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紅玉(こうぎょく)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 13:24:43  点击:  切换到繁體中文

 
二の烏 道理かな、説法かな。お釈迦様しゃかさまより間違いのない事を云うわ。いや、またお一どのの指環を銜えたのが悪ければ、晴上がった雨も悪し、ほかほかとした陽気も悪し、虹も悪い、と云わねばならぬ。雨や陽気がよくないからとて、どうするものだ。得ての、空の美しい虹の立つ時は、地にも綺麗な花が咲くよ。芍薬しゃくやくか、牡丹ぼたんか、菊か、えてが折ってみのにさす、お花畑のそれでなし不思議な花よ。名も知れぬ花よ。ざっと虹のような花よ。人間のうちに、そうした花の咲くのは壁にうどんげの開くとおなじだ。俺たちが見れば、薄暗い人間界に、まぶしい虹のような、その花のパッと咲いた処は鮮麗あざやかだ。な、家を忘れ、身を忘れ、生命いのちを忘れて咲く怪しい花ほど、美しい眺望ながめはない。分けて今度の花は、お一どのがいたあかい玉から咲いたもの、吉野紙の霞で包んで、露をかためた硝子ビイドロうつわの中へそっしまってもおこうものを。人間の黒い手は、これを見るが最後つかみ散らす。当人は、黄色い手袋、白い腕飾と思うそうだ。お互に見れば真黒まっくろよ。人間が見て、俺たちを黒いと云うと同一おなじかい、別して今来た親仁おやじなどは、鉄棒同然、腕に、火の舌をからめて吹いて、右の不思議な花を微塵みじんにしょうとあせっておるわ。野暮やぼめがな。はて、見ていれば綺麗なものを、仇花あだばななりとも美しく咲かしておけばい事よ。
三の烏 なぞとな、おふためが、ていい事をぬかす癖に、朝烏の、朝桜、朝露の、朝風で、朝飯を急ぐ和郎わろだ。何だ、仇花なりとも、美しく咲かしておけば可い事だ。からからからと笑わせるな。お互にここに何している。その虹の散るのを待って、やがて食おう、突こう、みょう、しゃぶろうと、毎夜、毎夜、この間、……咽喉のどくちばしを、カチカチと噛鳴かみならいておるのでないかい。
二の烏 さればこそ待っている。桜の枝を踏めばといって、虫の数ほど花片はなびらも露もこぼさぬ俺たちだ。このたびの不思議なその大輪の虹のうてな、紅玉のしべに咲いた花にも、俺たちが、何と、手を着けるか。雛芥子ひなげしが散って実になるまで、風が誘うをながめているのだ。色には、恋には、なさけには、その咲く花の二人をけて、他の人間はたいがい風だ。中にも、ぬしというものはな、主人あるじというものはな、ふちむぬし、峰にすむ主人あるじと同じで、これが暴風雨あらしよ、旋風つむじかぜだ。一溜ひとたまりもなく吹散らす。ああ、無慙むざんな。
一の烏 と云ふくちばしを、こつこつ鳴らいて、内々その吹き散るのを待つのは誰だ。
二の烏 ははははは、俺達だ、ははははは。まず口だけはていい事を言うて、その実はお互に餌食えじきを待つのだ。また、この花は、紅玉のしべから虹に咲いたものだが、散る時は、肉になり、血になり、五色ごしきはらわたとなる。やがて見ろ、脂の乗った鮟鱇あんこうのひも、という珍味を、つるりだ。
三の烏 いつの事だ、ああ、聞いただけでもたまらぬわ。(ばたばたと羽をあおつ。)
二の烏 急ぐな、どっち道俺たちのものだ。餌食がその柔かな白々とした手足を解いて、木の根の塗膳ぬりぜん錦手にしきでの葉の小皿盛となるまでは、精々、咲いた花の首尾を守護して、夢中に躍跳ねるまで、たのしませておかねばならん。網でったと、釣ったとでは、たいの味が違うと言わぬか。あれ等をくるしませてはならぬ、かなしませてはならぬ、海の水を酒にして泳がせろ。
一の烏 むむ、そこで、椅子いすやら、卓子テェブルやら、天幕テントの上げさげまで手伝うかい。
三の烏 あれほどのものを、(天幕を指す)持運びから、始末まで、俺たちが、この黒い翼で人間の目からおおうて手伝うとは悟り得ず、すすきの中に隠したつもりの、彼奴等あいつらの甘さがたまらん。が、俺たちのす処は、退いて見ると、如法にょほうこれ下女下男の所為しょいだ。あめが下に何と烏ともあろうものが、大分権式を落すわけだな。
二の烏 獅子ししとらひょう、地を走る獣。空を飛ぶ仲間では、わしたか、みさごぐらいなものか、餌食を掴んで容色きりょういのは。……熊なんぞが、あの形で、椎の実を拝んだ形な。鶴とは申せど、尻を振って泥鰌どじょう追懸おっかける容体などは、余り喝采やんやとは参らぬ図だ。誰も誰も、くらうためには、品も威も下げると思え。さまでにして、手に入れる餌食だ。つつくとなれば会釈はない。骨までしゃぶるわ。餌食の無慙むざんさ、いや、またその骨の肉汁ソップうまさはよ。(身震いする。)
一の烏 (聞く半ばより、じろじろと酔臥よいふしたる画工を見ており)おふた、お二どの。
二の烏 あい。
三の烏 あい、とぬかす、魔ものめが、ふてぶてしい。
二の烏 望みとあらば、可愛い、とも鳴くわ。
一の烏 いや、串戯じょうだんけ。俺は先刻さっきから思う事だ、待設けの珍味もいが、ここに目の前に転がった餌食はどうだ。
三の烏 その事よ、血の酒に酔う前に、腹へ底を入れておく相談にはなるまいかな。何分にも空腹だ。
二の烏 御同然に夜食前よ。俺も一先いっさきに心付いてはいるが、その人間はまだ食頃くいごろにはならぬと思う。念のために、つらを見ろ。
三羽の烏、ばさばさと寄り、こうべを、手を、足を、ふんふんとかぐ。
一の烏 たまらぬにおいだ。
三の烏 ああ、うまそうな。
二の烏 いや、まだそうはなるまいか。この歯をくいしばった処を見い。総じて寝ていても口を結んだ奴は、ふたをした貝だと思え。うかつにはしを入れると最後、大事な舌を挟まれる。やがて意地汚いじきたなの野良犬が来てめよう。這奴しゃつ四足よつあしめに瀬踏せぶみをさせて、いとなって、その後で取蒐とりかかろう。食ものが、悪いかして。脂のない人間だ。
一の烏 この際、ものでも構わぬよ。
二の烏 生命いのちがけで乾ものを食って、一分いちぶんが立つと思うか、高蒔絵たかまきえのおととを待て。
三の烏 や、待つといえば、例の通り、ほんのりと薫って来た。
一の烏 おお、人臭いぞ。そりゃ、女のにおいだ。
二の烏 はて、下司げすな奴、同じ事を不思議な花が薫ると言え。
三の烏 おお、蘭奢待らんじゃたい、蘭奢待。
一の烏 鈴ヶ森でも、このかおりは、百年目に二三度だったな。
二の烏 化鳥ばけどりが、古い事を云う。
三の烏 なぞとわかい気でおると見える、はははは。
一の烏 いや、こうして暗やみで笑った処は、我ながら無気味だな。
三の烏 人が聞いたら何と言おう。
二の烏 烏鳴からすなきだ、とぬかすやつよ。
一の烏 何も知らずか。
三の烏 不便ふびんな奴等。
二の烏 (手を取合うて)おお、見える、見える。それ侍女こしもとの気で迎えてやれ。(みずから天幕テントの中より、ともしたる蝋燭ろうそくを取出だし、野中に黒く立ちて、高く手にかざす。一の烏、三の烏は、二の烏のすそしゃがむ。)
すすき彼方あなた、舞台深く、天幕の奥斜めに、男女なんにょの姿立顕たちあらわる。いつわかき紳士、一は貴夫人、容姿美しく輝くばかり。
二の烏 恋も風、無常も風、なさけも露、生命いのちも露、別るるもすすき、招くも薄、泣くも虫、歌うも虫、跡は野原だ、勝手になれ。(怪しき声にてじゅす。一と三の烏、同時にひざまずいて天を拝す。風一陣、ともしび消ゆ。舞台一時暗黒。)
はじめ、月なし、この時薄月出づ。舞台あかるくなりて、貴夫人もわかき紳士も、三羽の烏も皆見えず。天幕あるのみ。
画工、猛然としてむ。
おそわれたるごとく四辺あたり※(「目+句」、第4水準2-81-91)みまわし、あわただしくの包をひらく、衣兜かくしのマッチを探り、枯草に火を点ず。
野火やか、炎々。絹地に三羽の烏あらわる。
凝視。
彼処かしこに敵あるがごとく、腕を挙げて睥睨へいげいす。
画工 俺の画を見ろ。――待て、しかし、絵か、それとも実際の奴等か。
――幕――
大正二(一九一三)年七月




 



底本:「泉鏡花集成7」ちくま文庫、筑摩書房
   1995(平成7)年12月4日第1刷発行
底本の親本:「鏡花全集 第二十六巻」岩波書店
   1942(昭和17)年10月15日第1刷発行
入力:門田裕志
校正:今井忠夫
2003年8月31日作成
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