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木の子説法(きのこせっぽう)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 13:03:35  点击:  切换到繁體中文

底本: 泉鏡花集成8
出版社: ちくま文庫、筑摩書房
初版発行日: 1996(平成8)年5月23日
入力に使用: 1996(平成8)年5月23日第1刷


底本の親本: 鏡花全集
出版社: 岩波書店
初版発行日: 1942(昭和17)年7月刊行開始

 

「――はもあみだぶつ、はも仏と唱うれば、ふならく世界に生れ、こちへ鯒へとしょうぜられ……仏と雑魚ざこして居べし。されば……干鯛ひだい貝らいし、真経には、たことくあのくたら――」
 ……時節柄をわきまえるがいい。蕎麦そばは二銭さがっても、このせち辛さは、明日の糧を思って、真面目まじめにお念仏でも唱えるなら格別、「蛸とくあのく鱈。」などと愚にもつかない駄洒落だじゃれもてあそぶ、と、こごとが出そうであるが、本篇に必要で、酢にするように切離せないのだから、しばらく御海容を願いたい。
「……干鯛かいらいし……ええと、蛸とくあのく鱈、三百三もんに買うて、鰤菩薩ぶりぼさつに参らする――ですか。とぼけていて、ちょっと愛嬌あいきょうのあるものです。ほんの一番だけ、あつきあい下さいませんか。」
 こう、つれに誘われて、それからの話である。「蛸とくあのくたら。」しかり、これだけに対しても、三百三もんがほどの価値ねうちをお認めになって、口惜くやしい事はあるまいと思う。
 つれは、毛利一樹いちじゅ、という画工えかきさんで、多分、挿画家そうがか協会会員の中に、芳名がつらなっていようと思う。私は、当日、小作しょうさく挿画さしえのために、場所の実写をあつらえるのに同行して、麻布我善坊あざぶがぜんぼうから、狸穴まみあな辺――化けるのかと、すぐまたおなかまから苦情が出そうである。が、はばかりながらそうではない。我ながらちょっとしおらしいほどに思う。かつて少年の頃、師家の玄関番をしていた折から、美しいその令夫人のおともをして、某子爵家の、前記のあたりの別荘に、栗を拾いに来た。拾う栗だから申すまでもなくいがのままのが多い。別荘番の貸してくれた鎌で、山がかりに出来た庭裏の、まあ、谷間で。御存じでもあろうが、あれは爪先つまさき刺々とげとげを軽くおさえて、手許てもとへ引いてく。……不器用でも、これは書生の方がうまかった。令夫人は、駒下駄こまげたで圧えても転げるから、つまをすんなりと、白い足袋はだし、それでも、がさがさと針をゆすり、歯をいてねるから、憎らしい……と足袋もとって、雪をりものにしたような素足で、もすそをしなやかに、毬栗いがぐりを挟んでも、ただすんなりとして、露に褄もこぼれなかった。――このおもむきを写すのに、画工えかきさんに同行を願ったのである。これだと、どうも、そのまま浮世絵に任せたがよさそうに思われない事もない。が、そうすると、さもしいようだが、作者の方が飯にならぬ。そッとして置く。
 もっとも三十年も以前の思出である。もとより別荘などは影もなくなった。が、狸穴、我善坊の辺だけに、引潮のあとの海松みるに似て、樹林は土地の隅々に残っている。餅屋が構図を飲込んで、スケッチブックを懐に納めたから、ざっと用済みの処、そちこち日暮だ。……大和田は程遠し、ちとおごりになる……見得を云うまい、これがいい、これがいい。長坂の更科さらしなで。我が一樹も可なりける、二人で四五本傾けた。
 時は盂蘭盆うらぼんにかかって、下町では草市が立っていよう。もののあわれどころより、雲を掻裂きたいほど蒸暑かったが、何年にも通った事のない、十番でも切ろうかと、曾我ではなけれど気が合って歩行あるき出した。坂を下りて、一度ぐっと低くなる窪地くぼちで、途中街燈の光が途絶えて、鯨が寝たような黒い道があった。鳥居坂の崖下がけしたから、ヶ窪の辺らしい。一所ひとところ、板塀の曲角に、白い蝙蝠こうもりひろがったように、比羅びらが一枚ってあった。一樹が立留まって、繁ったかしの陰に、表町の淡いにすかしながら、その「――干鯛かいらいし――……蛸とくあのくたら――」を言ったのである。
魚説法うおせっぽう、というのです――狂言があるんですね。時間もよし、この横へ入った処らしゅうございますから。」
 すぐ角を曲るように、樹の枝も指せば、おぼろげな番組の末にの標示がしてあった。古典な能の狂言も、社会に、尖端せんたんやじりを飛ばすらしい。けれども、五十歩にたりぬ向うの辻の柳も射ない。のみならず、矢竹の墨が、ほたほたと太く、みのの毛を羽にはいだような形を見ると、古俳諧にいわゆる――狸をおど篠張しのはりの弓である。
 これもまた……面白い。
「おともしましょう、望む処です。」
 気競きおって言うまで、私はいい心持に酔っていた。

