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地球要塞(ちきゅうようさい)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-25 6:37:28  点击:  切换到繁體中文


   別れのさかずき――本国からの呼び出し


 クロクロ島にあがる凱歌!
 米連の追撃隊は、わが怪力線砲のため、ことごとくやっつけられてしまった。
「祝盃だ、祝盃だ!」
「なんという、すばらしい戦闘だったろうか。ああ、思いだしても、胸がすく!」
 久慈たちは、クロクロ島に備付けの怪力線砲の偉力を、今更いまさらのように知って乱舞らんぶのかたちである。
「よかろう。おい、オルガ姫、なだ一本を、倉庫から出してこい」
「はい、はい」
 私は、なおも、島の付近の海と空との一面に、油断なき監視の触手を張りおわってのち、ようやく安心して、皆のところへ戻ってきた。
 せまい機械台のうえが、とり片付けられ、一枚の白い布が敷かれていた。そこへ、オルガ姫が、酒のびんをもってきた。
「ああ、灘の生一本か。こんなところで、灘の酒がのめるなんて、夢のようだな」
 皆は、子供のようにうれしそうな顔をして、小さい盃にくみわけられた灘の酒をおしいただいた。
「ばんざーい、クロクロ島!」
 私はいった。
「ばんざい、黒馬博士のために……」
 と、久慈が、音頭をとった。
「ありがとう」
 と私はいって、
「――だが、この盃をもって、皆さんに対し、お別れの盃を兼ねさせていただきたい」
「なんだって」
 久慈が、おどろいて、私の顔をみた。
 私はここで、皆に、説明をしなければならなかった。
「実は、さっき、本国から、至急戻ってくるようにと、命令があったのだ。だから私は、お別れして、いそぎ東京へ戻らなければならない」
「ほんとうかね。われわれをからかっているのではないかね。クロクロ島の主人公が、ここを離れるなんて」
「いや、クロクロ島は、依然としてここにおいておく。久慈君に、後を頼んでおく。もちろん本国から君あてに、辞令が無電で届くことだろうが……」
「ほんとうかね。黒馬博士が、クロクロ島を離れるなんて、そいつはちょっと困ったなあ」
「困るって、なにが……」
「僕には、このクロクロ島が、つかいこなせないと思うのだ。なにしろ、このとおり、複雑な働きをする大潜水艦だからなあ」
「複雑だといっても、殆んどみんな機械が自動式にやってくれるのだから、君は、司令マイクに、命令をふきこむだけでも、かまわないんだよ」
「それはそうかも知れんが、このふかい意味のある西経三十三度、南緯三十一度付近においてクロクロ島本来の使命を達成するには、僕では、うつわが小さすぎる」
 久慈は、いやに謙遜けんそんをする。
「ははあ、臆病風おくびょうかぜに吹かれたね」
 と、私がいえば、彼は、
「臆病風? とんでもない。そんな風なんかに吹かれてはいない。しかし、只これだけのりっぱな大潜水艦を、君から拍手をもらうほど、僕にうまく使いこなせるかとそこが心配なんだ。その一方僕は、このクロクロ島を、自分の思うように使ってみたくて、たまらないのだ。臆病風に吹かれているわけじゃない」
 と、久慈は、ぴーんと胸をはっていった。
 私は、うなずいた。久慈なら、たしかに、このクロクロ島をうまく使いこなせるだろう。
 だが、そのとき私は、一つ心配なことを思い出した。
 それは外でもない。昨夜あらわれた怪人X大使のことだった。あのような大胆不敵な曲者に、このクロクロ島を再訪問されては困ってしまう。なにかいい方法はないか。
 私は、しばらく考えた結果、一つのことを思いついた。それは、クロクロ島の入口に、強烈な磁石砲じしゃくほうをおくことだ。あのX大使が、入って来ようとすると、この磁石砲の磁場じばが自動的に働いて、X大使の身体を、その場にすくませる。そのとき一方から、ヘリウム原子弾を雨霰あめあられのようにとばせて、X大使の身体の組織をばらばらにしてしまう。そうすれば、いかなる怪人X大使であろうと、たいてい参ってしまうであろう。
 私は、磁石砲を入口に据付すえつけるために、貴重な三十分ばかりの時間をついやし、それが終ると、久慈にくわしく注意をして、名残なごり惜しくもクロクロ島を出掛けたのであった。


