十四
茶の間の方では、
「あのね、お祖父様にね。」
「よく
「うん、よく毎日?」
「御勉強なさい。」
馬琴はとうとう噴き出した。が、笑の中ですぐ又
「それから?」
「それから――ええと――
「おやおや、それつきりかい。」
「まだあるの。」
太郎はかう云つて、
「まだ何かあるかい?」
「まだね。いろんな事があるの。」
「どんな事が。」
「ええと――お
「えらくなりますから?」
「ですからね。よくね。辛抱おしなさいつて。」
「辛抱してゐるよ。」馬琴は思はず、真面目な声を出した。
「もつと、もつとようく辛抱なさいつて。」
「誰がそんな事を云つたのだい。」
「それはね。」
太郎は
「だあれだ?」
「さうさな。今日は御仏参に行つたのだから、お寺の坊さんに聞いて来たのだらう。」
「違ふ。」
断然として首を振つた太郎は、馬琴の膝から、半分腰を
「あのね。」
「うん。」
「浅草の観音様がさう云つたの。」
かう云ふと共に、この子供は、家内中に聞えさうな声で嬉しさうに笑ひながら、馬琴につかまるのを恐れるやうに、急いで彼の側から飛び退いた。さうしてうまく祖父をかついだ面白さに小さな手を叩きながら、ころげるやうにして茶の間の方へ逃げて行つた。
馬琴の心に、厳粛な何物かが
「観音様がさう云つたか。勉強しろ。癇癪を起すな。さうしてもつとよく辛抱しろ。」
六十何歳かの老芸術家は、涙の中に笑ひながら、子供のやうに
戯作三昧(げさくざんまい)
作家录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语
相关文章
私の好きなロマンス中の女性(わたしのすきなロマンスちゅうのじょせい)
露訳短篇集の序(ろやくたんぺんしゅうのじょ)
LOS CAPRICHOS(ロス カプリチョス)
路上(ろじょう)
六の宮の姫君(ろくのみやのひめぎみ)
老年(ろうねん)
恋愛と夫婦愛とを混同しては不可ぬ(れんあいとめおとあいとをこんどうしてはならぬ)
るしへる(るしへる)
竜(りゅう)
羅生門の後に(らしょうもんのあとに)
羅生門(らしょうもん)
世之助の話(よのすけのはなし)
横須賀小景(よこすかしょうけい)
妖婆(ようば)
百合(ゆり)
夢(ゆめ)
誘惑(ゆうわく)
悠々荘(ゆうゆうそう)
槍が岳に登った記(やりがたけにのぼったき)
槍ヶ岳紀行(やりがたけきこう)
山鴫(やましぎ)
藪の中(やぶのなか)
保吉の手帳から(やすきちのてちょうから)
文部省の仮名遣改定案について(もんぶしょうのかなづかいかいていあんについて)
桃太郎(ももたろう)