「さっ/\とけ」
梅「あれ危い、胸を突いて谷へでも落ちたら何うするのだね、本当に怖い人だ、それじゃア何だね私にお前愛想がつきて邪魔になるから、お前の身の上を知って居るから谷へ突落して殺す了簡かえ」
又「えゝ知れた事だ」
 と云いながら道中差の小長いのを引抜きましたから、お梅は驚きまして、ばた/\/\/\逃げかゝりましたなれども、足場の悪い城坂峠、殊には夜道でございますから、あれ人殺しと声を立てに掛ったが、相手は亭主、そこは情と云うものが有るから、人殺しと云ったら人でも出て来て、二人の難儀に成りはしないかと思い、
梅「あれ気を静めないか、全く別れるなら話合いに」
 と言掛けまするが、取上とりのぼせて居りますから、木の根につまづき倒れる処を此方こちら駈下かけおりながら一刀浴せ掛ければ、惠梅比丘尼の肩先深く切付けました。
梅「あゝ私を切ったな悪党、お前は私を殺してのおやまさんを又口説こうという了簡だな」
 と足にしがみ付くを、
又「おゝ知れた事だ」
 と云いながら、刀を逆手さかてに持直し、肩胛かいがらぼねの所からうんと力に任して突きながらこじり廻したから、たった一突きでぶる/\と身を慄わして、其の儘息は絶えましたが、ふもとから人は来はせぬかと見ましたが、たれあって来る様子もないから、まず谷へ死骸を突落そうと思うと、又市の裾にすがり付いたなりで狂いじにを致しました故中々放す事が出来ませんから、惠梅の指を二三本切落して、非道にも谷川へごろ/\/\/\どんと突落し、餞別に貰いました小豆あずきひえは邪魔になりますから谷へ捨て、のりを拭って鞘に納め、これから支度をして、元来た道を白島村へ帰って来ました。悪い奴は悪い奴で、おやまのうちの軒下へたゝずんで様子を聞くと、おやま山之助は、何かこそ/\話をしている様子でございます。とん/\/\/\。
又「おやまさん」
山「はい誰だえ」
又「一寸ちょっと開けてお呉んなさい、又市じゃア明けてお呉んなさい」
やま「又来たよ、又市が何うして来たねえ」
山「はい何でございますか、昼間お立ちなすった方ですか」
又「一寸開けて下さい、災難事が有って来たから」
山「はい/\」
 と山之助が表の半戸はんどを開けますと、きょと/\しながら這入って、
又「此方こちらへ惠梅比丘尼は来ませんか」
山「いゝえおいでなさいません」
又「はてな何うも、今に此方へ来るに相違ないが、城坂峠へ掛るとね、全体月岡へ泊れば宜かったが、修行の身の上路銀も乏しいから一二里は踏越そうと思ったから、峠の中ばまで掛ると、四人ばかり追剥が出まして、身ぐるみ脱いで置いてけという故、此方こっちは修行者でございますから路銀は有りませぬ、お比丘尼を助けてと云うに、うは往かぬときら/\する刀を抜いておどす故、わしがお比丘に目配めくばせしたら惠梅比丘尼は林の中へ駈込んで逃げたから、最ういと思い、種々いろ/\云ってすきを見て逃げようと思い、只今上げます、ちっとばかり旅銀ろぎんも有るから差上げますから、手をお放しなさいと云うと、ほっと手が放れるがいな[#ルビの「いな」は底本では「いや」]や、転がり落ちて死ぬるかいきるか二つ一つと、一生懸命谷へ駈けり逃げたが、比丘尼はほかく処はない、お前さんのとこへ来るに相違ないと思ったが、未だ来ませんか」

        四十二

やま「あれまア、あんまり遅うお立で、途中で間違が有ってはいけませんと思いましたが、それは/\お比丘様は今においででしょうからお上りなすって……山之助お草鞋わらじでおいでなさるから足を洗って」
又「いや怖い目に遭いました、あゝ心持が悪い、二三人できら/\するのを抜きました故な、此方こっちも命がけで切抜けました故、きずを受けたかも知れぬ、着物に血が着いて居るようで」
山「足を洗ってお上りなさい」
又「はい、わしは怖くて胸の動気が止まらない、どうぞ度胸定めに酒を一杯下さい」
 と是から酒を飲んで空々しい事を云って寝ましたが、此方こちら真実まことと心得伯父に話をすると、惠梅比丘尼の行方ゆくえを尋ねますと、月岡村の雪崩法寿院なだれほうじゅいんという寺の山清水の流れに尼の死骸が有ると云うので、その村の人々が気の毒な事と云うて、彼方あちらへ是を葬りました事が、翌日の日暮方に分りましたので、
山「なにともお気の毒様で申そうようもございません」
又「いやわしも今聞きましたが、山之助さん、まア情ないことに成りました、私は盗人ぬすびとに胸倉を取られて居る、惠梅は取られた胸倉を振切って先へ駈下りたなれどなア、女子おなごで足は弱し、悪い奴に取囲まれ、切られて死んだかと思えば憫然ふびんじゃなア、月岡の寺へ葬りになりましたとは知らずに居りましたが、左様かえ、致し方はない、何うも情ないことで」
山「誠にお気の毒様、さぞお力落しでございましょう」
又「年を取って女房に別れるは誠に厭な心持じゃア、大きに御苦労を掛けましたが何うも仕方がない、不思議の因縁じゃアに依って山之助さん、お前さん方も月岡まで寺参りに往って下さい、わしも比丘を葬りました其のお寺で法事でもて貰いたい、よく/\因縁の悪いと見えてまア是れ情ない、出家を遂げても剣難に遭うて死ぬは、何ぞ前世の約束で有りましょう、実に胸が痛うて成らん、お酒を一杯下さらんか」
 と其様そんな事を云っては酒ばかり飲んで居りますが其の夜部屋に這入って寝ますと、水司又市はぐう/\と空鼾そらいびきを掻いて寝た振りをして居ります。山之助おやまも寝ました様子でございますから、そうッと起きまして、おやまの寝て居りますうしろの処へ来まして、横にころりと寝まして、おやまの□□襟の間へ手を入れましたから。おやまは眼をさまし、
やま「何をなさる」
又「静かに」
やま「えゝびっくり致しました、何をなさるので」
又「おやまさん、わしはお前さんに面目ないが、実は命がけで年にも恥じずお前さんに惚れました、それ故に此の間酔った紛れに彼様あんいやらしい事を云かけて、お前さんが腹を立てゝ愛想尽あいそづかしを云うたが、何と云われても致し方はないと私は真実お前に惚れて、是からは何処へも行く処はない身の上じゃアに依って、私がお前さんのうちの厄介者になり、まア年もかぬ若い姉弟きょうだい衆の力になる心得で、の様にも真実を尽すが、なれどもお互いに此の気の置けぬ様に生涯一つ処に居る事は、□□れて居ないでは居られるものではないなア、もとが他人じゃアが年を取って居るから亭主ていしに成ろうとは云わぬが、たった一度でも□触れて居れば、是から先お前が亭主を持とうとも、どう成っても其処そこが義理じゃ、追出しもせまい、是程まで思詰めたから只た一度云う事を聴いて下さい」
 と云われ余りの事に腹が立ちますから起上って、おやまは又市の顔をにらみつけ、
やま「只た今出て行って下さい、呆れたお方だ、怖いお方だ、何ぞと云うと命を助けた疵が出来たと恩がましい事を仰しゃっていやらしい、此の間は御酒の機嫌と思いましたが、今の様子のは御酒も飲まずに白面しらふ狂人きちがい、そんな事を仰しゃっては実に困ります、そんなお方とは存じませんで伯父も見損じました、たった今出て行って下さい」
又「お前、何でわしが是程まで惚れたに愛想尽しを云って、年を取って男はわるくも、それ程まで思うてくれるか憫然ふびんな人というじょうがなければ成らぬが何んで其の様に憎いかえ」


 

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