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貝の穴に河童の居る事(かいのあなにかっぱのいること)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 12:29:06  点击:  切换到繁體中文


「きものも、灰塚の森の中で、古案山子ふるかがしいだでしゅ。」
「しんびょう、しんびょう……奇特なや、せがれ。……何、それで大怪我じゃと――何としたの。」
「それでしゅ、それでしゅから、お願いに参ったでしゅ。」
「この老ぼれには何もかなわぬ。いずれ、姫神への願いじゃろ。お取次を申そうじゃが、忰、趣は――お薬かの。」
「薬でないでしゅ。――敵打かたきうちがしたいのでっしゅ。」
「ほ、ほ、そか、そか。敵打。……はて、そりゃ、しかし、若いに似合わず、流行におくれたの。敵打は近頃はやらぬがの。」
「そでないでっしゅ。仕返しでっしゅ、喧嘩けんかの仕返しがしたいのでっしゅ。」
「喧嘩をしたかの。喧嘩とや。」
「この左の手を折られたでしゅ。」
 とわなわなと身震いする。濡れた肩を絞って、しずくの垂るのが、蓴菜じゅんさいに似た血のかたまりの、いまも流るるようである。
 とがったくちばしは、疣立いぼだって、なおあおい。
「いたましげなや――何としてなあ。対手あいてはどこの何ものじゃの。」
「畜生!人間。」
しずかに――」
 ごぼりといて、
御前おんまえじゃ。」
 しゅッと、河童は身を縮めた。
「日の今日、午頃ひるごろ、久しぶりのお天気に、おらら沼から出たでしゅ。崖を下りて、あの浜の竃巌かまどいわへ。――神職様かんぬしさま小鮒こぶなどじょうに腹がくちい、貝も小蟹こがにも欲しゅう思わんでございましゅから、白い浪の打ちかえす磯端いそばたを、八よう蓮華れんげに気取り、背後うしろ屏風巌びょうぶいわを、舟後光ふなごこうに真似て、円座して……翁様おきなさま、御存じでございましょ。あれは――近郷での、かくれ里。めった、人の目につかんでしゅから、山根の潮の差引きに、隠れたり、出たりして、凸凹でこぼこ凸凹凸凹と、かさなって敷くいわを削り廻しに、漁師が、天然の生簀いけす生船いけぶねがまえにして、さかなを貯えて置くでしゅが、たいかれいも、梅雨じけで見えんでしゅ。……すくい残りのちゃっこい鰯子いわしこが、チ、チ、チ、(笑う。)……青いひれの行列で、巌竃いわかまどの中を、きらきらきらきら、日南ひなたぼっこ。ニコニコとそれを見い、見い、身のぬらめきに、手唾てつばきして、……漁師が網をつぐのうでしゅ……あの真似をして遊んでいたでしゅ。――処へ、土地ところには聞馴ききなれぬ、すずしい澄んだ女子おなごの声が、男に交って、崖上の岨道そばみちから、巌角いわかどを、踏んず、すがりつ、桂井かつらいとかいてあるでしゅ、印半纏しるしばんてん。」
「おお、そか、この町の旅籠はたごじゃよ。」
「ええ、その番頭めが案内でしゅ。円髷まるまげの年増と、その亭主らしい、長面ながづらの夏帽子。自動車の運転手が、こつこつと一所に来たでしゅ。が、その年増を――おばさん、と呼ぶでございましゅ、二十四五の、ふっくりした別嬪べっぴんの娘――ちくと、そのおばさん、が、おばしアん、と云うか、と聞こえる……すずしい、甘い、情のある、その声がたまらんでしゅ。」
「はて、異な声の。」
「おららが真似るようではないでしゅ。」
「ほ、ほ、そか、そか。」
 と、余念なさそうにうなずいた――風はいま吹きつけたが――その不思議に乱れぬ、ひからびた燈心とともに、白髪しらがも浮世離れして、おきなさびた風情である。
「翁様、娘は中肉にむっちりと、はだつきがう言われぬのが、びちゃびちゃと潮へ入った。つまをくるりと。」
あぶなやの。おぬしの前でや。」
「そのはぎの白さ、常夏とこなつの花の影がからみ、磯風に揺れ揺れするでしゅが――年増も入れば、夏帽子も。番頭も半纏のすそをからげたでしゅ。巌根いわねづたいに、あわび、鰒、栄螺さざえ、栄螺。……小鰯こいわしの色の綺麗さ。紫式部といったかたの好きだったというももっともで……おむらと云うがほんとうに紫……などというでしゅ、その娘が、その声で。……淡いあぶらも、白粉おしろいも、娘の匂いそのままで、はだざわりのただあらい、岩に脱いだ白足袋のなかに潜って、じっと覗いていたでしゅが。一波上るわ、足許あしもとへ。あれともすそを、脛がよれる、裳が揚る、あかい帆が、白百合の船にはらんで、青々と引く波に走るのを見ては、何とも、かとも、翁様。」
