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竜潭譚(りゅうたんだん)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-23 11:00:47  点击:  切换到繁體中文



     かくれあそび

 さきにわれ泣きいだしてすくいを姉にもとめしを、かれに認められしぞさいわいなる。いふことをかで一人いでしを、弱りて泣きたりと知られむには、さもこそとて笑はれなむ。やさしき人のなつかしけれど、顔をあはせていひまけむは口惜くちおしきに。
 うれしく喜ばしき思ひ胸にみちては、また急に家に帰らむとはおもはず。ひとり境内けいだいたたずみしに、わツといふ声、笑ふ声、木の蔭、井戸の裏、堂の奥、廻廊の下よりして、五ツよりツまでなるの五、六人前後あとさきに走りでたり、こはかくれ遊びの一人いちにんが見いだされたるものぞとよ。二人三人ふたりみたり走り来て、わが其処そこに立てるを見つ。皆ひとみを集めしが、
「お遊びな、一所いつしよにお遊びな。」とせまりて勧めぬ。小家こいえあちこち、このあたりに住むは、かたゐといふものなりとぞ。風俗少しく異なれり。どもが親たちの家みたるもきぬ着たるはあらず、大抵たいてい跣足はだしなり。三味線さみせんきて折々おりおりわがかどきたるもの、溝川みぞかわどじようを捕ふるもの、附木つけぎ草履ぞうりなどひさぎに来るものだちは、皆このどもが母なり、父なり、祖母などなり。さるものとはともに遊ぶな、とわが友は常にいましめつ。さるに町方まちかたの者としいへば、かたゐなるどもとうとび敬ひて、頃刻しばらくもともに遊ばんことをこいねがふや、親しく、優しく勉めてすなれど、不断はこなたより遠ざかりしが、その時は先にあまりさびしくて、友しき念のへがたかりしその心のまだ失せざると、恐しかりしあとの楽しきとに、われはこばまずしてうなずきぬ。
 どもはさざめき喜びたりき。さてまたかくれあそびを繰返すとて、けんしてさがすものを定めしに、われその任にあたりたり。おもておおへといふままにしつ。ひツそとなりて、堂の裏崖うらがけをさかさに落つる滝の音どうどうと松杉まつすぎこずえゆふ風に鳴り渡る。かすかに、
「もういよ、もう可いよ。」
 と呼ぶ声、こだまに響けり。眼をあくればあたり静まり返りて、たそがれの色また一際ひときわ襲ひきたれり。おおいなる樹のすくすくとならべるが朦朧もうろうとしてうすぐらきなかに隠れむとす。
 声したるかたをと思ふところにはたれもをらず。ここかしこさがしたれど人らしきものあらざりき。
 またもと境内けいだいの中央に立ちて、もの淋しくみまわしぬ。山の奥にも響くべくすさまじき音して堂の扉をとざす音しつ、げきとしてものも聞えずなりぬ。
 親しき友にはあらず。常にうとましき児どもなれば、かかる機会おりを得てわれをば苦めむとやたくみけむ。身を隠したるままひそかげ去りたらむには、探せばとてらるべき。やくもなきことをとふと思ひうかぶに、うちすててくびすをかへしつ。さるにても万一もしわがみいだすを待ちてあらばいつまでもでくることを得ざるべし、それもまたはかりがたしと、こころまよひて、とつ、おいつ、いたずらに立ちてこうずる折しも、何処いずくよりきたりしとも見えず、暗うなりたる境内の、うつくしくいたる土のひろびろと灰色なせるに際立きわだちて、顔の色白く、うつくしき人、いつかわがかたわらにゐて、うつむきざまにわれをば見き。
 極めて丈高たけたかき女なりし、その手をふところにして肩を垂れたり。やさしきこゑにて、
「こちらへおいで。こちら。」
 といひてさきに立ちて導きたり。見知りたるひとにあらねど、うつくしき顔のえみをば含みたる、よき人と思ひたれば、あやしまで、隠れたるのありかを教ふるとさとりたれば、いそいそと従ひぬ。

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