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紅玉(こうぎょく)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 13:24:43  点击:  切换到繁體中文


 
初の烏 (思い着きたるていにて、一ツの瓶の酒を玉盞ぎょくさんぎ、しょくかざす。)おお、綺麗きれいだ。あかりが映って、透徹すきとおって、いつかの、あの時、夕日の色に輝いて、ちょうど東の空に立ったにじの、その虹の目のようだと云って、薄雲にかざして御覧なすった、奥様の白い手の細い指には重そうな、指環ゆびわたまに似てること。
三羽の烏、打傾いて聞きつつあり。
 ああ、玉が溶けたと思う酒を飲んだら、どんな味がするだろうねえ。(烏のかしらを頂きたる、咽喉のどの黒き布をあけて、わかき女のおもてあらわし、酒を飲まんとして猶予ためらう。)あれ、ここは私には口だけれど、烏にするとちょうど咽喉だ。可厭いやだよ。咽喉だと血が流れるようでねえ。こんな事をしているんだから、気になる。よそう。まあ、独言ひとりごとを云って、誰かと話をしているようだよ……
 (四辺あたり※(「目+句」、第4水準2-81-91)みまわす)そうそう、思った同士、人前で内証で心を通わす時は、一ツに向った卓子テェブルが、人知れず、脚を上げたり下げたりする、かすかな、しかし脈を打って、血の通う、その符牒ふちょうで、黙っていて、暗号あいずが出来ると、いつも奥様がおっしゃるもんだから、――卓子さん(卓をたたく)殊にお前さんは三ツ脚で、狐狗狸こっくりさん、そのままだもの。きてるも同じだと思うから、つい、お話をしたんだわ。しかし、うっかりして、少々大事な事を饒舌しゃべったんだから、お前さん聞いたばかりにしておいておくれ。誰にも言っては不可いけないよ。ちょいと、いだ酒をどうしよう。ああ、いい事がある。(酔倒れたる画工に近づく。あとの烏一ツ、同じく近寄りて、画工のうなじいだいて仰向あおむけにす。)
 酔ぱらいさん、さあ、冷水おひや
画工 (飲みながら、うつつにて)ああ、日が出た、が、俺は暗夜やみだ。(そのまま寝返る。)
初の烏 日が出たって――赤い酒から、私のこの烏を透かして、まあ。――に描いた太陽おひさまの夢を見たんだろう。何だか謎のような事を言ってるわね。――さあさあ、お寝室ねまごしらえをしておきましょう。(もとに立戻りて、またすすきの中より、このたびは一領の天幕テントを引出し、卓子テェブルおおうて建廻す。三羽の烏、左右よりこれを手伝う。天幕のうちは、見ぶつ席より見えざるあつらえ。)おたのしみだわね。(天幕を背後うしろにして正面に立つ。三羽の烏、その両方にたたずむ。)
 もう、すっかり日が暮れた。(時に、はじめてフト自分のほかに、烏の姿ありて立てるに心付く。されどおのが目をあやしむ風情。少しずつ、あちこち歩行あるく。歩行くに連れて、烏の形動きまとうを見て、次第に疑惑うたがいを増し、手を挙ぐれば、烏等も同じく挙げ、袖を振動かせば、ひとしく振動かし、足を爪立つれば爪立ち、しゃがめば踞むをすかながめて、今はしも激しく恐怖し、あわただしく駈出かけいだす。)
帽子を目深まぶかに、オーバーコートの鼠色なるを、太き洋杖ステッキを持てる老紳士、憂鬱ゆううつなる重き態度にて登場。
はじめの烏ハタと行当る。驚いて身を開く。紳士その袖をとらう。初の烏、のがれんとしておどす真似して、かあかあ、と烏の声をなす。泣くがごとき女の声なり。
紳士 こりゃ、地獄の門を背負しょって、空を飛ぶ真似をするか。(つかみひしぐがごとくにして突離す。初の烏、※(「てへん+堂」、第4水準2-13-41)どうと地にす。三羽の烏はわざとらしく吃驚きっきょう身振みぶりをなす。)地をう烏は、鳴く声が違うじゃろう。うむ、どうじゃ。地を這う烏は何と鳴くか。
初の烏 御免なさいまし、どうぞ、御免なさいまし。
紳士 ははあ、御免なさいましと鳴くか。(繰返して)御免なさいましと鳴くじゃな。
初の烏 はい。
紳士 うむ、(重くうなずく)聞えた。とにかく、きさまの声は聞えた。――こりゃ、俺の声が分るか。
初の烏 ええ。
紳士 俺の声が分るかと云うんじゃ。こりゃ。つらを上げろ。――どうだ。
初の烏 御前様ごぜんさま、あれ……
紳士 (ステッキをもって、そのすそおさう)ばさばさ騒ぐな。やりで脇腹を突かれる外に、樹の上へ上る身体からだでもないに、羽ばたきをするな、女郎めろう、手をいて、じっとして口をきけ。
