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楢ノ木大学士の野宿(ならのきだいがくしののじゅく)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-10-29 16:30:25  点击:  切换到繁體中文


「大へん怒ってるね。どうかしたのかい。えゝ。あの東の雲のやつかい。あいつは今夜は雨をやってるんだ。ヒームカさんも蛇紋石じゃもんせきのきものがずぶぬれだらう。」
「兄さん。ヒームカさんはほんたうに美しいね。兄さん。この前ね、僕、こゝからかたくりの花を投げてあげたんだよ。ヒームカさんのおっかさんへは白いこぶしの花をあげたんだよ。そしたら西風がね、だまって持って行ってれたよ。」
「さうかい。ハッハ。まあいゝよ。あの雲はあしたの朝はもうれてるよ。ヒームカさんがまばゆい新らしいあをいきものを着てお日さまの出るころは、きっと一番さきにお前にあいさつするぜ。そいつはもうきっとなんだ。」
「だけど兄さん。僕、今度は、何の花をあげたらいゝだらうね。もう僕のとこには何の花もないんだよ。」
「うん、そいつはね、おれの所にね、桜草があるよ、それをお前にやらう。」
「ありがたう、兄さん。」
「やかましい、何をふざけたことを云ってるんだ。」
あらっぽいラクシャンの第一子が
金粉の怒鳴り声を
夜の空高く吹きあげた。
「ヒームカってなんだ。ヒームカって。
ヒームカって云ふのは、あの向ふの女の子の山だらう。よわむしめ。あんなものとつきあふのはよせと何べんもおれが云ったぢゃないか。ぜんたいおれたちは火から生れたんだぞ青ざめた水の中で生れたやつらとちがふんだぞ。」
ラクシャンの第四子しし
しょげて首を垂れたが
しづかなかの兄が
弟のために長兄をなだめた。
「兄さん。ヒームカさんは血統はいゝのですよ。火から生れたのですよ。立派なカンランガンですよ。」
ラクシャンの第一子は
尚更なほさら怒って
立派な金粉のどなりを
まるで火のやうにあげた。
「知ってるよ。ヒームカはカンランガンさ。火から生れたさ。それはいゝよ。けれどもそんなら、一体いつ、おれたちのやうにめざましい噴火をやったんだ。あいつは地面までのぼって来る途中で、もう疲れてやめてしまったんだ。今こそ地殻ののろのろのぼりや風や空気のおかげで、おれたちと肩をならべてゐるが、元来おれたちとはまるで生れ付きがちがふんだ。きさまたちには、まだおれたちの仕事がよくわからないのだ。おれたちの仕事はな、地殻の底の底で、とけてとけて、まるでへたへたになった岩漿がんしゃうや、上から押しつけられて古綿のやうにちぢまった蒸気やらを取って来て、いざといふ瞬間には大きな黒い山の塊を、まるで粉々に引き裂いて飛び出す。
煙と火とを固めて空にげつける。石と石とをぶっつけ合せていなづまを起す。百万の雷を集めて、地面をぐらぐら云はせてやる。丁度、ならノ木大学士といふものが、おれのどなりをひょっと聞いて、びっくりして頭をふらふら、ゆすぶったやうにだ。ハッハッハ。
山も海もみんな濃い灰にうづまってしまふ。平らな運動場のやうになってしまふ。その熱い灰の上でばかり、おれたちの魂は舞踏していゝ。いゝか。もうみんな大さわぎだ。さて、その煙が納まって空気が奇麗に澄んだときは、こっちはどうだ、いつかまるで空へ届くくらゐ高くなって、まるでそんなこともあったかといふやうな顔をして、銀か白金かの冠ぐらゐをかぶって、きちんとすましてゐるのだぞ。」
ラクシャンの第三子は
