十三
その間もあの
ある朝彼は山へ行く途中、ちょうど部落のはずれにある
彼は例の通り当惑しながら、ちょいと
その間に女たちはそよ風に
噴き井の水を飲んでいた彼は、
「お早うございます。」
若者は
「お早う。」
彼はこの若者にまで、
十四
が、若者はさり
「もう
「うん、とうに癒った。」
彼は真面目にこんな返事をした。
「
「つけた。あれは思ったより
若者は
「じゃもう一つ、好い事を御教えしましょうか。」
「何だ。その好い事と云うのは。」
彼が
「あなたの
「勾玉をくれ? くれと云えばやらないものでもないが、勾玉を貰ってどうするのだ?」
「まあ、黙って頂かせて下さい。悪いようにはしませんから。」
「嫌だ。どうするのだか聞かない内は、勾玉なぞをやる訳には行かない。」
「じゃ云いますよ。あなたは今ここへ水を汲みに来ていた、十五六の娘が御好きでしょう。」
彼は
「御好きじゃありませんか、あの
「そうか。あれは思兼尊の姪か。」
彼は
「そら、御覧なさい。隠したってすぐに
彼はまた口を
「ですから私に勾玉を一つ、御よこしなさいと云うのです。御好きならまた御好きなように、取計らいようもあるじゃありませんか。」
若者は
「そうして勾玉をどうするのだ?」と云った。
しかし彼の眼の中には、明かに今まで見えなかった希望の色が動いていた。
十五
若者の答えは
「何、その勾玉をあの娘に渡して、あなたの思召しを伝えるのです。」
「
二人はしばらくの間黙っていた。が、やがて素戔嗚は
若者はその琅
に物欲しそうな眼を落しながら、
「これは立派な勾玉ですね、こんな
は、そう沢山はありますまい。」
「この国の物じゃない。海の向うにいる
彼は腹立たしそうにこう云うと、くるりと若者に
「待っていて下さい。必ず二三日中には、
「うん、急がなくって好いが。」
彼等は
その日の
「何か御用ですか。」と返事をした。
「ちょいとその勾玉を見せてくれないか。」
若者は
を相手の手に渡した。
「君の玉かい。」
「いいえ、
今度は相手の若者の方が、苦い顔をしずにはいられなかった。
「じゃいつもあの男が、
若者は
「どうだろう。物は相談と云うが、一つ君の計らいで、この玉を僕に売ってくれまいか。」と、大胆な事を云い出した。
十六
牛飼いの若者は
「その代り君には御礼をするよ。刀が欲しければ刀を進上するし、玉が欲しければ玉も進上するし、――」
「駄目ですよ。その
「へええ、ある人へ渡してくれ? ある人と云うのは、ある女と云う事かい。」
相手は好奇心を動かしたと見えて、急に気ごんだ調子になった。
「女でも男でも好いじゃありませんか。」
若者は余計なおしゃべりを後悔しながら面倒臭そうにこう答を避けた。が、相手は腹を立てた
「そりゃどっちでも好いさ。どっちでも好いが、その人へ渡す品だったら、そこは君の働き一つで、ほかの勾玉を持って行っても、大した
若者はまた口を
「勿論多少は面倒が起るかも知れないさ。しかしそのくらいな事はあっても、刀なり、玉なり、
「ですがね、もし先方が受け取らないと云ったら、私はこの玉を素戔嗚尊へ返さなければならないのですよ。」
「受け取らないと云ったら?」
相手はちょいと顔をしかめたが、すぐに優しい口調に返って、
「もし先方が女だったら、そりゃ素戔嗚の玉なぞは受け取らないね。その上こんな
若者は相手の云う事も、一理ありそうな気がし出した。実際いかに高貴な物でも、部落の若い女たちが、こう云う色の玉を好むかどうか、疑わしいには違いなかったのであった。
「それからだね――」
相手は
「それからだね、たとい玉が違ったにしても、受け取って貰った方が、受け取らずに返されるよりは、素戔嗚も喜ぶだろうじゃないか。して見れば玉は取り換えた方が、
若者の心の中には、両方に刃のついた
「どうだろう。それでもまだ不服かい。不服なら――まあ、何とか云うよりも、僕の所まで来てくれ給え。刀も
相手は飽くまでも
彼等の姿が草山の下に、全く隠れてしまった時、さらに一人の若者が、のそのそそこへ
何も知らない素戔嗚は、あの快活な娘の姿を心に思い浮べたのであった。
十七
その間に彼はあの娘と、朝早く同じ
ところが彼はある日の日暮、
「好い馬だな。持主は誰だい。」と、まず声をかけた。すると意外にも若者は得意らしい眼を挙げて、
「私です。」と返事をした。
「そうか。そりゃ――」
彼は感嘆の言葉を呑みこむと、また元の通り口を
「
「うん、渡してくれたかい。」
彼の眼は子供のように、純粋な感情を
「ええ、渡しました。」
「そうか。それでおれも安心した。」
「ですが――」
「ですが? 何だい。」
「急には御返事が出来ないと云う事でした。」
「何、急がなくっても好い。」
彼は元気よくこう答えると、もう若者には用がないと云ったように、
「おい、雲雀。お前はおれが羨ましそうだな。羨ましくないと? 嘘をつけ。それなら
十八
しかし彼は多少の不安を感じながら、まだ幸福の夢から覚めずにいた。すでに美しい白鳥は、醜い山鴉の恋を
だから彼はその
「あの
「ええ、確かに渡しました。しかし御返事の所は――」とか何とか、
すると三四日経ったある夜の事、彼が山へ
その内に彼とその男とは、顔を合せるばかりに近くなって来た。しかし相手は鼻の先へ来ても、
「待て。」
彼は
「何をする。」
若者は思わずよろめきながら、さすがに懸命の力を
素戔嗚尊(すさのおのみこと)
作家录入:贯通日本语 责任编辑:贯通日本语
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