初の烏 まことに申訳のございません、飛んだ失礼をいたしました。……先達せんだって、奥様がお好みのお催しで、おやしきに園遊会の仮装がございました時、わたくしがいたしました、あの、このこしらえが、余りよく似合ったと、皆様がそうおっしゃいましたものでございますから、つい、心得違いな事をはじめました。あの……後で、御前様が御旅行を遊ばしましたお留守中は、お邸にも御用が少うございますものですから、自分の買もの、用達ようたしだの、何のと申して、奥様にお暇を頂いては、こんな処へ出て参りまして、たまに通りますものを驚かしますのが面白くてなりませんので、つい、あの、癖になりまして、今晩も……旦那様に申訳のございません失礼をいたしました。どうぞ、御免遊ばして下さいまし。
紳士 言う事はそれだけか。
初の烏 はい?(聞返す。)
紳士 俺に云う事は、それだけか、女郎めろう
初の烏 あの、(口籠くちごもる)今夜はどういたしました事でございますか、わたくしなり……あの、影法師が、この、野中の宵闇よいやみ判然はっきりと見えますのでございます。それさえ気味が悪うございますのに、気をつけて見ますと、二つも三つも、わたくしと一所に動きますのでございますもの。
三方に分れてたたずむ、三羽の烏、また打頷うちうなずく。
 もう可恐おそろしくなりまして、夢中で駈出しましたものですから、御前様に、つい――あの、そして……御前様は、いつ御旅行さきから。
紳士 俺の旅行か。ふふん。(自らあざける口吻くちぶりきさまたちは、俺が旅行をしたと思うか。
初の烏 はい、一昨日から、北海道の方へ。
紳士 俺の北海道は、すぐに俺の邸の周囲じゃ。
初の烏 はあ、(驚く。)
紳士 俺の旅行は、冥土めいどの旅のごときものじゃ。昔から、事が、こういう事が起って、それが破滅に近づく時は、誰もするわ。平凡な手段じゃ。通例過ぎる遣方やりかたじゃが、せんという事にはかなかった。今云うた冥土の旅を、可厭いやじゃと思うても、誰もしないわけにはかぬようなものじゃ。また、汝等きさまらとても、こういう事件の最後の際には、その家の主人か、良人おっとか、えか、俺がじゃ、ある手段として旅行するにきまっとる事を知っておる。きさまは知らいでも、怜悧りこうなあれは知っておる。汝とても、少しは分っておろう。分っていて、その主人が旅行という隙間すきまを狙う。わざと安心して大胆な不埒ふらちを働く。うむ、耳をおおうてすずを盗むというのじゃ。いずれ音の立ち、声の響くのは覚悟じゃろう。何もかも隠さずに言ってしまえ。いつの事か。一体、いつ頃の事か。これ。
侍女 いつ頃とおっしゃって、あの、影法師の事でございましょうか。それは唯今ただいま……
紳士 黙れ。影法師か何か知らんが、汝等きさまら三人の黒い心が、形にあらわれて、俺の邸の内外を横行しはじめた時だ。
侍女 御免遊ばして、御前様、わたくしは何にも存じません。
紳士 用意は出来とる。女郎めろう、俺の衣兜かくしには短銃ピストルがあるぞ。
侍女 ええ。
紳士 さあ、言え。
侍女 御前様、お許し下さいまし。春の、暮方くれがたの事でございます。美しいにじが立ちまして、盛りの藤の花と、つつじと一所に、お庭の池に影の映りましたのが、薄紫のかしらで、胸に炎のからみました、真紅しんくなつつじの羽のまじった、その虹の尾をきました大きな鳥が、お二階をのぞいておりますように見えたのでございます。その日は、御前様のお留守、奥様が欄干越に、その景色をおながめなさいまして、――ああ、綺麗な、この白い雲と、蒼空あおぞらの中にみなぎった大鳥を御覧――おそばりましたわたくしにそうおっしゃいまして――この鳥は、かしらは私のかんざしに、尾を私の帯になるために来たんだよ。角の九つある、竜が、かしらかぶとに、尾を草摺くさずりに敷いて、敵に向う大将軍を飾ったように。……けれども、虹には目がないから、私の姿が見つからないので、かしらを水に浸して、うなだれしおれている。どれ、目をろう――と仰有おっしゃいますと、右の中指にめておいで遊ばした、指環ゆびわあかい玉でございます。開いては虹に見えぬし、伏せては奥様の目に見えません。ですから、その指環をお抜きなさいまして。
紳士 うむ、指環を抜いてだな。うむ、指環を抜いて。


 

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