您现在的位置: 贯通日本 >> 作家 >> 泉 鏡花 >> 正文

紅玉(こうぎょく)

作者:未知  来源:青空文库   更新:2006-8-22 13:24:43  点击:  切换到繁體中文

 
侍女 そして、雪のようなお手の指をに遊ばして、高い処で、青葉の上で、虹のはだへ嵌めるようになさいますと、その指に空の色が透通りまして、紅い玉は、さっと夕日に映って、まったく虹の瞳になって、そして晃々きらきらと輝きました。その時でございます。お庭も池も、真暗まっくらになったと思います。虹も消えました。黒いものが、ばっと来て、目潰めつぶしを打ちますように、翼を拡げたと思いますと、その指環を、奥様の手からさらいまして、烏が飛びましたのでございます。露に光るの実だ、と紅い玉を、間違えたのでございましょう。築山の松のこずえを飛びまして、遠くも参りませんで、塀の上に、この、野の末の処へ入ります。真赤まっかな、まんまるな、大きな太陽様おひさまの前に黒く留まったのが見えたのでございます。私は跣足はだしで庭へ駈下かけおりました。駈けつけて声を出しますと、烏はそのまま塀の外へまた飛びましたのでございます。ちょうどそこが、裏木戸の処でございます。あの木戸は、私が御奉公申しましてから、五年と申しますもの、お開け遊ばした事といっては一度もなかったのでございます。
紳士 うむ、あれは開けるべき木戸ではないのじゃ。俺が覚えてからも、むを得ん凶事で二度だけは開けんければならんじゃった。が、それとても凶事を追出いたばかりじゃ。外から入って来た不祥ふしょうはなかった。――それがその時、きさまの手で開いたのか。
侍女 ええ、じょうかぎは、がっちりささっておりましたけれど、赤錆あかさびに錆切りまして、しますと開きました。くされて落ちたのでございます。塀の外に、散歩らしいのが一人立っていたのでございます。その男が、烏のくちばしから落しました奥様のその指環を、てのひらに載せまして、じっと見ていましたのでございます。
紳士 餓鬼がっきめ、其奴そいつか。
侍女 ええ。
紳士 相手は其奴じゃな。
侍女 あの、わたくしがわけを言って、その指環を返しますように申しますと、串戯じょうだんらしく、いや、これは、人間の手を放れたもの、烏の嘴から受取ったのだから返されない。もっとも、烏にならば、何時なんどきなりとも返して上げよう――とそう申して笑うんでございます。それでも、どうしても返しません。そして――たしかに預る、決して迂散うさんなものでない――と云って、ちゃんと、衣兜かくしから名刺を出してくれました。奥様は、面白いね――とおっしゃいました。それから日をめまして、同じ暮方の頃、その男を木戸の外まで呼びましたのでございます。その間に、この、あの、烏の装束をおあつらえ遊ばしました。そしてわたくしがそれを着て出まして、指環を受取りますつもりなのでございましたが、なぶってやろう、とおっしゃって、奥様が御自分に烏の装束をおめし遊ばして、塀の外へ――でも、ひょっと、野原に遊んでいる小児こどもなどが怪しい姿を見て、騒いで悪いというお心付きから、四阿あずまやへお呼び入れになりました。
紳士 奴は、あの木戸から入ったな。あの、木戸から。
侍女 男が吃驚びっくりするのを御覧、とわたくしにおささやきなさいました。奥様が、烏は脚では受取らない、とおっしゃって、男がてのひらにのせました指環を、ここをお開きなさいまして、(咽喉のどのあく処を示す)口でおくわえ遊ばしたのでございます。
紳士 口でな、もうその時から。毒蛇め。上頤下頤うわあごしたあごこぶし引掛ひっかけ、透通る歯とべにさいた唇を、めりめりと引裂く、売女ばいた。(足を挙げて、枯草を踏蹂ふみにじる。)
画工 ううむ、(二声ばかり、夢にうなされたるもののごとし。)
紳士 (はじめて心付く)女郎めろう、こっちへ来い。(ステッキをもって一方をゆびさす。)
侍女 (震えながら)はい。
紳士 かしらを着けろ、かぶれ。俺の前を烏のように躍ってけ、――飛べ。邸を横行する黒いもののかたしかと見覚えておかねばならん。躍れ。衣兜かくしには短銃ピストルがあるぞ。
侍女、烏のごとくその黒き袖を動かす。おののき震うと同じさまなり。紳士、あとに続いてる。
三羽の烏 (声を揃えて叫ぶ)おいらのせいじゃないぞ。
一の烏 (笑う)ははははは、そこで何と言おう。
二の烏 しょう事はあるまい。やっぱり、あとは、烏のせいだと言わねばなるまい。
三の烏 すると、人間のした事を、俺たちが引被ひっかぶるのだな。
二の烏 かぶろうとも、背負しょおうとも。かぶった処で、背負った処で、人間のした事は、人間同士が勝手に夥間なかまうちで帳面づらを合せてく、勘定のり取りする。俺たちが構う事は少しもない。
三の烏 成程な、罪もむくいも人間同士が背負いっこ、かぶりっこをするわけだ。一体、このたびの事の発源おこりは、そこな、おいちどのが悪戯いたずらからはじまった次第だが、さて、こうなれば高い処で見物で事が済む。くちばし引傾ひっかたげて、ことんことんと案じてみれば、われらは、これ、余りたちい夥間でないな。
一の烏 いや、悪い事は少しもない。人間から言わせれば、善いとも悪いとも言おうがままだ。俺はただ屋の棟で、例の夕飯ゆうめしを稼いでいたのだ。処で艶麗あでやかな、奥方とか、それ、人間界で言うものが、虹の目だ、虹の目だ、と云うものを(くちばしを指す)この黒い、鼻の先へひけらかした。この節、肉どころか、血どころか、贅沢ぜいたくな目玉などはついに賞翫しょうがんしたためしがない。鳳凰ほうおうずい麒麟きりんえらさえ、世にも稀な珍味と聞く。虹の目玉だ、やあ、八千年生延びろ、と逆落さかおとしのひさしのはずれ、鵯越ひよどりごえを遣ったがよ、生命いのちがけの仕事と思え。とびなら油揚あぶらあげさらおうが、人間の手に持ったままを引手繰ひったぐる段は、お互に得手でない。首尾よく、かちりとくわえてな、スポンと中庭を抜けたはかったが、虹の目玉と云うくだんしろものはどうだ、歯も立たぬ。や、堅いのそうろうの。先祖以来、田螺たにしつッつくにきたえた口も、さて、がっくりと参ったわ。おかげで舌の根がゆるんだ。しゃくだがよ、振放して素飛すっとばいたまでの事だ。な、それがもとで、人間が何をしょうと、かをしょうと、さっぱり俺が知った事ではあるまい。


 

作家录入:贯通日本语    责任编辑:贯通日本语 

  • 上一篇作家:

  • 下一篇作家:
  •  
     
     
    网友评论:(只显示最新10条。评论内容只代表网友观点,与本站立场无关!)
     

    没有任何图片作家

    广告

    广告