您现在的位置: 贯通日本 >> 作家 >> 泉 鏡花 >> 正文

紅玉(こうぎょく)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 13:24:43  点击:  切换到繁體中文

底本: 泉鏡花集成7
出版社: ちくま文庫、筑摩書房
初版発行日: 1995(平成7)年12月4日
入力に使用: 1995(平成7)年12月4日第1刷


底本の親本: 鏡花全集 第二十六巻
出版社: 岩波書店
初版発行日: 1942(昭和17)年10月15日

 


 

時。
  現代、初冬。
場所。
  府下郊外の原野。
人物。
  画工。侍女。(烏の仮装したる)
  貴夫人。老紳士。少紳士。小児五人。
   ――別に、三羽の烏。(侍女と同じ扮装)



[#改ページ]



小児一 やあ、停車場ステェションの方の、遠くの方から、あんなものがって来たぜ。
小児二 何だい何だい。
小児三 ああ、おおきなものを背負しょって、蹌踉々々よろよろ来るねえ。
小児四 影法師まで、ぶらぶらしているよ。
小児五 重いんだろうか。
小児一 何だ、引越かなあ。
小児二 構うもんか、何だって。
小児三 御覧よ、せなよりか高い、障子見たようなものを背負ってるから、たこ歩行あるいて来るようだ。
小児四 糸をつけて揚げる真似まねエしてやろう。
小児五 遣れ遣れ、おもしろい。
凧を持ったのは凧を上げ、独楽こまを持ちたるは独楽を廻す。手にものなき一人いちにん、一方に向い、凧の糸を手繰る真似して笑う。
画工 (枠張わくばりのまま、絹地のを、やけにひもからげにして、薄汚れたる背広の背に負い、初冬はつふゆ、枯野の夕日影にて、あかあかと且つさみしき顔。酔える足どりにて登場)……落第々々、大落第。(ぶらつく体をステッキ突掛つッかくるさま、疲切ったる樵夫きこりのごとし。しばらくして、叫ぶ)畜生、ざまを見やがれ。
声に驚き、且つける玩具おもちゃの、手許てもとに近づきたるを見て、糸を手繰りたる小児こどもと開いて素知らぬ顔す。
画工、その事には心付かず、立停たちどまりて嬉戯きぎする小児等こどもら※(「目+句」、第4水準2-81-91)みまわす。
 よく遊んでるな、ああ、うらやましい。どうだ。みんな、面白いか。
小児等、彼の様子を見て忍笑しのびわらいす。中に、糸を手繰りたる一人いちにん
小児三 ああ、面白かったの。
画工 (くだをまく口吻くちぶり)何、面白かった。面白かったは不可いかんな。今の若さに。……小児こどもをつかまえて、今の若さも変だ。(笑う)はははは、面白かったは心細い。過去った事のようでなさけない。面白いと云え、面白がれ、面白がれ。なおその上に面白くなれ。むむ、どうだ。
小児三 だって、兄さん怒るだろう。
画工 (解し得ず)おれが怒る、何を……何を俺が怒るんだ。生命いのちがけで、いて文部省の展覧会で、へえつくばって、いか、洋服の膝を膨らまして膝行いざってな、いい図じゃないぜ、審査所のお玄関で頓首とんしゅ再拝とつかまつったやつを、紙鉄砲で、ポンとねられて、ぎゃふんとまいった。それでさえ怒り得ないで、悄々すごすごつえすがって背負しょって帰る男じゃないか。景気よく馬肉けとばしあおった酒なら、跳ねも、いきりもしようけれど、胃のわるい処へ、げっそり空腹すきばらと来て、蕎麦そばともいかない。停車場ステェション前で饂飩うどんで飲んだ、臓府ぞうふがさながら蚯蚓みみずのような、しッこしのない江戸児擬えどッこまがいが、どうして腹なんぞ立て得るものかい。ふん、だらしやない。
他の小児こどもはきょろきょろ見ている。
小児三 何だか知らないけれどね、今、向うから来る兄さんに、糸目をつけて手繰っていたんだぜ。
画工 何だ、糸を着けて……手繰ったか。いや、怒りやしない。何の真似だい。
小児一 兄さんがね、そうやってね、ぶらぶら来た処がね。
小児二 遠くから、まるでもって、凧の形に見えたんだもの。
画工 ははあ、凧か。(背負ってる絵を見る)むむ、そこで、(仕形しかたしつつ)とやって面白がっていたんだな。処で、俺がこう近くに来たから、怒られやしないかと思って、その悪戯いたずらめたんだ。だから、面白かったと云うのか。……かったはさみしい、つまらない。さかんに面白がれ、もっと面白がれ。さあ、糸を手繰れ、上げろ、引張れ。俺が、凧になって、あがってやろう。上って、高い空から、上野の展覧会を見てやる。京、大阪を見よう。日本中を、いや世界を見よう。……さあ、あの来てあおれ、それ、お前は向うで上げるんだ。さあ、遣れ、遣れ。(笑う)ははは、面白い。
小児等しばらく逡巡しゅんじゅんす。画工の機嫌よげなるを見るより、一人は、画工のせなかいだいて、凧を煽る真似す。一人は駈出かけだして距離を取る。その一人いちにん
小児三 やあ、大凧だい、一人じゃ重い。
