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縁結び(えんむすび)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 12:10:14  点击:  切换到繁體中文



     四

「トそこに高髷に結った、瓜核顔うりざねがおで品のいい、何とも云えないほど口許くちもとやさしい、目のすずしい、眉の美しい、十八九の振袖ふりそでが、すそいて、嫋娜すらりと中腰に立って、左の手を膝の処へ置いて、右の手で、筆を持った小児こどもの手を持添えて、その小児こどもの顔を、上から俯目ふしめ覗込のぞきこむようにして、莞爾にっこりしていると、小児こどもは行儀よくつくえに向って、草紙に手習のところなんだがね。
 今でも、その絵が目に着いている。衣服きもの縞柄しまがらまことにしなやかに、よくその膚合はだあいかなったという工合で。小児こどもの背中に、その膝についた手の仕切がなかったら、膚へさぞ移香うつりがもするだろうと思うように、ふっくりとなだらかにつまさばいて、こう引廻ひきまわした裾が、小児こどもかばったように、しんせつにじょうこもっていたんだよ。
 大袈裟おおげさに聞えようけれども。
 私は、その絵が大好きで、開けちゃ、見い見いしたもんだから、百人一首を持出して、さっとあけると、またいつでもそこが出る。
 このねえ[#「姉」の正字、「女+※(第3水準1-85-57)のつくり」、295-4]さんは誰だい?と聞くと阿母おふくろが、それはお向うのねえ[#「姉」の正字、「女+※(第3水準1-85-57)のつくり」、295-4]さんだよ、と言い言いしたんだ。
 そのお向うのねえ[#「姉」の正字、「女+※(第3水準1-85-57)のつくり」、295-6]さんというのに、……お前さんがているんだがね――まあ、お聞きよ。」
「はあ、」
 と※(「目+爭」、第3水準1-88-85)みはった目がうつくしく、そのおもかげが映りそう。
「お向うというのは、前に土蔵どぞう二戸前ふたとまえ格子戸こうしどならんでいた大家たいけでね。私の家なんぞとは、すっかり暮向きがちがう上に、金貸だそうだったよ。何となく近所とのへだてがあったし、余り人づきあいをしないといった風で。出入も余計なし、なおさら奥行が深くって、裏はどこの国まで続いているんだか、小児心こどもごころには知れないほどだったから、ついぞ遊びに行った事もなければ、時々、門口じゃ、そのねえ[#「姉」の正字、「女+※(第3水準1-85-57)のつくり」、295-14]さんというのの母親に口を利かれる事があっても、こっちは含羞はにかんげ出したように覚えている。
 だから、そのおじょうさんなんざ、年紀としも違うし、一所に遊んだ事はもちろんなし、また内気な人だったとみえて、余り戸外そとへなんか出た事のない人でね、かたく言えば深閨しんけいに何とかだ。秘蔵娘ひぞっこさね。
 そこで、軽々しく顔が見られないだけに、二度なり、三度なり見た事のあるのが、余計に心に残っているんで。その女用文章の中の挿画さしえ真物ほんものだか、真物が絵なんだか分らないくらいだった。
 しかしどっちにしろ、顔容かおかたち判然はっきり今も覚えている。一日あるひ、その母親の手から、むすめが、お前さんに、と云って、縮緬ちりめん寄切よせぎれこしらえた、迷子札まいごふだにつける腰巾着こしぎんちゃく一個ひとつくれたんです。そのとき格子戸のわきの、出窓のすだれの中に、ほの白いものが見えたよ。べにの色も。
 蝙蝠こうもり引払ひっぱたいていたさおほうり出して、うちへ飛込んだ、そのうれしさッたらなかった。夜も抱いて寝て、あけるとその百人一首の絵の机の上へのっけたり、立っている娘の胸の処へ置いたり、胸へのせると裾までかくれたよ。
 おしい事をした。その巾着は、私が東京へ行っていた時分に、故郷こきょうの家が近火きんかに焼けた時、その百人一首も一所に焼けたよ。」
「まあ……」
 とはかなそうに、お君の顔色がさびしかった。
「迷子札は、かねだから残ったがね、その火事で、向うのうちも焼けたんだ。今度通ってみたが、町はもう昔の俤もない。煉瓦造れんがづくりなんぞ建って開けたようだけれど、大きな樹がなくなって、山がすぐ露出むきだしに見えるから、かえって田舎いなかになった気がする、富士の裾野すその煙突えんとつがあるように。
 向うの家も、どこへ行きなすったかね、」
 と調子が沈んで、少し、しめやかになって、
「もちろんその娘さんは、私がまだウにならない内にくなったんだ。――
 産後だと言います……」
「お産をなすって?」
 と俯目でいた目を※(「目+爭」、第3水準1-88-85)みひらいたが、それがどうやらうるんでいたので。
 謙造はじっと見て、かたむきながら、
一人娘ひとりむすめで養子をしたんだね、いや、その時はにぎやかだッけ。」
 と陽気な声。