しばらく考へて云ふ。
「兄さん、私はどうも、そんなことはきらひです。私はそんな、まはりを熱い灰でうづめて、自分だけ一人高くなるやうなそんなことはしたくありません。水や空気がいつでも地面を平らにしようとしてゐるでせう。そして自分でもいつでも低い方低い方と流れて行くでせう、私はあなたのやり方よりは、かへってあの方がほんたうだと思ひます。」
あらっぽいラクシャン第一子が
このときまるできらきら笑った。
きらきら光って笑ったのだ。
(こんな不思議な笑ひやうを
いままでおれは見たことがない、
おどろくべきだ、立派なもんだ。)
楢ノ木学士が考へた。
暴っぽいラクシャンの第一子が
ずゐぶんしばらく光ってから
やっとしづまってう云った。
「水と空気かい。あいつらは朝から晩まで、おいらの耳のそばまで来て、世界の平和の為に、お前らの傲慢がうまんを削るとかなんとか云ひながら、毎日こそこそ、俺らをこすってへらして行くが、まるっきりうそさ。何でもおれのきくとこにると、あいつらは海岸のふくふくした黒土や、美しい緑いろの野原に行って知らん顔をしてみぞを掘るやら、ほりをこさへるやら、それはどうも実にひどいもんださうだ。話にも何にもならんといふこった。」
ラクシャンの第三子も
つい大声で笑ってしまふ。
「兄さん。なんだか、そんな、こじつけみたいな、あてこすりみたいな、芝居のせりふのやうなものは、一向あなたに似合ひませんよ。」
ところがラクシャン第一子は
案外に怒り出しもしなかった。
きらきら光って大声で
笑って笑って笑ってしまった。
その笑ひ声の洪水は
空を流れてはるかに遙かに南へ行って
ねぼけた雷のやうにとゞろいた。
「うん、さうだ、もうあまり、おれたちのがらにもない小理窟こりくつさう。おれたちのお父さんにすまない。お父さんは九つの氷河を持っていらしゃったさうだ。そのころは、こゝらは、一面の雪と氷で白熊しろくま雪狐ゆきぎつねや、いろいろなけものが居たさうだ。お父さんはおれが生れるときなくなられたのだ。」
にはかにラクシャンの末子まっしが叫ぶ。
「火が燃えてゐる。火が燃えてゐる。大兄さん。大兄さん。ごらんなさい。だんだんひろがります。」
ラクシャン第一子がびっくりして叫ぶ。
熔岩ようがん、用意っ。灰をふらせろ、えい、畜生、何だ、野火か。」
その声にラクシャンの第二子が
びっくりして眼をさまし、
その長いあごをあげて、
眼をくぎづけにされたやうに
しばらく野火をみつめてゐる。
たれかやったのか。誰だ、誰だ、今ごろ。なんだ野火か。地面のほこりをさらさらさらっと掃除する、てまへなんぞに用はない。」
するとラクシャンの第一子が
ちょっと意地悪さうにわらひ
手をばたばたと振って見せて
「石だ、火だ。熔岩だ。用意っ。ふん。」
と叫ぶ。
ばかなラクシャンの第二子が
すぐ釣り込まれてあわて出し
顔いろをぽっとほてらせながら
「おい兄貴、一えしようか。」
う云った。
兄貴はわらふ、
「一吠えってもう何十万年を、きさまはぐうぐう寝てゐたのだ。それでもいくらかまだ力が残ってゐるのか」
無精な弟はただ一言ひとこと
「ない」
と答へた。
そして又長いあごをうでに載せ、
ぽっかりぽっかり寝てしまふ。
しづかなラクシャン第三子が
ラクシャンの第四子ししに云ふ
「空が大へん軽くなったね、あしたの朝はきっと晴れるよ。」
「えゝ今夜はたかが出ませんね」
兄は笑って弟を試す。
「さっきの野火で鷹の子供が焼けたのかな。」
弟は賢く答へた。
「鷹の子供は、もう余程、毛もこはくなりました。それに仲々強いから、きっと焼けないでげたでせう」