「通りがかりのものです。……臨時に見物をしたいと存じますのですが。」
「望む所でございます。」
 と、式台正面を横に、卓子テエブルを控えた、受附世話方の四十年配の男の、紋附の帷子かたびらで、舞袴まいばかま穿いたのが、さも歓迎の意を表するらしく気競きおって言った。これは私たちのように、酒気さけけがあったのでは決してない。
 切符は五十銭である。第一、順と見えて、六十を越えたろう、白髪しらがのおばあさんが下足げたを預るのに、二人分に、洋杖ステッキと蝙蝠傘を添えて、これが無料で、蝦蟇口がまぐちひねった一樹の心づけに、手も触れない。
 この世話方の、おん袴に対しても、――(たかが半円だ、ご免を被って大きく出ておけ。)――軽少過ぎる。卓子テエブルを並べて、謡本少々と、扇子が並べてあったから、ほんの松の葉の寸志と見え、一樹が宝生雲の空色なのを譲りうけて、その一本を私に渡し、
「いかが。」
「これも望む処です。」
 つい私は莞爾にっこりした。扇子店おうぎみせの真上の鴨居かもいに、当夜の番組が大字だいじで出ている。私が一わたり読み取ったのは、唯今ただいまの塀下ではない、ここでの事である。合せて五番。中に能の仕舞もまじって、序からざっと覚えてはいるが――狸の口上らしくなるから一々は記すまい。必要なのだけを言おう。
 必要なのは――魚説法――に続く三番目に、ひとつきのこ、(くさびら。)――さぎ、玄庵――の曲である。
 道の事はよくは知らない。しかし鷺の姿は、近ごろ狂言のながれに影は映らぬと聞いている。古い隠居か。むかしものの物好ものずきで、稽古けいこを積んだ巧者が居て、その人たち、言わば素人の催しであろうも知れない。狸穴近所には相応ふさわしい。が、私のいうのは流儀の事ではない。曲である。
 この、茸――
 あわただしいまでに、一樹が狂言を見ようとしたのも、ほかのどの番組でもなく、ただこれあるがためであろう、と思う仔細しさいがある。あたかも一樹が、扇子のせめを切りながら、片手の指のさきで軽く乳のあたりと思う胸をさすって、返す指で、左の目をおさえたのを見るにつけても。……
 一樹を知ったほどのもので、画工えかきさんの、この癖を認めないものはなかろう。ちょいと内証で、人に知らせないようにる、この早業はやわざは、しかしながら、礼拝と、愛撫と、謙譲と、しかも自恃ほこりをかね、色を沈静にし、目を清澄にして、胸に、一種深き人格を秘したる、珠玉をしのばせる表顕ひょうげんであった。
 こういううちにも、舞台――舞台は二階らしい。――一間四面の堂の施主が、売僧まいすの魚説法を憤って、
「――おのれ何としょうぞ――」
「――打たば打たしめ、棒鱈ぼうだら太刀魚たちうおでおうちあれ――」
「――おのれ、また打擲ちょうちゃくをせいでおこうか――」
「――ああ、いかな、かながしらもたまるものではない――」
「――ええ、苦々しいやつかな――」
「――いり海老えびのような顔をして、赤目張あかめばるの――」
「――さてさて憎いやつの――」
 相当の役者と見える。声が玄関までよく通って、その間に見物の笑声わらいごえが、どッと響いた。
「さあ、こちらへどうぞ、」
はばかり様。」
 階子段はしごだんは広い。――先へ立つ世話方の、あとに続く一樹、と並んで、私の上りかかる処を、あがり口で世話方が片膝をついて、留まって、「ほんの仮舞台、諸事不行届きでありまして。」
 挨拶あいさつするのに、段を覗込のぞきこんだ。その頭と、下から出かかった頭が二つ……妙に並んだ形が、早や横正面に舞台の松と、橋がかりの一二三の松が、人波をすかして、揺れるように近々と見えるので……ややその松の中へ、次の番組の茸が土をもたげたようで、余程おかしい。……いや、高砂たかさごの浦の想われるのに対しては、むしろ、むくむくとした松露であろう。
 その景色の上を、追込まれの坊主が、ひれのごとく、キチキチと法衣ころもそであおって、
「――こちゃただ飛魚とびうおといたそう――」
「――まだそのつれを言うか――」
「――飛魚しょう、飛魚しょう――」
 と揚幕へ宙を飛んだ――さらりと落す、幕のすきに、古畳と破障子やれしょうじあらわれて、消えた。……思え、講釈だと、水戸黄門が竜神の白頭しろがしら床几しょうぎにかかり、奸賊かんぞく紋太夫を抜打に切って棄てる場所に……伏屋ふせやの建具の見えたのは、どうやらびた貸席か、出来合の倶楽部などを仮に使った興行らしい。
 見た処、大広間、六七十畳、舞台を二十畳ばかりとして、見物は一杯とまではない、がにぎやかであった。

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