     五

「土蔵がずッしりとあるだけに、いつも火の気のないような、しんとした、大きな音じゃかまも洗わないといった家が、夜になると、何となくあかりがさして、三味線しゃみせん太鼓たいこの音がする。時々どっと山颪やまおろしに誘われて、物凄ものすごいような多人数たにんず笑声わらいごえがするね。
 何ッて、母親おふくろふところで寝ながら聞くと、これは笑っているばかり。父親おやじが店から声をかけて、魔物が騒ぐんだ、こわいぞ、と云うから、乳へ顔を押着おッつけて息を殺して寝たっけが。
 三晩みばんばかり続いたよ。田地田畠でんじでんばた持込もちこみで養子が来たんです。
 その養子というのは、日にやけた色の赤黒い、巌乗がんじょうづくりの小造こづくりな男だっけ。何だか目の光る、ちときょときょとする、性急せっかちな人さ。
 性急せっかちなことをよく覚えている訳は、ももを上げるから一所においで。ねえ[#「姉」の正字、「女+※(第3水準1-85-57)のつくり」、299-2]さんが、そう云った、ぼうを連れて行けというからと、私を誘ってくれたんだ。
 例の巾着をつけて、いそいそ手をかれて連れられたんだが、髪を綺麗きれいに分けて、帽子ぼうしかぶらないで、確かその頃流行はやったらしい。手甲てっこう見たような、腕へだけまる毛糸で編んだ、萌黄もえぎの手袋を嵌めて、赤い襯衣しゃつを着て、例の目を光らしていたのさ。私はその娘さんが、あとから来るのだろう、来るのだろうと、見返り見返りしながら手を曳かれて行ったが、なかなかみちは遠かった。
 途中でおぶってくれたりなんぞして、何でも町尽まちはずれへ出て、さびしい処を通って、しばらくすると、大きなえのきの下に、清水しみずいていて、そこで冷い水を飲んだ気がする。清水にはさくってあってね、昼間だったから、けちゃなかったが、床几しょうぎの上に、何とか書いた行燈あんどんの出ていたのを覚えている。
 そこでひとしきり、人通りがあって、もうちと行くと、またひっそりして、やがて大きな桑畠くわばたけへ入って、あのじゅくした桑の実を取って食べながら通ると、ニ三人葉をんでいた、田舎いなかの婦人があって、養子を見ると、あわててたすきをはずして、お辞儀じぎをしたがね、そこが養子の実家だった。
 地続きの桃畠ももばたけへ入ると、さあ、たくさん取れ、今じゃ、ねえ[#「姉」の正字、「女+※(第3水準1-85-57)のつくり」、300-2]さんのものになったんだから、いつでも来るがいい。まだ、うりもある、西瓜すいかも出来る、と嬉しがらせて、どうだ。坊は家のにならんか、ねえ[#「姉」の正字、「女+※(第3水準1-85-57)のつくり」、300-4]さんがいい児にするぜ。
 いやか、爺婆じじばばるから。……そうだろう。あんな奴は、今におれがたたき殺してやろう、と恐ろしく意気込んで、飛上って、高いえだの桃の実をひんもぎって一個ひとつくれたんだ。
 帰途かえりは、その清水の処あたりで、もう日がれた。ばばあがやかましいから急ごう、と云うと、髪をばらりとって、私の手をむずと取って駆出かけだしたんだが、引立ひったてたうで※(「てへん+宛」、第3水準1-84-80)げるように痛む、足もちゅうで息がつまった。養子は、と見ると、目が血走っていようじゃないか。
 泣出したもんだから、横抱よこだきにして飛んで帰ったがね。私は何だか顔はあかし、天狗てんぐにさらわれて行ったような気がした。袂に入れた桃の実は途中で振落ふりおとして一つもない。
 そりゃいいが、半年たない内にその男は離縁りえんになった。
 だんだん気があらくなって、ねえ[#「姉」の正字、「女+※(第3水準1-85-57)のつくり」、301-1]さんのたぶさをつかんで打った、とかで、田地でんじは取上げ、という評判ひょうばんでね、風の便りに聞くと、その養子は気が違ってしまったそうだよ。
 そののち晩方ばんがたの事だった。私はまた例の百人一首を持出して、おなじ処を開けて腹這はらばいで見ていた。その絵を見る時は、きっと、このねえ[#「姉」の正字、「女+※(第3水準1-85-57)のつくり」、301-5]さんは誰? と云って聞くのがおきまりのようだったがね。またたずねようと思って、阿母おふくろは、と見ると、秋の暮方くれがたの事だっけ。ずっと病気で寝ていたのが、ちと心持がよかったか、とこを出て、二階のひじかけまどそでをかけて、じっと戸外そとを見てうっとり見惚みとれたような様子だから、遠慮えんりょをして、黙って見ていると、どうしたか、ぐッと肩を落して、はらはらとなみだを落した。
 どうしたの? と飛ついて、びんの毛のほつれた処へ、私のほおがくっついた時、と見ると向うの軒下のきしたに、薄く青い袖をかさねて、しょんぼりと立って、暗くなった山の方を見ていたのがその人で、」
 と謙造はおもてそむけて、硝子窓がらすまど。そのおなじ山がかして見える。日はかたむいたのである。

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