小児四 うん、手伝ってやら。(と独楽を懐にして、立並ぶ)――風吹け、や、吹け。山の風吹いて来い。――(同音にはやす。)
画工 (あおりたる児の手を離るると同時に、大手を開いて)こうなりゃ凧絵だ、提灯屋ちょうちんやだ。そりゃ、しゃくるぞ、水むぞ、べっかっこだ。
小児等こどもらの糸を引いてかけるがままに、ふらふらと舞台を飛廻り、やがて、樹根きのね※(「てへん+堂」、第4水準2-13-41)どうとなりて、切なき呼吸いきつく。
暮色到る。
小児三 凧は切れちゃった。
小児一 暗くなった。――ちょうどい。
小児二 また、……あの事をしよう。
その他 遣ろうよ、遣ろうよ。――(一同、手はつながず、少しずつ間をおき、ぐるりと輪になりて唄う。)
青山、葉山、羽黒の権現ごんげんさん
あとさき言わずに、中はくぼんだ、おかまの神さん
唄いつつ、廻りつつ、繰り返す。
画工 (茫然ぼうぜんとして黙想したるが、吐息して立ってこれをながむ。)おい、おい、それは何の唄だ。
小児一 ああ、何の唄だか知らないけれどね、こうやって唄っていると、誰か一人踊出すんだよ。
画工 踊る? 誰が踊る。
小児二 誰が踊るって、このね、の中へ入ってしゃがんでるものが踊るんだって。
画工 誰も、入ってはおらんじゃないか。
小児三 でもね、気味が悪いんだもの。
画工 気味が悪いと?
小児四 ああ、あの、それがね、踊ろうと思って踊るんじゃないんだよ。ひとりでにね、踊るの。踊るまいと思っても。だもの、気味が悪いんだ。
画工 遣ってみよう、俺を入れろ。
一同 やあ、兄さん、入るかい。
画工 俺が入る、待て、(画を取って大樹の幹によせかく)さあ、いか。
小児三 目をふさいでいるんだぜ。
画工 よし、この世間よのなかを、酔って踊りゃ本望だ。
青山、葉山、羽黒の権現さん
小児等こどもら唄いながら画工の身の周囲まわりめぐる。環の脈を打って伸び且つ縮むに連れて、画工、ほとんど、無意識なるがごとく、片手また片足を異様に動かす。唄う声、いよいよえて、次第に暗くなる。
時に、樹の蔭より、顔黒く、くちばし黒く、からすかしらして真黒まっくろなるマントようきぬすそまでかぶりたる異体のもの一個あらわれ出で、小児こどもと小児の間にまじりてひとしく廻る。
地にうずくまりたる画工、この時、中腰に身を起して、半身を左右に振って踊る真似す。
続いて、はじめの黒きものと同じ姿したる三個、人の形の烏。樹蔭より顕れ、同じく小児等の間に交って、画工の周囲をめぐる。
小児等は絶えず唄う。いずれもそのあやしき物の姿を見ざる趣なり。あとの三羽の烏出でて輪に加わる頃より、画工全く立上り、我を忘れたるさまして踊りいだす。初手の烏もともに、就中なかんずくあとなる三羽の烏は、足も地に着かざるまで跳梁ちょうりょうす。
彼等の踊狂う時、小児等は唄をとどむ。
一同 (手に手に石を二ツ取り、カチカチと打鳴らして)魔が来た、でんでん。影がさいた、もんもん。(四五度口々にさみしくはやす)ほんとに来た。そりゃ来た。
小児のうちに一人いちにん、誰とも知らずかく叫ぶとともに、ばらばらと、左右に分れて逃げ入る。
 の葉落つ。
木の葉落つる中に、一人いちにんの画工と四個の黒き姿としきりに踊る。画工は靴を穿いたり、後の三羽の烏皆爪尖つまさきまで黒し。はじめの烏ひとり、裾をこぼるる褄紅つまくれないに、足白し。
画工 (疲果てたるさま※(「てへん+堂」、第4水準2-13-41)どう仰様のけざまに倒る)水だ、水をくれい。
いずれも踊りむ。後の烏三羽、身を開いて一方に翼を交わしたるごとく、腕を組合せつつ立ちてながむ。
初の烏 (うら若き女の声にて)寝たよ。まあ……だらしのない事。人間、こうはなりたくないものだわね。――そのうちに目が覚めたらくだろう――別にお座敷の邪魔にもなるまいから。……どれ、(樹の蔭に一むら生茂おいしげりたるすすきの中より、組立てに交叉こうさしたる三脚の竹を取出とりいだして据え、次に、その上のまろき板を置き、卓子テェブルのごとくす。)
後の烏、この時、三羽みッつとも無言にて近づき、手伝うさまにて、二脚のズック製、おなじ組立ての床几しょうぎを卓子の差向いに置く。
はじめの烏、また、旅行用手提げの中より、葡萄酒ぶどうしゅの瓶を取出だし卓子の上に置く。後の烏等、青き酒、赤き酒の瓶、続いてコップを取出だして並べ揃う。
やがて、初の烏、一ちょう蝋燭ろうそくを取って、これに火を点ず。
舞台あかるくなる。


 

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作家:

  • 下一篇作家:
  •  
     
     
    网友评论:(只显示最新10条。评论内容只代表网友观点,与本站立场无关!)
     

    没有任何图片作家

    广告

    广告