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縁結び(えんむすび)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 12:10:14  点击:  切换到繁體中文

底本: ちくま日本文学全集 泉鏡花
出版社: 筑摩書房
初版発行日: 1991(平成3年)10月20日
入力に使用: 1995(平成7年)8月15日第2刷


底本の親本: 鏡花全集 第十一卷
出版社: 岩波書店

 

   一

 ふすまを開けて、旅館の女中が、
旦那だんな、」
 と上調子うわっちょうし尻上しりあがりにって、すわりもやらず莞爾にっこりと笑いかける。
「用かい。」
 とこの八じょうで応じたのは三十ばかりの品のいい男で、こんの勝った糸織いとおり大名縞だいみょうじまあわせに、浴衣ゆかたかさねたは、今しがた湯から上ったので、それなりではちとうすら寒し、着換きかえるも面倒めんどうなりで、乱箱みだればこたたんであった着物を無造作に引摺出ひきずりだして、上着だけ引剥ひっぱいで着込きこんだ証拠しょうこに、襦袢じゅばんも羽織もとこすべって、坐蒲団すわりぶとんわきまで散々ちりぢりのしだらなさ。帯もぐるぐる巻き、胡坐あぐら火鉢ひばち頬杖ほおづえして、当日の東雲御覧しののめごらんという、ちょっと変った題の、土地の新聞を読んでいた。
 その二の面の二段目から三段へかけて出ている、清川謙造氏きよかわけんぞうし講演、とあるのがこの人物である。
 たとい地方でも何でも、新聞は早朝に出る。その東雲御覧を、今やこれ午後二時。さるにても朝寝あさねのほど、昨日きのうのその講演会の帰途かえりのほどもはかられる。
「お客様でございますよう。」
 と女中は思入おもいいれたっぷりの取次を、ちっとも先方気が着かずで、つい通りの返事をされたもどかしさに、声でおどして甲走かんばしる。
 吃驚びっくりして、ひょいと顔を上げると、横合から硝子窓がらすまど照々てらてらと当る日が、片頬かたほおへかっと射したので、ぱちぱちとまたたいた。
「そんなに吃驚なさいませんでもようございます。」
 となおさら可笑おかしがる。
 謙造は一向真面目まじめで、
「何という人だ。名札はあるかい。」
「いいえ、名札なんかりません。だれも知らないもののない方でございます。ほほほ、」
「そりゃ知らないもののない人かも知れんがね、よそから来た私にゃ、名を聞かなくっちゃ分らんじゃないか、どなただよ。」
 とまゆひそめる。
「そんな顔をなすったってようございます。ちっともこわくはありませんわ。今にすぐにニヤニヤとお笑いなさろうと思って。昨夜ゆうべあんなにおそうくお帰りなさいましたくせに、」
「いや、」
 と謙造は片頬かたほでて、
「まあ、いいから。誰だというに、取次がお前、そんなに待たしておいちゃ失礼だろう。」
 ちとたしなめるように言うと、一層頬辺ほっぺたの色をくして、ますます気勢込きおいこんで、
「何、あなた、ちっと待たして置きます方がかえっていいんでございますよ。昼間ッからあなた、何ですわ。」
 といやな目つきでまたニヤリで、
「ほんとは夜来る方がいいんだのに。フン、フン、フン、」
 突然いきなり川柳せんりゅう折紙おりがみつきの、(あり)という鼻をひこつかせて、
「旦那、まあ、あら、まあ、あらにおい、何て香水こうすいしたんでございます。フン、」
 といい方が仰山ぎょうさんなのに、こっちもつい釣込つりこまれて、
「どこにも香水なんぞありはしないよ。」
「じゃ、あの床の間の花かしら、」
 と一際ひときわ首を突込つッこみながら、
「花といえば、あなたおあい遊ばすのでございましょうね、お通し申しましてもいいんですね。」
串戯じょうだんじゃない。何という人だというに、」
「あれ、名なんぞどうでもよろしいじゃありませんか。おいなされば分るんですもの。」
「どんな人だよ、じれったい。」
先方さきもじれったがっておりましょうよ。」
婦人おんなか。」
 と唐突だしぬけたずねた。
「ほら、ほら、」
 とたもとをその、ほらほらとあおってかかって、
「ご存じの癖に、」
「どんな婦人だ。」
 と尋ねた時、謙造の顔がさっと暗くなった。新聞をまどかざしたのである。
「お気の毒様。」

