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高野聖(こうやひじり)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 13:25:57  点击:  切换到繁體中文



     二十二

左右とこうして、婦人おんなが、はげますように、すかすようにして勧めると、白痴ばかは首を曲げてかのへそもてあそびながら唄った。

木曽きそ御嶽山おんたけさんは夏でも寒い、
   あわせりたや足袋たびえて。

(よく知っておりましょう、)と婦人おんなは聞き澄して莞爾にっこりする。
 不思議や、唄った時の白痴ばかの声はこの話をお聞きなさるお前様はもとよりじゃが、わしも推量したとは月鼈雲泥げっべつうんでい、天地の相違、節廻ふしまわし、あげさげ、呼吸いきの続くところから、第一その清らかな涼しい声という者は、到底とうていこの少年の咽喉のどから出たものではない。まずさきの世のこの白痴ばかの身が、冥土めいどから管でそのふくれた腹へ通わして寄越よこすほどに聞えましたよ。
 私はかしこまって聞き果てると、膝に手をついたッきりどうしても顔を上げてそこな男女ふたりを見ることが出来ぬ、何か胸がキヤキヤして、はらはらと落涙らくるいした。
 婦人おんなは目早く見つけたそうで、
(おや、貴僧あなた、どうかなさいましたか。)
 急にものもいわれなんだが漸々ようよう
(はい、なあに、変ったことでもござりませぬ、わしも嬢様のことは別におたずね申しませんから、貴女あなたも何にも問うては下さりますな。)
 と仔細しさいは語らずただ思い入ってそう言うたが、実は以前から様子でも知れる、金釵玉簪きんさぎょくさんをかざし、蝶衣ちょういまとうて、珠履しゅり穿うがたば、まさ驪山りさんに入って、相抱あいいだくべき豊肥妖艶ほうひようえんの人が、その男に対する取廻しの優しさ、へだてなさ、深切しんせつさに、人事ひとごとながらうれしくて、思わず涙が流れたのじゃ。
 すると人の腹の中を読みかねるような婦人おんなではない、たちまち様子をさとったかして、
貴僧あなたはほんとうにお優しい。)といって、われぬ色を目にたたえて、じっと見た。わしこうべれた、むこうでも差俯向さしうつむく。
 いや、行燈あんどうがまた薄暗くなって参ったようじゃが、恐らくこりゃ白痴ばかのせいじゃて。
 その時よ。
 座が白けて、しばらく言葉が途絶とだえたうちに所在がないので、唄うたいの太夫たゆう退屈たいくつをしたとみえて、顔の前の行燈あんどうを吸い込むような大欠伸おおあくびをしたから。
 身動きをしてな、
(寝ようちゃあ、寝ようちゃあ、)とよたよた体を持扱もちあつかうわい。
(眠うなったのかい、もうお寝か。)といったがすわり直ってふと気がついたように四辺あたり※(「目+句」、第4水準2-81-91)みまわした。戸外おもてはあたかも真昼のよう、月の光はひろげたうちへはらはらとさして、紫陽花あじさいの色も鮮麗あざやかあおかった。
貴僧あなたももうお休みなさいますか。)
(はい、ご厄介やっかいにあいなりまする。)
(まあ、いま宿やどを寝かします、おゆっくりなさいましな。戸外おもてへは近うござんすが、夏は広い方が結句けっくうございましょう、わたしどもは納戸なんどせりますから、貴僧あなたはここへお広くおくつろぎがようござんす、ちょいと待って。)といいかけてつッと立ち、つかつかと足早に土間へ下りた、余り身のこなしが活溌かっばつであったので、その拍子に黒髪が先を巻いたままうなじくずれた。
 びんをおさえて戸につかまって、戸外おもてすかしたが、独言ひとりごとをした。
(おやおやさっきのさわぎでくしを落したそうな。)
 いかさま馬の腹をくぐった時じゃ。」