   魚雷潜水艇ぎょらいせんすいてい――身動き出来ぬ船室


 私は、あいかわらず、忠実な部下である人造人間のオルガ姫を伴っていた。
 私たちの乗った魚雷型の高速潜水艇は、早や南洋岩礁がんしょうの間を縫って、だんだんと、本国に近づきつつある。それは、クロクロ島を出てから、三時間のちのことであった。
 私は、この高速潜水艇が、たいへん気に入っていた。成層圏飛行のように早く目的地へ達しはしないけれど、同じ深度をとおって、一直線に直行できるのは、この高速潜水艇であった。これは、地球の深海なら、どんな深さのところでも通れるし、スピードも、中々はやいから、敵の監視網や水中聴音器などは役に立たない。しかも、飛行機のように、空中から目立たなくていい。
「あと、五十分で、東京港に到着いたします」
 と、オルガ姫が叫ぶ。
 オルガ姫も自分も、この魚雷型潜水艇内に寝たきりである。だから、この潜水艇の胴中が、魚雷をほんのちょっと太くしたぐらいにすぎないことが知れる。
「そうか。まず、誰にも見付からなくて、いい按配あんばいだったな」
 と、私は、思わず、生きた人間に話すように、いったことである。三時間、こうして、身動きもならずじっと寝ているのも、退屈なものである。
 オルガ姫は、なにもこたえなかった。そういう主人のことばに対しては、何もこたえる仕掛けにはなっていなかったのである。
 東京で、私を迎えてくれるのは、一体誰であろうか。
 それは、もちろん私を招いた人であるが、その人こそ戦軍総司令官の鬼塚元帥おにづかげんすいであったのだ。
 今こそ、一切をここに書くが、私――黒馬博士は、国防上の或る重大使命をおびて、クロクロ島に乗り込み、はるばる例の西経三十三度、南緯三十一度というブラジル沖に派遣されていた者である。その使命が、あからさまにいって、どんなことであったか、それを話せば、どんな人でも、っといって腰をぬかすことであろうが、残念ながら、まだ書く時期が来ていない。いずれそのうち、だんだんと分ってくることであろう。
 とにかく私は、クロクロ島において、その重大使命の達成に、ようやく手をつけ始めたばかりのところで、とつぜん鬼塚元帥からの招電しょうでんに接したのであった。元帥の用向きは、一体なんであろうか。
 それは、尋常一様じんじょういちようのことではあるまい。それだけは、容易に予想できる。もしそうでなければ、折角せっかくあのような重大使命をさずけて特派した私を、仕事にかかったばかりのところで、そう簡単に呼び戻すわけがない。
 だが、元帥の胸のうちは、ここでいくら私が考えてみても、分らない。
「東京港へはいります。港内司令所より、第四十三番潜水洞せんすいどうへはいれとの命令がありましたから、只今からそちらへはいります」
 オルガ姫が、なんでもやってくれるのだ。私は、早くこの魚雷型潜水艇から出て、美味なあたらしい空気を、ふんだんに肺の奥まで吸いこみたいと思った。
 艇のエンジンは、とつぜん停った。
 ぎいイ、ぎいイ、ぎいイ――と、金属の擦れ合う高い音がきこえる。わが艇は、ついに潜水洞の中につき、今台のうえにのって、ケーブルで曳きあげられているのだ。間もなく、艇は地下プラットホームへつくことであろう。
 空気窓が、ぱかッと音がして開いた。とたんに、待望久しかった新鮮の空気が、どっとはいって来て、下顎したあごから顔面をなでて、流れだした。
開扉かいひします」
 オルガ姫が叫んだ。
 外被がいひが開いた。私の目に、プラットホームの灯が、痛いほどしみこんだ。私は、皮帯を外して、外へ出た。そして、しばらくは、柔軟体操をつづけた。身体中の筋肉という筋肉が、鬱血うっけつっていて、ぎちぎちと鳴るように感じた。
 オルガ姫は、まめまめしく立ち働いている。私の乗ってきた魚雷型潜水艇は、彼女の手によって、艇庫におさめられた。
 この地下プラットホームは、東京港に特に設けられた船舶用の発着所であった。船舶といえば、むかしは、桟橋さんばしについたり、沖合に錨をおろしたものであるが、目下わが国では、それを禁じてある。碇泊は、すべて禁止である。
 船舶はすくなくとも、東京港付近まで来ると、いずれも潜水してしまう。そして、潜水洞へ潜りこむように決められてあった。だから、わが国の艦船には、潜水の出来ないものは、一つもなかった。小さい船でも、わが潜水艇のように、潜水設備のあるものが相当多かった。つまり、潜水のできない艦船は、不全だというわけである。
 わが艦船が、こういう潜水式に改められるまでには、十年の歳月と、多大な費用とを要したが、それが完成すると、わが海運力は、世界一堅牢けんろうなものとなった。
 近頃、外国でも、そろそろ見習いはじめたようであるが、わが国は、むかしから海国日本の名に恥じず、この進歩的な潜水艦船陣を張り、堂々と世界の海をおさえているのは、まことに愉快なことである。
「おお、黒馬博士、お出迎えにまいりました」
 一人の美しい婦人が、私の前に立って、いんぎんに挨拶した。
「やあ、ご苦労です」
「鬼塚元帥が、たいへんお待ちです。どうぞ、お早くこの自動車くるまへ……。申しおくれましたが、わたしは、鬼塚元帥の秘書のマリ子でございます」
「やあ、どうも」
 鬼塚元帥も、このように目のさめるような美しい人造人間を使っていられる――と、私は妙なことを感心した。

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