「ちと聞苦しゅう覚えるぞ。」
「口に出して言わぬばかり、人間も、赤沼の三郎もかわりはないでしゅ。翁様――処ででしゅ、この吸盤すいつき用意の水掻みずかきで、お尻をそっでようものと……」
「ああ、約束は免れぬ。和郎たちは、一族一門、代々それがために皆怪我をするのじゃよ。」
「違うでしゅ、それでした怪我ならば、自業自得で怨恨うらみはないでしゅ。……蛙手に、底を泳ぎ寄って、口をぱくりと、」
「その口でか、その口じゃの。」
「ヒ、ヒ、ヒ、空ざまに、波の上の女郎花おみなえし桔梗ききょうの帯を見ますと、や、背負守しょいまもりの扉を透いて、道中、道すがら参詣さんけいした、中山の法華経寺か、かねて御守護の雑司ぞうしか、真紅まっか柘榴ざくろが輝いて燃えて、鬼子母神きしもじん御影みえいが見えたでしゅで、蛸遁たこにげで、岩を吸い、吸い、色を変じて磯へ上った。
 沖がやがて曇ったでしゅ。あら、気味の悪い、浪がかかったかしら。……別嬪べっぴんの娘の畜生め、などとぬかすでしゅ。……白足袋をつまんで。――
 磯浜へ上って来て、いわの根松の日蔭にあつまり、ビイル、煎餅せんべい飲食のみくいするのは、うらやましくも何ともないでしゅ。娘の白いあごの少しばかり動くのを、甘味うまそうに、屏風巌びょうぶいわ附着くッついて見ているうちに、運転手の奴が、その巌の端へ来て立って、沖を眺めて、腰に手をつけ、気取ってるでしゅ。見つけられまい、と背後うしろをすり抜ける出合がしら、錠の浜というほど狭い砂浜、娘等四人が揃って立つでしゅから、ひょいと岨路そばみちへ飛ぼうとする処を、
 ――まて、まて、まて――
 と娘の声でしゅ。見惚みとれてさらあらわれたか、罷了しまいと、慌てて足許あしもとの穴へ隠れたでしゅわ。
 間の悪さは、馬蛤貝まてがいのちょうど隠家かくれが。――塩を入れると飛上るんですってねと、娘の目が、穴の上へ、ふたになって、じっのぞく。河童だい、あかんべい、とやった処が、でしゅ……覗いた瞳の美しさ、そのうららかさは、月宮殿の池ほどござり、まつげが柳の小波さざなみに、岸を縫って、なびくでしゅが。――ただ一雫ひとしずくの露となって、さかさに落ちて吸わりょうと、蕩然とろりとすると、痛い、いたい、痛い、疼いッ。肩のつけもとを棒切ぼうぎれで、砂越しに突挫つきくじいた。」
「その怪我じゃ。」
「神職様。――塩で釣出せぬ馬蛤まてのかわりに、太い洋杖ステッキでかッぽじった、杖は夏帽の奴の持ものでしゅが、下手人は旅籠屋の番頭め、這奴しゃつ、女ばらへ、お歯向きに、金歯を見せて不埒ふらちを働く。」
「ほ、ほ、そか、そか。――かわいやせがれ、忰がうらみは番頭じゃ。」
「違うでしゅ、翁様。――思わず、きゅうと息を引き、馬蛤の穴を刎飛はねとんで、田打蟹たうちがにが、ぼろぼろ打つでしゅ、泡ほどの砂のあわかぶって転がってげる時、口惜くやしさに、奴の穿いた、おごった長靴、丹精に磨いた自慢の向脛むこうずねへ、このつばをかッと吐掛けたれば、この一呪詛ひとのろいによって、あの、ご秘蔵の長靴は、穴が明いて腐るでしゅから、奴に取っては、リョウマチを煩らうより、きとこたえる。仕返しは沢山でしゅ。――うらみの的は、神職様――娘ども、夏帽子、その女房の三人でしゅが。」
「一通りは聞いた、ほ、そか、そか。……無理も道理も、おいの一存にはならぬ事じゃ。いずれはお姫様に申上ぎょうが、こなた道理には外れたようじゃ、無理でのうもなかりそうに思われる、そのしかえし。お聞済みになろうか。むずかしいの。」
「御鎮守の姫様、おきき済みになりませぬと、目の前のかたきながら仕返しが出来んのでしゅ、出来んのでしゅが、わア、」
 とたちまち声を上げて泣いたが、河童はすぐに泣くものか、知らず、駄々子だだっこがものねだりするさまであった。
「忰、忰……まだ早い……泣くな。」
 と翁は、白く笑った。

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