     二十三

 この折から下の廊下ろうか跫音あしおとがして、しずか大跨おおまた歩行あるいたのが、せきとしているからよく。
 やがて小用こようした様子、雨戸をばたりと開けるのが聞えた、手水鉢ちょうずばち柄杓ひしゃくひびき
「おお、つもった、積った。」とつぶやいたのは、旅籠屋はたごやの亭主の声である。
「ほほう、この若狭わかさ商人あきんどはどこかへ泊ったと見える、何か愉快おもしろい夢でも見ているかな。」
「どうぞその後を、それから。」と聞く身には他事をいううちが牴牾もどかしく、にべもなく続きをうながした。
「さて、夜もけました、」といって旅僧たびそうはまた語出かたりだした。
「たいてい推量もなさるであろうが、いかに草臥くたびれておっても申上げたような深山みやま孤家ひとつやで、眠られるものではない、それに少し気になって、はじめの内わしを寝かさなかった事もあるし、目はえて、まじまじしていたが、さすがに、つかれひどいから、しんは少しぼんやりして来た、何しろ夜の白むのが待遠まちどおでならぬ。
 そこではじめの内は我ともなく鐘の音の聞えるのを心頼みにして、今鳴るか、もう鳴るか、はて時刻はたっぷりったものをと、あやしんだが、やがて気が付いて、こういう処じゃ山寺どころではないと思うと、にわかに心細くなった。
 その時は早や、夜がものにたとえると谷の底じゃ、白痴ばかがだらしのない寐息ねいきも聞えなくなると、たちまち戸の外にものの気勢けはいがしてきた。
 けものの跫音のようで、さまで遠くの方から歩行あるいて来たのではないよう、猿も、ひきも、居る処と、気休めにまず考えたが、なかなかどうして。
 しばらくすると今そやつが正面の戸にちかづいたなと思ったのが、羊の鳴声になる。
 私はその方をまくらにしていたのじゃから、つまり枕頭まくらもと戸外おもてじゃな。しばらくすると、右手めてのかの紫陽花が咲いていたその花の下あたりで、鳥の羽ばたきする音。
 むささびか知らぬがきッきッといって屋のむねへ、やがておよそ小山ほどあろうと気取けどられるのが胸をすほどにちかづいて来て、牛が鳴いた、遠くの彼方かなたからひたひたと小刻こきざみけて来るのは、二本足に草鞋わらじ穿いた獣と思われた、いやさまざまにむらむらとうちのぐるりを取巻いたようで、二十三十のものの鼻息、羽音、中にはささやいているのがある。あたかも何よ、それ畜生道ちくしょうどうの地獄の絵を、月夜に映したような怪しの姿が板戸一枚、魑魅魍魎ちみもうりょうというのであろうか、ざわざわと木の葉がそよ気色けしきだった。
 息をこらすと、納戸で、
(うむ、)といって長く呼吸いきを引いて一声ひとこえうなされたのは婦人おんなじゃ。
(今夜はお客様があるよ。)と叫んだ。
(お客様があるじゃないか。)
 としばらく経って二度目のははっきりとすずしい声。
 極めて低声こごえで、
(お客様があるよ。)といって寝返る音がした、さらに寝返る音がした。
 戸の外のものの気勢けはい動揺どよめきを造るがごとく、ぐらぐらと家がゆらめいた。
 わし陀羅尼だらにじゅした。

若不順我呪にゃくふじゅんがしゅ 悩乱説法者のうらんせっぽうじゃ
頭破作七分ずはさしちぶん 如阿梨樹枝にょありじゅし
如殺父母罪にょしぶもざい 亦如厭油殃やくにょおうゆおう
斗秤欺誑人としょうごおうにん 調達破僧罪じょうだつはそうざい
犯此法師者ほんしほっししゃ 当獲如是殃とうぎゃくにょぜおう

 と一心不乱、さっと木の葉をいて風がみんなみへ吹いたが、たちまちしずまり返った、夫婦がねやもひッそりした。」

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