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風流仏(ふうりゅうぶつ)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-9-4 10:06:46  点击:  切换到繁體中文


      下 恋恋恋れんれんれんこい金剛不壊こんごうふえなるがせい

 虚言うそという者たれつきそめて正直は馬鹿ばかごとく、真実は間抜まぬけように扱わるゝ事あさましき世ぞかし。男女なんにょの間変らじと一言ひとことかわせば一生変るまじきはもとよりなるを、小賢こさかしき祈誓三昧きしょうさんまい、誠少き命毛いのちげなさけは薄き墨含ませて、文句を飾り色めかす腹のうちなげかわしと昔の人のいいたるが、それ牛王ごおうを血にけがし神を証人とせしはまだゆかしき所ありしに、近来は熊野くまのを茶にしてばちを恐れず、金銀を命と大切だいじにして、ひとつきん千両なり右借用仕候段実正みぎしゃくようつかまつりそうろうだんじっしょうなりと本式の証文り置き、変心の暁はこれが口をききて必ず取立とりたてらるべしと汚き小判こばんかせに約束をかためけると、或書あるしょに見えしが、これ烏賊いかの墨で文字書き、かめ尿いばりを印肉に仕懸しかくるなどたくいだすよりすたれて、当時は手早く女は男の公債証書を吾名わがなにして取りおき、男は女の親を人質ひとじちにして僕使めしつかうよし。亭主ていしゅもつなら理学士、文学士つぶしが利く、女房たば音楽師、画工えかき、産婆三割徳ぞ、ならば美人局つつもたせ、げうち、板の間※(「てへん+(上/下)、第3水準1-84-76)かせぎ等のわざ出来てしかも英仏の語に長じ、交際上手でエンゲージに詫付かこつけ華族の若様のゴールの指輪一日に五六位いつつむつくらい取る程の者望むような世界なれば、なんじ珠運しゅうん能々よくよく用心して人にあざむかれぬようすべしと師匠教訓されしを、何の悪口なと冷笑あざわらいしが、なる程、われ正直にすぎおろかなりし、おたつ女菩薩にょぼさつと思いしは第一のあやまり、折疵おれきずを隠して刀にはを彫るものあり、根性が腐って虚言うそ美しく、田原がもって来た手紙にも、おんなつかしさ少時しばしも忘れずいずれ近きうち父様ととさまに申しあげやがて朝夕ちょうせき御前様おまえさま御傍おそばらるゝよう神かけて祈りりなどと我をうれしがらせし事憎し憎しと、うらみ眼尻まなじり鋭く、柱にもたれて身は力なくさげたるかしら少しあげながらにらむに、浮世のいざこざ知らぬ顔の彫像寛々かんかんとして大空に月のすめごとたたずむ気高さ、見るから我胸の疑惑はずかしく、ホッと息き、アヽあやまてり、是程の麗わしきお辰、何とてさもしき心もつべき、さりし日亀屋かめやの奥坐敷ざしきに一生の大事と我も彼もうきたる言葉なく、たがいに飾らず疑わず固めし約束、仮令たといあま飛ぶ雷が今おちればとて二人が中は引裂ひきさかれじと契りし者を、よしや子爵の威権烈しくあだむこがね定むるとも、我の命は彼にまかせお辰が命は珠運もらいたれば、の命身体からだあって侯爵に添うべきや、しかも其時、身を我に投懸なげかけて、つややかなる前髪惜気おしげもなく我膝わがひざ押付おしつけ動気どうき可愛かわゆらしく泣きしながら、つたなわたくしめを思い込まれて其程それほどまでになさけ厚き仰せ、冥加みょうがにあまりてありがたしとも嬉しともこの喜び申すべきことば知らぬおろかの口惜し、忘れもせざる何日いつぞやの朝、見所もなきくしに数々の花彫付ほりつけたまわりし折より、やさしき御心ゆかしく思いそめ御小刀おこがたなの跡におう梅桜、花弁はなびら一片ひとひらかかせじと大事にして、昼は御恩賜おんめぐみかしらしかざせば我為わがための玉の冠、かりそめの立居たちいにもつけおちるをいとい、夜は針箱の底深くおさめてまくら近くおきながら幾度いくたびか又あけて見てようやねむる事、何の為とはわたくしも知らず、殊更其日叔父おじ非道ひどう勿体もったいなき悪口ばかり、是もわたくしゆえ思わぬ不快を耳に入れ玉うと一一いちいち胸先むなさきに痛く、さしつむしゃくおさえて御顔打守うちまもりしに、のびやかなる御気象、とがだてもし玉わざるのみか何の苦もなくさらりとらちあき、重々の御恩にのうて余る甲斐かいなき身、せめて肩め脚さすれとでも僕使つかい玉わばまだしも、かえって口きゝ玉うにも物柔かく、御手水おちょうず温湯ぬるゆ椽側えんがわもって参り、楊枝ようじの房少しむしりて塩一小皿ひとこざらと共に塗盆ぬりぼんいだ僅計わずかばかりの事をさえ、我夙起はやおきの癖故にそなたまでを夙起はやおきさしてなお寒き朝風につれなくそでをなぶらする痛わしさと人をかばう御言葉、しんぞ人間五十年君に任せて露おしからず、真実まことありたけ智慧ちえありたけつくして御恩を報ぜんとするにつけて慕わしさも一入ひとしおまさり、心という者一つあらたそうたるように、今迄いままでかまわざりし形容なりふり、いつか繕う気になって、髪の結様ゆいようどうしたらほめらりょうかと鏡にむかって小声に問い、或夜あるばん湯上ゆあがり、はずかしながらソッと薄化粧うすげしょうして怖怖こわごわ坐敷ざしきいでしが、わらい片頬かたほに見られし御眼元めもと何やらるように覚えて、人知らずカッと上気せしも、ひとえ身嗜みだしなみばかりにはあらず、勿体もったいなけれど内内ないない可愛かわゆがられても見たき願い、悟ってか吉兵衛様の貴下あなたとの問答、婚礼せよせぬとの争い、不図ふと立聞たちぎきして魂魄たましいゆら/\と足さだまらず、其儘そのまま其処そこ逃出にげいだし人なき柴部屋しばべやに夢のごといると等しく、せぐりくる涙、あなた程の方の女房とは我身わがみためを思われてながら吉兵衛様の無礼過なめすぎた言葉恨めしく、水仕女みずしめなりともして一生御傍おそばに居られさいすれば願望のぞみは足る者を余計な世話、我からでも言わせたるように聞取ききとられてうとまれなば取り返しのならぬあかつき、辰は何になって何に終るべきとかなしみ、珠運様も珠運様、余りにすげなき御言葉、小児こどもとっ小雀こすずめを放してった位に辰を思わるゝか知らねどと泣きしが、貴下あなたはそれより黙言だんまりで亀屋を御立おたちなされしに、十日もためし草を一日にやいたような心地して、尼にでもなるより外なき身の行末をなげきしに、馬籠まごめに御病気と聞く途端、アッと驚くかたわらおろかな心からは看病するをうれしく、御介抱もうしたる甲斐かいありて今日の御床上とこあげ芽出度めでたい芽出度めでたけれど又もや此儘このまま御立おたちかと先刻さっきも台所で思い屈して居たるに、吉兵衛様御内儀が、珠運様との縁たくば其人様の髪一筋知れぬようにぬいて、おまえの髪としっかり結びあわ※※きゅうきゅう[#「口+急」、224-9][#「口+急」、224-9]如律令にょりつりょうとなえて谷川に流しすてるがよいとの事、憎や老嫗としよりの癖に我をなぶらるゝとはしりながら、貴君あなた御足おんあし止度とめたさ故に良事よいことおしられしようおぼえ馬鹿気ばかげたるまじないも、やって見ようかとも惑う程小さき胸のくるしく、すてらるゝは此身の不束ふつつか故か、此心の浅き故かと独りくやしゅう悩んでりましたに、あり難き今の仰せ、神様も御照覧あれ、辰めが一生はあなたにと熱き涙わが衣物きものとおせしは、そもや、うそなるべきか、新聞こそあてにならぬ者なれ、それまことにしてまことある女房を疑いしは、我ながらあさましとは思うものゝ形なき事を記すべしとも思えず、見れば業平侯爵とやら、位たっとく、姿うるわしく、才いみじきよし、エヽねたましや、われ位なく、姿美しからず、才もまた鈍ければ、くらべられては敵手あいてにあらず。さてこそ子爵が詞通ことばどおり、思想も発達せぬなま若い者の感情、都風の軽薄に流れて変りしに相違なきかとしきりに迷い沈みけるが思いかねてや一声はげしく、今ぞしったり移ろいやすき女心、我を侯爵に見替みかえて、おのれ一人の栄華をほこる、なさけなき仰せ、この辰が。
 アッと驚き振仰向ふりあおむけば、折柄おりから日は傾きかゝって夕栄ゆうばえの空のみ外に明るくの内しずかに、淋し気に立つ彫像ばかり。さりとては忌々いまいまし、一心乱れてあれかこれかの二途ふたみちに別れ、お辰が声を耳にききしか、吉兵衛の意見ひし/\とあたりて残念や、妄想もうぞうの影法師に馬鹿にされ、ありもせぬ声まで聞しおろかさ、箇程かほどまでに迷わせたるお辰め、おのれも浮世の潮に漂う浮萍うきくさのようなさだめなき女と知らで天上の菩薩ぼさつと誤り、勿体もったいなき光輪ごこうまでつけたる事口惜し、何処いずこ業平なりひらなり癩病なりんぼなり、勝手に縁組、勝手にたのしめ。あまりの御言葉、定めなきとはあなたの御心。あら不思議、たしかその声、是もまださめ無明むみょうの夢かとこすって見れば、しょんぼりとせし像、耳をすませばかねて知るもみの木のかげあたりに子供の集りてまりつくか、風の持来もてくる数えうた

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