方丈記
僕「今日は
父「本所もすつかり変つたな。」
母「うちの近所はどうなつてゐるえ?」
僕「どうなつてゐるつて、……釣竿屋の
僕「今でも
伯母「常磐湯と言つたかしら。」
妻「あたしのゐた
僕「変らないのは
妻「あすこにあつた、大きい柳は?」
僕「柳などは勿論焼けてしまつたさ。」
母「お前のまだ小さかつた頃には電車も通つてゐなかつたんだからね。」
父「
僕「僕の小便をしてしまつた話でせう。満員の鉄道馬車に乗つたまま。……」
伯母「さうさう、赤いフランネルのズボン下をはいて、……」
父「何、あの鉄道馬車会社の
僕「東京電燈の
父「知つてゐるとも。
僕「大倉
父「僕もあの時分にどうかすれば、……」
僕「もうそれだけで
伯母「さうだね。この上損でもされてゐた日には……」(笑ふ)
僕「『
父「あすこには
僕「『
母「あすこには
僕「僕の覚えてゐる時分でも何かそんな気のする所でしたね。」
妻「お
僕「お鶴さん? ああ、あの
妻「ええ、
僕「あの
伯母「あたしは地震の年以来一度も行つたことはないんだから、――行つても驚くだらうけれども。」
僕「それは驚くだけですよ。
父「何しろ変りも変つたからね。そら、昔は夕がたになると、みんな門を
母「
伯母「あの時分は
僕「今は雀さへ飛んでゐませんよ。僕は実際
妻「わたしは一度子供たちに
父「
僕「ええ、あれはもうとうに。……さあ、これから驚いたと云ふことを十五回だけ書かなければならない。」
妻「驚いた、驚いたと書いてゐれば
僕「その
母「何だえ、それは? 『お
僕「これですか? これは『
底本:「芥川龍之介全集 第四巻」筑摩書房
1971(昭和46)年6月5日初版第1刷発行
1971(昭和46)年10月5日初版第5刷発行
※底本は、物を数える際や地名などに用いる「ヶ」(区点番号5-86)を、大振りにつくっています。
入力:j.utiyama
校正:もりみつじゅんじ
1999年8月23日公開
2004年3月16日修正
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