     二

「何だ、もう帰ったのか。」
「ええ、」
「だってお気の毒様だとうじゃないか。」
「ほんとに性急せっかちでいらっしゃるよ。誰も帰ったとも何とも申上げはしませんのに。いいえ、そうじゃないんですよ。お気の毒様だと申しましたのは、あなたはきっと美しいねえ[#「姉」の正字、「女+※(第3水準1-85-57)のつくり」、286-4]さんだと思っておいでなさいましょう。でしょう、でしょう。
 ところが、どうして、びっこで、めっかちで、出尻でっちりで、おまけに、」
 といいかけて、またフンといで、
「ほんとにどうしたら、こんなにおいが、」
 とひょいと横を向いて顔を廊下ろうかへ出したと思うと、ぎょッとしたように戸口を開いて、はすッかけに、
「あら、まあ!」
「おうかがい下すって?」
 と内端うちわながら判然はっきりとしたすずしい声が、かべいて廊下で聞える。
 女中はぼッとした顔色かおつきで、
「まあ!」
「お帳場にお待ち申しておりましたんですけれども、おかみさんが二階へ行っていいから、とそうおっしゃって下さいましたもんですから……」
 と優容しとやか物腰ものごし大概たいがいつぼみからきかかったまで、花のを伝えたから、跛も、めっかちも聞いたであろうに、はしたなく笑いもせなんだ、つつましやかな人柄ひとがらである。
「お目にかかられますでしょうか。」
「ご勝手になさいまし。」
 くるりと入口へ仕切られた背中になると、襖のさんはずれたように、その縦縞たてじまが消えるがはやいか、廊下を、ばた、ばた、ばた、どたんなり。
「お入ンなさい、」
「は、」
 とかすかに聞いて、火鉢に手をかけ、入口をぐっとあおいで、やさしい顔で、
「ご遠慮えんりょなく……私は清川謙造です。」
 と念のために一ツ名乗る。
「ごめん下さいまし、」
 はらりとしずんだきぬの音で、はや入口へちゃんと両手を。肩がしなやかに袂のさきれつつたたみに敷いたのは、ふじふさ丈長たけなが末濃すえごなびいたよそおいである。
 文金ぶんきん高髷たかまげふっくりした前髪まえがみで、白茶地しらちゃじに秋の野を織出した繻珍しゅちんの丸帯、薄手にしめた帯腰やわらかに、ひざを入口にいて会釈えしゃくした。背負上しょいあげの緋縮緬ひぢりめんこそわきあけをる雪のはだ稲妻いなづまのごとくひらめいたれ、愛嬌あいきょうつゆもしっとりと、ものあわれに俯向うつむいたその姿、片手に文箱ふばこささげぬばかり、天晴あっぱれ風采ふうさい、池田の宿しゅくより朝顔あさがおが参ってそうろう
 謙造は、一目見て、まごうべくもあらず、それと知った。
 この芸妓げいしゃは、昨夜ゆうべ宴会えんかい余興よきょうにとて、もよおしのあった熊野ゆやおどりに、朝顔にふんした美人である。
 女主人公じょしゅじんこうの熊野をつとめた婦人は、このお腰元にくらべていたく品形しなかたちおとっていたので、なぜあの瓢箪ひょうたんのようなのがシテをする。根占ねじめの花に蹴落けおされて色の無さよ、とあやしんで聞くと、芸も容色きりょう立優たちまさった朝顔だけれど、――名はお君という――そのは熊野をおどると、後できっとわずらうとの事。仔細しさいを聞くと、させる境遇きょうぐうであるために、親の死目に合わなかったからであろう、と云った。
 不幸で沈んだと名乗るふちはないけれども、孝心なと聞けばなつかしい流れの花の、旅のころもおもかげに立ったのが、しがらみかかる部屋の入口。
 謙造はいそいそと、
「どうして。さあ、こちらへ。」
 と行儀ぎょうぎわるく、火鉢をななめに押出おしだしながら、
「ずっとお入んなさい、構やしません。」
「はい。」
「まあ、どうしてね、お前さん、おどろいた。」と思わず云って、心着くと、お君はげっそりとまた姿がせて、きまりの悪そうに小さくなって、
「済みませんこと。」
「いやいや、驚いたって、何に、その驚いたんじゃない。はははは、吃驚びっくりしたんじゃないよ。まあ、よく来たねえ。」

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