兄は心持よく笑ふ。
「そんなら結構だ、さあもう兄さんたちはよくおやすみだ。ならノ木大学士と云ふやつもよくねむってゐる。さっきから僕等の夢を見てゐるんだぜ。」
するとラクシャン第四子が
ずるさうに一寸ちょっと笑ってかう云った。
「そんなら僕一つおどかしてやらう。」
兄のラクシャン第三子が
「よせよせいたづらするなよ」
と止めたが
いたづらの弟はそれを聞かずに
光る大きな長い舌を出して
大学士の額をべろりとめた。
大学士はひどくびっくりして
それでも笑ひながら眼をさまし
寒さにがたっとふるへたのだ。
いつか空がすっかり晴れて
まるで一面星が瞬き
まっ黒な四つの岩頸がんけい
たゞしくもとの形になり
じっとならんで立ってゐた。

  野宿第二夜

わが親愛なならノ木大学士は
例の長い外套ぐゎいたうを着て
夕陽ゆふひをせ中に一杯浴びて
すっかりくたびれたらしく
度々空気にみつくやうな
大きな欠伸あくびをやりながら
平らな熊出くまで街道を
すたすた歩いて行ったのだ。
にはかに道の右側に
がらんとした大きな石切場が
口をあいてひらけて来た。
学士は咽喉のどをこくっと鳴らし
中に入って行きながら
三角の石かけを一つ拾ひ
「ふん、こゝも角閃花崗岩かくせんくゎかうがん」と
つぶやきながらつくづくと
あたりを見れば石切場、
石切りたちも帰ったらしく
小さなささの小屋が一つ
さびしくすみにあるだけだ。
「こいつはうまい。丁度いゝ。どうもひとのうちの門口かどぐちに立って、もしもし今晩は、私は旅の者ですが、日が暮れてひどく困ってゐます。今夜一晩泊めて下さい。たべ物は持ってゐますから支度はなんにも要りませんなんて、へっ、こんなこと云ふのは、もう考へてもいやになる。そこで今夜はこゝへ泊らう。」
大学士は大きな近眼鏡を
ちょっと直してにやにや笑ひ
小屋へ入って行ったのだ。
土間には四つの石かけが
炉の役目をしその横には
ほだもいくらか積んである。
大学士はマッチをすって
火をたき、それからビスケットを出し
もそもそ喰べたり手帳に何か書きつけたり
しばらくの間してゐたが
おしまひに火をどんどん燃して
ごろりとわらにねころんだ。
夜中になって大学士は
「うう寒い」
と云ひながら
ばたりとはね起きて見たら
もうたきゞが燃え尽きて
たゞのおきだけになってゐた。
学士はいそいでたきゞを入れる。
火は赤く愉快に燃え出し
大学士は胸をひろげて
つくづくとよく暖る。
それから一寸ちょっと外へ出た。
二十日の月は東にかゝり
空気は水より冷たかった、
学士はしばらく足踏みをし
それからたばこを一本くはへマッチをすって
「ふん、実にしづかだ、夜あけまでまだ三時間半あるな。」
つぶやきながら小屋に入った。
ぼんやりたき火をながめながら
わらの上に横になり
手を頭の上で組み
うとうとうとうとした。
突然頭の下のあたりで
小さな声で云ひ合ってるのが聞えた。
「そんなにひぢを張らないでお呉れ。おれの横の腹に病気が起るぢゃないか。」
「おや、変なことを云ふね、一体いつ僕が肱を張ったね」
「そんなに張ってゐるぢゃないか、ほんたうにお前この頃湿気を吸ったせいかひどくのさばり出して来たね」
「おやそれは私のことだらうか。お前のことぢゃなからうかね、お前もこの頃は頭でみりみり私を押しつけようとするよ。」
大学士は眼を大きく開き
起き上ってその辺を見まはしたが
れもらない様だった。
声はだんだん高くなる。

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